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デジタルツインを活用し、製造業の新たなバリューチェーンを生み出す「Industry tech DX」―FAプロダクツ ウェビナーレポート

2020年5月28日、FAプロダクツはオンラインセミナー「DXを活用した製造業の未来 製造現場のデジタルツイン構築からDXの活用事例」を開催した。

今回のセミナーでは、FAプロダクツが唱える「Industry tech DX」をテーマに、製造業において目指すべきDXの姿からその実践プロセス、デジタルツインを活用した取り組み例を、FAプロダクツ 代表取締役社長 貴田義和氏(トップ画像)が紹介した。

国内では第四次産業革命への取り組みが遅れる一方、海外では中国が製造強国として台頭

製造業におけるDXについて説明を行う前に、貴田氏は「第四次産業革命への取り組みの遅れ」「労働生産性の低迷」「2025年の崖」「中国製造2025」をキーワードに挙げ、日本の製造業における課題について整理した。

まず、第四次産業革命への取り組みについては、工場の自律化、デジタル活用に関して、ドイツやアメリカの企業における取り組み度合いは90%以上であるのに対し日本は60%、という統計を引き合いにして、日本の取り組みの遅れが説明された。また、労働生産性の問題については、過多な残業時間などによって、米国や独国よりも生産性が低下している事を貴田氏は指摘した。

3つ目にキーワードとして挙がった「2025年の崖」は、経済産業省が提唱する、既存の情報システム(レガシーシステム)が残存した場合に生じる問題のこと。現在レガシーシステムを抱える企業が日本全体で80%存在している事、企業のIT予算に占めるレガシー技術の負債の割合が90%である事、IT人材の不足といった状況から、2025年には最大約12兆円の経済損失が起きると言われている。

一方、海外情勢の問題として指摘されたのは、中国が国家の予算を使い、自動化・IT化に対する革新的なサービスに取り組んで製造強国の道を進んでいる事だ。このような中国の台頭が、日本に大きく影響を与える、と貴田氏は述べた。

新型コロナウイルス感染拡大による、さらなる人材不足の懸念

また、貴田氏は企業側の視点から見える、現在の製造業が抱える4つの「低下」についても触れた。

  • 競争激化による売上の低下
  • 製造原価高騰による利益率の低下
  • 人材不足による技術力の低下
  • 少量多品種による稼働率の低下

特に人材不足については、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、問題はさらに深刻化しているようだ。また、稼働率の低下については、大量生産から少量多品種への市場の変化に合わせて、製造ラインの変更を行うことが出来ず、気が付いたら製造ラインに必要以上の労働力をかけていた、という問題が起きているという。

では、このような問題をどのように打破すべきなのか。それに対して貴田氏は、日本が持つ世界有数の自動化技術、デジタル技術を強みとして活かし、新しいコネクテッド戦略として日本式のDXを確立する必要がある、と説いた。

デジタルファクトリーと企業の各業務をつなぎ、価値創出を目指す「Industry tech DX」

それでは、日本の製造業が取るべきDX戦略とは、どのようなものなのか。ここで貴田氏は、製造業におけるDXの定義を、デジタルファクトリーを中心に置き、それが企業の様々な業務と結びつき、新しいバリューチェーンを生み出す事である、と説明した。

FAプロダクツの唱える「Industry tech DX」の全体像。デジタルファクトリーを中心に据えて、そこから企業の各業務とつなげる事で、新たな価値の創出を目指す
FAプロダクツの唱える「Industry tech DX」の全体像。デジタルファクトリーを中心に据えて、そこから企業の各業務とつなげる事で、新たな価値の創出を目指す

現在、自動化技術やデジタル技術によって各企業においてデジタルファクトリー化が進んでいる。このデジタルファクトリーを、バックオフィス(利益管理)、サプライチェーン、ヒューマンリソース(人材)、セールスマーケティング、アフターサービス、プロダクトディベロップメント(製品開発)、といった業務におけるデジタル化と結びつける。そして、本質的な企業価値を高めるというのが製造業におけるDXである、というのだ。

このようなデジタルファクトリーを中心としたDXの姿を、FAプロダクツでは「Industry tech DX」と呼んでいる。

「Industry tech DX」においては、ものづくりのデジタルファクトリーがあくまで中心に存在し、ものづくりのデジタルと各業務のデジタルがコネクトされる事が重要である、と貴田氏は強調した。

グランドデザインの策定から始めた後、デジタルファクトリーの構築に取り組む

取るべきDX戦略の姿が理解できたのであれば、次はどのようなプロセスを取れば実現できるのか、を考える番だ。ここで貴田氏は、「Industry tech DX」を実現するためのステップを、グランドデザインとロードマップの策定、デジタルファクトリーの構築、の2段階に分けて説明した。

グランドデザインとロードマップの策定

まず前準備として、グランドデザインを描く。これは企業の3~5年後に、デジタルファクトリーを中心としたDXのゴール、すなわち目標の姿を作る、という意味だそうだ。そして、目標の姿に到達するまでのロードマップを作るべき、と貴田氏は述べた。

ここでポイントとして挙げられたのは、部分最適の施策に陥ってはいけない、という事だ。「取りあえずIoT化に取り組んでみよう」という感覚で、製造現場にIoTやAIを部分的に導入しようとすると、投資対効果が見えてこないため、プロジェクトの予算が下りず結果的に施策が進まない、という事例がよくあるそうだ。

だからこそ、3~5年後のグランドデザインを最初に定め、その時の利益から逆算をして、ロードマップを決めていく必要がある、とFAプロダクツは主張する。

「Industry tech DX」への取り組みでは、3~5年後のあるべき姿をまず定め、ロードマップを策定することが重要。現状からあるべき姿に引いた矢印の直線上に、必要な技術を当てはめていく
「Industry tech DX」への取り組みでは、3~5年後のあるべき姿をまず定め、ロードマップを策定することが重要。現状からあるべき姿に引いた矢印の直線上に、必要な技術を当てはめていく

なお、FAプロダクツが中心となる企業コンソーシアム「Team Cross FA(チームクロスエフエー)」においては、全体最適の視点でコンサルティング業務と、設備の実装業務の両面で製造業をサポートし、グランドデザインとロードマップの策定を支援する体制を取っている、と貴田氏は付け加えた。

デジタルファクトリーの構築

グランドデザインとロードマップの策定を終えた後に取り組むのが、DXのコアとなるデジタルファクトリーの構築だ。

そもそもデジタルファクトリーとは、どのような姿を持つ工場なのか。それは、リアルの生産ラインの各種デジタルデータをもとに、デジタル上に仮想の生産ラインを構築し、その仮想の工場をフル活用して、人間では導き出せない最適化された答えを出すことだ、と定義づけられた。

リアルをデジタル上に再現し、最適化された答えをシミュレーションして自動制御を行う。このループがデジタルファクトリーの姿だ
リアルをデジタル上に再現し、最適化された答えをシミュレーションして自動制御を行う。このループがデジタルファクトリーの姿だ

そのためにまず取り組むのは、データ収集環境を整えることだ。産業機械のデータはもちろん、人の作業データについてもデジタルに置き換えて、収集していく必要があることも貴田氏は述べた。このようにデータを収集する事によって、よりリアルに近い仮想ラインをデジタル上に構築することができる。

そして、各種シミュレーションツールやAIを用いて、予測不可能な一歩先の未来を精確に予測し、リアルの部分をコントロールする。それが、デジタルツインと呼ばれるものであり、すなわちデジタルファクトリーの構築である、と貴田氏は結論付けた。

ここで強調されたのは、最適化された答えを製造現場にフィードバックするだけではなく、自動制御を行っていく点が重要である、ということ。この自動制御の部分こそがデジタルファクトリーの本質であるという。

デジタルツインでは、センサーレベルでのエネルギー管理にも活用

しかし、一口にデジタルツインといっても、どのような部分に活用すれば効果が表れるのだろうか。貴田氏は以下のようなポイントを挙げた。

  • 生産計画のデータと人や設備の稼働状況を組み合わせ、適正な生産計画を立案する「生産稼働管理」
  • 生産条件や検査データによって不良品の発生を予知する「品質管理」
  • 受注数、生産数、中間在庫数の分析によって在庫の最適化を図る「在庫管理」
  • 製品による事故や故障、消耗を予知保全する「保守管理」
  • 設備だけではなく、部品のレベルでのコントロールを行う「エネルギー管理」
  • 勘やコツに頼らず、人や物の流れの動線を最適化する「物流管理」

このうちエネルギー管理については、さらに省エネを進めるためには、建物単位での管理から、稼働している設備のアクチュエータやセンサー単位のレベルでのコントロールにシフトすべきである、と貴田氏は説明を加えた。

なお、ポイントのうち、比較的コストをかけずに導入できる生産稼働管理、保守管理、エネルギー管理からまず取り組み、後から在庫管理、物流管理を加えていく、という形でデジタルツインを導入する企業が多いそうだ。

工場全体の生産稼働からロボット1台の動作まで、あらゆる最適化を行う

セミナー内では、デジタルツイン活用のイメージを掴むために、デジタルツインによって最適化された答えを出すデモンストレーションが行われた。

生産ライン単位、工場単位で生産シミュレーションを行う

最初に映し出されたのは、加工工場をデジタル上で再現し、生産ライン単位、あるいは工場全体で生産シミュレーションを行うデモンストレーションだ。下記写真は、工場内の産業機械から、作業員の配置、在庫のストア(置き場)まで再現された、デジタル上の工場全体の姿だ。

加工工場をデジタルツイン化したモデルの実例
加工工場をデジタルツイン化したモデルの実例

このデジタル上に再現された工場に、発注情報や仕掛品情報、工程情報といったデータを取り込み、バーチャルの中で投入計画の最適化、在庫の最適化、作業人数の最適化といったシミュレーションを行う。

工場全体の設備稼働率をグラフで表した画面
工場全体の設備稼働率をグラフで表した画面

ロボットの動作検証やPLCのデバックにも活用

工場内の生産シミュレーションの次に紹介されたのは、ロボットや設備1台単位の動作確認にデジタルツインを活用する例だ。ここでは、FAプロダクツが運営する製造設備の展示施設「スマラボ」にある設備「ロボット型デジタルジョブショップ」の動作をシミュレーションしている映像が映し出された。

参考記事:最新ロボット利活用が見られる施設、FAプロダクツの「スマラボ」レポート

ジョブショップとは、設備を機能別にまとめて配置し、異なる製造工程を持つ製品を、同じ設備を共有して製造する生産方式のことだ。設計初期の段階から3DCADデータを取得し活用することによって、ロボットハンドの精密性をシミュレーションが出来るという。

「ロボット型デジタルジョブショップ」において、各設備の稼働シミュレーションを行うデモンストレーションの画面
「ロボット型デジタルジョブショップ」において、各設備の稼働シミュレーションを行うデモンストレーションの画面

実際にロボット設備を製造現場に導入する際、現場での作業に支障がないよう、設置場所やハンドの細かい軌道を何度も見直す手間が生じる。そこでデジタル上のシミュレーションを活用する事によって、動作確認における手戻りのロスを無くすそうだ。

また、設備の動作や設置場所の検討だけではなく、ロボットのティーチングやPLCのデバックもデジタル上で出来る。さらにはシミュレーションしたティーチングを実機に送って動作させる、といった仕組みも構築されているそうだ。

「Industry tech DX」では、6つの領域で新たな価値創造を目指す

では、デジタルツインによるものづくりの最適化を行った上で、企業は具体的にどのような新しい価値を創出できるのだろうか。「Industry tech DX」の目指すべき姿について、貴田氏は以下の6つの領域で説明を行った。

6つの領域における、「Industry tech DX」の目指すべき姿
6つの領域における、「Industry tech DX」の目指すべき姿

プロダクトディベロップメント(製品開発)領域

製品開発段階における設計データ、製造プロセスのデータをデジタル化し、製造現場で取得できる生産データと連携させる事によって、ローコストで高品質、かつスピーディな製品開発を目指すことが出来る、と貴田氏は語った。

いくら開発部門やマーケティング部門のデジタル化が進んでいたとしても、開発部門の情報と生産現場の情報が結びついていなければ、製品の市場投入が遅れて機会損失してしまう恐れがある。このような事態を防ぐために、開発部門と製造部門がデジタル上で連携して製品開発を行うというのだ。

実際、自動車系、電子系の製造業では設計開発のデジタル連携においてDXを実現している例があると貴田氏は付け加えた。

アフターサービス領域

市場に広まった製品のアフターサービスについて、デジタルのものづくりと結びつくことによって、場所を問わないリモート保守や、製品の使用状況データの蓄積による事故や故障の検知を行い、製品やサービスの価値を向上させる。

セールスマーケティング領域

営業提案の際、製造現場と営業部門がデータベースで繋がっている事によって、リードタイムやコストの情報を瞬時に取得し、他社に先駆けて見積り提案が出来るようにする。

また、ソーシャルヒアリングによって集めた顧客の正確なニーズとものづくりを連携させる事によって、新しいビジネスを生み出すことが出来ると貴田氏は述べた。

ヒューマンリソース(人的資源)領域

人の働きぶりがデジタル化されるほど、正当な評価やスキルの可視化が出来るようになり、従業員のモチベーションアップにつながる。

また、各部門の働きぶりのデジタル化することにより、一種のゲーム性を持たせて、日々の働き方をより楽しいものに出来るというのだ。貴田氏はこれを「ゲーミフィケーション」と呼んだ。このゲーミフィケーションが進めば、ITリテラシーの高い人材が集まってくる可能性もあるという。

サプライチェーン領域

在庫を限りなく最小限にとどめるほか、大きな需要変動を瞬時に予測し、それをもとに最適な生産を行っていく。人間の力では難しいスピーディな予測を、デジタルツインによって実現する、というのが貴田氏の主張だ。

バックオフィス領域

様々な原価のパラメータを明確にすることで、製品ごとの収支を明らかにする。それにより、経営者の判断をスピードアップさせる、という目標がセミナー内では紹介された。

この6つの領域について、しっかりとしたグランドデザインとロードマップを描いている企業が、3~5年後の市場を席巻しているはずだ、と貴田氏は述べた。

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