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NTTPC、IoTやDXを視野に入れた5Gネットワークを利用したSD–WANの実証実験結果を発表

株式会社NTTPCコミュニケーションズ(以下、NTTPC)はNTTドコモ(以下、ドコモ)のパートナープログラムに参加しており、今春開始される5G商用サービスと同じネットワーク装置・同じ周波数帯を利用した5Gネットワークを用いて、実証実験を行った。

実証実験の内容は、NTTPCが提供するサービス「Mater’s ONE CloudWAN」に使われているSD–WAN技術を5Gネットワークと組み合わせることができるかどうか、というものだ。その実証実験結果が、1月23日にNTTPCサービスクリエーション担当部長 上田 信昭氏と同部署 進藤 宙氏(トップ画像)より発表された。

SD–WAN技術と、そのメリット

SD–WANとは、Software Defined(SD)–Wide Area Network(WAN)の略称だ。

WANは企業の複数の拠点を相互に接続するためのネットワークだ。例えば東京本社と大阪支店を繋ぐために、WANが構築される。そして、このWANをソフトウェアによって制御するというのが、SD–WANだ。

SD–WANのメリットは様々あるが、進藤氏からは「一元管理」と「トラフィック制御」が挙げられた。

SD–WANのメリット「一元管理」

SD–WANでは、サーバーやルーターなどのハードウェアで構築される拠点間のネットワーク上に、仮想的な別のネットワークが構築される。

SD–WANを導入している企業のネットワーク管理者は、仮想的な別のネットワークを通じて、物理的なネットワークの制約を受けずに、ソフトウェアでネットワークを一括管理できる。

そのため、ネットワーク管理者は拠点に行かなくても、遠隔地からコントロールパネルでネットワークを制御可能となる。

SD–WANのメリット「トラフィック制御」

現在、企業のクラウドツールの利用が加速しており、インターネットの利用頻度が上がっている。

例えば支店や工場といった拠点からインターネットにアクセスする時は、セキュリティの観点から、本社やセンターを経由しなければならないというネットワーク構成を採用している企業は少なくない。

そのため、支店や工場などがクラウドツールを利用すると、本社やセンターにトラフィック(通信量)が集中し、回線が混雑する場合がある。そうすると、接続が遅くなったり、接続が出来ないといった問題が起こる。

しかし、SD–WANではソフトウェアでネットワークを一元的に管理できるため、「Google Driveなどの特定のクラウドサービスを支店や工場などが利用する際の通信は、例外的に本社を経由させずに通信を行う」というポリシー(条件)をネットワーク全体に対して設定できる。

このようにトラフィック(通信量)が分散されることで、回線は混雑しなくなり、ユーザーは生産性を落とさずに作業やコミュニケーションを継続できるようになる。

NTTPCが提供するサービス「Mater’s ONE CloudWAN」

このようなSD–WANの技術をベースとしたNTTPCの「Mater’s ONE CloudWAN」は2つのメニューがあるという。

「Mater’s ONE CloudWAN」の説明
「Mater’s ONE CloudWAN」の2つのメニュー

左側は既存の回線を変更すること無くそのまま導入が可能なオーバーレイタイプのSD–WAN。右側はフレッツ回線を利用し、閉域網を通じた通信が可能なセキュリティ性の高いセキュアパッケージタイプのSD–WANだ。

NTTPCの「Mater’s ONE CloudWAN」の特徴は、「コントロールパネルで一元管理、すぐに設定」「ネットワークの混雑を回避」「低遅延な通信」の3点だ。

  1. コントロールパネルで一元管理、すぐに設定
  2. 「Mater’s ONE CloudWAN」では、Excelの管理簿はいらず、拠点毎、アプリケーション毎に、トラフィック(通信量)がグラフ化できる。

    「Mater’s ONE CloudWAN」のコントロールパネル

    設定も簡単だ。進藤氏によれば「お客様から申込みいただいてから、当社で設定が完了するまで、大体2~3週間かかるが、本製品であればコントロールパネルでお客様自身が設定できるため、5分程度で設定が完了する」という。

    「実際、本製品を導入いただいているお客様から拠点を移設したという話を最近聞いたが、当社は把握していなかった。お客様自身でコントロールパネルから設定をしてもらえた」と進藤氏は実体験を混じえて説明した。

  3. ネットワークの混雑を回避
  4. 進藤氏は、支店や工場などがインターネットにアクセスする時、一度本社を経由しなければならないようなネットワークを前提として、次のように話す。「信頼できるウェブサイトなどについては、支店や工場などから直接インターネットに抜けるようにする。そうするとインターネットへの出口が複数設けられ、トラフィック(通信量)が分散される。」

    例えば、Windows Updateのようなインターネットのアクセスが集中しやすい状況で、「Mater’s ONE CloudWAN」によるトラフィック(通信量)の制御が有効になる、と進藤氏は話した。

  5. 低遅延な通信
  6. 「Mater’s ONE CloudWAN」のセキュアパッケージタイプは、フレッツ回線を利用している。進藤氏は、フレッツ回線には次のような特徴があると述べた。

    「本製品はフレッツのIPv6通信という仕組みが使われている。IPv6通信は、県ごと、エリア毎、東西、それぞれのレベルで、最短距離で通信できるという特徴を持ったネットワークで、これまでよりも遅延が減る。遅延が減ると、VoIP(ネットワーク上の音声通話)やウェブサイトにアクセスする時のレスポンス速度が体感的に変わってくる。」

    なお、SD–WANを導入する際には、以下のエッジ装置が必要だ。

    SD–WANのエッジ装置

    この箱型の機器は、LANポート、WANポートが付いていて、ルーターの機能を備えている。また、ソフトウェアも同機器に格納されているという。この箱型の機器を拠点ごとに設置することで、SD–WANが使える。

SD–WAN+5Gの実証実験

今回、NTTPCが実施した実証実験は「Mater’s ONE CloudWAN」に使われているSD–WAN技術と5Gネットワークを組み合わせることができるかどうか、というものだ。現在、「Mater’s ONE CloudWAN」は、固定回線やモバイル回線(LTE)で利用できる製品となっているが、5Gにも対応することで、ユーザーの選択肢が広がることになる。

実証実験の詳細について、進藤氏から説明があった。

実証実験の検証構成

実証実験の検証構成図。SD–WANにより検証中の通信は5Gネットワーク網のみを通るようにしたという。

NTTPCはドコモのパートナーであるため、全国各地にあるドコモの5Gオープンラボを使うことができる。このラボにはパートナーが試験を行える環境が準備されてあるという。そして今回、NTTPCはドコモの四谷ラボと金沢ラボに、上図におけるSD–WANのエッジ装置と5Gルーターを持ち込んで、実証実験をした。

ドコモのラボ。今回は四谷と金沢で実験。

何が検証できたのか。3つの検証項目

進藤氏は「現在のお客様がLTEで利用していただいているような使い方を5Gでも実現できたというのが大きな成果」と述べつつ、検証項目を3つ挙げて、それぞれ評価した。

実証実験の検証項目
  1. 5Gネットワークを介したSD–WAN通信トンネル確立
  2. SD–WANと5Gは技術的に組み合わせ可能かどうかを検証した結果、技術的に組み合わせられることが確認できた。

    「Mater’s ONE CloudWAN」は、固定回線やモバイル回線(LTE)で利用できる。しかし、進藤氏いわく「工事現場や店舗は固定回線を引くのが難しい環境」という。では、モバイル回線(LTE)を利用するのはどうか。進藤氏は「工事現場などの場合はCADという大容量の3Dモデリングデータをやりとりするが、LTEだと心もとないという声を聞く」という。

    つまり、固定回線を引くことのできない拠点はモバイル回線を使って大容量の通信を行いたいというニーズがあるが、現状はそれに応えきれていないというのが課題だった。しかし、SD–WANと5Gが技術的に組み合わせられるということがわかったことによって、そのようなニーズに応えられるという。

  3. SD–WAN+5G回線環境での一般企業ユーザーのセンター拠点相当を経由した業務通信
  4. Office365の利用やリモートデスクトップなど、利用シーンを具体的に想定した通信が5Gでも可能かどうかを検証した。進藤氏は次のように評価する。

    「Office365やTeamsといったリモートワークなどで活用される業務系アプリケーションを5G環境で使えるかどうか試したが、ちゃんと使えた。テレビ会議も実際に行ってみたが、映像の表示、音声の出力は問題なく、遅延もなかった。容量の大きいリモートデスクトップ通信も行ったがうまく通信できたので、実運用に耐えるという感触を得た。」

  5. 固定回線のバックアップ用途として、5G回線への自動切替
  6. 固定回線(フレッツ)が故障した際に、現在はLTE回線でバックアップするようになっているが、それが5G回線でも可能かどうかを検証した。進藤氏は次のように評価した。

    「固定回線は大容量かつ低遅延にどんどんアップグレードされているが、モバイル回線はLTEが限界だった。そのモバイル回線がLTEから5Gになることで、大容量かつ低遅延なネットワークとなり、固定回線が故障した時でもモバイル回線を使ってもらえる。」

SD–WAN+5Gの展望

最後に上田氏から、大きく3つほどのソリューションを今後、提供すべく検討を進めると説明があった。

サービスクリエーション担当部長 上田 信昭氏
  1. SD–WAN+5Gにより、高速、低遅延ネットワークを介したセキュアな双方向通信を提供する。
  2. SD–WAN+5Gの展望1

    これは「Mater’s ONE CloudWAN」のセキュアパッケージタイプの閉域ネットワークと5Gのネットワークを直接続することで、セキュアかつロケーションを意識することなく、映像と音声のリアルタイムコミュニケーションが可能となるというもの。遠隔医療などの活用が考えられるようだ。

        

  3. SD–WAN+5Gにより、エンドポイントでデータ処理を行い、大容量の映像配信を行えるソリューションを提供する。
  4. SD–WAN+5Gの展望2

    上田氏は、「SD–WAN機能の特徴のひとつであるエンドポイントでのデータ処理、いわゆるエッジコンピューティングを活用して、ユーザーに近いところで処理を行い、大容量の通信については5Gネットワークを利用できるようにする」と説明した。

    例えば、「スポーツイベントで来場者のセキュリティチェックを顔認証で実施するソリューションでは、ローカルの判定ロジックで処理しつつ、高画質で撮影された大容量映像は5Gネットワークを介してクラウドにアップし、競技場の内外の人がリアルタイムに試合を観戦するといった利用の仕方がある」という。

        

  5. SD–WAN+5Gを機器に組み込むことで、スピーディーな拠点展開を可能とするソリューションを提供する。
  6. SD–WAN+5Gの展望3

    上田氏によると、NTTPCは、SD–WANのソフトウェアをIoTデバイスに組み込むことを検討しているようだ。5Gネットワークが使われ始めると、これまでよりも、多数の端末がネットワークに同時接続するような環境になることを想定し、そのような環境にSD–WANを活用することで、ネットワークの管理が容易になり、スピーディーな拠点展開が可能となるようだ。「工場、建設現場などで活用されることを想定している」と上田氏は語った。

NTTPCは、このような先進的な取り組みを進めることによって、同社が主催しているInnovation Labを利用するAIスタートアップ企業や各分野のパートナー企業と連携し、5GネットワークとSD–WANの特性を最大限活かした新たなソリューションの創出・拡大を目指していきたい、と上田氏は締めくくった。

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