IoTがバズワードとなっていた2015年から2018年にかけて、PoC(proof of concept)というキーワードがもてはやされた。
このPoCは「概念実証」と日本語訳されるのだが、概念を実証するということはどういうことなのだろうか。
wikipediaによると、
概念実証(がいねんじっしょう、英: Proof of concept、ポック、ピーオーシー)は、新たな概念やアイデアの実現可能性を示すために、簡単かつ不完全な実現化(または概要)を行うこと。あるいは原理のデモンストレーションによって、ある概念や理論の実用化が可能であることを示すこと。
概念実証は一般に完全に機能するプロトタイプへと至る前段階と見なされる。資金を提供する側にとってはリスクを低減させる手段であり、資金提供を受ける側にとってはより多くの資金を提供してもらう手段である。
とされていて、ビジネス面からみると、「ビジネス上の問題点の部分的な解を示すこと」としている。
簡単に言うと、ビジネス上で「こうしたい」ということを実際にやってみるということだ。
現場の環境や既存の設備にとらわれすぎると、「こうしたい」ということの検証はできなくなる。そして、とある仕組みを導入したとき、きちんと動作するか、思った性能が発揮されるか、といったことを検証するのは「技術検証(Proof of Technology)」となる。
失敗するPoCと超えられない壁
当初、「とりあえずPoCからはじめましょう」という発言が、様々な有識者から発せられ、何らかのセンサーを取り付けたり、データを集めたりしている企業が出てきた。
その結果出てきたデータを眺めて、「さて、このデータをどうかつようしようか?」と悩む担当者をよく見かけた。
企業の上層部からすると、少額であれコストをかけて行った実証。その結果をどう利用するかイメージできていない現場にあきれ、プロジェクトを停止せざるを得なくなる。
一方で、概念実証(PoC)を始めようとする初期段階で、上層部は説明を受けていて、取得したデータをどう活用するのか、どういうメリットが想定されるのか、といったことを明確にせずゴーサインを出しているケースも多い。
つまり、失敗する概念実証(PoC)とは、企業内でビジネス的なメリットをイメージできていない検証作業のことで、データがきちんと取得できるか、取得したデータを見ることができるかという技術的な面を検証した技術検証に過ぎないのだ。
この状態では、「PoCの壁」を乗り越えることはできない。
正しい概念実証(PoC)のステップ
まず、やりたいことがないのにPoCは始めない、ということが重要だ。すべてのデジタル系キーワードに言えることだが、ベンダーの甘言に乗ってはいけない。
新しいキーワードが登場したら、それはどういうことができるようになることなのかを明確にする。まずはここで終わるべきだ。
多くの企業における間違いは、その一方で、自社のビジネスを概念化し、ビジネスプロセスを明確にしていないことだ。
この状態では、自社事業の方向性はぼんやりしているし、課題も見えない。その状態では、技術利用は偶然が起きない限り自社に良い結果をもたらさない。
メディアを見ていると、背景が語られず、いきなり技術検証を始めたように見える成功事例もあるが、そういった事例を深堀すると多くの場合背景となる仮説があり、技術検証の結果がイメージできている場合がほとんどだ。
製造業におけるIoTの有名な事例の一つである、旭鉄工が実現した製造業における生産性向上施策においても、当初、「秋葉原で買ってきた安いセンサーで数億円のコスト削減が実現された」というキャッチ―な文脈で語られていた。
しかし、私が社長の木村氏を取材した限りにおいては、もともとトヨタ生産方式に詳しく、実践してきた経験をお持ちな方で、生産性を改善するための指標の在り方を熟知していたことが大きいと感じている。
また、木村氏にお話を伺うと、取得した数字の見方や、活用方法に関しても、明快な意思が感じられる。
[参考]
i Smart Technologies
つまり、顧客やサプライヤーとの関係や、競合を含めた環境の調査、社内の人材環境やビジネスプロセスなど、ビジネスの状態がみえていない企業では、新しい技術をうまく活用することは難しく、検討しているうちに技術側からしかモノをみなくなってしまい、挙句の果てにビジネスには役に立たない技術検証を始めて、自己満足をしてしまうのだ。
外部や内部との関係性や、ビジネスプロセスが明確になっていて、どこまでがデジタル化されているのかが明確であれば、新しい技術キーワードが登場してもそれに振り回されることはない。
一方で、マネージメントは投資に対して覚悟を決める必要がある。なぜなら、本当に自社の強みを生み出すところにいたるまでには、トライアンドエラーが必要となり、投資が長期化することもしばしばあるからだ。
例えば、ユニクロはICタグを値札につけることで、製造から流通にいたるまで商品をトレースし、最適な生産や販売を行うということが実現できている。しかし、ここに至るまでのユニクロのサプライチェーンへの取り組みの歴史は長い。
完全な仕組みなど簡単にはできないし、技術革新が起きないとできないこともある。もっと言うと、インターネットが登場し、ECサービスが普及する中、小売業の在り方が変わったように、ある技術革新が起きたら、これまでのやり方がガラリと変わる可能性すらあるのだ。
技術革新へ注目と観察はとても重要なことだが、振り回されないようにいて欲しい。
この五年間、PoCで消耗してしまった企業と、綿密に計画を立て、対応を練ってきた本気の企業の間で差が出始めている。

