3月15日(金)、NTTPCコミュニケーションズが主催するパートナーカンファレンス2019が虎ノ門ヒルズにて開催された。
NTTPCコミュニケーションズ(以下、NTTPC)は、電電公社が民営化した1986年に、当時パソコンのモデムを扱う会社と共に合弁会社として設立された。最近では、AI、ディープラーニング技術を使ったパーソナルトレーニングサービスなどもメディアで取り上げられるなど、新しい技術を取り込みながらサービス開発を行っている。同社 代表取締役社長 田中基夫氏(TOP写真)は冒頭のあいさつで、「AIを使った様々なサービスの開発に力をいれており、エンドユーザーに使いやすく、パートナー企業にも扱いやすい、シンプルで安価なサービスの提供を目指している。」さらに「パートナーのビジネスのICTの部材となることを目指している」ことを強調した。当レポートでは、以下の講演について紹介する。
- デジタル時代を生き残る企業に必要なデジタルトランスフォーメーション/IDC Japan 真鍋 敬氏
- サブスクリプションを支える「つながり」/兵庫県立大学経営学部 教授 川上 昌直氏
- NTTPCの取り組“サブスクリプションビジネス支援”/NTTPCコミュニケーションズ 中山 幹公氏
デジタル時代を生き残る企業に必要なデジタルトランスフォーメーション
「2025年の崖」とDXの必要性
ITの調査とコンサルティングを行うIDC Japan真鍋 敬氏より、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)というテーマで講演が行なわれた。
2025年にはITシステムが使い物にならず崩壊していってしまう、という問題提起が昨今おこなわれている。それによって会社の競争力の低下や機会損失が起こり、損失額は12兆円にものぼるという。この、「2025年の崖」についてはIoTNEWS内でもレポートした。
DXで競争力の強化や、顧客への満足の提供(CX)、従業員への幸せの提供(EX)にも繋がるとし、それを常に考える企業を「デジタルエンタープライズ」と表し、DXを一番に考えている会社を「デジタルネイティブな会社」と述べた。
例えば、電車で帰る途中にAmazonなどでスマホで簡単に購入するといった行為が自然になっているように、既に顧客がデジタルに変化していく現状では、我々もデジタルに変わらなければいけないという。
真鍋氏はDXを行うにあたり重要なポイントを2点挙げた。
まず1点目は、単にアナログからデジタルに置き換えるのではなく、デジタルに変換をしてしまうという点。ITはもともとコストを下げるために入れるものだが、単純にデジタルに置き換えて5%コストが下がりましたといった変化ではないという。DXはもっとドラスティックな変換をするものであり、売り上げを倍にしたり、コストを半分にするレベルのことを指すと述べる。
そして2点目は、指針の決定をデータに基づいて行うべきと語った。つまり、経験や感といったものを一度データで裏付けすることが大事であるという。
DXの進度を評価する指標
IDC Japanでは、以下の5つの項目を元に最終的には5段階でどの程度DXができているか評価を行なっていると紹介した。
- リーダーシップ(誰がやるか)
- オムニエクスペリエンス(お客様の接点をどうもつか)
- 情報の変化(データをどう管理するか)
- 運用モデル(ワークフローやITシステムの運用をどうするか)
- ワークソース変革(人材をどうするか)
どこかの部署でこういったことをやっているよ、という程度であれば評価1に。ある部隊の中でやっているけど他の部隊は知らない場合はステージ2に。スデージ3になると、会社の中ではおおむねDXをやっているが、やっているところとやっていないところの差が激しい状態、と評価するが、ここまでくるとデジタルプレーヤーと外から見られるようになると説明する。
さらにステージ4では、会社のどの部門でもデジタルを使ってお客様の満足度を高めていることをやっているレベルになり、「デジタル変革者」という評価を受ける。
ステージ5では、デジタルを使わないと会社が成り立たない、ビジネスモデルが成り立たない状態を指すが、ほとんどの会社ができていないという。
極端に言うとタクシーを使わずにタクシーの会社を作ってしまったUberを例にとり、彼らはデジタルによってビジネスモデルを破壊的に変えてしまったと述べた。
日本企業にDXの評価を行って浮き彫りになった課題
実際にDXの評価を国内の企業に行なったところ、2017年から2018年にかけてDXの高い企業の割合はほとんど変わらないことが分かったという。いわゆるデジタルプレーヤーとされるステージ3の企業は、全体の5~6割に留まってしまっているところが問題であると分析した。
では、どこにDXの促進を妨げる要因があったかというと、まず一つ目に新しいITシステムを今までと同じKPIで分析していないだろうか。AIを例にとると、最初は70%の学習力であり、それが段々と高まっていく場合に、単に作業効率を高めるための時間の短縮をKPIとするべきではないと話す。つまり、正しいKPIを設定しないと価値のあるものと評価されない恐れがあると述べた。
また、データのやりとりや情報の共有が部署間で行われていない点についても問題があると指摘した。
そしてもう一つ大きなDXを妨げる要因として、内部プロセスと外部プロセスの分離についても強調した。
内部プロセスとは簡単に言うと会社の中のプロセス。外部プロセスはお客様、パートナー、ステークホルダーとのプロセス。
本来そういった外部の方々とうまいワークフロー、 ITシステムを組んでいかに満足させるかが大事であるにも関わらず、日本の企業は内部プロセスの変革にこだわってしまい、それは昨今の「働き方改革」の影響も受けていると分析した。
例えば、UberやAirbnbのような海外におけるDXの先進的な会社は、お客様にこういったものを届けたい。そのためにどういったことを中でやっていくか、という外からの発想をもっている。
逆にDXを推進しているという国内企業のお客様に目的を聞くと、従業員の生産性向上や、データをマネタイズする仕組みを考えている、といった内部プロセスの改革ばかりという。ただ、お客様に対する満足を起点に考える「CX」ということが非常に重要であり、お客様の視点を持つことで自然とDXの考え方が起きてくると語った。
DXを進めるために
クラウドサービスなどを用いて外部プロセスと内部プロセスのデータを繋ぎ合わせたり、分析したりすることで案外簡単にできるかもしれないという。その中で、AIやビッグデータアナリティクスが使えるとより外部と内部が繋がりやすくなると話した。
さらに、人材や組織もDXをする上で非常に重要であると述べた。新しくDXを進める際に社長直結のプロジェクトがしおれてしまうケースはよくあるが、ここでしっかりとした組織づくりが大事だという。組織において成果を出すためにミッションを与え、お客様に近いビジネスユニットの中にDXの組織をつくることで、会社の中にDXが広がり、ビジネスユニットとDXが一体になると語った。
プロジェクトからビジネスユニットになるケースもあれば、ある組織をつくってビジネスユニットの中に入れてしまうといった、アプローチの異なるケースにおいても、何かしらの方法を取らないと2025年の崖から落っこちてしまうと注意喚起した。また、人材が不足している場合には外部調達や、アウトソースするなどして人材をあてがう必要があると補足した。
イノベーションは一夜にしてならず
DXというのはデジタルで顧客エクスペリエンスをつくっていくもの。つまり、AIやIoTといった新たなテクノロジを使ってお客様の満足度をもっと向上させましょうと話す。そうすることでお客様がどんどんやってくる、感謝されるようになる、と改めて強調した。
そして、大きなイノベーションは小さなイノベーションの積み上げなので継続することが大事であるとも語った。
サブスクリプションを支える「つながり」
サブスクリプションの捉え方、考え方について
まずサブスクリプションとイメージすると「定額制課金」と思われがちだがそうではないという。実際に消費者が注目する「所有から利用へ」というテーマは不況から10年経つとクローズアップされる傾向にあり、1999年のブーム以降、現在賢い方法として「所有から利用へ」といった話が出てきていると説明した。そして、現在消費者が注目している定額制課金というとローンやリースというものがあるが、これは単なる課金の問題であって、サブスクリプション自体を指すとは限らないと述べた。
具体的にサブスクリプションには「従量制課金」というものも存在する。例えば、飛んだ距離だけ課金される「GE」や、笑った回数だけ課金されるスペインに実在するコメディ劇場などを例に挙げた。
つまり、企業が注目すべきものは「サブスクリプション」というビジネスモデルそのものであると語った。
また、ユーザーが将来にわたる利用意思を示すということが大事であると改めて定義した。なぜなら、「サブスクリプション」というのは「サブスクライド」という動詞を受けた名詞で、ユーザが申し込むものであり、企業が定額制で課金するという意味ではないという。ユーザーが申し込んで継続的に利用しますよ、という意思を示すことが重要だと強調した。
サブスクリプションに必要な「つながり」を考える
そもそもサブスクリプションというとマネタイズ=課金と思い込みがちだが、成功させるためには、ユーザーとの繋がりを考える必要があると述べた。
そして、ユーザーとの繋がりを強化したビジネスというのは、ユーザーの生活に対して企業がプロダクトを提供してくれることによって生活が向上するモデルであると話した。パナソニックの例として昨年の12月に「暮らしアップデート」と松下さんが提言した内容もまさにユーザーとの繋がりをもとうとする話だったが、ユーザーがサブスクリプションを利用することで生活が向上しない、もしくはパフォーマンスが向上しないと意味がないという。
なかなかユーザがものを買ったあとのことまで想像力を働かせることは難しいかもしれないが、ユーザの生活やパフォーマンスを向上させるために、購入後に焦点をあてるべきであると語った。なぜなら、購入後に利用し、使いこなすことでジョブや課題を解決し、その後解決し続けなければいけないからだ。そして使い終わった後にさらに高いパフォーマンスを目指すためにアップグレードするからだという。そしてここを重視することが大事であると強調した。
そのために、プロダクトが必要とされた理由を遡って考えると簡単だと話した。なぜ買ったのか、どうやって買ったのか、どういう経緯で知ったのか、という分析から、これを知ると必要とされる、購入されるといった具合だという。
いわゆる売り切り企業だと購入することで売りがたってしまうので、購入時点を考えがちだが、実は購入前より購入後のタッチポイントを深掘りする方がユーザの支持を得やすいと述べた。
カスタマージャーニーを考えるAIDMAやAIDA、AISASなども購入後は全くタッチされていない。あったとしてもメンテナンスやアップグレードなどお金が絡む部分のみであり、どういう風にユーザが使いこなしてジョブの解決をしているかが分からないと指摘した。
「ジョブ理論」という著書でもジョブの解決についてクローズアップされており、スタートアップ企業でも限られたユーザの状況で問題を解決することを得意としていたりするが、ポイントとしては顧客とのタッチポイントではなく、アンタッチポイントを考えることが必要であると述べた。そしてそれがジョブを解決する方法であり、顧客と寄り添う方法だと語った。
成功するサブスクリプションとは
「メンバーシップ」という考え方=常に繋がっているという考え方が欠落した企業は撤退していっていると注意喚起した。例えばものづくり企業がサブスプクリプションに転換していくものの、どんどん失敗しているケースがある中で、共通してそういった企業は「メンバーシップ」ではなく、「課金」としてサブスプクリプションを捉えてしまっていると述べた。
「メンバーシップ」とはなにかというと、ユーザとの関係性を密に考え、資産と捉えることであるという。つまり、ユーザ(会員)のパフォーマンスをあげることが自分達のパフォーマンスをあげることであると、考えがシンクロしている状態を指すと説明した。メンバーシップの例としては、学校における生徒の学力が上がれば就職率があがり、学校の評価も上がるといった具合だ。企業においても、ユーザのパフォーマンスが上がれば、企業の評価も上がるということを真摯に捉えられることがメンバーシップ企業の要件であると語った。
売り切り企業は購入して終わりであり、カスタマーサポートセンターもコストとして捉えられてしまうが、メンバーシップ企業は購入後になんらかの方法でユーザとの繋がりをつくっていると説明する。SaaS企業やアマゾンなどは得意であり、LTVを評価している企業でもメンテナンスや退会といった部分で課金を行なっている。また、保険や自動車、コピー機などの有能な営業マンは購入後に顧客に寄り添い、どこかに課金ポイントを作っているという。
そして、成功しているサブスクリプション企業は全部にタッチしていると話した。つまりコストの部分だけで集客を行うのではなく、利用の部分で集客をし、さらにどこかの段階でサブスクリプションのプランをアップグレードしているという。ずっとユーザに寄り添っている企業が成功していると語った。
ユーザに寄り添う視点をもつということ
サブスクリプション企業でいう「CS」とは「カスタマーサクセス」つまり、顧客の成功であるという。それは常連感や特別感のようなものであり、BtoB企業でいうとセールスフォースやSaaS企業などは、どこまでもユーザに寄り添っていると説明する。「所有から利用へ」という風潮で、従量制課金制度(成果が起こらないと課金が起こらない)が目の前にきていると述べた。磨り減った分だけ課金するタイヤを展開したミシュランを例にあげると、ミシュランガイドを作ることで店へ車で行ってもらうという流れがタイヤを利用するということに繋がっている。
ユーザーとどこまで寄り添えるか、どこまで繋がれるか。それがサブスクリプションの要件になってくると語った。これからサブスクリプションに転換しようという企業は、さらにユーザとの繋がりをもっと考えるべきであると改めて強調した。
NTTPCの取り組“サブスクリプションビジネス支援”
ICTビジネスをサブスクリプションビジネスに転換するNTTPCの「BPaaS」
サブスクリプションによるネットワークビジネスとして、ハードウェアやVPNなどネットワークの通信機器の構築だけを行なっていた企業が回線機器の提供も行なったり、IoTなどのデバイスを製造販売する企業がモバイル回線部分の提供も行なったり、ソフトウェアの企業がその商品にあったネットワークをバックで提供するといった例を挙げた。
そのように今後サブスクリプションを取り入れていきたい企業に向けて、初めての方でも使いやすいサービスダッシュボードというものを提供していると話した。具体的には、クラウドやモバイルAOSタイプといった類のものであるという。そのダッシュボードをプラットフォーム化し、そこにNTTPCのサービスが次々に乗ってくる仕様だと説明した。既にサブスクリプションに取り組んでいる企業にもおすすめだという。
また、売り切り型の商品からサブスクリプションに展開したいという企業向けに、サブスクリプションモデルを分析し、凝縮した「BPaaS」というものも紹介した。
少額の契約を維持管理したり、月額商材のアップグレードを常に行ったり、といったサブスクリプション独特のタスクを一連の業務として伝えるプラットフォームサービスだという。
ビジネスフォンの販売に加えて回線もセットで提供しているA社では、検討着手の段階から請求までのプロセスを取得することができた。既に回線の再販をやっていたB社では、エクセルによる管理が煩雑になっていたところ、本商品によって人的稼働を50%削減でき、且つ2週間でデータ移行が完了したという。さらにC社でも人的稼働が50%削減し、管理ツールとしてエクセルはもう使用していないと事例をいくつか紹介した。
事業者、販売代理、エンドユーザの三者に向けて、一連の事業を支える仕組みの提供と継続的なアップグレードを行うことにより、最新のものを提供するというコンセプトで行なっているという。
そして、カンファレンスに出席されたパートナー企業がエンドユーザとずっと繋がることを目的としていると語った。
展示会場では、NTTPCがすでに提供しているサービスだけでなく、音声認識技術を活用して議事録の作成をサポートする「議事ロック」や「IoT自販機」などサービス開始準備中の参考出典や、ディープラーニング技術を活用して不足分の画像を自動生成する「スーパーリテイク(β版)」など、先端技術を活用したサービスなどが展示されており多くひとが賑わっていた。

