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【前編】政治家 小林史明氏が語るテクノロジー実装社会、IoT・AIで「ヒト起点の政策」をつくる

【前編】政治家 小林史明氏が語るテクノロジー実装社会、IoT・AIが「ヒト起点の政策」をつくる

自民党衆議院議員(3期) 小林史明(ふみあき)氏:1983年、広島県福山市に生まれる。2007年、株式会社NTTドコモ入社。2012年、衆院選に公募で出馬し初当選。党青年局長代理、行政改革推進本部長補佐、「人生100年時代」の制度設計特命委員会事務局次長などを歴任する。現在は総務大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官を務め、電波・放送・通信関連の規制改革を中心に、「テクノロジーの社会実装」に取り組む。

日本はいま、少子高齢化など深刻な社会問題を抱えている。そうした課題を解決する手段として期待されるのが、テクノロジーだ。しかしどんなに優れたテクノロジーがあっても、それを使う私たち「人間」の意識が変わらなければ社会には浸透せず、課題を解決する手段としては機能しない。

自民党衆議院議員の小林史明氏(35歳)は、「テクノロジーでフェアな社会をつくる」という信念のもと、政治の世界に飛び込んだ。通信キャリアで勤務した経験を持ち、「テクノロジーの社会実装」を政治活動の中心に据える、数少ない政治家の一人だ。

2012年に衆院選で初当選した後、「人生100年時代」の制度設計特命委員会事務局次長を務めるなど、新しい時代に向けた施策をリードしてきた。現在は、総務大臣政務官として、電波・放送・通信関連の規制改革など、テクノロジーの実装に向けたしくみづくりに奔走している。

今回、その小林氏にIoTNEWS代表の小泉がインタビューした。前編では、小林氏が政治家になった背景や「人生100年時代構想」などこれまでの取り組みを紹介。また先般、西日本を襲った「平成30年7月豪雨」などさまざまな観点から、テクノロジーの実装に不可欠であるITシステムの「標準化」について議論した。

後編では、通信ネットワークの標準化やNHKのネット同時配信の取り組みを紹介。未来の展望についても語っていただいた。本稿では、インタビューの前編をお届けする。


政治家は、人の意識を変える仕事

IoTNEWS代表 小泉耕二(以下、小泉): まずは、政治家を志すことになった背景を教えてくだい。

自民党衆議院議員 小林史明氏(以下、小林): これまでの人生で嬉しかったこと、悔しかったこと、すごいと思ったことなど、記憶に強く残った出来事の多くは、「人の意識」が鍵だったと理解しています。

記憶にある最初の出来事は、子供の頃、実家で地ビールをつくっていた時のことです。飲んでもらった人には評判がよかったのですが、大手メーカーのビールに飲み慣れた人たちに地ビールのよさを知ってもらうにはとても苦労しました。

結局、事業はうまくいかず、いいものをつくってもそのよさを知ってもらえないと駄目なのだなと、子供ながらに感じました。

大人になってから思ったことは、地方のベンチャーが地ビールという新しい商材でナショナルブランドの歴史ある商材と勝負するようなものであり、ビールが売れなかったということよりは、「人の意識」を変えられなかったのだな、ということです。

自民党衆議院議員(3期) 小林史明(ふみあき)氏:1983年、広島県福山市に生まれる。2007年、株式会社NTTドコモ入社。2012年、衆院選に公募で出馬し初当選。党青年局長代理、行政改革推進本部長補佐、「人生100年時代」の制度設計特命委員会事務局次長などを歴任する。現在は総務大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官を務め、電波・放送・通信関連の規制改革を中心に、「テクノロジーの社会実装」に取り組む。

大学では野球部に所属していたのですが、こんなことがありました。

自分が引退した後の主将がすごくいいやつだったのですが、プレイでは実績が残せていませんでした。それを見かねた私は、3ヶ月間ずっと彼の練習に付き合ったのです。

すると、彼は最後の試合でホームラン打った。私は嬉しくて、バックネット裏で大泣きしました。

私はそれについてこう思ったのです。彼は、特訓によって突然野球がうまくなったわけではなく、彼の中で「意識の変化」があり、自信を持つことができたのだと。

自分じゃない誰かの意識、行動を変える。そして、前向きな結果を得られる。これは自分にとって感動であり、モチベーションなんだと感じました。人生を決定づける体験でした。

大学を卒業した後は、NTTドコモに入社しました。モバイルはずっと人の手元にあるものであり、one to oneでメッセージを届けられますよね。ですからモバイルは、人の意識に働きかけることができる製品だと考えていたのです。

ただ、配属された法人営業の仕事をしながら気づいたのは、通信事業は規制が多く、どんなにいい提案をしても、お客様の期待に応えきれないことが多いということです。そのことで、強烈に悔しい思いをしたこともあります。

このまま、人がつくった(既存の)ルールの中で生きていっても、自分も周りの人もハッピーじゃないと思いました。ルールが人の意識を縛ってしまっている。だったら、ルールを変えたりつくったりする側に回ろう、そのためには法整備に直接関わる国会議員になるしかないと思いました。それが、この道に進んだ最初のきっかけです。

実際に国会議員になって感じるのは、法律・予算・税制はあくまでも意識変革をおこすためのツールであって、最終的に人々の意識が変わらない限り根本的な問題解決にはならないし、世の中は変わらない。

国会議員を始めとする政治家の仕事は、人の意識を変えることだと思っています。

次ページ:人生100年×テクノロジーで、持続可能な社会を目指す

自民党では、主にIT系の政策を担ってきました。テクノロジーの分野を担う議員はまだ多くはありませんので、やりがいがあります。ブルーオーシャンが広がっていると感じます。

具体的には、自民党のIT戦略特命委員会(経産省と連携)と情報通信戦略調査会(総務省と連携)という組織に所属をしながら、政策提言にかかわってきました。たとえば、「政府CIO(Chief Information Officer)」というしくみをつくり、霞が関(中央省庁)の情報システム部門を一元化し、調達を効率化していくということを提言しました。

これは、まさにドコモの群馬支店で法人営業をしていた頃に(システムを売る側として)感じていた課題です。1718ある自治体が、それぞれで別の情報システムを調達するという、とても非効率なことをしているのです。

中央省庁の情報システムを効率化した結果、毎年1,000億円単位で経費の削減ができています。将来的には全国の自治体でシステムを標準化していきたいと考えています。

人生100年×テクノロジーで、持続可能な社会を目指す

小林: 昨年には、政府で「人生100年時代」という構想を打ち出しました。これは私や小泉進次郎さんなど当選4期目までの議員が中心になってつくったものです。

これまでの時代は、20年勉強して40年働き、20年の老後で人生を終えるといった「人生80年」を前提に、社会保障などの制度設計がなされていました。しかし、「人生100年」の時代には、そこに20年がプラスされます。「一体どうしたらいいのか」と、途方に暮れてしまうような話です。

ただ、その問題を正面から受け止め、制度を徹底的に見直そうとして取り組んだのが「人生100年時代構想」です。

また、「人生100年」と同時に起こっている重要な時代の変化は、圧倒的なテクノロジーの進化です。「AIによって仕事が奪われる」という議論もあるようですが、むしろ私は、人口が減少する日本だからこそ、徹底的にテクノロジーを実装することで、経済を持続可能なものにできるはずだと考えています。

左:自民党衆議院議員 小林史明氏、右:株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

小泉: 人口減少を解決する手段として、テクノロジーを実装するということですね。一方で、「人生100年時代」になると、20年増えるので、その分をどうするのかという議論があります。それに対しては、テクノロジーの進化はどう関係してくるのでしょう。

小林: 私たちがこれから向き合っていかなければならない最も大きな問題は、「人口減少」だと考えています。

なぜいま、生まれる子供の数が減るような状況になっているのでしょう。この理由は、「何とも言えない将来不安」だと思うのです。子供を持ち、育ててていくことがこれからの時代でもできるだろうか、というような不安です。

私は、この将来不安を払拭することで、人口減少を解決できると考えています。

社会保障の面から見た将来不安については、“騎馬戦型”から“肩車型”になるという議論があります。要するに、社会を支える人の数が減っていくということです。

もし、15歳~64歳(生産年齢)を社会の支え手として考えると、2045年には、「支える側」と「支えられる側」のバランスが1体1となります。つまり、“肩車型”になってしまうのです。

しかし、「人生100年時代」になり、高齢でも元気な人が増えるとします。それにより、18歳から74歳が支え手になるとすると、いまと同じくらいのバランスになり、“騎馬戦型”が維持されます。

ただ、そのような社会においては、これまでのように65歳一律で引退ということではなく、高齢者でも意欲があれば、働けるチャンスがあることが前提となります。その際に、ロボットやAIなどのテクノロジーを活用することで、シニアでも働ける環境を提供できるのではないかと考えています。

【関連リンク】
「人生100年時代構想」(首相官邸ホームページ)

次ページ:「地方分権」には、ITシステムの「標準化」が必要だ

あとは、高齢になっても働くことのモチベーションを維持できるしくみが重要です。いまの制度だと、収入がある分、年金が減るのです。これでは、働こうと思いませんよね。長く働ける人、意欲のある人が自由に生き方を選べるようなしくみをつくり、きちんと国民に知らせていくことが大切なのです。

小泉: 社会を支える人がたくさんいると、将来に対する不安は減ります。そうすると、出生率は上がり、働き手も増えて、いい循環ができますね。とても素晴らしい政策だと思います。

小林: そうした政策を実現するためにクリアすべき最低条件が、テクノロジーを社会実装していくことだと考えています。

「地方分権」には、ITシステムの「標準化」が必要だ

小泉: いま、とくに注力している領域はありますか。

小林: 「標準化」に力を入れています。さきほどお伝えしましたとおり、全国の自治体は、それぞれが別々にシステムを調達しています。それは経費の無駄でもあるし、そこで働いている職員さんの手間にもなります。

自治体の職員が向き合うべきは、住民サービスです。しかし、人口がますます減っていくと、住民サービスを担う職員さんの数も減っていきます。ですから、少ない人数でもできるように、標準化が必要なのです。

また、国はいま「働き方改革」を民間に求めています。ところが、その足を引っ張っているのはむしろ行政です。そこを、行政がリードするような体制にするには、標準化が必要だと考えています。

わかりやすい事例が、書類手続きです。たとえば、企業に勤める社員が保育所を利用する際には、会社がその証明書を自治体に提出しなければなりません。実はそれが、すべての自治体でフォーマットが異なるのです。

ですから、一部上場企業で全国に支店があるような場合には、企業の担当者がその証明書をすべて手書きしないといけません。実際に、上場企業では、労務担当者が手書きに平均88時間を費やしているというデータがあります。

そうしたフォーマットを標準化できれば、さまざまなテクノロジーとAPIで連携できるようになっていきます。ですから、標準化はテクノロジーの実装において最初にクリアすべきステップなのです。

小泉: 最近、エストニアの「電子政府」の取り組みが注目を集めています。ITシステムの標準化が進み、国民は自治体での手続きの大半を、インターネットを使ってできるようです。それと同じような方向性でしょうか。

小林: はい。そういう意味では、私たちも「電子政府」のような取り組みは色々と進めてきたのですが、構造的な問題が障壁となっていました。そもそも、自治体ごとに業務のやり方や書式が違うということに、手が入ってなかったのです。

それは、「中央集権」と「地方分権」のどちらがいいかという議論があった中で、分権が美しいということで、整理されてきた結果です。しかし、システムに関しては話が違います。システムは分権/集権ということではなく、標準的にすることが大事なのです。

小泉: レイヤーが違いますね。

小林: はい、レイヤーが違います。いわゆるアプリケーションのレイヤーは分権すればいいのですが、インフラの部分は標準化した方がいいのです。

次ページ:「平成30年7月豪雨」で浮き彫りになった「標準化」の必要性

「平成30年7月豪雨」で浮き彫りになった「標準化」の必要性

小林: ご存知の通り、7月には西日本を中心とした豪雨(平成30年7月豪雨) で、私の地元である広島県福山市も大きな被害を受けました。

災害があった時にまず調べたいことは、道路情報です。道路情報を見るために国のサイトに行くと、国道と高速道路の情報を見ることができます。県のサイトに行くと県道の情報がわかり、市のサイトに行くと市の道路の文字情報だけが見られます。「〇〇トンネルが通行止めです」というように。

これらはすべて一括して、一つの共通化されたマップに落としておけばいい話です。標準化がなされていないのです。しかも今回、自治体のサイトにアクセスが集中して、システムがダウンするということが起きました。これもやはり、個別にシステムを組んでいることの弊害なのです。

小泉: 結局は自治体ではなく、民間がつくったマップの道路情報が活躍したという話があります。

小林: そうなのです。結局、いちばん使えたのは、トヨタの「通れた道マップ」やホンダの「インターナビ通行実績情報マップ」でした。

小泉: コネクテッドカーの車両走行データからつくったマップですね。ただ、民間のサービスで済むなら、それでもいいと思います。

小林: そうですね。ですから、民間も使えるように、自治体がオープンデータを提供すればいいと思うのです。

株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

小泉: 海外に面白い事例があります。ロンドン市の地下鉄で遅延があまりにもひどいので、データを公開し、アプリケーションはどこがつくってもいいとコンテストを実施したところ、ロンドン市は何もしなくても優秀なアプリがたくさんできたのです。

小林: 面白いですね。それがまさにインターネット社会のいいところです。オープン化することで、みんなが参加できるということですよね。

デジタルの時代になると、情報の格差(デジタルデバイド)はむしろ少なくなっていくと考えています。そうすると、多くの人がフェアにビジネスにアプローチできるようになります。

その力を活かせるかどうかが、次の時代の重要なポイントなのだろうと思っています。ですから、政府としてもオープンデータは積極的に出していこうという議論を進めています。

(後編はこちら

【関連リンク】
自由民主党・衆議院議員 小林史明公式Webサイト
twitter公式サイト
Facebook公式サイト
Instagram公式サイト

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