生活の中に入り込むテクノロジーを様々なテーマで考える新企画、「ライフテック」のコーナー。なるべくデジタルとは遠いビジネスをされている方にIoTNEWS代表の小泉が対談を依頼し、生活の中にテクノロジーがどう入っていくべきかを模索する。
第5回目の今回は、株式会社ウサギ 代表取締役/おもちゃクリエイター 高橋 晋平氏と、株式会社アールジーン 代表取締役/IoTNEWS 代表 小泉耕二が対談した。
バンダイで人を笑わせるおもちゃを作り続けた
小泉: 高橋さんは有名ですが、知らない方のために自己紹介お願いします。
高橋: 僕の職業はおもちゃクリエイターです。経歴としては、10年勤めたバンダイで、ずっとギャググッズを作ってました。10年間で一番売れたものでいうと、ずっとプチプチできるキーホルダー『∞(むげん)プチプチ』があります。
小泉: 知ってます!流行りましたよね。
高橋: たとえば、ガシャポンというカプセルトイで、猫背のネコの『猫背』というフィギュアも作りました。これは、パソコンのところに置いておいて、それを見たら「やべっ」と思って猫背を治すという反面教師です。僕が猫背なので、自分の肩コリを直したいなと思って作りました。
ほかにも、『3億円』という6分の1スケールの3憶円のフィギュアを作ったり、バンダイとは思えない商品ばかり作ってました。変なモノを作るヤツ、ということにさせていただいたというのはありがたい話です。
そして2014年に株式会社ウサギを作って、今に至ります。もともと僕のルーツとして、人を笑わせたいと強いモチベーションがあるので、「なにかウケるネタないかな?」と常に探しながら作っています。起業してからは、おもちゃやモノに限らず、遊びやゲーム要素をいろんなものに入れていきたいと思っています。
次ページ:独立後につくった『民芸スタジアム』『グーチョキパーダラピン』『アンガーマネジメントゲーム』
独立後につくった『民芸スタジアム』『グーチョキパーダラピン』『アンガーマネジメントゲーム』
高橋: 独立してから自分が携わったゲームは4種類ありますが、そのうちのひとつに『民芸スタジアム』という、全国47都道府県の民芸品を47枚のカードにして、戦わせあうカードゲームがあります。
遊戯王とかだったらモンスター名を言うわけですが、それを「コケシを召喚だ」などと言って戦っているうちに、民芸を覚えることができるゲームです。全部、縁起になぞらえた能力を持たせているので、遊んでいるうちにそれもわかってきます。
このゲームは「バカゲーかと思ったけどめちゃくちゃ面白い」と非常にゲームファンから好評で、大企業では絶対できないだろう、というようなゲームを、満を持してやりたい放題やっています。
小泉: そういうのは頼まれる仕事なのでしょうか?自分で投資するのでしょうか?
高橋: 2パターンあります。カードゲームは金型などが必要なく、小ロットで作れる紙モノなので自社で作っています。大きいものだと自社で作る体力がないので、いろんな会社と一緒にチームに入らせてもらって、自分も企画出して作るとか、もともとあったネタを一緒に作ったりします。
小泉: 他には、どんなおもちゃを作ったのでしょうか?
高橋: 『グーチョキパーダラピン』というゲームです。通常のジャンケンってグーチョキパーの3種類ですが、そこにダラとピンを追加し5種類にして、より戦略性のあるジャンケンを発明しました。
少しルールを説明すると、ピンはデコピンで一番強いので、全部に勝っちゃいます。一方、ダラは弱弱しいので全部に負けちゃうのですが、唯一ピンに勝てます。偶然デコピンをよけちゃった、みたいな。ちょっとやってみましょうか。
詳細の遊び方はこちら: グーチョキパーダラピン 公式HP 変わったジャンケン/変なジャンケン
小泉: これけっこう盛り上がりますね!
高橋: そうなんです。非常にアナログですが、これが自社で作っているゲームです。
そして、開発のお手伝いをしたのは、この『アンガーマネジメントゲーム』です。日本アンガーマネジメント協会という、無駄にイライラしたりキレたりしないように、怒りを上手にコントロールするメソッドを教えている協会と一緒に作りました。ゲームを通して怒りを遊ぶ、みたいなお手伝いをしています。
これは3人以上用のゲームで、怒るかもしれない出来事が書いてあるカードがたくさんあります。たとえば、『恋人が、店の店員に対して横柄な態度をとる!』とか『部下に大切な話をしていたら、聞いていないような態度でスマホをいじり始めた!』などがあります。
これを親が引いて、それに対してどの程度怒るか、親が0~10まで出します。10がマジ切れ、5が真ん中くらいです。メンバーが時計回りで出していきますが、「きっと小泉さんは懐が広いから1だろう」とか、「きっとマジ切れして10だろう」とか推測していきます。そして一番親の数字に近かった人が得点をゲットし、5点取ったら勝ちです。
これをやってると、同じことに対して怒る人と怒らない人が出てきます。それを話していると、ゲームが終わったあとに「結局そんなに怒らなくていいんじゃない?」という気持ちになるという不思議なゲームです。
普段、怒りポイントって話す機会がないので、割とはずかしいことをゲームを通して自己開示していることになります。その時点でどんどん仲良くなっていきます。
小泉: これ会社でやるとみんなのことが理解できて、いいかもしれないですね。
高橋: そうですね。アイスブレイクやチームビルディングにも使えると思います。
次ページ:あなたを思い出したら鳩が鳴く、鳩時計『OQTA HATO(オクタ ハト)』
あなたを思い出したら鳩が鳴く、鳩時計『OQTA HATO(オクタ ハト)』
高橋: インターネットにつながる商品にも関わらせていただいており、今、非常に力を入れていてほぼほぼ人生を賭けている商品が、『OQTA HATO(オクタ ハト)』です。
鳩時計って、ご存知のとおり15時になったら3回鳴く時計ですが、これはスマホでボタンをタップすると鳴く鳩時計です。オクタというベンチャー企業に入らせていただいて作っています。
僕には奥さんと4歳と1歳の子ども2人がいて、自宅にこの『OQTA HATO』を置いています。このボタンをタップすると、何秒か後には自宅でポッポと鳴きます。そうするときっと今、家では子どもが「パパ、パパ」と言って、奥さんが「パパだね。パパは今日帰り遅いけど思い出してくれてるんだね」と言ってくれてると思います。
つまり、「あなたを思い出したら、この鳩が鳴く」という商品です。
小泉: なるほど、時間を知らせるわけではないのですね。
高橋:: 実際に鳴らしてみますが、タップするとWi-Fiを介してポッポと鳴く、仕組みはこれだけなんです。家族に「思い出したよ」ということを伝えます。LINEみたいな通信手段とは違う嬉しさがあります。
僕がなんでこんなに入れ込んでいるかというと、実は、自分の親との関係にあります。僕は、親と仲が悪いという長年の悩みがありました。お互い憎しみあってるわけではないのですが、うまく話せなくなりました。
そのことにしばらく悩んでいましたが、その気持ちを置き去りにして、お盆や正月に実家に帰っても孫と楽しんでもらって自分は逃げていました。電話をしても、わりと一生懸命話さないといけないし、ヘタするといざこざが起きて、言葉が邪魔をするんです。
でも、ポッポと鳩を鳴らすことはできます。
今、実家の親元に『OQTA HATO』を置いています。今鳴らしても、親は買い物に行ってるかもしれないので、ポッポを聞いているかわかりません。でも僕は「もし聞いてたら喜んでほしいな」と思って押しています。『OQTA HATO』は自分に必要だったので、自分が一番のユーザーとしてやっています。
『OQTA HATO』は情報を完全にとっぱらって、1秒ポッポと鳴くだけの仕組みにしました。こうすることでお互いの気持ちが下がらず、幸せの方向にプラスにしかなりません。情報の引き算によって、プラスにしかならないコミュニケーションを作っているんです。
今はSNSがあるので、SNSでいいじゃないかという話もありますが、LINEしても返事がない既読スルーや、SNS投稿してもいいねが少なくて凹む繊細な人も多いんです。
小泉: すごく共感できます。自分も口下手なので、人にありがとうと言うのが苦手だったり、世間話ができないこともあります。たとえば、社員の子たちは「社長があまり話しかけてくれない」と思っているかもしれません。別にそんなことは全然なくて、いろいろ思ったり考えたりしてるんだけど、「用もないのに話すと迷惑かな」と思っちゃうわけです。そんなときに、この鳩がポッポと鳴いてくれると、気にしてるよというサインだからいいですね。
『OQTA HATO』があると、全員のことが好きになる
高橋: 『OQTA HATO』はは、1台に対して何人かが押したときにさらに進化します。この実家の鳩は最初は僕だけが押していたのですが、今は僕と妹で押している状況です。そうすると、あるとき鳩が鳴いているとしたら、親はどっちが押したのかわかりませんよね。
最初僕だけが押していたときは、僕が押していることが確定します。僕は聞いてほしいから何回も押すんですね。そうすると、親は「私たちを励ますために何度も押しているのかもしれない」と気を使う可能性が出てきます。
それが僕か妹かわからない状態だと、だんだん適当に思えるようになってきて、「誰かが想っていてくれているんだ。嬉しいね」ぐらいになって幸福度が下がらないようになります。受け取る側がいいように解釈してくれるようになります。
小泉: 相手側の気持ちの問題ですよね。
高橋: そうなんです。たとえば、オフィスのデスクに置いて、家にいる奥さんと子どもにボタンを持たせた場合、鳴いたら「そろそろ帰ってきてほしい」ということなのかな?と嬉しくなるかもしれません。ただそれだと、帰れない時に鳴かれると嫌になってしまう可能性があります。
そこで、家族&チームメンバーでボタンを持つと、めちゃくちゃ面白くなるんです。鳩が鳴いても、誰が押したかわかりません。そうなると、都合のいい解釈がはじまります。もしかしたら、「家からかもしれないから早く切り上げて帰ろうかな」と思いたいときは切り上げることができるし、もしかしたら若手の女子かもしれないから、ちょっと嬉しくなってやる気が出たりするかもしれません。
つまり、全員のことが好きになっていきます。1秒の音を一方通行で送るだけなのですが、非常に不思議な鳩です。
小泉: 手で押さないといけないのがいいですよね。
高橋: 展示会にもよく出していますが、今僕が話したみたいなことを言うと、涙ぐんで刺さる人がいます。誰かを思い浮かべるというか。一番使いたいシーンとして多いのが親で、その次が奥さんで、購入を希望する人は男性が多いです。男性って誰かに迷惑かけてたり、ロマンチストだったりするじゃないですか。
小泉: そうですね。
高橋: 『OQTA HATO』は意味合いをユーザーに丸投げしている、余白しかない商品です。今は、遊び方を自分で発明したり、自由な遊び方をしたりするのが楽しさとして受け入れられる時代なので、その余白の設計が必要です。
小泉: 余白の設計ですか。
高橋: はい。「やってみたぜ」という動画を紹介するのが楽しかったり。だからこの商品は、今の時代にあった商品だと思っています。
今までのコミュニケーションって送り手の方が主導権を持っていたと思いますが、SNSによって承認欲求を欲する時代になって、主導権を持つのが受け手の場合というのが多くなってきています。
この商品は送り手と受け手の立場を五分五分にすることに、徹底的にこだわりました。鳩が鳴らないときも、「もしかしたら出かけてる時に鳴ったかもしれない」と思うことができます。
小泉: 最初はクラウドファンディング – Makuake(マクアケ)でスタートしたそうですが、目標金額余裕で達成しているんですね。
高橋: はい。買った人のコメントも熱いです。「誰かのために使いたい」と、人によってはめちゃめちゃ必要なものになっています。
小泉: どの商品も、次の人に伝えたくなりますね。
高橋: 僕は基本的に「自分がお客だったら絶対買うモノ」しか作れないんです。すぐれたマーケターだったら、これぐらいのニーズがあるだろうと想像できるかもしれませんが、「僕だったらこれが存在したときに、この値段だったら買う」という理由が完全にできあがってるものを作ります。ゲームがそんなに得意ではない奥さんにやってもらえるゲームを作ることもありました。そうすると、「同じモノが欲しかった」という方がいるんです。
小泉: すごく共感できます。
次ページ:「IoTのモノを企画しようぜ」はナンセンス
「IoTのモノを企画しようぜ」はナンセンス
高橋: 『OQTA HATO(オクタ クロック)』はIoTですよね。実は、IoTという言葉があんまり好きじゃないんです。ごめんなさい。
よく「IoTが流行ってるから、IoTに参入すべし」と聞きますが、その順番は完全に間違っています。手段として、やりたいことにインターネットが必要だったら使えばいいし、ネットがなくていいなら使わなくていいわけです。
だから、「IoTのモノを企画しようぜ」というのは本当にナンセンスだと思ってみています。
小泉: おっしゃる通りです。全く同じ意見です。
高橋: おもちゃを見ても、IoTである必要はないな、と思うこともあります。一方、いい感じにつながったら面白いだろうな、ということもたくさんあります。
小泉: ポケモンで通信対戦できるようになって、遊び方が変わったみたいな世界もあるので、別に技術が悪いわけではなく使い方の問題ですよね。
高橋: そうです。オンライン対戦で世界の人とマリオカートできるなんて、すごい楽しいじゃないですか。
インターネットのおかげで、カードゲームやボードゲームが追い風になった部分があります。任天堂DSが流行った2006年くらいに、ボードゲームが終わると言われてました。子どもがボードゲームの意味がわからなくなっている、と。大きな要因だったのは、大人も子どもも取り扱い説明書(トリセツ)が読めなくなったということでした。
それが使い方を教えてくれるYoutubeのチャンネルが登場したことで、解決できるようになってきました。それがボードゲーム復活の要因だと思っています。動画で見て「遊べそう」と思ってくれたら、買ってくれる流れがあります。そんなことでいいんじゃないかと思っています。
たとえば、僕はルービックキュービックが大好きです。あれは6面揃えて何秒だったか、みたいな感じなんですが、面が揃ったら秒をカウントしてくれて、その速さの世界ランキングがネットで出るということだったら、IoTの正しい使い方だと思います。
小泉: いいですね。今日はありがとうございました。
【関連リンク】
・株式会社ウサギ