IDC Japan株式会社は9月5日、年次セミナー「IDC AI and IoT Vision Japan 2018」を開催。「DNE(デジタルネイティブ企業)のデータエコシステムを考える」をテーマに、6つの講演と展示セッションが行われた。本稿ではIDC Japan株式会社 コミュニケーションズ シニアマーケットアナリスト 鳥巣悠太氏の講演の内容を紹介する。
鳥巣氏は、同社が過去3年に渡り行ってきた企業への取材やアンケート調査の結果から、企業はIoTを活用したビジネスのマネタイズモデルを早期に確立することが重要であり、そのためには「IoTデータ」と「非IoTデータ」の両方を収集・活用できる「データエコシステム」の基盤構築が急務であると語った。
”IoTデータだけ”では、マネタイズできない
IDC Japanの調査によると、IoTを利用する企業の割合は2015年の4.9%から2017年は6.0%に増大した。しかしこのデータは、”IoT時代”と言われながら、大半(94%)の企業がIoTをビジネスに活用できていないことも意味している。
何が課題なのだろうか。同社は企業に対して2種類のアンケートを行った(上の画像)。一つは企業のIoT担当者(250社、国内の従業員規模100名以上の企業)、もう一つは経営者/事業部門リーダーを対象としたものだ(400社、国内の従業員規模100名以上の企業)。
さまざまな課題があるが、中でも人材や予算、知見、社外連携の不足に関連する回答が目立つ(黄色い網掛けの項目)。「しかしこれらの課題は、マネタイズモデルさえ確立できれば、芋づる式に解決できる」と鳥巣氏は指摘する。
つまり多くの企業が、”IoTで儲かるしくみ”(マネタイズ)のイメージが不鮮明であるために、投資に踏み切れない状態にあると考えられるのだ。「マネタイズの見通しができれば、データサイエンティストなどの人材に積極的な投資ができ、技術や知見の不足を解消できる。また、予算枠を拡大し、パートナーとの連携や組織の強化なども進められる」(鳥巣氏)。
では、企業はIoTでどのようにマネタイズモデルを確立することができるのだろうか。次の資料を見て頂きたい。
ここで注目すべきことは2点ある。一つは、2017年の時点で150億個のIoTデバイスが世界には存在するが、その数が2025年には820億個に増え、それに応じて生成するデータ量が163兆ギガバイト(GB)まで増大するということだ。
そしてもう一つは、生成するデータには「IoTデータ」と「非IoTデータ」の2種類があり、その割合は後者の方がずっと大きいということである。
特に非IoTデータの中でも多くを占めるのが、「個人消費者の活動が生成するデータ」(ソーシャルやエンターテインメント系のB2Cサービスによって生成するデータ)だ。この類のデータを保有し、マネタイズに成功しているのがAmazonやGoogle、Facebook、Alibaba、TencentといったIT企業である。
彼らはこのデータ基盤があるためにマネタイズが可能であり、それにより次々と新たなビジネスに投資できるのだ。そして、既に彼らはIoTデータの領域まで着々とビジネスの範囲を拡大している。たとえばGoogleがコネクテッドカーやスマートホームの分野に既に進出していることをご存知の方も多いだろう。
これはすべての企業にあてはまることだ。「IoTデータだけでは足りない。非IoTデータも積極的に蓄積し、適切に組み合わせ、デジタルビジネスをつくっていく発想がマネタイズに向けて必須だ」(鳥巣氏)。
そこでカギとなるのが「データエコシステム」である。「データエコシステム」とは、「IoTデータと非IoTデータを組み合わせ、新たなビジネスモデル(収益モデル)を創出するステークホルダーの集合体」を意味する(鳥巣氏 講演資料より)。
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産業横断型ソリューション、成功の秘訣
ここで鳥巣氏は、「データエコシステム」について世界で起きている潮流について説明。その1つは、「産業特化型」のIoTソリューションが増えてきているという実態だ。
鳥巣氏は、本年3月から5月にかけて行った「IoTデータエコシステムに関わる取材記録」をもとに、産業特化型ソリューションにおける8つの先進事例を紹介した。
たとえば、医療分野における富士通・サンスター・歯科医院の取り組み。基盤となるのは、富士通がクラウド上に持つ患者のレントゲンのデータや診断データなどの「非IoTデータ」だ。
そこに、サンスターが開発した「IoT歯ブラシ」から収集した「IoTデータ」を組み合わせ、歯科医院とも連携する。そうすることで、患者はいつでもどこでも(家でも歯科でも)”虫歯にならないためのサービス”をシームレスに享受できるのだ。
次に鳥巣氏は、土木建築業におけるランドログ(コマツ・NTTドコモ・SAP・オプティムの合弁会社)の事例を紹介。3つの成功ポイントがあるとして、解説した。
ポイントの1つ目は、「収益拡大」より「スケール拡大」を優先させていることだという。
コマツと言えば、建設機械メーカーである。しかしコマツらがつくったIoTプラットフォーム「LANDLOG」は、他メーカーの建機のデータやドローン、作業員など土木建築業に関わるすべてのデータを収集。さらにその基盤をオープンにし、第三者企業がアプリケーションを開発できる環境を構築した。
しかもその利用料は月額数千円レベルだ。建設業は中小規模の企業が多いため、リーズナブルな価格帯が重要である点も考慮されている。目先の収益よりもパートナーシップの拡大を優先し、ビジネスをスケールさせている点が特徴だ。
2つ目は、物理世界/ヒトへのフィードバックを重視している点だ。たとえばLANDLOGでは、作業現場に設置したカメラの画像分析を通じて、各作業員の作業を管理・改善している。いわば「働き方改革」の側面を重視しているのだ。
そして3つ目は、土木建築という一つの産業の「全体最適」を実現している点だ。土木建築業の1プロセスである「施工」には、「掘削→積み込→運土→盛り土→法面→舗装」といった一連のバリューチェンがある。
建機の性能を向上すれば、「盛り土」の生産性は改善される。しかしダンプの数が不足していれば、その前工程である「運土」がボトルネックとなり、全体の生産性は向上しない。
そこでコマツは、自社の建機の性能を向上させるだけではなく、土木建築に関わる”全てのデータ”(IoTデータ+非IoTデータ)を収集することで、バリューチェーンに潜むボトルネックを解消し、産業全体の最適化を目指しているのだ。
「この3つのポイントはあらゆる産業で応用できる」と鳥巣氏は述べた。さらに、こうした全体最適をもたらす産業特化型のソリューションは、サプライチェーンのデータと組み合わさることで「産業横断型」のソリューションへと進化し、大きな価値を生み出していく可能性がある。
たとえばさきほど、LANDLOGでは建設現場の情報をカメラで取得していると述べたが、その画像からは「現場の作業員がランチの時にどのようなお弁当を食べているかといったデータを得ることが可能。そのデータを現場周辺の食品小売業のサプライチェーンに接続すれば、食品の製造量の最適化や物流の最適化にもつなげられる」(鳥巣氏)。
企業はDaaSの活用に向け、”社内体制”を確立すべし
また、「データエコシステム」においては、IoT領域/非IoT領域/物理空間のバリアフリーが重要になると鳥巣氏は指摘。特にIoT領域と物理空間の垣根を超えることが重要となる。
たとえば、「Fitbit」のようなスマートウォッチ。企業は社員のバイタルデータを収集することで、健康管理に活用できる。一方、提供するフィットビットの側においては収集した膨大なIoTデータの活用にフォーカスされがちだが、実は同社が重視しているのは「物理空間」へのフィードバックだという。
つまりは、ヒトの「働き方改革」である。たとえば、社員は自身が持つバイタルデータを共通項にして、他の社員とのコミュニケーションを深めることができる。
とかくもデータそのものが注目されがちだが、最終的には物理空間に働きかけ、ヒトの気持ちやモチベーションを動かすことを想定していなければ、価値のあるサービスとはならないのだ。
これまで、データエコシステムを推進している企業の事例や、成功のポイントについて鳥巣氏の解説を紹介してきた。しかしそれはまだほんの一部の企業に限られる。また、既に単独でデータ連携の基盤を構築しているGoogleなどの企業は脅威だ。
そこで、あらゆる産業・業種のデータを自由に組み合わせ、全方位的にビジネスを拡大できるようなデータ流通のしくみが重要となる。その基盤を「Data as a Service(DaaS)」と呼ぶ。
では、そのDaaS基盤の構築に向けた取り組みはいまどれほど進んでいるのだろうか。鳥巣氏によると、商用化に至っているデータ活用の事例はまだ多くはないという。
ただ、KDDIが2017年から提供開始した「IoTクラウド Data Market」や富士通が本年5月より開始した「Virtuora DX」、本年2月にYahooが発表した「データフォレスト構想」などがDaaSに該当する。
一方、「データ流通推進協議会」(本年5月時点で100社以上が加盟)のように、複数のプレイヤーがコンソーシアムをつくり、政府のバックアップも得ながらデータ流通を推進する活動も進められている。
「データ流通」を活性化させるためには、何が必要なのだろうか。IDC Japanがデータ流通に関わる企業40社を取材した結果、次の3つの条件をクリアする必要があるという。
1つは、「技術/基盤の信頼性」だ。データ流通においては、データの漏洩、改ざん、不正利用が行われない技術基盤が大前提となる。
また、企業によっては外部に公開/提供してよいデータとそうではないデータ(ノウハウ)がある。それを分離できるようなしくみも必要だ。また、いざ問題が起きた時に、コミュニティの機能を通じて参画するすべての企業がその情報を共有できる体制が必要である。
次に、「法制度/政策/企業施策との整合性」だ。IDCが最も重要だと考えているのが、データの公開権限範囲と社内申請プロセスだという。
社内でIoT活用のアイディアがあり、その実現のためにデータ流通が必要である場合、どの部署に何を申請するべきかだろうか。鳥巣氏によると、明確に決まっている企業はほとんどないという。
「法務部の誰に訊けばいいのか、企業内のキーパーソンは誰なのかをはっきりさせる必要がある。社内の体制確立が急務だ」(鳥巣氏)。
最後に、「マインドセット/慣習/文化の適応性」だ。最近では、オープンイノベーションを目的としたコンソーシアムが次々と立ち上がっている。しかし、「オープンイノベーションありきの発想はダメ」だと鳥巣氏は指摘する。
とりあえずコンソーシアムに加入し、”うまくいかなかったら辞める”という日本企業が多いという。
「企業はコンソーシアムに入る前に、計画したIoTビジネスがマネタイズできるかどうかを明確にしておくべきだ。あくまでそこで不足したパーツをオープンイノベーションで補うという発想を持たなければならない。これは企業においても、スマートシティのような公共系の案件においても重要になる」と鳥巣氏は述べた。
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