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LoRaWAN, SIGFOX, NB-IoTなどの、LPWAの特性とビジネスへの可能性 -情報通信総合研究所 岸田氏インタビュー

LPWAを日本でどう活用していくべきか -情報通信総合研究所 岸田氏インタビュー

ここ数年盛り上がりを見せている無線通信技術LPWA(Low Power Wide Area)。代表的なものに、SIGFOX、LoRa、NB-IoTなどがある。

現在では、スマートフォンの通信など電波利用技術の高度化や、通信の大容量化に伴い、5Gに代表される高い周波数帯域の期待が広がっている一方、それほどリッチな通信が必要ないIoT化の現場では、低消費電力・長距離・低コストの無線通信が求められており、その解決策としてLPWAが注目されている。

世界で広がっているSIGFOXやLoRaなどのLPWAを、日本で活用していくにはどうしたら良いか、株式会社 情報通信総合研究所 ICT基盤研究部 上席主任研究員 岸田 重行氏に話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)

 
-岸田さんがやられていることを教えてください。

海外も含めモバイル通信周りの調査研究が専門です。普段はスマホ関連のサービスや技術全般を調べたり、関連企業向けのコンサルティングですとか、事業戦略分析なども求められます。

弊社は長く情報通信中心でやってきたので、他のシンクタンクやコンサルティングとは立ち位置が少し違います。もとは電電公社がNTTに民営化されるときに、その前身の組織が分かれて弊社が設立された、という経緯があります。もうずいぶん昔のことですが。

 
-グローバルの流れにも精通しなければいけないという使命もありますか?

そうですね。グローバルといっても、時代とともに求められる話が変わってきます。私が入った当時は、通信でサービスと言ったらだいたい電話ですから、話のほとんどは電話周りで、通信設備をどう増やすかなどの話をしていました。

その後10年以上経ち、時代はスマホになり、サービスも通信そのものだけではなく、レイヤーで言うと下になる通信方式から上になるアプリケーションまで全部、みたいな話で、最近ですと5Gの話も出てくれば、産業向けのIoTも出てきます。やっている中身はずいぶんと変わってきました。

左:IoTNEWS代表 小泉耕二/右:株式会社 情報通信総合研究所 ICT基盤研究部 上席主任研究員 岸田 重行氏

 
-今、ご興味を持たれているのがLPWAだとお伺いしました。

LPWAっていうのは正直なところ、マーケティング用語だと思っています。技術的に新しいものでもなく、むしろ古いです。それが今、IoT時代になり色々な環境が整ってきて、そこにポッとLPWAというものが出てきたら、今までより色々なことができるようになるぞ、しかも安いらしいぞ、ということでみんな使いたいよね、という話です。

 
-例えばスマートシティでしょうか。

スマートシティもそうでしょうね。センサーとクラウドをつなぐことで、見える化などができるようになってきて、多くの人がそれを便利だと気付いてきたということだと思います。

 
-昔の技術をベースにしているけど時代には合っている、という見方をしてもいいものなのでしょうか?

いいと思います。特に通信周り、ICT周りでは、通信ネットワークが新しいから何かが流行る、ということではないと思っています。例えば、iモードはドコモがサービスを企画して作られたわけですが、そこで使われた無線パケットネットワークは、当時のドコモからすると「お荷物」な設備でした。

もちろん「将来はデータ通信の時代がくる」という開発陣の想いもあったでしょうし、そのための技術であったわけですが、実際にはサービスが提供されても、一般ユーザーには高くて使えませんでした。

ですが、iモード導入時にパケット料金を思い切って安くして、それを一つの軸にしてサービスが設計されていきました。もともと使われずに余っていたお荷物なネットワークが、iモード時代には花形になったのです。

今のLPWAは、昔のポケベルみたいなものです。サービスとしては、ポケベルはもう終わっています。「もう誰も使っていないけど、ポケベルのネットワーク技術を持ってきたら、何かIoTができるのではないか」という話ですから、ネットワークの新技術が何か新しいものをけん引するという話に対しては、「そんなことばかりでもないでしょう」という見解です。

 
-ポケベル時代のあのころは、技術的にもそうですが、特殊な認可を持っている人しか使えませんでした。それが今は認可なしでも使えるようになってきていて、帯域が決まっているにしても、そこの帯域で自由にネットワークが組めるということが起きるとは思ってもみませんでした。

商用の通信サービスでは事業免許と周波数免許がセットになったようなものでしたが、一方で、周波数帯域には免許帯域と免許不要帯域があります。免許不要帯域が設定されたわけですが、これはもともとは実験用です。「ISM帯」と言いますが、「Industrial, Scientific, and Medical」のことです。それぞれの試験用・実験用に、帯域を限って免許不要としたわけです。

Wi-Fiなどもそうですが、もとは試験用・実験用から入っていて、「みんなで使っていいですよ」という帯域をどんどん商用に使っている感じです。

株式会社 情報通信総合研究所 ICT基盤研究部 上席主任研究員 岸田 重行氏

 
-もともとはそうじゃなかったのですね。

そうですね。例えば、電子レンジにISM帯が使われています。商品の機能の一つですよね。Wi-Fiは、スマホに搭載されたことですごく使われるようになりました。免許不要帯域のニーズがグッと広がったわけです。LPWAもその流れの中の一つだと思います。

 
-Wi-Fiを例にすると確かにわかりやすいですね。Wi-Fiは認可を取得して家の中に引いているわけではありません。

好きに使ってください、ですよね。それを商売にしましょうとか、そこで全国にネットワークを作りましょうというのは、使う側の知恵や想いとして広がってきたものです。

色々な人があれやこれやとやって、いいもの、新しいものが出てきて、その中にいくつか普及するものが出てきて、世の中がどんどん便利になるという良い流れの一つです。

次ページ:LPWAのユースケース

 
-LPWAの面白いユースケースはありますか?

あらゆるものが面白いです。センサーを使ってデータを見える化したり、目で見えなくてもコンピュータ側で判断できるという状況になって、わからなかったことがわかるようになったとか。

例えば、災害対策や、公共のごみ箱の収集など、社会生活の中で当たり前のようにやっていることの中にLPWAが使われて、わからなかったことが少しずつわかってくる。ジワジワ変わっている感じはしますよね。

公共用途での事例ですが、ヨーロッパに行くと交差点ごとに人の背の高さくらいある大きなごみ箱があります。そこに朝や夜中に、収集車が来て機械で持ち上げて逆さまにしてごみを収集します。

ごみ箱は空っぽのときもあれば満タンのときもありますので、理想的には満タンなときだけそこに収集に行けばいいわけですが、実際は無駄なことも多いのが現状です。

そこにLoRaのような通信をつけて、センサーでごみ箱の中の状況がリアルタイムで把握できると、収集車にとって最適なルートをその都度作れます。また、時間帯によってはごみ収集車が渋滞の元になりますので、ごみ収集車が少なくなるだけで渋滞緩和の効果があるわけです。社会の見えなかったコストが減っていくメリットはかなり大きいですよね。

 
-スマートゴミ箱って日本でもうけるものなのでしょうか?

スマートごみ箱は、日本の都市部では、そのままの形だとあまり意味ないですよね。一方で、業務用、例えばコンビニとかファミレスとか、いろいろまとめてごみが出るところには案外用途があるのかもしれません。

ごみ箱にセンサー、といったものの他に、例えば電柱などにカメラをつけて、カメラにあらゆるセンサーの役割を持たせようとすれば、防犯など色々な用途にも使えます。ヨーロッパで使われている仕組みも多少汎用性がある気がしてまして、お国柄や土地の事情に合わせて変えていけばいいのではと思います。

IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-コスト削減ができたからヨーロッパ全体に広がっているのでしょうか。

そういう面はあると思いますが、同時にヨーロッパには、スマートシティを欧州全体で産業の起爆剤的に扱っている面があります。

 
-LoRaWANを使っている地域と、SIGFOXを使っている地域があると思うのですが、それは何が決め手なのでしょうか。できること自体はあまり変わらないのでしょうか?

広い目で見ればだいたい一緒です。SIGFOXとLoRaWANのそれぞれを細かく見ていけば、棲み分けは多少ありますが。

 
-業者が通信鉄柱を全部建ててくれているか、自分で好きに建てられるかという違いは大きいですよね?

そこは大きいと思います。ただ、LoRaが特にそうですが「シーズとしての技術はあります、モノもあります、あとは導入する人がこうやってください」というのは、これまでの携帯電話ネットワークとは違いますよね。役割が水平分離しています。

これまでの携帯電話ネットワークだったら、モノを作る前に通信設備ベンダーなどがさんざん試験をして、技術を固めて「これが標準だ」となっていました。さらに通信事業者がチューニングしながらサービス提供するわけです。「LPWAで何キロ飛ぶか?」という話は、携帯電話の場合とは順番が逆ですよね。

次ページ:これからLPWAを活用していく事業者は、何を考えていけばいいのか?

 
-例えば、大きな建物の中で電話がつながらないと、すぐにクレームでした。これからLPWAを活用していこうとする事業者は、どういうことを考えていけばいいのでしょうか?

特に無線通信は実際にやってみないとわからないところが多いので、「そもそも使えるのか?」ということを考える必要があります。話題の「5G」にしても、各通信事業者がやってみないとわからないのです。

 
-IoTの世界は、一つの街につながるデバイスが何万個、何十万個になると予想されていますので、デバイス同士が干渉するのではないかと心配しています。

特にLPWAに期待されているデータは、例えば1や10などの数字だけのデータだったり、AやBくらいの簡単なデータだったりします。そうすると、そのデータを見ていただけでは間違いがあっても気付けないのではないかと思うのです。その辺は試したらよい、というだけでは難しいのではないかと感じます。

今は経験が積まれていく段階、まだ始まったばかりだと思っています。

 
-しかし、企業や市区町村は、そんなに投資をしていられません。今までは良くも悪くも国やNTTが肩代わりしてくれていたわけですよね。

そうですね。今までの通信サービスよりも「通信費用が安く済みます、誰でも作れます、そんなに高級な設備じゃなくもいいです」ということで、お手軽なLPWAが人気になったのでしょう。一方で、「お手軽品だけど、使いこなすには技術もいるね」という話でもあります。

 
-そうですよね。私がSIGFOXに期待していたのは、彼らはさんざんヨーロッパでやっていると言っているので、ネットワークの引き方や、対応デバイスの置き方が全部わかっていて、それをパッケージにしてリリースするのだろう、ということでした。

SIGFOX本体のビジネスが、そもそもネットワーク・ソリューションを売るというものではなく、パートナー企業へのライセンス商売です。ですから、サービス利用側のそうした期待感とは多少ギャップがありますよね。

フランスの場合、SIGFOXはお膝元なので自前で色々やっていると思いますが、他国へ展開するとなると、SIGFOX社のスタッフが各国に多くいるわけではありません。彼らが手掛けるのはアプリや開発者など上位のレイヤーとは違い、下位の物理レイヤーです。

要するに「基地局立てます」というところからですから、土地にしばられる話なのです。Facebookがアプリを「グローバルに展開し普及させます」という話とはわけが違います。

 
-日本の地方で起きているスマートシティ構想の話を聞いていると、みんな実験からはじめています。「水道の漏れがわかります」、「電気の無駄がなくなります」、「これらを組み合わせることでスマートシティ構想が実現できます」というのはわかります。

しかし、具体的にやろうと思った瞬間に、「一番根本になっているネットワークが通らない」という話が出たりしがちです。

それは、Wi-Fiのときと同じですよね。「Wi-Fiはパケット代を気にせず使えますよ」ということで、家に置いてみたら、離れた部屋ではつながらないじゃないか、と。ただ、Wi-Fiの場合は、「通じるかどうかわからない、そういうこともある」となんとなく許容範囲が広い気がします。

現実はそんなに簡単ではないんですよね。ただ、最初は「たぶんこの辺は届かないかも」と思いながら提案しなければいけないこともあるのでしょう。

 
-それだと見積もれないので、導入が進みません。ちゃんとスマートシティを進めるうえでは、パッケージングを誰かがしなきゃいけないのかなと思っています。

今のタイミングだと、皆さんパッケージングされたものを欲しいのだろうと思いますよね。

スマートシティは海外の議論など聞いていても、一つのパッケージにするレベルまでこなれていないように感じます。経験を積みながら、みんなで作ろうとしているのですが、実はスマートシティの定義も曖昧ですし、そこには色々なソリューションが混ざっていて、その都市によって求めるものがバラバラです。結局カスタマイズベースに寄ってしまって、なかなか出来合いのパッケージに落ち着きにくい、というのが実際なのだろうと思います。

ヨーロッパでも多くの関係者が「当初のプランよりは結構手間がかかるな」と思っているかもしれません。ヨーロッパでは政策的な話ですから相応のお金も動きますし、ニーズもあるので多くの人がやろうとするのですが、やってみて本当に自分たちが活躍できるのか、商売になるのか、というのもまだクリアにはなっていないと感じます。

ただそれも、5年後に今と同じ状況かと言ったらそんなことはないと思います。今はそこをなんとか乗り越えようとみんなで頑張っているという印象です。

株式会社 情報通信総合研究所 ICT基盤研究部 上席主任研究員 岸田 重行氏

 
-まだ運用レベルまで落ちているとは思えません。

そうですね。ただ、もちろんLoRaをかついだ投資側や、SI事業者の方々は、将来を見据えてLoRaを大事に育てようとしています。通信で見ればLoRaは、今の時点で多くの人がトップランナーとして扱っているのですが、IoT向けの通信技術として持ってきたLoRaがどこまで使えるのか?と検証している段階です。いい意味で盛り上がっている感はありますが、まだ煮詰まっていない状態です。

 
-通信技術としても粗削り感が拭い去れません。

これまでの多くの技術革新では、パッチワークも含め機能追加で熟成させていくのは基本ですよね。こうした熟成は、セルラー側ではLTEなどでさんざんやってきた話です。それは今回も同様で、これからLPWAのバージョンが増えます。こういうのは得意です。

一方で、LoRaも含めてLPWAの魅力は「軽い」ことです。きっちり熟成させる営みの方向と、軽さのような話は、どこかでバランスが取りにくくなってしまわないかと思っています。Wi-Fiしかりですが、そもそもLPWAは技術革新にそんなに原資を突っ込めません。みんなが求めすぎていることが少し気になります。

 
-なるほど。色々なことをLoRaWANに求めすぎなのかもしれないですね。「だったらLTEのほうがいいんじゃない?」という話が出てくるということですね。

LoRaやSIGFOX、LTE、Wi-Fi HaLow、Bluetoothなどの選択肢の中で、それぞれの良さを活かして選ぶという話だと思いますが、選択肢がまだ少ないのかもしれません。

LTEのネットワークより安い、ということでLPWAが出てきたわけですが、今はセルラーで月100円くらいで使えるSIMが出てきています。これが10円、5円、1円にまで安くできるかどうか、という話の根本は、LTE設備の投資コストと運営コストになります。

「じゃあ5Gになったらどうなる?」という話で言うと、パケット単価はさらに安くなるでしょう。MVNOが格安スマホとして廉価にサービス提供できるようになったのは、仕入れる通信ネットワークのパケット単価が安くなったからです。通信ネットワークが速くなるから単価が安くなるのです。

 
-単位時間あたりのデータ送信量が増えているのに、例えば5千円なら5千円で頭打ちになるから、結局1バイトあたりの金額が安くなるという話ですよね。

SIGFOXやLoRaには今のLTEより安いというセールスポイントがありますが、その安いという差分は、今後どんどん縮まっていきます。そういう流れの中でLoRaの良さとなると、Wi-Fiと一緒で、機器を買ってきて好きな場所にすぐに設置できるという自由度でしょう。

今後、新たな選択肢が5年後くらいまでに出てくるかもしれません。IoTソリューションであれば5年、10年使いたいですよね。端末やセンサーに寿命があるので、5年後10年後にどの選択肢を選ぶかは更改するときに考えるのでしょうが、今はそこまで持つ通信技術を使いたいですよね。

今後新たな選択肢が出てくることもあることを覚悟したうえで、IoTソリューションをいつ入れるのか、まだ入れないのかを考える時期だと思います。

 
-例えば電力施設のスマートメーター化を進めると、100万都市ならいきなり100万個必要です。そうなると取り返しがつきません。それをLoRaでやるのか、SIGFOXでやるのか、という話を今一生懸命しているわけですよね。

「今までSigfoxだったけど、明日からはLoRaにする」といった、スマホアプリのような切り替えができればいいのですが、実際は低いレイヤーの話なので、なかなかそうはいきません。

また、一番のコストは、人がハードウェアの交換のためにそこに行かなければいけないことですね。それは人ではなく将来はロボットがやるのかもしれませんが、物理的にやらないといけません。ですので、導入するタイミングが今なのかどうなのかというのは結構難しい問題だと思います。

 
-難しいですよね。

LoRaやSIGFOXのソリューションを見るたびに、15年、20年前に調べていたポケベルのデータ通信を使った海外のアプリケーション事例を思い出します。そっくりなのです。海外では当時「少しのデータで、こんなところでも無線通信で見える化できる」という話がいくつもありました。

日本でそこまでソリューション導入が進まなかった理由として、ポケベルがデータを端末から送るだけの片方向だった点もありそうです。海外のポケベルは双方向だったので、集めたデータをどう端末に送るかという、今のIoTっぽいデータのやりとりができました。当時はIoTという言葉はなかったですが。

例えばアメリカで、ポケベルを使った心電図の医療ソリューションの事例がありました。患者宅にある医療機器にポケベルが付いていて、その計測データが今風に言えば病院のクラウドに送られ、グラフ化されて、院外にいる医師も、自宅にいる患者も心電図を手元のポケベルのディスプレイ上で見られるのです。遠隔監視ですよね。

次ページ:LPWAを導入するうえで大事なこととは。

 
-やはりLPWAで大事なことは、タイミングを見極めなきゃいけないというのと、トライアンドエラーを繰り返さないと、まだまだ信用できるものではないということでしょうか。あと面白かったのは、Wi-Fiっぽいという、自分で組めてしまうというところですね。その良さを活かしたい。通信がつながる・つながらないということを気にするのであれば、セルラーの会社が出してくれるサービスを待つしかない、ということですよね。

LTEは、ドコモ、KDDI、ソフトバンクが顧客からお金をもらって、それで設備投資して責任持って運用しているわけですよね。エコシステムはものすごく大きい。でも、Wi-Fiはそうではありません。電気屋さんで売っていて、「あ、つながった。早いね」という話で、LoRaはそちら側ですよね。

SIGFOXはどちらかというと通信キャリアに近いですが、もし周りがLTEで提供されるようなキャリアレベルのサービス品質を求めるのであれば、利用料金は高くなってしまいます。SIGFOXのメリットは安いことなので、そこは少しジレンマになると思いますね。

ただし、通信サービスの単品売りではなくSIerなどがネットワークを卸で買ってきて、ソリューションに組み込んで提案をしていく、という話になるので、エンドユーザ向けの小売料金競争にはなりません。

なお、SIGFOXが使っている技術や、狙っている領域からすると、壁を通過するとかの電波の浸透性で他の技術より圧倒的に有利でないと、良さは出しにくいかもしれません。

IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-実際はどうなのでしょうか?

通過しやすいと思います。ただし、面的な広がりではLTEベースのNB-IoTなどが有利です。

 
-そこは不動産商売ですから、やっぱりますますソリューションと一緒にやらないと、お金にならない感じがすごくしていて、通信事業者みたいなやり方をするのはすごく違うアプローチだなと感じています。

SIGFOX事業者は、今までにないバランスの取り方をしなければいけないですね。通信キャリアは、通信料と設備で直接的に値決めをして、サービス対価としてもらっています。ソリューションは必ずしもそうではなく色々なもののコストをまとめていくらです、という話です。

SIGFOXは、今通信ネットワークを作っている最中です。彼らの良さは電波がよく通りますよ、という点でしょうから、ネットワーク整備が進んで、全国どこにいってもSIGFOXの電波が届きます、という話になると変わってきますね。

 
-2020年に5Gが出る話と、NB-IoTは同期しないのでしょうか?

NB-IoTは今のLTEベースですので、5Gとは同期しません。5Gは5Gです。ただコンセプトとしては、5GもLPWA領域をカバーします。

 
-LTEベースのLPWAは「ここに5byte余っているからよかったら」と、バスの相乗りしてみたいな話ですよね、きっと。

そんな感じですよね。LPWAのセミナーなどで説明するときには、「LTEまでの通信技術の進化は、デコボコの道路を舗装してきれいにしてより速く走れるようになりましたというもの、そして周波数帯域を広げるのは、道幅を広げて車線数を増やすようなものです。そうすると、どんどん車も通せるようになるし、舗装もいいので高速です。しかし、LPWAというのはこうした従来の通信技術の進化とは違い、そういう道路の隙間に、アリンコを通す車線を作るようなものです」と例えています。

 
-セルラーの場合は、デバイス側の通信モジュールが大きいものじゃないといけなくなるから、割高になったり電力消費が大きくなったりという問題もあります。だから、相乗りできていいなというのは、もう常時電源が接続されているようなデバイスに限られてくるのかなと。

よく電池を使った屋外のユースケースで語られているような、獣害被害を防ぐために檻にセンサーつけておいて、檻が閉まったらデータをあげ、置きっぱなしで電池も5年くらい持つ、といったタイプのモノは、たぶんセルラーには向かないのだと思います。

そうですね。セルラーは結局すべてのプロトコルそれなりに位置登録が一通りいるので、かなり削ってNB-IoTという規格にまでしていますけど、SIGFOXほどまでは削れませんから。それがSIGFOXなどの強みで、セルラーの人たちもわかっています。

SIGFOXのインタビューで聞いても、「いや、セルラーの人はここまで来ないよ」と言い切っていました。だから、棲み分けができるのだと。

 
-電源があって、通信モジュール高くてもよくて、いちいち通信を引きたくない人にとっては、NB-IoTがいいと思っているかもしれません。

そうでしょうね。最近は海外でも、NB-IoTでエリアカバーしたという発表が徐々に出てきています。ヨーロッパやオーストラリアにもNB-IoTがじわじわ入っていて、LTE-Mももうじき入ってくると思います。それぞれ向いている用途がありますが、運用面ではLTEネットワークにどこまでソフトウェアで機能追加しますか、という感じです。

 
-そうなってくると今日この瞬間に大量投資をして、SIGFOXなのかLoRaWANなのかという話をするよりは、もう少しセルラー側がこなれてきて、ラインナップが広帯域のものから低帯域のものまでずらっとあって、電源消費量もすごく少なく済むものから、使うもの、結構使うものと分かれて、そのマトリクスが組めるようになってきたころに、投資すると無駄がなさそうですね。

将来のロードマップは大方見えていますので、使う側がそのタイミングまで待てるかですね。

 
-一つ言えることがあるとすれば、すごく小さいパケットしか飛ばさないような通信、今で言うとLoRaWANとか、SIGFOXが今まさにサポートしている領域というのは、そんなに簡単に侵食されそうな感じがないので、ここだけで済むことだったら今やってもいいかなと思います。

でも、それよりも少しデータ量が多かったり、品質を求めたりするともう少し待ったほうがよくて、さらに巨大なデータを扱う話になってくると、これは5Gを待ったほうがいいですよね。その3段階くらいでデータを見ながら、事業構想を固めていただければいいという感じでしょうか。

そうですね。ただ、セルラーではないLPWAも新しいものがいつ出てくるのかわかりません。実際、ソニーのLPWAなども出てきているわけで。

 
-今、HUAWEIが5GやNB-IoTを頑張っているので、今後、中国全土に広がったスマートシティのパッケージが、東南アジアに輸出され出す可能性があると思います。こういった点について、日本でのパッケージはどうみるとよいのでしょうか?

そうですね。恐らくは日立やパナソニック、SIを手掛けるCiscoなどがグローバル規模でスマートシティ事業をやっていますよね。他社では担えない、自分たちだからこそ担えるという規模のところを狙っています。

HUAWEIなどの通信設備ベンダーは、企業体力も技術開発力もあるのですが、SIを手掛ける企業の商売の仕方とは、少し距離があります。ですから、そうしたソリューションを自前で持とうとしていますけど、足回りを持っているSI事業者に近いような格好でやろうとすると、簡単ではありません。

ですので、ある程度パッケージを卸していくとか、もしくはプラットフォームを持ってそれを多くのプレイヤーに使ってもらいましょうという側に寄りがちです。

Huaweiのような通信設備ベンダーにとっては、IoTパッケージを自前で輸出するのは手間がかかるので、その土地土地で売り先となるお客さんを持っているような人がうまく間に入り込まないと、世界に広げていくのはなかなか難しいと思います。IoTのデータを集めて商売するのは、将来性を期待してみんなが投資していますが、スマートシティ系が本当にお金になるのか?という疑問も残っています。

 
でもスマートメーターやスマートパーキングは電力会社の人件費削減になるし、ライトは省エネでエネルギーが節電できます。

パーツで見るとわかるのですが、それをパッケージでやろうとすると、組み合わせだったりとか、チューニングだったりが必要になってきます。

 
-でも電力のために引いたLoRaWANのネットワークを、ガス会社も使うかと言ったら使わないじゃないですか。だから、ネットワークはやっぱり街やSIGFOXのようなインフラ企業が引くべきなのかなと思っています。

「じゃあ街は何で得をするの?」と言ったら、税金をもらうしかないのですが、メリットがサービス事業者側に寄って、ネットワークを引いた人には得がないわけです。

そうすると街からするとやる意味がなくなるのが怖いので、公共駐車場のスマートパーキングみたいに、そもそも市区町村が持っている設備、インフラで儲けることを前提としたスマートシティ用のネットワークを引いて、そのネットワークに「好きに相乗りしてね」というのが良いのかなと思っているのです。

それは、プラットフォームスタイルですよね。

 
-そうですね。私はそれをパッケージと呼んでいるのですが、それは結構輸出可能かなと思っていて、例えば、ごみ箱なんかも典型的だと思います。ありがちなソリューションを市区町村がまだ持っておいて、そこにみんな付け足していくという流れがよいのかなと感じています。

そっちのほうがいいでしょうね。個別だと部分最適になってしまうので、結果的にはコストを共有できずに割高になってしまいます。

 
-スマートブイなんかも面白いのですが、漁師さんがそれぞれ導入するのはきついと思います。そこで、漁業組合全体としてペイできるレベルの話まで持っていかないと難しいわけですよね。

つまり、それなりの規模のある団体が海にネットワークを張る、農業団体が農地にネットワークを張る、街中は市区町村がネットワークを張る、という棲み分けをきちんとやっていく流れが大事なのかなと感じました。

「みんなで」やると割り勘の世界に近づけるので安くなり、「あなただけ」というと割高になります。

それは、サービスとソリューションの違いに近いですね。通信ネットワークはどちらかというとサービスであるほうが安いわけで、そのレイヤーで「あなただけ」というのにこだわりすぎるともったいないと思います。

 
-すでに色々な市区町村で動き出していますが、ネットワークが届く・届かないみたいなベースの議論はもうそろそろやめて、ノウハウを独り占めせず、みんなでやれるといいなと思っています。

LTEベースのNB-IoTやLTE-Mが出てきたら、ネットワークが届く・届かないの議論は変わるかもしれません。今のLTEエリア内はもちろん、その周辺まで届くようになるはずです。

また、ノウハウの共有も同感です。足元のニーズに応えるべく、ソリューションが数多く提案されていますが、それぞれは個々に独立しています。一方で、スマートシティというのはコンセプト先行です。この個々のソリューションと、スマートシティのコンセプトを橋渡しするコーディネーターのような存在が、今後求められるのではないかと思います。

自治体の方々も、個々のソリューション毎に契約するのは面倒でしょうし。そしてそのコーディネーターが、ノウハウを広げていく役割を担うのかもしれません。IoTというのは通信はもちろん、センサーデバイス、クラウド、アプリなどをうまくつなげることではじめて使えるものになるので、そうしたところまで面倒を見てくれる人が今後も求められるのだろうと思います。

株式会社 情報通信総合研究所 ICT基盤研究部 上席主任研究員 岸田 重行氏

 
-本日はありがとうございました。

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