3DCADソフトウェアの開発を手がけるオートデスク株式会社は8月31日、同社のユーザー事例や最新ソリューションを紹介する年次セミナーイベント「Autodesk University Japan 2018」を開催。
本稿では、米国オートデスク社 上級副社長 スティーブ・ブラム氏による基調講演ならびに製造業界向けのセッションより、オートデスク株式会社 Fusion 360エヴァンジェリスト 藤村祐爾氏の講演(題目:ジェネレーティブデザインが導く革新的モノづくりプロセス)の内容をお届けする。
スティーブ・ブラム氏 基調講演:「自動化」はものづくりを変える
今年の同イベントのテーマは「The Future of Making Things ―創造の未来」だ。ここでの創造は、自動車の部品から住宅、ビルの建設、アニメーションまであらゆる分野の「ものづくり」を対象としている。
登壇した米国オートデスク社 上級副社長 ワールドワイド フィールドオペレーションズ担当 スティーブ・ブラム氏によると、その「ものづくり」の世界がいま、抜本的な変化の局面を迎えているという。
その背景には「中間層(ミドルクラス)の増加」がある。「世界では毎年40万人が新たに中間層に加わっている」(ブラム氏)。
それは貧困層が減少していることを意味し、「いいニュースだ」とブラム氏は述べた。
しかしながら中間層が増えれば、需要が増える。より多くの食料、水、住居、エネルギーなどが必要となる。そうすると同時に、限りある天然資源が減少していくことになる。
増える需要と減少する資源。この逼迫する需給に対応するには、ものづくりの方法・プロセスを抜本的に変えていかなければならない。製造業において、交換用部品(スペアパーツ)の70%は使用されないという。そのような無駄が発生する従来の生産方法を変えていかなければならないのだ。
そこで、カギとなるのが「自動化」(オートメーション)の推進だとブラム氏は述べた。自動化は業務を効率化する手段として期待される一方、ヒトの仕事を奪うとして懸念されることもある。しかし35年以上に渡って自動化ソリューションを提供してきたオートデスクとしては、まったく違う見方をしているという。
「自動化は効率化の手段ではなく、イノベーションをもたらすものだ」(ブラム氏)
そして、そのイノベーションを加速するキーテクノロジーとして期待されるのが、「ジェネレーティブデザイン」(Generative Design)だ。
「ジェネレーティブデザイン」は、製品設計の新たな手法であり、設計者が必要な条件(パラメータ)を設定すると、コンピュータが自己生成的にデザインを生み出すという技術だ(詳しくは後述)。
既に、オートデスクの「ジェネレーティブデザイン」を活用して、成果を出している企業がある。たとえばGM(ゼネラルモーターズ)だ。
同社は、「シートブラケット」という自動車部品の設計に「ジェネレーティブデザイン」を用いることで、従来よりも40%軽量かつ20%強度が向上した製品を開発。また、従来は8つのパーツで構成されていたが、1つの部品に集約することができた。
オランダの大手建設会社Van Wijnenは、BIM(Building Information Modeling:3次元の建物のデジタルモデル)と「ジェネレーティブデザイン」という2つのテクノロジーを活用することで、住宅建設に変革をもたらしている。
通常、住宅をつくる際は更地の上に鉄筋を組み立て、徐々に全体を構築していく。しかしBIMを用いることで、「自動車と同じように家をつくることができる」(ブラム氏)。
つまり、モジュール化した住宅の各構成要素(自動車で言う部品)を工場でつくり(プリファブ工法)、それを現地に運んでから組み立てるのだ。この方法により、現地の作業を3日間で終えることができたという。
さらに同社は、1個の住宅の設計ではなく、住宅地域全体の設計に「ジェネレーティブデザイン」を活用した(製造業とは別のシステム)。
コストや日当たり、庭のサイズなどさまざまな条件から、コンピュータが最適なレイアウトを複数提案。最後は、そこから人がベストなレイアウトを選択し、着工した。
ブラム氏はVan Wijnenの事例について、「自動化は作業時間を効率化するだけでなく、現場の働き方を変え、(住宅建設という)産業そのものを変えた」と述べ、自動化がイノベーションの推進力として働く点を強調した。
このように、「ジェネレーティブデザイン」などの新しいテクノロジーにより、自動化は新たなフェーズへと移行しようとしている。
次ページ:「ジェネレーティブデザイン」とは何か
「ジェネレーティブデザイン」とは何か
基調講演のキーワードとなった「ジェネレーティブデザイン」。長く製品の設計に携わっている方と、そうではない方で印象が異なるだろう。本稿では、後者の目線で紹介していく。
まず簡単に、「ジェネレーティブデザイン」の概要について説明していきたい。
製品を設計するには図面がいる。コンピュータのない時代にはそれを紙に手書きするなどして作成していた。しかしいまは3DCADソフトというものを使えば、ある程度自在に製品の設計が行える。
しかし製品が複雑になるほど、設定しなければならないパラメータが多すぎて、人間の脳では追い付かない。そこで、ブラム氏も言及していた「自動化」を使うことになる。
理想的には、大まかに必要な条件(性能とコストなど)を入力しさえすれば、コンピュータが勝手に一つの理想的な製品を提案してくれればよい。しかし実際には、コンピュータが逐一計算したものを人間がチェックし、それが本当に目的と設計要件を満たしているかどうかを判断しなければならない。これは設計者にとってかなりの手間となる。
その課題を解決してくれる手段の一つが、「ジェネレーティブデザイン」だ。設計者が求める性能やコストの条件を入力すれば、コンピュータが自らあらゆるアウトプットを計算し、そこから最適な製品を見つけ出してきてくれる。
特徴は、その奇妙な形だ(上の画像)。通常の製品設計では、従来型の”スマートな”形をベースに最適化を進めるが、「ジェネレーティブデザイン」ではそうした既存の方式を踏襲しないために、一見奇妙な形に見える製品が採用されるのだ。
実は似た手法に、「トポロジー最適化」という技術がある。長く設計に携わっているヒトからすると、「ジェネレーティブデザイン」は「トポロジー最適化」と何が違うのかと疑問がわくという。
製造業向けセッションで登壇したエヴァンジェリストの藤村祐爾氏によると、たとえば部品の軽量化を進めようとした場合、ソフトウェア上で荷重をかける計算を逐一行い、どこで問題が生じるのかを調べる。「トポロジー最適化」の場合、それは1回の計算で1回の結果しか出ないため、時間がかかる。
しかし、「ジェネレーティブデザイン」ではあらゆるパターンを同時に計算し、そこから最適解を導くため、時間が短縮される。しかもオートデスクのソフトの場合はクラウドベースであるため、かなり高速で処理できるという。
そのため、製品開発の時間を大幅に短縮し、「ものづくり」に革新をもたらす技術として期待されているのだ。藤村氏は、「ジェネレーティブデザイン」を使う意義について次のように述べた。
「企業は競争力を高めるためにコスト削減をする。しかしそれはどの企業も同じであり、差別化にはならない。長期的に革新をもたらす新しい方法を考えていく必要がある。ジェネレーティブデザインを使えば、生産性を高めながら新しいチャレンジができる」(藤村氏)
藤村氏は本講演で、「ジェネレーティブデザイン」を活用する上で重要なポイントを、実際にデモを行いながら詳しく解説した。以下でその一部の内容を紹介する。
次ページ:「ジェネレーティブデザイン」を使ってみる
「ジェネレーティブデザイン」を使ってみる
次の画像は、エヴァンジェリストの藤村氏が「ジェネレーティブデザイン」のデモを行っている様子である。何を設計しようとしているかわかるだろうか。
これは「棚受け」だ。棚受けというのは、自宅の壁などに棚板を取り付けようとしたときに、それを支えるために使う部品だ(一般的な棚受けのイメージについてはこちら)。
藤村氏は、「わざわざ棚受けをジェネレーティブデザインでつくる意味はないかもしれない」と前置きしたうえで、わかりやすく説明するために棚受けをデモの題材として用いた。
赤く表示されている4つの部分を、「プリザーブドジオメトリ(Preserved Geometry)」という。これは製品を設計する上で”なくてはならない部分”を指し、「ジェネレーティブデザイン」を行う上で設計者が最初に考えなければならないことだという。
”なくてはならない”部分とは要するに、他の部品との結合部を意味する。棚受けの場合は、どんな形状になろうとも、壁と棚板にネジや釘を打ち込むことは絶対である。従って、棚受けにおける「プリザーブドジオメトリ」は、そのネジを打ち込む場所(壁と棚板との結合部)ということになる。
次に重要なのは、”空けておかなければならない領域”である。これを「オブスタクル(Obstacle)」と呼ぶ。たとえば、棚受けの場合、ネジを打ち込む方向の領域は、空けておかなければならない。もしその空間に材料が存在したら、ネジを打ち込むことができないからである。上の画像では、その「オブスタクル」の領域が赤い円筒で示されている。
このように、「ジェネレーティブデザイン」を利用する際、設計者はまず「プリザーブドジオメトリ」と「オブスタクル」をきちんと定義しなければならない。棚受けにおいては、この2つの定義のもとコンピュータが提示したデザイン(耐荷重の条件などは別途設定)が、上の画像の灰色の部分である。従来の棚受けのイメージとは随分と異なる。
実際の設計においては、さらに後工程も存在する。表面に凹凸があったり、3Dプリンタで製造できないデザインだったりすることもあるからだ。また、藤村氏は、設計者は「ジェネレーティブデザイン」に頼りすぎてもいけないと言う。
「ジェネレーティブデザインはあくまで提案だ。魅力的な手法だが、すべてをやってくれるわけではない。設計者に求められるのは、(コンピュータが提案してきたデザインから)何が重要な要素なのかをくみ取ることだ」(藤村氏)
また、「ジェネレーティブデザイン」は3Dプリンタを活用した「アディティブ マニュファクチャリング」(AM:積層造形)と親和性が高い設計法だ。
樹脂や金属の材料を削ったり、成型したりする従来の加工法に対し、AMは3Dプリンタで素材をこまかく積層していく新しい造形法であり、デザインの自由度が高く、種類の異なる製品を効果的に製造できるといった特長を持つ。
従って、「ジェネレーティブデザイン」を利用する設計者は、「アディティブ マニュファクチャリング」を含めた新しい製造のワークフローについて理解を深めていく必要があると藤村氏は指摘した。
なお、オートデスクの「ジェネレーティブデザイン」ソフトは、現段階では同社の3DCAD設計ソフト「Fusion 360」とは別になっているが、互いに連携することが可能。また、同社の「ジェネレーティブデザイン」ソフトでつくったデザインは、他の3DCADソフトに出力し、後処理を加えていくこともできるという。
【関連リンク】
・オートデスク(Autodesk)

