(写真左:NTTコミュニケーションズ株式会社 技術開発部IoTクラウド戦略ユニット 経営企画部IoT推進室 兼務 担当部長IoT・エバンジェリスト 境野 哲氏/中央:同社 技術開発部担当部長 野村研仁氏/右:同社 経営企画部 IoT推進室 担当課長 金丸一誠氏)
NTTコミュニケーションズは、NTTグループ内でグローバルサービスやICTサービスを提供しており、従業員数は2万人ほどで約半数が海外だ。
同社によると、M2Mの時代から企業のキャリアへの期待度は高く、NTTコミュニケーションズ全体のケイパビリティを発揮し提供価値を高めるため経営企画部の配下にIoT推進室を置き、2016年度からIoT Platformサービスを提供している。
今回のインタビューでは、IoT戦略やサービスの概要に加え、「IoTによる業界の構造の転換が起きることに備え、R&Dの投資をしなければ競争に負けてしまう」という話も伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)
NTTコミュニケーションズが目指す IoT Platform
-御社のIoT Platformについて教えてください。
金丸氏(以下、金丸): われわれの目指すIoT Platformで、強みの軸としているのが「セキュア・グローバル・マネージド」の3点です。
「セキュア」というのは安心してIoTのデータを預けられる、ということです。「グローバル」は国内で取り組みを始めたお客さまがスケールした時に、海外にもついていけるパートナーであること、「マネージド」というのは、安心してシステム設計・運用を任せていけるということです。
お客さまに実際にIoTを活用していただくためには、センサーからデータを取ってネットワークで流し、クラウドで蓄積して更にそれをデータ分析するなど、様々な構成パーツが必要になります。
これを毎回スクラッチで作り上げていくと時間もコストもかかるので、IoT Platformという形で最初から用意しておいて、なるべく手早く簡単に始めていただくのが、われわれの目指すIoT提案の一つの形です。
具体的には、下記図のようなアセットになっています。
金丸: われわれが特にこの1年半くらい注力してきたのは「Factoryパッケージ」で、製造業いわゆる工場系のユースケースです。日本の製造業に対して、ドイツで始まっているインダストリー4.0を日本版で実現していくような取り組みを進めています。
「Productパッケージ」は、機器の遠隔監視で、プレディクティブ・メンテナンスと言われるジャンルになります。「Vehicleパッケージ」は車両系で、テレマティクスのサービスを提供しています。
われわれはこういった形で業界別に特化した、いわゆるバーティカルなユースケースとして分かりやすい形でご提供しています。今あるユースケースを深めて磨いていきながら、新しいニーズにも今後対応していきます。
また、IoTの世界ではよく言われることですが、やはりエコシステムが重要だと考えています。ある業界別のユースケースに特化した時には、そこで強みを持っているパートナー企業と組んでお客さまに価値を提供していくことが大事だと考えています。
-FactoryパッケージとProductパッケージの違いをもう少し詳しく教えてください。
金丸: Factoryパッケージは工場そのものにフォーカスしており、Productパッケージは工場でできたものが出荷された後の、産業機器にフォーカスしています。
産業機器にフォーカスとは、例えば、これまで人手でやっていた室外機の保守メンテナンスを、わざわざ人が設置現場に行かなくても遠隔で実施できるようにするとか、実際にお客さま先に出荷した産業機器を、設置場所の工場に行かなくても外部からステータス管理ができるようにするという使い方です。IoTでは代表的なユースケースになります。
パートナリング事例 -SAP、三井化学
金丸: パートナリングの具体例としてSAP社との事例をご紹介します。
バイタルデータを収集・分析する部分をわれわれのR&Dで開発していますので、その技術を使ったソリューション事例です。東レ社とNTT研究所とが共同開発した機能素材“hitoe”を利用したウェア型生体センサーを、バス等の運転手に着ていただいて心拍データを取得し、分析アルゴリズムで解析します。これらを高速に分散処理する基盤も用意しています。
このようなバイタルデータと、SAP社側で取得する車両の運行データをマルチモーダルに分析してビジュアライズし、安全な運行管理につなげます。
-具体的には何を見ることができるのでしょうか。
金丸: 分析結果から疲労度やヒヤリハットの傾向を見ることができます。実際に実証実験でウェアを着用して運行していたドライバーさんにインタビューをしてみると、「実は、少し休憩から時間がたって、ちょうど疲れてきたところだった」だとか、「飛び出してきた人がいて、ドキッとした時だった」といった分析結果の裏付けとなるコメントをいただきました。
このケースではドライバーに随時状況を聞かなくても、運行管理者が疲労度などを察知して、事前にアラートを出すということができるので、安全運行につながると考えます。
-なぜSAP社を選ばれたのでしょうか。ERPとして使ったわけではないのでしょうか。
金丸: SAP社で持っている車両の挙動収集分析やデータ解析のユーザーインタフェースは、われわれが強みとしているバイタルデータ分析と統合してソリューションとするのに最適でした。ERPとして使うのではなく、お互いのアセットをAPIで連携して提供する形になります。
もう一つ、先進的な取り組みの事例として、こちらは三井化学社との事例になります。
金丸: お客さまから期待されるIoTの活用レベルが上がってきています。われわれがIoTの専任組織を作った当初は「まずデータを見える化することが大事」と言われていたのですが、最近は、「見える化よりもさらに先の段階に取り組みたい」という声が多くなってきています。そういったご要望にお応えした実績がこちらになります。
三井化学社のプラントでは、複数の原料を反応させてガスの製品を製造しています。この反応炉の温度・圧力・流量などのセンサーデータをわれわれのディープラーニングリソースを使って解析することにより、20分後の最終成果物の品質を予測したりするということを実現しています。
-私の感触では、まだ割とPoCで「とりあえず見てみたい」という話が多いと感じています。
金丸: それはおっしゃとおりです。ただ、データが集まった先に何ができるのかという議論がまずあります。そこから「ではその目的のために必要なのは、まず見える化」ということで、PoCに進むアプローチが必要になっているのだと思います。
-なるほど。話をされる方は経営に近い方が多いのでしょうか。
金丸: そうですね。やはりIoTの文脈ですと経営課題の解決に活用できないかということでボトムアップ型よりもトップダウン型が多く、いわゆるCxOと言われる方々とお話しする機会も多くなってきています。
-パートナーを選定される基準を教えてください。
金丸: 業界で実績があることや、お客さまにとって価値がある製品を提供していることが非常に大事だと思っています。
われわれのビジネスとの親和性も重要です。例えば、ある業界のトップ企業とビジネスをしたら同じ業界で水平展開しませんというビジネススタイルの企業とは、かなり商習慣が異なりますので。
境野氏(以下、境野): 若干補足すると、NTTコミュニケーションズのグローバルクラウドの上でソフトウェアを動かすというクラウド型の提供の仕方にも合意いただけるソフトウェアベンダーさんと一緒にビジネスをしていきたいと思っております。
次ページは、「IoT Platformのコア」
IoT Platformのコア
-IoTサービスのどのレイヤーまで自社サービスとして持っておこうとされているのでしょうか。
金丸: 今コアになっているところは、グローバルのリーチャビリティを持っているネットワークとクラウドのレイヤーです。ここをコアにしながら、データの蓄積、可視化、システム間連携といった機能群の提供、PaaSの領域までレディメイド型のサービスとしてやっていきたいと考えています。
業界別に高い専門性が求められるところはパートナー企業とのエコシステムで全体を作っていくという構想ですね。
-私は御社のクラウドを使ったことがないのですが、アプリケーションは乗せやすいものなのでしょうか?開発基盤がどこかで決まってしまっていると、乗せ換えづらいということはありますか?
金丸: そういった不安を払しょくするために、当社のR&D部門である技術開発部でグローバルIoTテストベッドという環境を作っていて、事前にアプリケーションを動かしていただくことができます。
-グローバルIoTテストベッドの現在の利用社数はどのくらいでしょうか。
境野: 20社ほどです。ハードウェア、ソフトウェアのベンダーさんもいらっしゃり、それらの製品を組み合わせて動かす形で参加いただいています。誰もがいつでも自由に使えるような形ではなく、われわれ技術開発部と合意をして、ともに実験に参加することが決まった企業にご利用いいただいています。
NTTコミュニケーションズのサービス提供の範囲としては、ネットワーク、クラウドの基盤を提供するほかに、セキュリティのサービスやマネージドサービス、お客さまのICTの資産をお預かりし、管理するようなサービスを組み合わせていきたいなと思います。そこが通信キャリアとしての特性を生かせるところかなと考えています。
金丸: 先ほど申し上げたお客さまから求められた時にサービスとして素早くご提供できるというところは、ある程度コアなユースケースを定めているのですが、個社毎にソリューション提供していくという観点だと上位のアプリケーションやマネージドサービス、AIを含めてEnd to Endのご提案をさせていただきます。そこはIoTソリューションの専門部隊を組織しています。
-専門部隊というのはSI部隊でしょうか?
金丸: そうですね。IoT専門のコンサルティング部隊がおり、お客さまに最適なIoTソリューションを設計します。
-デバイス周りのサポートはしていますか。
金丸: 今申し上げたようなソリューションカットで、お客さまの要望に応じて一社一社設計させていただいているパターンがあります。それ以外にも、ニーズが高いものを順次サービス仕立てにしてご提供しています。
-クルマメーカーとは何か取り組みされているのでしょうか。
金丸: 自動車関連のアプローチとしては、テレマティクスのサービスをやっています。車を作る部分というよりは、今すでに顕在化しているニーズに対応しています。例えば「社用車がたくさんあるけれどルールが管理できてない、車の管理ができてない」という問題意識をお持ちのお客さまです。
そういった課題に対してソリューションを求められているので、車両を管理するIoTによる仕組み化に注力しています。
-通信は、SIMベース、セルラーベース、有線ベース、どれがよく使われるのでしょうか。
金丸: SIMベースです。例えば出荷された製品のモニタリングを行う場合、製品自体がどこに行くか分からない時に有線ベースでは考えにくいというのと、われわれの場合クローズド網のモバイルネットワークがご提供できるので、製品からアウトプットされるセンサーデータ自体もセキュアに管理でき、強みが発揮しやすいということがあります。
-そういう意味では、もっとコアなネットワークの技術で御社は強いところが多いと思うのですが、どういう技術をIoTに活用していこうとされていますか。
野村氏(以下、野村): IoTでは、必要な時だけネットワークをつなぎたい、今だけ大量にデータを送りたいので帯域を広げたい、あるいは、状況に応じてデータの送り先を変えたいなどのコントロールをお客さま自身が実施したくなると考えています。
ネットワークもエッジもクラウドもソフトウェアでコントロールしながら、SDx(Software –Defined anything)やNFVなどの様々な機能を活用するというやり方は、IoTと非常に親和性が高いと考えています。
-ネットワークのルーティングも恐ろしく細かくなってくのでしょうね、これから先は。
野村: そうですね。
-何万、何十万とかつながっているものを、人が管理画面を見ながら一つ一つ操作することはないですよね。
野村: それはないと思います。そういう意味では、いわゆるゼロタッチでインストールができるとか、IoTのセンサーデバイスをつないで、そこから得られるデータをすぐに使えるようにするといったことは重要だと考えています。今では様々な会社がIoTのプラットフォームサービスを出していますが、IoTのセンサーデバイスをつないで、そのデータが使えるようになるまでは結構大変だという声を聞きます。
それが、つないだ瞬間に「データが使えるようになっている」という状態に持っていきたいなと思っています。
つないだ後、本格的な運用に入ってからも運用管理を楽にできるというところは通信キャリアがもともと強みを持っていますので、そこの強みは活かしていきたいと思います。
-SIMだと割とコントロールしやすいですよね。閉域網も作りやすいですし。
野村: さらにSDxで、様々なアクセス網に対してオーバーレイでエンドエンドのネットワークをコントロールできるようになります。まさにSIMでのコントロールでイメージされているようなものが、様々なネットワークに対してもできるようになるイメージです。APIから叩いてユーザーがネットワークをコントロールすることができます。
-通信会社は基本的には帯域に対してお金を払いますよね。それほど使わないのに、帯域に対してお金を払うというのは結構もったいないという考えもあります。例えば、1日に1発飛ばすか飛ばさないかというと、帯域利用としては、2回線ほどの電気量しか使えません、というサービスはあり得るかなと。
野村: 回線という言い方をするのかどうかは分かりませんが、そういうのはあり得るでしょうね。
-御社はどのような課金方法なのでしょうか。
金丸: サービスとしては帯域に応じた月額料金を設定しています。あらかじめ決まっていた方が分かりやすいお客さまも多いと思います。ただ、モバイル回線卸といったビジネスでは帯域ごとお客さまに渡すようになりますので、それもIoTの仕組みに入れていくことは将来的には考えていきたいですね。
-今はまだ帯域卸はやっていないけれど、個別案件ではあり得るということでしょうか。
金丸: IoTのサービスとしてはまだこれからになります。個別案件はあり得ますね。
次ページは、「工場のすべてを「見える化」することはできるのか?」
工場の全てを「見える化」することはできるのか?
-IIoTについてですが、スマートファクトリーという概念と、工場の中の産業機器を監視するという世界は大きさが違う話だと思いますが、ボリューム的にはどちらが大きいですか。
金丸: これまでに相談いただいた件数ではスマートファクトリーです。というのも、われわれの営業組織が、昔からのお付き合いがあるお客さまに製造業で工場をお持ちの企業が多いからです。
-御社は、いわゆる製造業向けのクラウドサービスを売ってきた人たちとは立ち位置がまた違いますよね。スマートファクトリーと言っても、何らかの形でデータを取るソリューションから始まって、取ってきたデータをクラウドに上げ解析するということをやられているということですね。
金丸: そうですね。今現在工場の中に閉じているネットワークを、外まで広げてクラウド化していくところをわれわれがお手伝いしています。
境野: いま案件の数として比較的多くなってきているのは、工場の中で使う装置を製造販売している企業が、自社の製品を出荷後にもきちんと管理する、あるいはメンテナンスをするという目的のものです。それが整ってくると、工場のオーナーが工場全体を管理するためのIoT活用が進んでいくのではないかと思います。
-産業機械を監視するためのネットワークは、産業機械を作っているメーカーからすると、結構大事な情報になりますが、最終的に産業機械を使って工場のラインが形成されて、何かの製造業が全体を見たいと思ったら、その抜いているデータを見せてくれないと全体を把握することができません。そのデータを公開していく流れはありますか?
境野: 装置メーカーさんに聞くと、見せてもよい情報と見せたくない情報があって、全部は開示したくないとおっしゃいます。
-でも見せてもいいものはある、という認識ではあるのですね?
境野: 例えば、稼働の状況や故障の状況など、そういった表面的に見えるものは見せられるが、装置の中が実際にどうなっているのかとか、内部の構造に関わるようなものについては見せられない、というケースがあります。
不具合の原因などについては、あまり開示したくない企業が多いでしょう。何が原因で装置が止まったのかということや、内部の動作ログなどはあまり見せたくないのではないでしょうか。
-ドイツの企業では、産業機器そのもののCADのデータはそもそも存在するわけだから、そのCADのデータと産業機器を動かすコンピュータで、バーチャルでシミュレーションができたり、バーチャルファクトリーも作れたりするそうですが、そういう世界からいくと、産業機器の構図がどうなっているか、どうコントロールされているかという話は、結構機密な情報だと思います。ドイツ企業の話と、実際に起きている日本の話を伺っていると、あまり合致してこないのですが、この辺りはどう思われますか?
境野: おっしゃる通り、欧米企業の狙いと日本企業の利害とは必ずしも合致しません。実際にそういう問題が起きていて、ドイツの会社は自分たちが全部見える化して自社のお客さまにソリューションを提供したいのですけれども、そのシステムの配下で動いている産業機器を作るメーカーはというと、特に日本の会社は手の内を全部明かしたくないと考えているようです。
自分たちの競争領域というのを残しておきたいので、全てが丸裸になって見える化できるかというと、そうでもないと感じています。それは恐らくドイツの会社も感じていて、どこまでお客さまにデータを開示できるかというのは、せめぎ合いしているところかなと思いますね。
産業育成政策上は、それぞれの企業の競争領域を残しておかないといけません。全部をオープンにするというのはあまり得策ではない。それは日本だけではなくて他の国のメーカーも同じです。
-日本企業があまり見せたくない、海外企業はもっと見せていきたい、という気持ちがぶつかっているのでしょうか。
境野: ぶつかっています。日本の企業は、世界の工場の中で動いているロボットや装置のデバイスを作っているシェアが高いのです。そこを産業領域として守ろうとしているので、それを使っているユーザー側の欧米アジアの企業は中身を全部見せたい、見せてほしいと言うのですけれども、中身の心臓部分を作っている日本のメーカーは見せられませんと言います。
デバイスを作っているメーカーと、ユーザーとしてそれを使っているアセットオーナーとで、少しニーズが違います。われわれは日本の企業のニーズがよく見えるのです。日本の製造業の企業の中にはデバイスのシェアが非常に世界的に高い企業が多いので、そこの部分の製造ノウハウについては開示できません。そうしたデバイスの中身のソフトウェアの開発や、データの分析については、社内でやりたいと考える企業が多く、世界シェアが高い会社ほどその傾向があります。
この点は、既存の事業領域を守るという意味でも重要ですし、新しい事業領域に攻めるという意味でも重要です。製造業の企業が自社製品のIoTデータを活用して新しいサービスを始めようとした時に、その手の内にあるデータを全部外に開示し共有するのでなく、あえて秘密にしておくことによって、自らがサービスを有利に提供できるようになると考えられます。
自社のコアになるノウハウは守るべきである
境野: このように、産業構造や競争領域についても理解した上でないと、「なんでも見せる化しましょう」とお客さまに提案しても受け入れられません。われわれとしては企業別の競争状態を理解した上でご提案するようにしています。
その辺りはもしかすると、グローバルIT企業はあまりよく理解できていないかもしれません。デバイスの心臓部分を作っているメーカーなどに対して「ITの世界でとにかくデータを流通させて、解析のエンジンを回すような新しい技術ができた」と提案にくることもあるそうですが、世界で高いシェアを持っている日本のデバイスメーカーは、「その手には乗らない」と考えているようです。
-産業機器に限らず、すごく高い技術で作られていると思っているのですが、そうやって守っているうちに追いつかれてしまうのではないかと懸念しています。
境野: 私も同じような懸念をしています。企業の独自ノウハウも、デジタルデータになったり、プログラムになったりすれば簡単にコピーできてしまいます。それは恐らく時間の問題ではないかと。その中で、それでも企業が自分のコアになるノウハウのどこを守らないといけないのかというアタリをつけて、その部分だけを絶対に自社の中で守るというコア領域を決めた方がいいかなと思います。
だから、今すぐ全部手の内をさらして他社のプラットフォームに乗っかってしまうと、本来競争領域として残すとするべきところを社外に流出してしまうというリスクが出てきます。
ノウハウの流出を防ぐには、有能なエンジニアを社内に抱えておく必要があります。高いお金で有能な社員を他社に引き抜かれてしまうことがないようにしないといけません。そのためにはきちんとした人材への投資を行い、しっかりした福利厚生も与えて、社外に逃げないようにしないといけないと思います。
-なるほど。それはタイミングが非常に難しいと思っています。あれだけみんなが儲けていたガラケーの人たちが、スマートフォン文化になった途端に企業オリジナルOSが駄目になって、ついには日本製の携帯電話とうとうなくなってしまいました。
日本の製品の方が、圧倒的に技術力高かったはずなのですけど、中国製もどんどん出てきて多くの日本人がHUAWEIなどを利用するまでになりました。うかうかしてられないなという想いがすごくあります。
境野: もしかすると世界全体として考えれば、そういう高度な技術が広く共有されて、誰もが使えるようになることで、みんながコストやエネルギーをあまり使わずに、最適な生活ができるようになるという意味で言うと、世界全体としてはハッピーなことなのかもしれません。製造業の企業にとっては結構大変な危機になるかもしれませんが。
-クラウドベンダーさんたちがエッジ系のデバイスをからめとろうとしている構造が手に取るように見えていて、これは危険だなと思っています。今までネットワークにつながっていなかったので、エッジ系の人たちには聖域レベルでそんなことは起きませんでした。ちょっと今までのやり方とは全然違う、生産手法だったり販売手法だったりを身につけていくしかなくなってくるのかなというところを、危惧しております。
境野: NTTコミュニケーションズとしては、「プラットフォームサービスを提供します」、というポジションなのですけれども、いずれ、先ほど話があったような業界の構造の転換が起きると考えれば、それに備えてわれわれも何かしておかなければいけません。具体的に言うと、通信事業において、簡単にコピーできない、人間業として残すべき領域を、NTTグループもしっかり持っていかないと、競争領域がNTTからも流出してしまいます。人間業として持っておくべき競争領域が何なのかというのを検討しておきたいと思います。
どの産業分野でも、R&Dの投資をしっかりやっておかないといけないということだと思います。コスト削減や効率化を進めるだけでなく、投資する余力も残しておけるような産業政策を取っていかないと、おのずと過当競争になって産業が衰退してしまうので、新しいビジネスの投資ができなくなります。
-最後に、今後について教えてください。
金丸: 今持っているバーティカルなユースケースを磨いていくことに加えて、対応できる産業を増やしていきます。これにはエコシステム形成がとても重要で、様々な企業とビジネスをしていきたいと考えています。NTTグループとしてもB2B2Xでどう価値を協創していくかというビジョンを掲げていますが、われわれも、ミドルB(B2B2Xの真ん中のB)のパートナー企業と一緒に新しいモデルを作っていきたいと思っています。
-本日は、ありがとうございました。
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