PTCジャパン株式会社は、7月17日、「LiveWorx18 ハイライト記者説明会」を同社新宿本社で開催。6月17日~20日、PTCがボストンで開催したカンファレンス「LiveWorx18」の内容を紹介した。
トップ画像(左)PTCジャパン株式会社 執行役員 専務 成田裕次氏、(右)アンシス・ジャパン株式会社 カントリーマネージャー 大谷修造氏
拡張を続ける、PTCのデジタルツイン基盤
始めに、PTCジャパン株式会社 執行役員 専務 成田裕次氏が登壇し、「LiveWorx18」での基調講演の内容をもとにPTCの取り組みの概要やパートナーとの協調について説明した。
成田氏は、PTCが実現したい世界としてデジタルツインを説明(下図)。フィジカルのデータをIoTによってデジタル空間に上げ最適化し、さらにそれをARを用いてフィジカルの空間にフィードバックする基盤を提供することで、企業のデジタルトランスフォーメーションを支援するという考え方だ。
IoT領域のプラットフォームにおいては「ThingWorx」を提供。また、PTCの構想するデジタルツインで特徴的なのが、ARの活用だ。「デジタルの情報があっても、それが何のことを示しているのかを人間が理解しなければならない。そのために、モノと情報の認知距離を縮めるARの役割が大切」と成田氏は説明した。
これまで、ARのプラットフォームを「ThingWorx Studio」として提供してきた同社だが、今後はARソリューションのさらなる拡充に伴い、「Vuforia Studio」にブランドを刷新する(後述)。
また、AR関連のテクノロジーを開発するシリコンバレーのスタートアップであるWaypoint、Reality Editorの2社を買収、Matterportとはパートナーシップを結ぶなど、事業の拡大を進める。Matterportのソリューションでは、独自のカメラで工場内の点群データを集めマッピングすることで、設備やセンサーがどこにあるかをARの画面で表示できる。
さらに、そうしたデジタルツインの構築には、これまでPTCが培ってきたPLM(Product Life cycle Management:製品ライフサイクル管理)の基盤を活かせると成田氏は述べた。PLMでは、製品の設計・開発・保守・廃棄・リサイクルといった、製品のライフサイクルに関わるデータがデジタル基盤で一元管理されているからだ。
しかし、従来のPLMだけでは、デジタルツインは完成しないという。
「PTCが言う、PLMとは『Windchill』(PTCが提供するPLMシステム)を意味しない。製品のライフサイクルに関わる全てのデータ(CAE、ERP、MESなどを含む)を横串しで見れるよう統合された環境を用意するのが当社のPLMだ」(成田氏)
製品の設計を行う際にシミュレーションを行うCAE(Computer Aided Engineering)においては、世界に約45000のユーザーを持つアンシス(ANSYS)とのパートナーシップを発表。これにより、PTCが提供する3DCADソフトウェア「Creo」上でアンシスのリアルタイムシミュレーション環境「ANSYS Discovery Live」が利用できる。
PTCの成田氏は、「これまでは別途、CAEの解析屋に発注しなければならなかったが、今回の統合により、シームレスにシミュレーションができる」と述べ、実際にスノーモービルの強度が瞬時(リアルタイム)に可視化されるデモ動画を紹介した。
登壇したアンシス・ジャパン株式会社 カントリーマネージャーの大谷修造氏は、「設計・デザインのプロセスで製品コストの80%が決まる。しかし、私たちの従来のソリューションは、設計の後工程の検証にとどまっていた。設計時に高速でシミュレーションを行えれば、もっとコストを下げられるはずだ」として、今回の提携による顧客メリットを訴求した。IoT分野におけるThingWorxとの連携については、今後具体化していくという。
続いて、LiveWorx18で開催された約230の分科会の中から、PLM、IoT/ARのそれぞれに関わるトピックが紹介された。
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PLMの”グランドデザイン”を模索する世界の潮流
PLMのトピック紹介では、PTCジャパン株式会社 ソリューション戦略企画室 ディレクター・フェロー 後藤智氏が登壇した。
後藤氏によると、LiveWorx18ではPLMの定義を再度振り返り、新しいグランドデザインを模索する内容が多く見られたという。
その中で、後藤氏は製品ライフサイクルの「クローズドループ」を強調した。クローズドループとは、製品のライフサイクルにおいては、設計・開発・保守・廃棄・リサイクルというように一連のフローがあるが、それがぐるっと1周して円環として閉じていなければならないという意味だ。
つまり、製品が市場に出て顧客の元に渡ったあともデータを集め、それが再度、企画・設計といった上流のプロセスに戻されなければならないということだ。それは、PTCがこれまでも重視してきた概念だというが、IoTによって遂にそれが実現でき、「本当の意味でループになる」と後藤氏は説明した。
また、デジタルツインにおいては、IoTでフィジカルのデータを集めるだけではなく、デジタルからフィジカルにいかにフィードバックするかが大事であり、その際に重要な役割を担うのがARだと後藤氏は述べた。
「PLM基盤でCADデータがしっかりそろっているということは、(デジタルツインにおいて)デジタル空間がレディになるということ」(後藤氏)。それを自在に効果的に活用するのがARであり、「PLMとARは親和性がいい」と後藤氏は指摘した。この点が、LiveWorx18でとくに後藤氏が共感を抱いたポイントの一つだという。
後藤氏は、LiveWorx18でプレゼンしたT-Systems社の公開資料をもとに、「PLMは3階層になっている」ことを説明した。
最下層には、PLM、CAD、CAE、ERP、MES、プロダクトといったバリューチェーンにおける各プロセスのシステムがある。その上にそれらを統合するシステムがあり、最上層にはすべてのデータが集まったクラウドの層、つまりデジタルツインがある。
重要なのは、IoT時代においては、右の方にあるフィジカルなデータ(プロダクトやアフターセールスのデータ)もプラットフォームの中に吸収され、上流(図の左)へと戻っていくということだ。
他にもこうしたPLMを再定義するようなプレゼンが、各社で見られたという。
アメリカの大手家電メーカーであるWHIRLPOOLでは、IoT時代において、陳腐化している製品開発システムの考え方を焼き直そうと、PLMのグランドデザインを行う国際チームをつくり、活動しているという。
ドイツの大手トラックメーカであるManにおいても、トラックのデジタルツインはどうあるべきか、新たなグランドデザインを構想しているという。その際に、エクセルや各種カスタマイズされたパッケージソフト、複数種のCADといった混在したレガシーシステム一つにすべてまとめるのか、ということが一つの論争となっている。
そこで、IoTプラットフォームなど上位のシステムで吸収し、必要な時に必要なデータが取り出せるしくみが現実的ではないか、といった議論があると後藤氏は紹介した。
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IoT・ARを活用した”スマート工場”のデモ展示とThingWorx新機能
続いて、PTCジャパン株式会社 製品技術事業部 IoT/Manufacturing技術本部 プリンシパル・プリセールス・テクニカル・スペシャリスト 西啓氏が登壇し、LiveWorx18で発表されたIoT/AR関連のトピックを紹介した。
まず西氏は、「X-FACTORY」と銘打って行われた、スマート工場のデモ展示について紹介した。このデモ展示では、来場者が大きなブースの中にある組み立てラインを使って、実際に製品(PTCオリジナルのデモ用IoTデバイス)をつくる体験ができたという。
組み立てにおいては、体験者はロボットを活用。その際には、IoTプラットフォームThingWorxを使って、各工程の作業指示を表示したり、ロボットアームや工具の制御を行った。
また、西氏が今回注目したのは、人間が手作業で製品の組み立てを行う際のARの活用だという(下図)。「ARと言えばスマートグラスやタブレットを思い浮かべるのが一般的だが、スマートグラスはいまだ高価であり、タブレットは持っていると作業ができないという問題がある」と西氏は指摘。
そこで、同展示では、組み立てを行う作業台を上からカメラで撮影し、その様子を頭上にあるディスプレイでAR表示することで、作業を行うことができた。これで簡便に作業ミスを減らせることから、来場者から高評価だったという。
出来上がった製品は、動作確認を行ったのち、問題がなければ来場者は持ち帰ることができた。なお、部品や製品の搬送には、自動搬送車やモバイルロボットによる搬送のデモも行われた(下の画像)。
また、西氏はThingWorxの新機能にも言及。まだ開発中とのことだが、「ThingWorx Orchestration」(仮称)という機能が本年12月をめどにリリースされる。これはThingWorxやPLM、CRM、ERPなどの各システムを連携するためのツールで、それにより、たとえば機器のフィルターを交換する際、その動作フローをGUIで簡単に作成できるという。
冒頭でも述べたが、ARソリューションにおいては、「ThingWorx Studio」から「Vuforia Studio」にブランドが刷新される。
それに伴い追加された新機能「Vuforia Chalk」がLiveWorx18で発表された。Vuforia Chalkは、紙の「作業書」を代替するソリューションで、エキスパートがARを用いてリモートで現場担当者に指示が出せる。
現場担当者は、眼の前にある設備の前にスマートフォンを翳せば、カメラを通してその様子を画面に写し、かつリモートでエキスパートと共有できる。
特徴は、黒板にチョーク(Chalk)で文字を書くように、スマホ画面に表示されたスイッチなどに印をつけられることだ。対象物とカメラの距離も認識するため、担当者がカメラを動かしても、その印は固定されるという。
「5分で習得できる」ことも特徴だと、西氏はVuforia Chalkのメリットを紹介した。現在はβ版として特定の企業に提供している段階だという(詳細は関連リンクを参照)。
【関連リンク】
・ピーティーシー(PTC)
・アンシス(ANSYS)
・Vuforia Chalk

