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プラットフォーム元年、産業別プラットフォーム構築の勘所

プラットフォーム元年、産業別プラットフォーム構築の勘所

この記事は、株式会社ウフル IoTイノベーションセンター シニアマネージャー 米田隆幸氏による寄稿記事です。

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2018年はプラットフォーム元年

ここ数年、IoTにより様々な物が繋がり始めている。データがクラウドに上がり、サーバー側でAIを活用し、現場にフィードバックをかけるという新たなフィードバックループが構築されている。また、全てのデータをクラウドに上げ続けるとなると、通信コストやプライバシーの問題も出てくることから、エッジ側でデータの処理をして、必要なデータのみをクラウド上にアップロードするというエッジコンピューティングの考え方も広まりつつある。そして、2018年に特徴的なのは、それらのIoTを実装したことで蓄積されたデータやノウハウをベースとした産業別のプラットフォームが世の中に出始めてきていることだ。具体的には、IoTを用いて建設生産プロセスの変革を加速させるオープンプラットフォームであるLANDLOGや、製造業での更なる生産性向上と効率化を目指した、製造業向けオープンプラットフォームであるFIELD systemなど、具体的なプラットフォームがサービスインしている。これらのことから、2018年はプラットフォーム元年と言えると考えている。

なぜ産業別プラットフォームに向かっているのか

ではなぜ産業別のプラットフォームに各社が向かっているのか。それは偶然ではなく、必然的にそこに向かっていると考えられる。IoTの大きな特徴の一つとして、一つの“系“で完結しないというものがある。現場のデータを吸い上げ、既存のデータと掛け合わせて、売上向上やコスト削減などの経営課題の解決に活用するということを考えれば、複数の現場や部署にまたがり、一つの系では完結しようがないということは容易に想像がつくと思う。そして、その一つの系にとどまらないという考え方に基づき、目の前の課題が解決されると、その次の解決すべき課題は、自社を取り巻くステイクホルダーや、業界構造といったところまで広がっていく。その大きな課題を解決するために取り組まれているのが、産業別プラットフォーム化の流れなのである。

プラットフォームとして成功するためには

現在、そのようなプラットフォームを構築したいという相談を複数受け、支援をしている中で、プラットフォームとして成功するために必要なことが何なのか見えてきている部分がある。プラットフォームというとまず思い浮かべるのは、データをそのプラットフォーム上に溜めることができて、そのデータをAPIで呼び出すことができ、そのデータを活用した何かをすることができる基盤、というようなものではないだろうか。どちらかというと「システムプラットフォームとしての機能」の部分をイメージする人が多いように思う。しかしながら、私はプラットフォームについて、前述したようなプラットフォーム構築に向かう必然的な流れも踏まえ、以下のように捉えている。「デジタルトランスフォーメーションを推進するための、システムプラットフォームと、ビジネスエコシステムが一体となったもの」。つまり、システム的に最新のIoT時代に合わせたアーキテクチャが実装されているのと同時に、システムを活用してビジネスが回るための生態系がきちんとデザインされているかどうかが重要なポイントなのである。そこで、プラットフォーム構想を実現していくにあたり、肝となるポイントはどこなのか、システム面とビジネスエコシステム面の両面から、見ていきたいと思う。

システムプラットフォームとしてIoT時代に必要なポイント

まず、システムプラットフォームとしての最新のIoT時代に合わせたアーキテクチャとはどのようなものであるかという点であるが、従来のシステムとIoTのシステムで異なる点が複数存在する。例えば、接続されるデバイスの数、デバイスのリソース活用、データの上がってくるタイミングや完全性などである。それらの違いを考慮したシステムとしておかなければ、今後のIoT時代には使いづらいシステムとなってしまう可能性がある。また、IoT時代にはデバイス数が爆発的に増加するため、既存の中央集権型アーキテクチャでは、ネットワークトラフィックとデータ保管コストの増加に耐えられない。そのため、クラウド集中モデルからエッジ分散モデルへのシフトをせざるを得なくなり、その際には、データと処理の分散および大量のデバイスの適切な管理方法が必要となるのである。つまり、クラウドとゲートウェイとエッジ側マイコンの協調連携を適切に実装していくことが、IoT時代に求められているシステムプラットフォームとしての重要なポイントの一つなのである。

次ページ:エッジとクラウドの強調分散制御を実現する「enebular」、ビジネスエコシステム構築におけるポイント

エッジとクラウドの強調分散制御を実現する「enebular」

ウフルでは「enebular」というIoTオーケストレーションサービスを提供している。従来から、エッジデバイスが単独あるいはエッジ側のシステムのみで自律制御することはオペレーションテクノロジーの文脈で実現されている。Enebularにより実現できる事は、エッジ/クラウド双方に動的に変更可能なロジックと機械学習モデルをデプロイすることで、エッジとクラウドの協調分散制御、及び協調分散制御に必要なロジックと機械学習モデルの一元管理、エッジ/クラウドのデプロイ先へデプロイ/設定/管理である。つまり、enebular を活用することで、IoT時代に求められているプラットフォームのアーキテクチャが実現できるのである。次世代のプラットフォーム構築を検討する際には、是非活用を検討していただきたい。

ビジネスエコシステム構築におけるポイント

続いて、ビジネスエコシステムの構築において重要なポイントについて紹介する。これまでもプラットフォーム化を検討したものの、その先のビジネスをデザインすることができず、断念したケースも多いのではないだろうか。ビジネスエコシステムを構築するにあたって重要なポイントは、いくつか存在する。その中でも最も重要なポイントは、自社がそのプラットフォーム上でリファレンスモデルとなるビジネスを一つ作り上げることである。それがあるかどうかによって、プラットフォーム上でビジネスを展開してくれるパートナーから見たプラットフォームの魅力が圧倒的に違ってくる。また、もう一つ重要かつ難易度が高いポイントが存在している。それは、“自律的に“プラットフォーム上でビジネスが生まれていくパートナーエコシステムをいかにして構築するかという点である。魅力的なプラットフォームを構築し、パートナーとなる企業をたくさん集めたところで、何もしなければビジネスは生まれない。逆に、全てのパートナーに手厚いサポートをして個社とビジネス構築をしていると、数が増えると手が回らなくなってしまう。つまり、共創を生み出すエコシステムを構築できるかどうかで、ビジネスのスピードが圧倒的に違ってくるということであり、成否を分ける重要なポイントのひとつなのである。

ビジネスエコシステムの構築手法

ビジネスエコシステムの形成には様々なやり方があると思うが、ウフルが事務局を務めているIoTパートナーコミュニティは、共創でビジネスを生み出すことに成功している事例の一つである。2018年6月現在、パートナー企業42社、協力団体14社で運営されており、設立から2年が経過している。主たる目的を「実ビジネスを構築すること」としており、現在9つのワーキンググループが業界別のビジネス化テーマを持ち、半年タームでビジネスとしての成果を出すために活動をしている。現在半年タームで4シーズンが経過しており、既に実ビジネス化されているケースや、ビジネス化一歩手前まで来ているものも複数存在している。このパートナーコミュニティには、自律的に運営されるための仕組や、所属企業が精力的に活動するための仕組みが複数実装されており、ビジネスエコシステムを上手く構築していくための参考になると思われる。実際に、産業別のプラットフォームにおけるビジネスエコシステム形成を、IoTパートナーコミュニティのノウハウをベースに支援している。

スピードを重視した共創の実現

ここまで、産業別プラットフォーム構築において重要なポイントを示してきたが、デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて最も重要なのはスピードである。何故ならば、そこを目指しているのは自社だけではなく、競合他社も同じく目指しているからである。もっと言えば、競合ではなくても、業界内の企業や業界外の企業が従来手を出していなかったサプライチェーンの領域を押さえにくる可能性もある。勝つためには、スピードが重要なのである。さらに、デジタルトランスフォーメーションに不可欠なIoT領域は、現場におけるThingsレイヤーから、エッジ、ネットワーク、セキュリティ、コネクティビティー、DataLake、マネジメントシステム、APaaS、アプリケーションとレイヤーが多岐に渡り、自社内にノウハウがないケースもある。自社だけでも実現はできるかもしれない、しかしノウハウのない/少ない領域でゼロから考える場合、どうしても時間がかかってしまう。スピード感を持って進めるためには、自社に不足している領域は他社と組み、1社では実現することが難しいことを実現していくことが必要である。生き残りをかけた競争の中で、共創というスピードを上げるためのツールを使いこなし、いかに他社よりも早くデジタルトランスフォーメーションを実現することが今企業に求められているのではないだろうか。

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