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NECと協業しマーケティングソリューションを共同開発していく ーマクロミル インタビュー

NECと協業しマーケティングソリューションを共同開発していく ーマクロミル インタビュー

株式会社マクロミルとNECは、生活者データの利活用領域における協業を2018年4月から開始した。

90カ国9,000万人以上のパネルネットワークを有するマクロミルと、最先端AI技術群「NEC the WISE」を展開するNECの両社が提携し、より広く・深く消費者インサイトを捉えることで、先進的な企業向けマーケティングソリューションの共同開発を行うという。

その詳細について、株式会社マクロミル執行役員R&D本部長 原申氏と、同社執行役員コミュニケーションデザイン本部長 篠田徹也氏に話を伺った。(聞き手:株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二)

NECとの協業スタート

IoTNEWS 小泉: NECと提携されたそうですね。

マクロミル 原申氏(以下、原): はい。協業の背景や、今何をやっているかお話させていただきます。マクロミル側は豊富な消費者データを保有しており、意識調査データや購買データなどがありますが、マーケティングに活用するAIやセンシングなどの技術の部分が弱いという課題がありました。

逆にNECさんは技術を持っているけれど、データを保有していない現状があります。NECさんは、クライアントの課題を理解しさらなるソリューションを提供していく為に、その先の消費者の理解が必要なのですが、そのためのデータを保有していないという課題をお持ちでした。

そこの強み・弱みをお互いが補完し合って何か新しい価値創造ができないか、という形で協業がスタートしています。

NECと協業しマーケティングソリューションを共同開発していく ーマクロミル インタビュー
株式会社マクロミル 執行役員R&D本部長 原申 氏

ステップ1、生活者データの不足項目を補完

今は全て検証段階で、事業化しているものはまだありませんが、最初のステップとして大きく3つのことを取り組んでいます。まず1つが、生活者データの不足項目を推定・補完するという話です。

消費者をより深く理解していくためには、今後大きく2つ必要になってきますが、1つはデータの深さです。一人の消費者に関して、意識データだけでなく、行動ログデータや生体データなど、データのバリエーションを拡大することによって消費者理解を深めていきたいと思っています。

また、我々のパネルは全国に約120万人いますが、当然日本国民全体をカバーしているわけではないので、広く消費者を理解する為には、そこを拡大していくことも重要です。

業界全体の課題なのですが、消費者がいつ・どこで・何を・どれだけ買ったのかという購買データはマーケティング上とても重要な情報なのですが、コストなどの問題で大きな規模で保有しているプレイヤーは存在しません。

弊社もQPRというJANコードベースの購買データ3万人と家計簿データ2万人の合計5万人規模の購買データしか保有できていません。一方でパネルは120万人存在し、意識データや属性データなどは豊富に保有しているので、そのデータを教師データとしてAIに学習させることで、購買データを推定・補完していくことを考えています。

マーケティングをする上で購買データを分析するときは、商品を買ったお客様がどういうプロファイルなのかを細かく分析することが重要ですが、5万人しか母集団がいない場合、ヒット商品を買っている人は多く出てきます。

しかし、企業からしてみれば、ヒット商品よりも、販売が伸び悩んでいるブランドをどうするかが課題です。そこをAIを活用した推定でデータを広げることで購入者のプロファイル分析が可能になり、マーケティング戦略やプロモーション施策などがたてられるようになります。

小泉: 少ないデータから推定していって、きっとこういう人達が買うだろうというのを、データから洗い出していくわけですね。

: はい。NECさんのAIやデータ解析技術を活用して推定・補完をしていくことを考えています。

次ページ:「インストアマーケティング」

ステップ2、インストアマーケティング

: 次に2つ目は、インストアマーケティングにつながる話です。

マクロミルではインターネット上でアンケートをする以外にも、直接パネルにインタビューをしたり、会場に来てもらってCMを見てもらったり、パッケージを見てもらって調査を実施するCLT(セントラルロケーションテスト)をすることがあります。

そこにNECさんのセンシング技術を組み合わせることで、お客様へ提供するアウトプットの精度を上げていきたいと考えています。

CLTでは、擬似的に再現したコンビニやスーパーなど店頭の棚を見てもらって、参加者が注目していた商品や、何を手に取ったのか、どれとどれを比較したのかなどを観察します。

それを、NECのセンシング技術、主に視線解析を使うことで、棚のどこを何回見たのか、どこにどれくらい視線が滞留しているのか、などをデータ化することができます。

これまでの視線解析技術は特殊なゴーグルをかけて調査を実施するのが一般的でしたが、NECさんはカメラを棚側につけておいて、それを撮影することで、視線の動きが推定できる、という技術を持っています。この技術を使って視線を科学的に数値化することを検討しています。

そこにもう1つ組み合わせようと思っているのが、我々のニューロサイエンス技術です。NECさんの技術で視線の動きはわかりますが、その視線が行ったポイントでどういう感情になっているのかはわかりません。

我々のニューロサイエンス技術を組み合わせることができれば、例えば、脳波の前頭左右差という指標を分析すれば、今見ているものに対してポジティブに感じているのか、ネガティブに感じているのかというのがわかります。

小泉: 生体反応で理解しようと?

: はい、生体反応で測定することで、よりホンネに近い消費者心理を明らかにすることを考えています。また、まだ全くの構想段階ですが、そのような計測をリアルな店舗でも実施できるようにできればいいと考えています。

リアルな店舗で消費者行動・心理を計測することで、メーカーさんが棚割などについて流通さんと商談をする際の科学的な材料を提供したり、消費者の購買までのプロセス(棚前で立ち止まった率や滞在時間等々)を可視化することでより科学的なショッパーマーケティングができるように支援できるようになると理想的ですが、未だ全くの構想段階に過ぎません。

ステップ3、セルフAIサービス

: 3つ目は、これからの世の中においてAIの普及を加速できるかどうかのカギを握る「AIの民主化」をコンセプトに掲げたNECさんのセルフAIサービス「dotData」との協業です。

dotDataは高度な専門知識のある人間でなくても、ある程度のデータ分析の知見があれば、簡単に機械学習ができるツールです。

例えば、従業員満足度調査において、経営のKPIである「総合満足度」を上げようと考えた時に、調査結果データをこのツールと連携すると、独自のアルゴリズムで解析をした結果、「総合満足度に一番寄与度の高い変数は担当プロジェクト数である」というような結果を自動で出してくれます。

このようなセルフAIサービスはいくつか出てきていますが、NECさんの「dotData」の一番の強みは、独自の技術をベースに、大量のデータから特徴量を自動で抽出してくれるという点です。

つまり、属人的なデータサイエンティストのセンスが必要なく、限りなく自動に近い形で機械学習ができます。

小泉: 私は以前から「始めから総当りすればいいのでは」と思っていました。特徴量なんて決まっているわけだから、ある程度これは要らないだろうみたいなのを、人がやるにしても、それを勝手に想定すればいいんじゃないかと思ったんですけど、やっぱりやる人達出てくるんですね。マシンパワーとかきっといるんでしょうけど。

: 昨今話題のディープラーニング自体も考え方としては随分前から存在していたものの、実現できるマシンパワーが不足していたと聞きます。同様に現在のマシンパワーが進化・発展していることがベースにあり、更にはNECさんのこれまで長く蓄積されてきているデータサイエンス技術がこれを可能にしていると思います。

このNECさん独自の技術・ツールに我々が保有しているデータを組み合わせてパッケージングして、クライアントにマーケティングの意思決定や施策に繋がるサービスを提供していきたいと考えています。

小泉: そういうことですね。コンシューマデータを持っているマクロミルじゃないとできない話ですね。

: 弊社は横断的に消費者をトラッキングすることでカスタマージャーニー全体を見ることができるのが大きな強みであると考えています。

最終的に特定の商品を購入した人がそれより前にどういう広告に接触していたのか、比較検討をしているときにどういうwebサイトややアプリを閲覧しているか、などを分析したりすることもできますし、購入後のリピート状況などをトラッキングすることも可能です。

小泉: 物を売ることに関してこんなにつらい時代が来るんだって、昔は思っていませんでした。そんな中で今お話いただいたサービスは、救世主的かもしれません。今までできなかったことがフォローできる感じがします。

: そういうクライアントの課題に応えられるソリューションにしたいと考えています。先程構想中とお話したリアル店舗の文脈でお話すると、メーカーさんや流通さんが課題と感じているのは、Amazonのようなプラットフォーマーのデータの独占です。

弊社はNECさんとの協業を通じて、横断的なデータを深く収集・分析することで、ショッパーマーケティングの分野において日本のメーカーさん・流通さんを支援していきたいと考えています。

小泉: この業界はもう変わらないなってちょっと諦めていたんですけど(笑)少し希望が見えてきました。店頭ポップの検証とかもできそうですよね。

: そうですね。その辺の検証を重ねたデータを貯めていって、例えばポップのクリエイティブまでコンサルティングしていくようなサービス展開もありえるかもしれません。

次ページ:「今後は産学連携を深めていく」

今後は産学連携を深めていく

小泉: 今後のマクロミルの方向性について教えてください。

マクロミル 篠田徹也氏(以下、篠田): 国内における活動のひとつとして、より専門性を追求するために、産学連携を深めていきたいと思っています。昨年、滋賀大学のデータサイエンス学部と提携を行いました。

今年の7月には、2校目となる連携協定を横浜市立大学のデータサイエンス学部と結び、2019年4月には共同研究室を発足する予定です。取り組むテーマとして「データの等価方法」と「欠損データ」のふたつから始める予定です。

この取り組みは、データにまつわる産業構造が大きく変化していく中で、マーケティングリサーチのリーディングカンパニーであるマクロミルが大学と共同研究をしていきながら、そこで得た研究結果を広く産業界に対して提供してゆくことも目的としています。

株式会社マクロミル 執行役員 コミュニケーションデザイン本部長 篠田徹也 氏
さらにそこで経験を重ねた人材が産業界に巣立っていくような人材の孵化的機能も期待して、19年4月から共同研究室を発足した次第です。

小泉: 本格的にデータを分析していこうという傾向自体は海外ではよく聞きますが、日本だとどうなのでしょうか?

篠田: 数年前からそういった動きはありますが、どうしても一企業単体のデータに対する分析ですと、分析の深みが限定的になり、データを読み解く人に依存してしまう状態でした。

ここ最近は、自社以外の様々なデータと統合的に分析を可能にする環境が広がってきていますし、人だけではなくマシンを使って解析していく、深めていくといった環境がひろがっていますので、さらに大きな地殻変動が起きていゆくタイミングだと捉えています。

小泉: 外部データを取り込もうという気持ちになってきたというのは、けっこう大きい話ですよね。マシンパワーは多分ほっといてもだんだん良くなっていく気はしますが、人の気持ちが全然ついてきてないというか(笑)でもみんなでちゃんとデータ使って、みんなで儲けようよみたいな人達が出てきてきましたね。

: マネタイズとのバランスという点では、ユーザー側にどういう許諾をとっていくかという部分も含めすごく慎重に検討されていますよね。

小泉: それは仕方がない部分はありますよね。IoTの世界だと生体データから始まって購買データだの、行動データだのありとあらゆる個人情報が今データでトラッキングできるようになっているので、もう生きてく上で一筆書いてもらうしかないですよね(笑)。

日本人の行動様式って特殊なんだなと感じがすごくしています。特に細部にこっちのウォシュレット文化だと言いますか、あとはお刺身文化とか言いますか、何かに付けて細かいというのがあって。これ日本人を解析しない限り日本のマーケットは難しいだろうと思います。

中国の方とWeChatペイについて話し合ったりすると、「便利になるからいいじゃん」と言うんですよ。「国にトラッキングされてるよ。イコール信用照会されていて大丈夫なの?」って言ったら、「別に悪い事してなきゃいいよね」、とか言うんですよね。

ま、その通りなんですけど(笑)。なんか私が悪い事しているみたいな気持ちになったけど、「嫌じゃないの?トラッキングされていて」と言ったら「逆に何が問題なの?」と。便利になるにはいいんだという主張なんですよね。

IoTNEWS代表の小泉耕二
篠田: 私は2011年から13年まで上海の現地法人にいたんですけど、その頃はまだ、WeChatペイやQRコードでの決済は、ほとんど見かけない状態でした。

まさにこの3~5年の急激な進化なんだろうなと思います。中国人はその急激な進化を身をもって体感しているので、そこに対して多少不安感があったとしても、社会全体としてより良くなっていくからいいじゃないかということなのでしょうね。

失敗したらそれは今後の糧にしていこうよというのが、スタートアップの世界でもそうでしょうし、社会の変革という意味においても根底にあるんだろうなと。日本も、多分1960年代の頃はそういう時代だったと思うんです。

小泉: 車が来たときに、きっと最初は怖かったはずです。事故も相当ありましたし、都市計画自体もいろいろ紆余曲折があって今の状態で、ある意味カオスな状態になっているじゃないですか。信号なんかないところだったはずですよね。

篠田: そうですよね。一方で最近の日本人というと、0パーセント成長がずっと続いてきた中で、変化に対しあまり前向きに捉えられないという深層心理があるんじゃないのかなというのが、日本に戻って感じている印象です。

個人情報を取り巻く環境において、新たな市場創出への期待と不安が話題となっている今、マクロミルは非常に面白い立ち位置にいると思っています。そのような中、収益性や利便性ばかりが先行しないように気をつけています。

生活者の貴重な情報をお預かりして事業活動をしているわけですから、生活者からの信任や期待があってこそ成り立つビジネスモデルだと捉えています。

その意味でも、私たちの事業活動を通じて、生活者が便利になったり、豊かになったり、総じて幸せになっているかどうかが重要です。

産学連携も自社のためだけではなく、広く社会に役立つ専門性を高めてゆくために、真摯に取り組んでゆきたいと考えています。

小泉: なるほど、勉強になりました。本日はありがとうございました。

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