会議とは、本来チームの知恵を結集することで課題を解決し、未来を創造するための「場」であるはずです。
しかし、参加者の大半がただ聞いているだけの「報告会」、決まるべきことが決まらず堂々巡りで終わる「議論のない会議」のように、単なる「情報共有」や「進捗報告」に終始してしまうことも多いのではないでしょうか。
つまり、本来の目的であるはずの「議論」や「意思決定」に十分な時間を割けていない状態です。
では、会議を本来あるべき「生産的な議論と問題解決の場」へと変えるにはどうすればいいのでしょうか。
本記事では、そもそも従来の会議の課題は何なのかを改めて振り返り、その一つの解決策として生成AI議事録ツールをピックアップ。その可能性や導入する際の注意点、成功事例などを紹介します。
従来の会議の課題
まずは、ピラミッド型の階層的な組織構造における会議を「従来の会議」と定義し、その課題について考えてみましょう。
意思決定の権限がトップに集中していた時代では、現場の進捗や課題を正確に、かつ抜け漏れなくトップに報告するために不可欠なプロセスでした。
しかし、このような情報共有型の会議スタイルは、市場や顧客のニーズが絶え間なく変化する現代においては、以下のような課題を抱えることになります。
スピードの阻害
変化の激しい時代においては、小さな兆候にいち早く気づき、迅速に対応することが競争優位性となります。
しかし、報告のために資料を準備し、全員が一つの場所に集まって進捗を口頭で報告する従来の会議は、そのスピードを著しく阻害します。
自律性の阻害
さらに、変化の時代を生き残る組織は、指示を待つのではなく、自ら考え、行動する自律的な存在である必要があると言えます。
しかし、従来の会議では、受動的に報告を聞くだけの場合もあり、メンバーの思考を停止させ、指示待ちの姿勢を生み出しかねません。
本来、問題解決に使うべき時間を、ただの聞き役に費やすことは時間の無駄になるだけでなく、組織の活力を削ぐことにもなります。
透明性の欠如
そして、メンバーが自律的に動くためには、誰が何をしているかという透明性が不可欠です。
しかし、従来の会議では一方的な報告会になるケースが多く、発言していないメンバーの状況は見えにくいため、後から「言った、言わない」の議論に発展することも少なくありません。
透明性の欠如が、チームの信頼関係にひびを入れることさえあります。
議事録が果たすべき役割
こうした従来の会議においての議事録は、会議の内容を「記録」することが主な役割でした。
しかし、変化の多い時代に対応する組織では、記録という役割に加え、「アクションへつなげる」「集合知としての蓄積」といった役割を果たすことも求められます。
会議での議論は、具体的なアクションにつながらなければ意味がありません。
そこで議事録で、誰が、いつまでに、何を行うのかという「アクションアイテム」と「担当者」を明確にすることで、責任の所在をはっきりさせ、議論が確実に実行へと結びつくように促す役割を担います。
これにより、「言った、言わない」の不確実性を排除し、チームの行動力を高めます。
さらに議事録は、個々の会議の記録に留まらず、組織全体の知識のデータベースとして機能させることもできるでしょう。
過去の議論や知見が蓄積されることで、新たなメンバーのキャッチアップに役立つほか、類似の課題に直面した際に、過去の経験から学ぶことができます。
これは、チーム全体の学習能力を高め、継続的な成長を支える基盤となります。
また、会議で下された決定事項が、なぜその結論に至ったのか、どのような議論があったのかという背景や思考プロセスを記録することで、チーム内外のメンバーが意思決定の経緯を理解できるようにする役割も議事録が担います。
これにより、後から決定の妥当性を検証したり、新しいメンバーが議論の文脈を素早く理解したりすることが可能になります。
これらの役割を果たすことで、議事録は単なる記録から、組織の成長を加速させるための強力なツールへと変わります。
生成AI議事録ツールの可能性
しかし、これらを紙ベースで管理したり、全てを手作業で行ったりすれば、膨大な時間と労力がかかってしまいます。そこで注目されているのが、生成AI議事録ツールです。
生成AI議事録ツールは、会議の映像や音声を記録し、その内容をAIが人間に理解しやすい形に変換することで、会議の生産性を最大化するためのツールです。
さらに、AIが話者の発言内容から重要なポイントを自動で認識して要約を生成したり、会議の重要な部分を切り取って共有したり、タイムスタンプで特定の瞬間にジャンプして聞き直したりする機能が搭載されているツールもあります。
こうした機能を有するツールを活用することで、参加者は膨大なテキストを読み返す必要がなくなり、会議の核心を瞬時に把握できます。
加えて、議論の中で「〇〇さん、来週までに〜してください」といった発言を「アクションアイテム」として自動的に検出するツールもあります。
抽出されたアクションアイテムは、タスク管理ツールと連携することができる生成AI議事録ツールを活用することで、自動でタスクとして登録されます。担当者の割り当てや期限設定も自動で行うことができ、タスク漏れを防ぎます。
また、生成AI議事録ツールが記録した議事録を、検索できる機能を有するツールも多くあります。
議事録を検索可能なデータベースとしてクラウドに保存することで、人物や日付、事前に設定したタグなどから検索することができます。
この機能により、新しくチームに加わったメンバーのキャッチアップに活用したり、会議中に過去の議論の前提を共有したりといったことが可能になります。
生成AI議事録ツールを選定する際の注意点
生成AI議事録ツールは、会議のあり方を変える可能性のあるツールですが、ただ導入すればいいというものではありません。
自社の目的やチームの働き方に合わないツールを選んでしまうと、期待した効果が得られないだけでなく、かえって業務の負担が増えてしまう可能性もあります。
本章では、適切なツールを選定するために注目すべき主なポイントを紹介します。
音声認識の精度と機能
ツールの中核となる音声認識の精度や機能は最も重要なポイントです。
多言語対応や、専門用語に対応する機能の有無など、必要とする文字起こしができるかを確認しましょう。
さらに、発言の要約や自動整理機能、話者分離機能など、議論を構造化してくれる機能の確認も必要です。
また、多くのツールが高精度な文字起こしを実現していますが、それでも誤認識はゼロではありません。
自動生成された議事録をそのまま鵜呑みにするのではなく、重要な内容については必ず人間の目で確認し、修正する作業が必要となります。
費用対効果はどうか
ツールの利用料金だけでなく、導入後の総合的な費用対効果を判断することが大切です。
無料トライアルがある場合は積極的に利用し、自社の会議でどの程度の効果が出るか試算してみましょう。
月額料金や、録音時間の上限、ユーザー数ごとの課金体系なども確認し、自社の利用規模に合った料金プランかを見極めることが重要です。
セキュリティとプライバシー
会議には機密情報が含まれることが多いため、セキュリティ体制は厳しくチェックする必要があります。
録音データの保管場所は国内か海外か、アクセス制限、データの暗号化、そして退職者が出た際のデータ消去プロセスなどが明確になっているかを確認しましょう。
情報漏洩のリスクを最小限に抑えたい場合は、オンプレミス(自社内サーバー)での運用が可能なスタンドアローン型のツールが適しているでしょう。
他システムとの連携性
CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援システム)といった営業支援ツール、オンライン会議プラットフォームやチャットツール、カレンダーツールやタスク管理ツールなどとスムーズに連携できるかを確認しましょう。
他システムと連携することで、会議で決まった事項を自動でタスクとして登録できたり、関連データと紐づけられたりと、さらなる生産性向上につながる可能性があります。
生成AI議事録ツールを導入し成果を上げた事例
では、実際に生成AI議事録ツールを導入することで、議事録作成時間の削減や正確性の向上に加え、提案資料の作成といった具体的なアクションの支援にも繋げている事例を3つ紹介します。
正確性を求められる議事録の業務負担を軽減
みずほ証券では、議事録を作成する担当者をつけ、音声の書き起こしをして議事録を作成していました。
担当者は、正確な書き起こし作業を長時間行う必要があり、本来注力すべき業務が圧迫されたり、精神的な重圧も感じたりといった課題がありました。
そこでみずほ証券は、AI音声認識文字起こし支援アプリケーションを導入。高度な機密情報を扱う証券会社として、機密性とリアルタイム性に優れたソリューションを採用しました。
このソリューションは、会議の内容をリアルタイムにテキスト化することができ、議事録作成にかかる時間に加え、録音データをアップロードする手間などが削減されました。
また、一字一句漏れなくテキスト化されることで、議事録の正確性が向上し、修正依頼が減少。結果的に、議事録作成にかかる時間を約3割削減することに成功しました。
この成果を受け、他の部署からの問い合わせが相次ぎ、今では25以上の部署で利用が拡大しているとのことです。
会議が多いケースにおける成功事例
起業者の支援を行うSoLaboでは、新規事業に取り組む広域推進事業グループを立ち上げ、当初は手探りで業務を進めていたこともあり、月に50件から100件の打ち合わせを行っていました。
グループのメンバーはその他の業務を兼務する中、議事録作成にまで手が回らず、メモ用紙に打ち合わせ内容を書き残してはいたものの、書き漏れもあり、タスク漏れや打ち合わせを忘れてしまうという事態が発生していました。
そこでSolaboは、文字起こしに加え、話者分離、要約、アクションプランなどの自動抽出を行うことができる生成AI議事録ツールを導入しました。
このツールでは、議事録のテンプレートが実装されており、議題、出席者、議論内容、アクションプランといった必要項目に沿って議事録が自動で生成されます。
これにより、議事録作成に費やしていた時間を1人あたり月20時間程度を削減することができました。
また、行政機関に提出が必要な厳密な議事録も作成してくれ、迅速な情報共有が可能となりました。
なお、この成果は、社内にAI利用の文化を浸透させるきっかけとなり、AIを提案資料作成や記事制作にも活用する取り組みが行われているそうです。
自動生成された議事録を蓄積し提案に活用した事例
営業における議事録や日報は、提案内容を検討する際、過去の知見として利活用することができます。
しかし、KDDIの営業社員は、その他の業務が忙しく、議事録や日報を作成することができないことも多くありました。また、議事録や日報を作成したとしても、それを収集して利活用することができる仕組みがないことも課題でした。
そこで、KDDIの社内組織として生まれたKDDIアジャイル開発センターが、生成AIを活用し、議事録や提案骨子、日報・週報を生成する営業支援プロダクトを開発しました。
このプロダクトでは、会議の録音・録画データなどをアップロードすることで、AIが要点をまとめた議事録を自動で生成してくれます。議事録は、要約や結論、次のアクションなど項目別に整理され、修正や再編集も容易に行うことができます。
日報や週報も、期間を指定することで、案件ごとに生成さた議事録の情報に基づき、自動で生成してくれます。
これにより、議事録と提案書の作成時間を最大1時間短縮することができ、提案の質に時間を割けるようになりました。
さらに、議事録の内容に関係する社内の商材情報や競合他社の情報をAIが自動で検索し、比較表を生成することで、次回の顧客訪問に向けた提案骨子の作成支援も行っているとのことです。
まとめ
本記事では、従来の会議が抱える課題を再認識し、それを解決する手段として生成AI議事録ツールが持つ可能性を探ってきました。
人が「議論」「意思決定」「問題解決」という創造的な活動に集中できる環境を整えるために、デジタル技術を活用するイメージを掴んでいただけたら幸いです。
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