ビジネスの現場では、毎日大量のニュースやリリース、政府発表が更新されています。
政策・補助金・法改正・競合動向などの情報が日々変化しており、重要なニュースを見逃すことが意思決定の遅れにつながることも少なくありません。
しかし現実には、ニュースソースが多すぎて「必要な情報を探すだけで1時間かかる」「結局はベテラン社員の勘頼り」といった課題を抱える企業も多いのではないでしょうか。
こうした課題を背景に、生成AIを活用した情報収集と要約の自動化が注目されています。
生成AIは膨大なニュースを高速に処理し、要約や分類、重要度の評価を行うことができます。
しかし、ここで誤解されがちなのが「AIが自動でニュースを集めてくれる」という点です。
実際には、生成AIは人の指示(プロンプト)を受けて情報を検索・要約する半自動型のツールです。
「常に特定のテーマやキーワードのニュースをウォッチして毎朝9時に取得したニュースを要約する」といった完全自動化には、外部の業務自動化ツールとの連携が必要になります。
本記事では、生成AIでできること・できないことを整理しながら、生成AIで情報収集をどこまで自動化できるのか、自動化を実現するための設計方法や主要なツールなどを解説します。
生成AIで情報収集はどこまでできるのか
情報収集において、生成AIはどのようなことができるのでしょうか。
必要とする情報収集を行うために、まずは、生成AIが「できること」と「できないこと」を整理していきます。
生成AIができること
ユーザーが「最近の自動車業界に関する主要ニュースを5件教えて」というプロンプトを入力すれば、Web検索を通じて情報を取得し、回答してくれます。
また、「自動車業界の今週の主要ニュースを要約して」「ニュースタイトル|出典|要約|影響ポイントといった表形式で書いて」といったプロンプトを入力すれば、必要に応じた要約や指定した形式で出力してくれます。
このように、人が指示を出せばその都度最新情報を調べ、適した要約や出力をしてくれます。
さらに、出典を明示してとプロンプトを入力するか、都度出典を明記してくれるPerplexity AIのようなツールを使えば、「どの記事が根拠になっているか」まで確認できるため、リサーチの信頼性を担保することも可能です。
生成AIができないこと
生成AIは情報の整理・要約・分析に優れていますが、「自律的に動く仕組み」や「データ収集の精度管理」は得意ではありません。
前述した指定されたタイミングで検索を行うことはできますが、常時監視して新着ニュースを検知・通知することはできません。
また、生成AIの検索機能はWeb全体を対象にしているため、「特定のサイトだけを確実に巡回する」といった制御はできません。
出典として示されるURLも、必ずしも正確である保証はありません。
信頼性を確保するには、ニュースサイトの記事データをAPI経由で取得できるNewsAPIなどで取得した記事を生成AIに渡して要約させるという二段構成が望ましいです。
出力・共有に関しても、生成結果の出力形式を、Slackやメール、スプレッドシートといった外部に共有しやすい整形済みフォーマットを出力することはできますが、自動転送することはできません。
なお、GeminiはGoogle Workspaceと連携しており、生成AIの出力をそのままスプレッドシートにエクスポートしたり、メール本文を自動作成したりといった半自動的な操作が可能です。
ただし、これも「指示を与えたときに動く」ものであり、完全自動化ではありません。
自動転送をするには、外部の連携ツールで実装する必要があります。
生成AIの機能のみで情報収集を半自動化する方法
まずは、生成AIを活用した情報収集の第一歩として、生成AIのデフォルトの機能を使って情報収集を半自動化してみます。(2025年10月20日時点での内容)
ChatGPTのプロジェクト機能
一つ目は、ChatGPTの長期記憶と環境を持つ作業スペースであるプロジェクトを活用して、「自分専用のニュース収集AI」を作ってみます。
プロジェクトとは、仕事単位やテーマ単位の作業空間で、それぞれのプロジェクトの中で、ChatGPTはその文脈や知識を記憶し、やり取りを継続的に理解してくれます。
ChatGPTのサイドパネルにある「プロジェクトを新規作成」をクリックし、プロジェクト名を入力することで、チャット、ファイル、カスタム指示を1カ所にまとめることができるプロジェクトが作成できます。
まずは、目的、対象ユーザー、出力内容など、前提条件をチャット欄に入力し、標準プロンプトとして記憶してと指示します。
例えば、次のように指示すれば、自社の業界や関心テーマに特化したニュースキュレーターAIを作ることができます。
前提条件を記憶させたら、「開始」などとプロンプトを入力することで、指定したフォーマットで出力してくれます。
また、「毎日朝8時に実行して」などとプロンプトを入力することで、定期実行を設定することもできます。
設定時間になるとChatGPTからのタスク更新情報というメールが届き、メールに添付されている「メッセージを表示する」ボタンをクリックすると、ChatGPTに出力された内容を確認することができます。
対象範囲や配信頻度は、生成AI側からも調整するかどうかの提案があるのでそれに答えたり、「国内のニュースだけにして」「EV関連を中心に」など、都度プロンプトで指示したりすることで、調整することができます。
なお、記憶された前提条件は、設定の「パーソナライズ」→「メモリ」から削除するなどの管理を行うことができます。
また、プロジェクトでは、文脈・目的・履歴を記憶してくれるため、これまで提示された毎日のニュースをもとに、自動車業界DXの動向を要約することも可能です。
カスタムGPT
プロジェクト同様、ChatGPTの標準機能として搭載されているカスタムGPTを活用してニュースキュレーターAIを構築してみます。
カスタムGPTとは、OpenAIが提供するChatGPTの「カスタマイズ版」で、ユーザーが独自の設定や役割(ペルソナ)、情報ソース、出力フォーマットを登録できる機能です。
この方法では、コードを一切書かずに、テーマや出力形式を指定することで、AIが指定した分野のニュースをまとめてくれる簡易な仕組みを構築することができます。
サイドバーの「GPT」というタブの下にある調べるというタブをクリックすると、右上に「作成する」というボタンがでてきます。
作成ボタンを押すと、左側にどのようなカスタムを行いたいかを記入することができ、右側で作成したGPTのプレビューを確認することができます。
プロンプトをまとめて支持することもできますし、自然言語で対話しながら構築することもできます。
作成が完了したら、右上の「作成する」ボタンを押すことで、自分専用のGPTを構築することができます。
プロジェクトとの違いは、構築したGPTを、他の人と共有できる点です。
完成したGPTに、「今日のニュースをまとめて」などとプロンプトを打つと、ウェブ検索をしてニュースを提示してくれます。
なお、プロンプトの内容が「今日のニュース」だけだと、過去一ヶ月程度のニュースを拾ってきてしまうので、「○月○日」と、日付を付け加えることでその日のニュースを拾ってきてくれます。
GeminiのGem
Googleが提供するAIアシスタントGeminiにも、カスタムGPT同様に特定のタスクに特化させることができるカスタムAIツール「Gem」があります。
一連のプロンプトを事前に設定し、必要であればGemの知識となるファイルをアップロードして保存しておくことで、毎回同じ作業を自動化することができるというものです。
サイドバーの「Gemを表示」をクリックし、「Gemを作成」をクリックすることで、カスタムGPT同様の作成画面で構築したい内容を自然言語で構築することができます。
しかし、Gemで構築したカスタムAIは、正しいURLを提示してくれる確率が低く、存在しないURLやサイトのトップページに飛んでしまうものが多く提示されました。
また、日にちを指定しても過去のニュースが提示されるなど、ウェブ検索の精度が不十分であると感じました。
まとめ
現時点では、ChatGPTのプロジェクトか、カスタムGPTを活用することで、半自動的な情報収集が可能となります。
そして、毎日の収集内容を記憶して起きた場合はプロジェクト、他のメンバーと共有したい場合はカスタムGPT、という使い分けができると感じました。
完全自動化に必要な構成要素
前章では、生成AIの標準機能を活用した半自動的な情報収集の方法を紹介しました。
この仕組みだけでも十分に効率化は可能ですが、AIはあくまで「人が指示を出した時」に動くものであり、完全な自動化には至りません。
そこで、ZapierやGoogle Apps Scriptなどの自動化ツールと、配信されるサイトの更新データであるRSSフィードや、ニュース記事を検索・取得できるWeb APIであるNewsAPIを連携させることで、情報の鮮度、精度、共有性を向上させ、完全に自動化することができます。
システムを構成するための主要ツール群
一つ目は、ZapierやGoogle Apps Scriptなどの自動化ツールです。
これらは異なるウェブサービス間をつなぎ、特定の動作をトリガーにして処理を自動で実行する役割を担います。
Zapierは、プログラミング不要で、数千種類のウェブサービスを視覚的に接続できるクラウドサービスです。「〇〇で新着があったら、××をして、△△に通知する」といった複雑な自動化フローをノーコードで作成できます。
Google Apps Scriptは、Googleが提供するJavaScriptベースのプログラミング環境です。プログラミングのスキルが必要となりますが、高度な条件分岐やループ処理を実装できる点が特徴です。
二つ目は、NewsAPIといった複数のニュースサイトの記事データをAPI経由で取得できるサービスや、各サイトが配信する更新情報のデータ形式であるRSSフィードです。
これらは、Web上の膨大な情報から、構造化されたニュースデータを提供する役割を担います。
NewsAPIは、世界中の主要メディアのニュースデータをキーワード、言語、日付などで横断的に取得し、機械が読み取れる形式(JSON)で提供するサービスです。
信頼性の高い情報源に絞って記事を取得するのに適しています。
RSSフィードは、サイト側が提供する更新情報のデータファイル(XML形式) で、ニュースサイトやブログなどの更新情報を入手することができる仕組みのことです。
ZapierやGoogle Apps Scriptは、このRSSフィードを定期的にチェックすることで、特定のサイトの新着情報だけをピンポイントで効率的に取得することができます。
これらのツールや技術を連携させることで、生成AI単体では実現できない、情報収集の鮮度、精度、共有性の向上と、自動化を実現することができます。
生成AI単体と連携システムの違い
次に、生成AI単体でできることと、連携システムでできることの違いを整理します。
一つ目は、情報収集のタイミングについてです。
生成AIが情報収集をするタイミングは、人がプロンプトで指示した時か、設定した時間の自動実行です。なお、自動実行の設定は、基本的に日次や週次など長い間隔が中心です。
一方、ZapierやGoogle Apps Scriptといった自動化ツールは、最短で5分ごとといった短い間隔で情報源へアクセスし続けることができます。
これにより、システム全体が「常時監視」に近い状態となり、情報の鮮度を担保します。
二つ目は、情報源の制御と信頼性の担保についてです。
生成AI単体の検索はWeb全体を対象とするため、「特定の政府発表」や「競合他社のリリース」といった信頼性の高い情報源に限定することが困難です。
前述したプロジェクトやカスタムGPTでも情報ソースを指定することはできますが、関連するとAIが考えるそれ以外のソースから情報を取得してくることも珍しくありません。
しかし、連携システムでは、NewsAPIやRSSフィードを通じて、情報収集の初期段階で信頼できるソースだけを絞り込むことが可能です。
これにより、AIが分析する情報自体の精度と信頼性が向上します。
三つ目が、自動転送と知識の蓄積です。
生成AIの出力は、基本的にチャット画面内で完結するため、チーム共有やデータベースへの蓄積には手動でのコピー&ペーストが必要です。
連携システムでは、分析結果をSlackへの自動投稿や、スプレッドシートへの自動追記といった形で、人の手を介さず必要な場所へ届けることができます。
これにより、情報の「収集」から「活用」までが完全に自動化されます。
項目 | 生成AI単体での自動実行 (Scheduled Tasks) | 自動化ツール連携(Zapier/GAS + API/RSS) |
---|---|---|
監視頻度 | 日次・週次など長い間隔が中心。 | 最短5分ごとなど短い間隔で実行可能。「常時監視」に近い状態を実現。 |
情報源の精度 | AIが利用可能なWeb全体が対象。特定のサイトだけを確実に巡回することは苦手。 | ユーザーが指定した信頼できる情報源(API/RSS)に限定可能。情報の精度と信頼性が高い。 |
最終的な共有 | 生成結果はチャット画面内に留まる。外部への自動転送は不可。 | 生成結果をSlack、スプレッドシート、メールへ自動転送。チーム共有が完結する。 |
情報収集の完全自動化を設計するための3つのステップ
では実際に、自動化ツールと、情報取得サービス、生成AIを連携させて情報収集を自動化させるためのステップを紹介します。
今回は、Zapierを活用した場合の方法を解説します。
ステップ1:情報収集の自動化
まずは、Zapierで特定のサイトを指定したり、「生成AI」や「製造業 補助金」といった特定のキーワードを設定したりします。
そして、情報収集するタイミングを、最短5分から任意の間隔で自動実行させます。
これにより、日次や週次といった長い間隔ではなく、「常時監視」に近い状態を実現し、情報の鮮度を担保します。
これによりZapierは、設定した新しい情報を取得したことを検知すると、それを「トリガー」として次のステップ(生成AIでの要約・分析)へ処理を自動で引き渡します。
ステップ2:要約・分析の自動化
ステップ1で収集されたニュース本文のデータは、Zapierを介して生成AIのAPIへ自動で渡されます。
Zapierの次のアクションとしては、ChatGPTなどの生成AIモジュールを設定することで、Zapierがパイプ役となり、生成AIを自動で起動させます。
そして、アクションイベントとしてテキストを分析すると設定すると、ニュースの要約を生成してくれます。
ステップ3:出力・共有の自動化
ステップ3では、ステップ1と2で「収集」し「分析」した結果を、共有・蓄積します。
この最終ステップが、情報収集の作業を「完了」させる上で最も重要です。
なぜなら、生成AIの出力はチャット画面内で完結してしまうため、外部サービスへの「自動転送」の役割をZapierが担う必要があるからです。
Zapierは、生成AIが生成した結果を受け取り、それをチームで活用しやすいフォーマットに変換し、指定された場所へ自動で届けることができます。
例えば、SlackやTeamsに、毎朝決まった時間にAI要約をチャネルへ自動投稿したり、GoogleスプレッドシートにAIの出力結果を日付順に自動追記し、データベースとして蓄積したりといったことが可能です。
このように、自動化ツールを中心として「情報収集→分析→共有」の流れをシステムとして設計することができます。
完全自動化システムの運用上の注意点
上述したような情報収集の完全自動化は大きな効率化をもたらしますが、システムを現場で運用し続けるためには、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。
運用コストとAPI利用制限
Zapier、NewsAPI、生成AI(ChatGPT/Gemini)はいずれも、自動化の規模に応じて費用が発生します。
導入前に、想定される実行頻度と分析対象のデータ量に基づき、月間コストを試算しておくことが重要です。
定期的なメンテナンスが必要
NewsAPIやRSS配信元、Slackなど、連携している外部サービスがアップデートや仕様変更をすると、自動化設定が停止・エラーとなる場合があります。
そのため、定期メンテナンスや設定の見直しが必要となります。
また、一連の自動化処理が「見えなくなる」と不具合や誤送信を発見しづらいため、通知ログやエラー発生時の確認ルート、手動介入の仕組みも併設すべきでしょう。
「誤情報(ハルシネーション)」と分析精度の担保
システムに生成AIを活用する以上、ハルシネーションのリスクはゼロではありません。
そのため、原文の出典を確認する運用ルールの設定や、プロンプトの継続的な改善が必要となります。
セキュリティ上のリスク
Zapierで連携に使うNewsAPIや生成AIのAPIキーは、システム全体へのアクセス権限を持つ機密情報です。
これらのキーが漏洩しないよう、厳重に管理し、不要になった場合は速やかに無効化する必要があります。
完全自動化システムは、導入したら終わりではなく、これらのリスクを管理しながら運用を続けることが重要となります。
無料メルマガ会員に登録しませんか?
現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。