多国間で展開される海運・物流ビジネスにおいて、日々の運航や輸送にかかわる安全管理と事故防止は最優先の経営課題である。
特に、過去に発生した事故の報告書には再発防止に向けた貴重な教訓が数多く含まれているが、データの形式が統一されていなかったり、添付ファイルが混在していたりすることから、これらを網羅的に検索・集計して実務へ反映させることは容易ではない。
蓄積された膨大な非構造化データを目視で手作業により確認することは、担当者の大きな業務負担となるだけでなく、ノウハウの属人化や分析精度のばらつきというリスクをはらんでいた。
こうした中、日本郵船株式会社は、株式会社スキルアップNeXtの支援を受け、Microsoft Copilot Studioを活用した「自動車事故報告書分析エージェント」のMVP(実用最小限の製品)を、約2ヶ月間で構築したことを発表した。
「自動車事故報告書分析エージェント」は、日本郵船の自動車事業統轄グループに蓄積された過去約1,000件の事故報告書データを対象に、表記揺れや多様なフォーマットをデータ前処理によって統合し、対話形式の自然言語による質問からAIが自動で傾向を分析して棒グラフやヒートマップなどのビジュアルで集計結果を出力する意思決定支援エージェントだ。
これまで1件ずつ手作業で行われていた事故データの網羅的な集計・分析業務をAIが代替することで、安全対策に向けたデータ活用の初速を引き上げ、業務効率化と事故防止ノウハウの標準化両立を支援する。
日本郵船では従来、内製でAIエージェントの検証を進めていたが、システムの標準機能だけでは実務に必要な回答精度が得られないという技術的な壁に直面していた。
そこで、スキルアップNeXtが参画し、Copilot Studioに加え、Power Automate、AI Builder、Office Scriptsを組み合わせたアーキテクチャを採用した形だ。
特に、報告書のフォーマットの混在や添付ファイルが読み込めないという制約を解消するため、Pythonを用いたデータ前処理パイプラインを構築し、表記揺れのある非構造化データを綺麗に統合・構造化することに成功した。
これにより、自然言語で「特定の事故原因の推移はどうか」などと質問を投げかけることで、AIが背景の意図を汲み取って即座に傾向を可視化する環境を実現した。
実務における定量的な成果としては、これまで定例の報告資料作成に1〜2時間かかっていた業務が約30分程度へと短縮される見込みであり、最大で約75%もの業務時間削減という極めて高い投資対効果(ROI)が見込まれている。
また、同プロジェクトは単なるシステム開発にとどまらず、全社的なDX推進の機運を醸成する組織のチェンジマネジメントを統合して実施した点に強みがある。
具体的には、エージェントの構築と並行して、複数部署を巻き込んだ実践型研修「アイデアソン(AIエージェント企画創出講座)」をセットで提案・開催した。
このプロセスを通じて、現場の担当者が自身の業務フローを整理し、AIを実務にどう適用すべきかを議論したことで、「AIを効果的に動かすには、足元の業務フローやデータ整理、すなわち『AI Readyなデータ設計』が何より重要である」という本質的な学びを組織横断で共有したとのことだ。
これにより、マネージャークラスからも他業務におけるAI活用の具体的な相談が寄せられるなど、一部のIT部門だけではない、現場主導によるDX推進の機運を強力に後押ししているのだという。
日本郵船は今後、今回の自動車事故報告書での成功事例をベストプラクティスとして社内ポータル等で展開し、同様にSharePoint Listを実務で利用している安全管理や運航管理といった他部署への横展開を進める方針だ。
さらに、現場からの要望を反映し、AIが自動集計した結果から上長への報告用資料をワンクリックで自動生成する「定型レポート出力機能」の追加も検討されている。

