前回に引き続き、上半期のグローバルにおけるスマートシティのトレンドをレポートする。
Deutsch Telekom
Deutsche Telekom はCity Passという無線決済アプリケーションを自治体サービスの支払い方法としてスマートシティへの提供を始めた。
この無線決済アプリケーションは、ApplePayやアリペイといった決済ブランドを付けづに技術提供をしているので、例えば、シェアバイクサービスを始める際、決済手段が必要になるが、こういった際インフラとして利用が可能となるのだ。他にも、プールや図書館の使用料金などの都市サービスに適用例を紹介している。
また、このサービスには、ブロックチェーン技術に基づいたアプリケーションを使って、市民はすべての自治体サービス料金を安全に支払うことができるという。
来年早々、ID書類などの公文書申請もアプリケーション上で可能になるとされている。
City passを普及させるために、City pass登録とともに、自治体からの割引券などを市民に「スターターキット」として提供するとDeutch Telekomは提案している。
ドバイ市の自動運転車への取り組み
ドバイ市はさらなるスマート化を目指し、キューブ形のAutonomous Podという自動運転車のテストを開始した。同自動運転車はアメリカのNext Future Transportation社によって開発され、イタリアで組み立てたモノである。電気で稼働するこの車両の最大時速は80キロだ。
ドバイのRoads and Transport Authority (RTA、道路交通局)はこの自動運転車の開発を進めるため、およそ40万ドルを配分したという。ドバイ政府は2030 Dubai Future Accelerators計画を進めており、交通機関の25%の自動運転車採用を目指している。
この計画の枠組では、自動運転バスや自律航行システムなどが開発中だ。
RTAによると、サービスが開始してから数年間は、Podは事前にプログラムされたルートのみ走るが、最終的にスマートフォンアプリで家からのピックアップを予約できるというサービス提供を目指しているという。一方で、現時点でサービス開始予定日は発表されていない。
AT&TとCiscoのスマートシティプラットフォーム
AT&TはCiscoのKinetic for Citiesという、プラットホームを独自の都市向けソリューションに統合すると発表し、特に多数局やサービスからデータを収集する統合型ダッシュボードSmart Cities Operations Center (スマートシティ運営センター、SCOC)に導入するという。
前回も書いたように、Ciscoの Kinetic for Citiesはクラウド上のプラットホームであり、コネクテッドデバイスからデータを抽出と計算し、IoTアプリケーションに移行するものだ。
AT&Tはスマートシティ技術に間する戦略的な同盟を強めており、Cisco、IBM やIntelのような大手の他にベンチャー企業との提携している。
サウジアラビアのスマートビルディングへの取り組み
サウジアラビアも積極的にスマートシティプロジェクトに取り組んでいる。
フランスのOrange Business Services社は世界一高いビルとなる建設中ジッダ・タワーにICTインフラストラクチャーやスマートサービス開発のため、同ビルデベロッパーであるJeddah Economic Companyとコンサルティング契約を結んだ。
この契約で、Orange社はICTインフラストラクチャーのブループリント作成やデザインから、構築と運用段階まで担当するという。タワーには住宅を始め、オフィス、小売業者やエンターテインメント施設、ホテルや観光スポットなどが入る予定だ。同プロジェクトを自己支持性がある環境にやさしいプロジェクトとして実現するため、スマートシティ技術の導入が不可欠だと判断された。ジッダ・タワーの建設は来年から始まる予定だ。
また、サウジアラビアはSaudi Vision 2030(サウジ・ビジョン2030)という経済多様化を目指すプログラムを展開しており、その枠組みで新しい技術の導入やスマートシティに強い興味を示している。
Orange Business Services社は他のサウジアラビアでのスマートシティプロジェクトに関わっている。その中はサウジアラビアで建設中の最大スマートシティプロジェクトであるKing Abdullah Financial Districtというスマートシティ地区だ。
去年、Orange Business Services(OBS)はカタールのスマートシティイニシアティブである、Msheireb Downtown Dohaとスマートサービスの提供契約を結んだ。同プロジェクトはドハ市の伝統的な街で行われているいわゆる再生プロジェクトだ。プロジェクトは住宅、オフィススペース、小売り店舗やホテルを含み、2018年中に完成する予定だ。
このプロジェクトにおいて、OBSはスマートシティ中央制御センター設計を担当する。中央制御センターはセキュリティカメラ、ビルアクセス管理、火災アラーム、外灯、自動廃棄物回収、駐車場や放送システムなどすべてのビルやサービス稼働を管理する。さらに、同社は公共サービス、道案内やオンライン決済サービスというアプリケーションを住民に提供している。
HuaweiとVodafoneのスマートパーキングへの取り組み
中国のファーウェイと英VodafoneはスペインにてNB-IoTスマート駐車ソリューションの商用通信ネットワークを使った初となるテストを実施した。同テスト実施は室内駐車スペースで行われた。
都市政府にとってスマート駐車ソリューションは新しい収益源となり、公共駐車場のランニングコストを削減し、渋滞を緩和すると期待されている。
現在両社は6月に規準化を目指して、作業を続けており、年末までプレサービスのフェーズを目指している。
スマート駐車ソリューションを使うことで、ユーザーは遠隔にリアルタイム駐車場情報を入手し、空スペースの確認や案内サービスを利用できるようになる。
マンチェスター市のスマートシティプラットフォーム
マンチェスター市会は、同市でスマートシティ・イニシアティブのテストを実施するため3社を選んだ。マンチェスターでは、IoTを使ったスマートシティソリューションを目的としている、「CityVerve」というプラットホームが展開されている。CityVerveプラットホームはデータ、システムやヒトを都市規模で繋ぐために開発されたものである。将来に、大手企業、スタートアップやサービスプロバイダーなどが同プラットホームを使い、スマートシティソリューションを開発できるようになる。
このプラットホームをサポートする21社から構成されたコンソーシアムが活動している。
今回のテスト・プロジェクトもCityVerveを通して展開される。
ここで、今回選ばれた3つの会社とソリューションはRetail sensing社の人流や交通量測定ソリューション、Tracsisの人数カウントセンサー、やApadmi社の環境問題を報告するため開発されたアプリケーションだ。
このような人や交通データを将来のインフラストラクチャー計画、都心部管理、イベント計画や人込み行動分析などに使う予定だ。
ノルウェーのスマートバス
ノルウェーは積極的にEVバスを導入してきた。しかし、このバスに設置されている開発者独自のシステムは7種類もあり、相互運用やデータ交換、データ統合は不可能である。
そこで、このシステムでは、発券を始め、乗客情報、管理センターへの車両位置報告やメンテナンスに関するデータなどのデータを扱うのだ。
オスロ市の運輸会社Ruterは、オープンスタンダードにもとづいたITプラットホームを目指していて、すべてのベンダーが同プラットホームのインターフェイスやプロトコルへ対応することで、簡単にシステム統合が可能になり、サブシステムはGPSやラジオ通信、またはデータを共有できるようになる。また、Ruter社にとってデータ管理は簡単になり、新しい機能やサービスを短時間で導入できるという。また、取得するデータが増加するとともに、Ruter社は都市政府や第三者の開発者との共有できるようになる。
ガンジス川の汚染問題解決
以前管理が難しかったプロセスもスマートシティ技術によってコントロールが可能になり、環境問題の解決に同技術の採用が普及している。
インドのガンジス川はヒンドゥー教において神聖な川であり、インドGDPの54%を支えているが、爆発的な人口増加や悪化し続けている汚染によって厳しい環境問題に直面している。
インド政府はその汚染問題解決に取り組んでおり、Central Pollution Control Board(中央汚染管理ボード、CPCB)を設立した。CPCBはガンジス川を浄化するタスクだけでなく、水質を管理し、川沿いに位置しているすべての州では環境規則を厳守の管理を担当している。
ガンジス川の汚染問題を解決するためCPCBはIoT技術を使うことに決めた。インド政府はインドでIoTや環境管理サービス技術を提供しているTechSpan Engineering社に水質の管理システム開発を依頼した。同システムはマイクロソフトのAzure IoTプラットホームやオーストリア製のセンサー(S::can社)からなるという。
同プロジェクトのためTechSpanがEnLite水質管理アプリケーションとHydroQポータルをカスタマイズし、CPCBがすでに設置したセンサーから塩化化合物、フッ化物、水温や水色など、17パラメーターを測定する。インドの4州で2500キロほどをカバーしている36か所の管理ステーションが15分毎に水質測定値データをAzure IoTハブに送信する。収集されたデータが環境法令施行を確保するために使われている。さらに、インド政府は汚染に関するトレンド、科学組成、汚染源などのデータを集めている。
TechSpanは近いうちに管理ステーション数を増やし、TechSpan が開発された水質管理ソリューションはオーストリアのs::can社はグローバルに提供する予定だ。
ケンブリッジの交通整理への取り組み
ヨーロッパの40%CO2排気ガスは交通渋滞によるものである。さらに渋滞による欧州連合は毎年GDPの1%ほどを失ってしまうという。
そこで、交通渋滞の対策として、ヨーロッパの都市は先進交通管理システム採用を視野に入れている。
イギリスのケンブリッジ市はスマートケンブリッジイニシアティブを展開し始めた。交通の流れを調整するスマート信号システムは現在テスト中だ。
このシステムには「SCOOT」というソフトウェアが採用された。SCOOTはヨーロッパの数百市で交通信号を調整・バス運行を優先するために使われている。しかし、信号調整によって道路上の車数を削減できないため、都市のモビリティプラットホームは必要だと思われている。
ナビゲーション用アプリケーションを開発してきたSygic社はインテリジェント交通システム開発ためのプラットホームを現地政府に提供している。
Sygik社のソリューションを使い、政府は自動車、自転車や公共交通機関の利用パターンを管理と最適化できるナビゲーションや交通管理アプリケーションを提供できる。
Sygik社のプラットホーム上で一般的なナビへ―ションアプリケーションの開発も可能になっている。
Alphabetのスマートシティへの取り組み
Alphabet(グーグルの親会社)とその都市イノベーション子会社Sidewalk Labsはカナダのトロント市で2020年までスマートシティプロジェクトを実現する予定であり、今年の夏からスマートシティ技術のテストを始める。
プロジェクトの目的はトロントの工業地区の復興である。公開された計画では、エネルギーリサイクルができるサーマルグリッドが環境にやさしいビル内の温度調節する仕組みが取り入れる予定だ。
自動運転シャトルの他に、電気使用効率性を始め、人通りデータやベンチ使用率などのデータを集める方針だ。
しかし、最近のFacebookなどのデータ不祥事の背景で、市民はあらゆるデータ収集に違和感を感じているそうだ。そこで、Sidewalk Labsの代表は広告主にデータを売買しないと約束し、クオリティ・オフ・ライフの向上に使えないデータを削除するという。
ラスベガスのデジタル変革イニシアティブ
ラスベガス市のデジタル変革イニシアティブの一部として、NTTグループは初のスマートシティ概念実証を作成した。
Dell Technologiesとともに開発されたスマートシティソリューションはリアルタイムでデータを収集するセンサーを統合した分散型プラットホームであり、小型データセンターにデータを提供する。データセンターにて分析され、重要データを特定し、メインデータセンターに送信される仕組みだ。
治安に関するデータを収集するHDカメラやセンサーが設置される計画もあり、警察や消防などに重要な情報を提供し、緊急対応時間を短縮するという。
スマートシティネットワークはNTT社のCognitive Foundationアーキテクチャー上で開発され、Dellの超統合型インフラストラクチャーとVMWare NFVプラットホームを使い、予測分析アプリケーションを稼働している。
最初のコンセプトはラスベガス市のイノベーション区で展開される予定で、概念実証が成功したら、NTTグループはアメリカ国内の都市で導入する予定ということだ。
スウェーデンのスマート交通
スウェーデンの通信企業Telia社は新しいスマート交通と都市計画ソリューションを展開した。新ツールは個人特定を不可能にする処理されたモバイルネットワークデータを使い、移動パターンを検出し、交通計画に使える。今回展開されたサービスはTelia Finland にて2年間ほどで開発されたものである。
サービスに使用されるデータは匿名化・統合化されたものであるため、個人データや位置確定に利用できないという。欧州連合の厳しいデータ保護規則も満たされている。
Crowd insightsというソリューションを利用し、朝のラッシュアワーの通勤者数を特定できる。そのデータに基づいて、交通事業者を始め、様々な企業が交通や小売りサービスのよりいいビジネス計画を作製できるようになる。Telia社は同サービスの技術的な実効性をフィンランドのタンペレ市でテストした。
「スマート・タンペレ」プログラムの担当者は、このようなソリューションを使って、人の流れに合わせて、すべての交通ルートやスケジュールを調節できると期待している。
また、同社はスウェーデン首都で実施中のDigital Demo Stockholmイニシアティブに参画したと発表した。同イニシアティブは幅広いエコシステムによって展開されており、その中は都市政府、王立工科大学、Ericsson 、Scania、ABB、Telia社などの大規模企業が参加している。このようなエコシステムアプローチによって様々な分野のノウハウを集め、イノベーション開発や技術発展をより早くできると予測されている。同イニシアティブの最終目的は2040年までにストックホルム市を世界一スマートシティにするという。
Telia 社は、このイニシアティブの枠組で水道水質管理プロジェクトに関わっている。様々な水道水質管理手法の中、コネクテッド・センサーを使い、毒素を検知する方法も検討中だ。
スマートシティと市民の権利
スマートシティ技術が収集しているデータを使って、都市が提供しているサービスの効率性向上、治安向上や新しい利便性が生まれる。しかし、最近ソーシャルメディアで起きた個人データ使用に関する不祥事があったため、世界各国で個人データ扱いに関する懸念が強まっている。
善因のためデータ収集を行っている企業が多い中、市民データそのモノを売買したり、マーケテイング戦略や商品開発に使ったり、世論を操るために使ったりする企業もある。それの他にプライバシー侵害、不正データアクセスや不正個人追跡などが可能であるため、スマートシティ技術(特に監視技術)導入に当たって、市民権利と導入側の利益のバランスを考慮する仕組みが現われている。
アメリカのオークランド市では市内で新しい監視技術の導入が提案された場合、専用委員会から認可を取得しなければならないという立法が提案された。
技術導入をしたい局は文民主導の「プライバシー委員会」に「テクノロジー影響レポート」を提供しなければならない。同委員会の許可を取得できなかった場合、監視技術の導入が不可能になる。
隣接のバークレー市とデイビス市は監視技術使用の公式報告を義務付ける類似法律をすでに導入している。
今回の立法に関する投票が5月末で行われる予定だ。

