ドイツ、ベルリンで開催されている、IFA2018。今回は、「家電製品におけるイノベーションは起きるのか?」というテーマをもって展示を取材した。
第一回のレポートでも書いた通り、実用的なテクノロジーの利用が進んでいて、あたかも利用者の利便性を追うだけで、様々な要素技術を取り入れるのを諦めたかのように見える。しかし、実はイノベーションは見えないところで起きているのだ。
例えば、インターネットテレビ。高度な3Dゲームを描画しようとすると、これまでのテレビの処理能力では追いつかない。
eSportsと呼ばれる、対戦ゲームでの世界チャンピオンを競うような楽しみ方が世界的に盛り上がっていることからもわかるように、PCにおける3Dゲームを快適に行うための技術革新は進んでいる。
このおかげで、テレビに内蔵されている描画エンジンも高性能化していて、これまでだとテレビに搭載するには採算が合わなかったような処理を行うことができるようになってきている。
3Dゲームと言わなくても、これまでのインターネットテレビは操作してみればわかることだが、非常にもたついていた。
しかし、一般の生活者に手がとどくような製品であっても、快適な動作が実現できるようになってきている。
これも、テレビにはこれまで搭載してこなかった高速処理のチップが搭載されたことによる恩恵だ。
他にも、バーチャルリアリティがこの2、3年で登場してきてから、PCに接続して楽しむのがあたりまえであったOculusも、Oculus Goと呼ばれる、コードレス(PCに接続することなく使えるVRヘッドセット)をリリースしている。
このことで、コンピュータのチップセットだけでなく、ディスプレイのテクノロジーや、ソフトウエア、ネットワークのテクノロジーが同時発展的に進化していて、ゲーム業界におけるエコシステムを生み出しているのだ。
このように、「新しい技術が生まれる」「技術を活用した製品が生まれる」「製品自体が一気に利用が進むわけではなく様々な理由で停滞する」「ある程度の普及によってその技術が他の量産されるプロダクトに転用される」「製品が再度見直される」というサイクルに乗って、市場を形成し、プロダクトが成長するものなのだ。
冷蔵庫の中を確認してリンゴの数などを画像認識し、その状態をスマートフォンに通知、お買い物の時に役だてるといったプロダクトも、初めは安価で高解像度のインターネットカメラはなかった。画像認識でリンゴを識別するライブラリも無料では手に入らなかった。
しかし、画像認識技術が発展して、様々なシーンでインターネットカメラが使われるようになったことで、冷蔵庫の中を可視化する技術は非常に現実的になりつつある。
洗濯機の洗剤がなくなりかけたら、自動的に注文を行い、利用者は内容を確認して注文の追加、削除を行うAmazon Dash Replenishmentサービスも、スマートフォンでお買い物をすることが一般化したからこそ、現実的なサービスとして受け入れられていく可能性を秘めているのだ。
つまり、これらの家電製品の世界で起きているイノベーションは、製品単体のイノベーションではなく、様々な要素が絡み合う、「Co-innovavtion」であると言えるのだ。
利用者であるヒトの利便性を一気に変える革新的なアイデアの製品が出るのも楽しみではあるが、こういった要素技術の進歩が生み出す、これまでもアイデアはでていただが、実現できていなかったことが実現できてきていることにも注目してほしい。
IFA2018レポート
第一回:家電のイノベーションは起きるか
第二回:見えないところで起きている、家電の「Co-innovation」
第三回:ロボティクスとAIを活用したプロダクト
第四回:踊り場にきた、ウエアラブル関連プロダクト
第五回:IFA NEXTでみたスタートアップ製品
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。