Open Innovation, Machine Device, Cloud Network(略してOMC)という産業のオープンイノベーションとICTの利活用について話を伺う場がもたれた。その中で暦本氏より興味深いIoTの未来が語られた。
【登壇者】
東京大学大学院 情報学環 教授/株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 副所長 暦本 純一 氏
現在、オックスフォードの調査でも47%の知的職業がAIか機械学習に置き換えられるといわれている。我々の社会をどうしたいか、完全自動化の社会になるとヒトをAIが超える時代がくるのではないかといわれている。
チェスで人工知能がヒトに勝ったというニュースは、知っている人も多いと思うが、「サイボーグチェス」といって、人間とコンピュータがタッグを組んでやるチェスがあるのだという。タッグを組んだ結果は、もちろん、人間より強いのだが、コンピュータよりも強いのだ。つまり、この例では、ヒトとコンピュータと組み合わせることで、違う価値が生まれる可能性があるという例なのだ。
50年前の未来予測の本があり、「十分に発達した技術は魔法と区別がつかない」「我々の作ったテクノロジーによって社会が変わり、我々の生活も変わるのだ」とされている通り、IoTに関しても我々の社会をどう再定義するか、ということが主題となる。
ここで、「ヒトを拡張する」というアイデアがでてくる。決してヒトと機会が対立するのではない。先ほどのチェスの例のように、ヒトが得意な分野と機械が得意な分野を組み合わせることで、ヒトを拡張したら、人間は三形態に拡張できるという話だ。
- ウェアラブル:今度のパラリンピックで世界新記録を出す可能性があるといわれている
- 存在:そこにいなくても、遠くのヒトがそこにいるようにすることができる
- 能力の獲得:これまでできなかったことができるようになる
もし人間がドローンと一体化してドローンだけ飛んで行ったらどうなるか?
VRを使うことで、ドローンによって人間の視覚を拡張することができるだろう。
例えば、ランニング中にVRグラスをつけた人の後ろを、ドローンが追尾するようになっているとする。
そうすると、ランニングしている人の眼には、自分の眼であるにもかかわらず、俯瞰した視覚でランニングする自分を見ることが可能となるのだ。
こういった、ヒトがバーチャルスペースに没入していくことを、暦本氏はJack-inと呼び、ドローンから自分を客観的に見るような幽体離脱のような体験をJack-outと呼ぶということだ。
さらに、Human-Human Jack-In(ヒトとヒトの間のJack-in)という考え方もある。これはワーカー同士がサポートしあったり、料理をしているときに料理のエキスパートがJack-inしてくるのだ。
現在、Jack-in Headというのを作っていて、誰かの体験を、ほかの誰かが得ることができるというものだ。ネットワーク越しに、誰かの体験を追体験が出いる。これが、遠隔存在のテクノロジーだ。
空間そのものを3次元データとして転送する JackIn Space
iPadがルンバのようなものにのっかって、動いているデモを見たことがあるヒトは多いだろう。iPadにはヒトの顔が表示され、あたかもそこにヒトがいるように会話などを楽しむことができるのだが、実際はそこにはいないという仕組みのモノだ。
ただ、この機械は移動能力が低い、ドアが開かないなど様々な問題を抱えている。そこで、ヒトがアルバイトをして、30分だけそのヒトになれないかということを考えたというのだ。
下図右のように、ヒトにVRをかぶせたうえにiPadをかぶせ、iPadには遠隔のヒトが表示されるというモノだ。もちろんアルバイトのヒトは、iPadのカメラを通して前が見える。
このやり方では、「ある人(アルバイト)」の存在感を消し、あたかも遠隔地にいる人の存在感を高くなるようなことになったというのだ。さらに、おばあさんにこのマスクをつけた他人が会いに行ったら、実際に孫だとおもってしまったという。
プログラマブルな建築
建築物の窓の透明度を変える窓があれば、カーテンの代わりになる。そこで、その窓をプログラマブルな建築とすることで未来の建築も可能となるというのだ。
こういった窓があれば、プライバシーの制御ができるというのだ。ヒトがその窓の前に立った時、見せたくないモノとの間のガラスパネルだけすりガラスにして視界を遮るということが可能となる。
これは、「プログラマブルシャドー」といって、「果物のあるところだけ、陰にする」というようなことも可能なのだ。
このように建築がプログラミングされることで、社会が変わるのだと述べた。
ヒトを幸せにする、ユーザインタフェース
続いては、ヒトを幸福にするインタフェースはありえるかというテーマについてだ。「表情フィードバック仮説」とい仮説があって、「笑顔になるから楽しくなる」という効果を聞いたことがあるヒトもいるのではないだろうか。
心理実験をすると笑顔でいる方がポジティブな発言をするようになるというのだ。
そこで、笑顔認識エンジンを活用して、「笑うと笑顔マーク」になる鏡をつくったのだという。
この仕組みを応用して、笑顔でないと開かない冷蔵庫を作り、実際にシニアに試してもらったところ、10日たったら笑顔がよったという結果もでたということだ。他にも、会議室の入り口にこの装置を置き、笑顔でないと部屋に入室できなくしたところ、笑顔によって議論も活発になり、新たな考えが生まれるという相関もあったということなのだ。
IoTでできることは増えてくるが、できてうれしいか?という問題がかならずでてくる。
「人間がやっていたタスクは機械に任せた方がいいことで、人間がやることに意味があるコトは、機械はその気持ちを盛り上げるようなことができないといけないのだと思う。」と述べた。
参考:暦本研究室
※リンク先に、今回紹介したコトの動画がたくさん掲載されているので、興味がある人はぜひ見てほしい。
【編集よりヒトコト】
様々な例で示されたように、ヒトを拡張するというアイデアをもって、モノを見るとこれまで考えもつかなかったようなことができることがわかる。こういった着想でIoTのモノづくりをすることが重要ではないかと感じた。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。