IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。20回目となる本稿では、ダイワロジテック取締役/株式会社フレームワークス代表取締役社長の秋葉淳一氏をゲストに迎え、前編、後編に分けてお届けする。
前編はこちら。
後編ではロジスティクス業界におけるプラットフォームの確立や船舶輸送の未来など、ロジスティクス施設外の話題にまで議論が及んだ。
ロボットの費用は変動費化できない
小泉:物流現場の労働力が減っていく流れは止められないので自動化は必要だけれども、フルオートメーションのような設備はお金の面ですぐには導入出来ないから、まずはコストの低い既存のソリューションを上手く使っていこう、というお話が前編での議論の中心でした。
その後、多くの企業のサプライチェーンマネジメントシステム(SCM)の構築とそれに伴うビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)のコンサルティングに従事。
2005年8月株式会社フレームワークスに入社、SCM・ロジスティクスコンサルタントとしてロジスティクスの構築や改革、および倉庫管理システム(WMS)の導入をサポートしている。
ダイワロジテック 秋葉淳一氏(以下、秋葉):はい、「技術的に新しいことをしよう」というよりも「いま使えるものをどうやって活用していこうか」という気持ちで物流の改革に取り組んでいます。
現在のところ、メーカーさんの物流なら比較的オートメーション化がやり易いですね。パレットの単位で動かすか、段ボールのケースの単位で動かすかができれば自動化は簡単です。ただ、対象が小物化すると自動化はすごくやりにくくなる。
八子:同じ「ものを掴む」という動作でも、扱う対象の大きさや重さが異なると、全く違う動きが要求されますからね。
秋葉:そこら辺の話はMUJINなどが工夫しようとしているわけですが、ここでまた前編でお話しした価格の問題が出てくるわけですね。そういう異なる動作に対応できるロボットを投入できる会社がどれだけあるのか、という話が当然出てきます。
ロボットの価格は「変動費に組み込めない」という問題があります。人件費の場合はパートの労働時間によって変動費化できたのに、設備になった瞬間に変動費化できない。
小泉:高額のロボットは資産計上しなければならなくなりますよね。
秋葉:そうなんです。
八子:人件費を変動費化するための延長線上でIT化などが検討されているにも関わらず、また変動費化できない、という話に戻ってしまう悩みがあるわけですか。そうなると「Temi」のような汎用型のロボットをリソースとして使っていく、という話にたどり着きますよね。
次ページは、「業界単位のシェアドサービスセンターが必要」
業界単位のシェアドサービスセンターが必要
八子:倉庫において、物理的なロケーションや、持っているアセット、トラッキングするべき商品などの管理体系がまだ整備されていない、という印象を受けます。
秋葉:おっしゃる通りです。倉庫は様々なお客様の荷物を預かるわけですが、倉庫にモノが入ってきた時点で統一的に管理出来ればよいのです。しかし管理のためには、荷物に対してバーコードやRFIDをつける必要があるわけですが、その費用は、だれも払ってくれないわけです。
八子:その問題は解消することが難しいことなのでしょうか。
秋葉:結局、物流費用、つまりモノを運ぶ費用としていくら払うか、という発想からスタートしているので、倉庫側が「統一するためにバーコードやRFIDを導入したい」といっても、「それは物流の品質を上げるためだから、倉庫側で費用を持ってください」と言われてしまいます。
小泉:各業界は物流が抱える問題については十分に認識しているはずなのに、それでもお金は出してくれない、という感じなのでしょうか。
秋葉:それぞれの予算が決まっており、場合によっては上から「物流のコストを抑えられないのか」と言われるところもあるので難しいと思います。
八子:そうなると業界単位でシェアドサービスセンターのような施設を作り、共通のタグを使用してみんなでやります、それに物流側も出資します、といった施策を考えざるを得ないですよね。
秋葉:それは良い案です。人手不足になるよね、という話を各業界でこれだけ議論しているわけだから、みんな少しずつコスト負担して全体で取り組まないと物流の問題は解決しないと思います。
テクノロジーを共有するための団体が無い
小泉:現場で起きていることは世の中に認識されているけれど、結局誰も取り組まない、というのはどの業界でもよく見かける光景ではあります。
秋葉:結局「だれが何をどれだけ負担して、それぞれにどういうメリットがあるのか」という事を明確にしなければいけないと思います。例えばデータのオープン化の話にしても、データを持っていない側にとってはメリットが大きいけれど、提供する側にとってはメリットが無い場合が多い。このバランスをどうするのかという問題があります。
八子:データを出す側が「このデータを使っていいよ。ただしある程度、中立性のある団体に運用してもらって、そこが使った分のあがりはこちらがもらうよ」という形にせざるを得ないですよね。
秋葉:データを出した側にそうしたメリットがあるしくみをきちんと作るべきですよね。
小泉:そういうことを統括する団体というのは、ロジスティクス業界にはないのですか。
秋葉:労働集約や既得権の話をする団体はありますが、データやテクノロジーを調達し、それを貸し出す仕組みを持った団体は全くありません。
小泉:やれることは分かっているのに、実行できる環境が整っていないのは厳しい状況にありますね。
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プラットフォームの乱立と集約
小泉:秋葉さんのお話を伺って、物流現場において技術が活用できることはよく分かりました。そして人不足の問題、あるいは業界構造の問題に対してどうメスを入れるのかについて、皆さん総論は一致していることも分かりました。では、何がトリガーになれば問題解決のための技術が社会実装されるようになるのでしょうか。
例えばダイワロジテックがプラットフォームを作ります、といっても、みんながひとつのプラットフォームに乗っかってくれるのかな、という不安があります。何か上手い解決策というものはないでしょうか。
秋葉:仮にプラットフォームを立ち上げる話が業界内で起きたとしても、統合されずに乱立する状況が10年ほど続くと思います。しかし、少数のプラットフォームに誰かが乗っている状態にはなっておきたい、という希望はあります。
乱立する状態はテクノロジーも含めて必要であり、「ダイワロジテックが作ったならば自分たちも」、という形で競争が生まれるのも良い話だと思います。ただし、その中で協業するところが出てきて、最終的には3つ~4つくらい残り、残ったところも競争し続けるわけではなく、データ共有などで協力するという状態が望ましいと感じます。
八子:自ずとそういう風な方向に国も向かっていますし、人口が減っていく中で複数のプラットフォームが乱立すること自体がデメリットだというのは皆さん、頭の中では分かっていることだと思うので、その問題は時間が解決するのではないでしょうか。
建物から物流の情報を得る
小泉:ダイワロジテックの中ではプラットフォームを構築しよう、という動きはあるのですか。
秋葉:そもそもダイワロジテックの立ち位置は良い意味で中途半端、だと思っています。大和ハウスグループは建物を立てることがメインです。
一方、ダイワロジテックというのは建物と建物同士をつなぐ部分を見ていますが、外から見ればダイワロジテックは「建物を立てる大和ハウスグループの企業」であるわけです。ということは、僕らは物流会社そのものではなく、ロジスティクスを支える企業としてプラットフォームを構築するのは間違っていないと思います。
小泉:ソリューション企業として存在する、ということですね。
秋葉:そうですね。トータルでロジスティクスのソリューションを提供していると捉えていただければと思います。あと、ダイワハウスが立てている建物をエッジだと捉えて、そこからどれだけ物流に必要な情報を出せるのか、ということも考えていくつもりです。
大和ハウスグループが立てている建物の数は日本で一番だと思います。ここから受発信できる情報をきちんと整理して提供できる形にすれば、社会の効率化により貢献できるのではないでしょうか。
小泉:家には宅配ボックスがあって、そこに荷物の出入りの情報が手に入るわけですし、そもそも物流センターは情報の塊ですからね。
秋葉:例えば「ここの集合住宅はパーソナルボックスになっているけれど、こちらは入居者に対して宅配ボックスが無くて、荷物もほとんど取っていかないんだよ」ということが分かるなど、いくらでも活用方法はあります。
ダイワハウスが立てた団地に住んでいる方が高齢化し、その団地を再開発する計画が出ると、テクノロジーを活用する話に必ずつながります。住居の環境を再開発するだけでなく、そこから取れる情報をどう活用するか、という話を経営企画などと話しています。
八子:街の情報、そこを通る人や交通といったリソースの話と、お金をどう使うかといった話と、どこのエリアといった話と、さらにそのエリアでどういう消費行動がとられているのかという話を統合して、ある程度シミュレーションできるようになるのが理想ですね。
秋葉:そうです。そうしたデータが全部統合されれば、人も商品の動きも、無駄なものがなくなるのだと思います。
小泉:大和ハウスグループのように垂直統合できているところが一番やりやすいのではないでしょうか。これがソリューション会社だけだと全部提案止まりになってしまうから、統合は難しくなると思います。
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船上でロジスティクスの作業を
秋葉:せっかくの機会ですから、船舶の物流についてお話ししましょう。造船会社、ゼネコン、商社、船舶運行会社などがコンソシアーム的に会社を作っているのですが、そこの構想が面白いです。
この造船会社の社長さんが、食品会社から工場の建て替えや冷凍冷蔵倉庫の建て替えをする際に「海沿いに建てたいが難しい、船でなにかできなか?」という話をいただいたそうです。
豊洲の問題が起こって以降、土壌改良しないと海側に建物を立てられない上に、改良しようとするとお金がすごくかかってしまいます。そこで立て替え工事を行っている間に船の上でできることはないか、というお話です。その流れで私のもとにも船の活用についての相談が来ました。
その話をいただいた時に「今までコンテナを運んでるだけだったけど、そういうことなら船の上で仕分け作業が出来ないかな」ということを思い付いたのです。
そこで最初は東南アジアからの船で試そうということになったのですが、国際法がひっかかってきて、輸送途中に荷捌きをすることは、難しいという話になりました。そこで沖縄を一旦経由しようという案が出たのです。
小泉:税関を通していない荷物を仕分けすることができないということですね。しかも、沖縄を経由しさえすれば、国内の法律が適用されるわけですね。
秋葉:そうです。なるほどと思ったのは、東京湾から入ってくると通関で50時間から70時間くらいかかるわけですが、それと沖縄を経由してから各地に配送する時間がほぼ同じなのです。ということは沖縄をワンタッチして仕分ければ、同じ時間がかかっても、コストは下げられるわけです。
このような経緯で沖縄を経由する案は良い、という話になりました。ところが今度は「沖縄では対応するための土地が足らず、人もいない」という問題が出てきました。
そこで、その次に出た案が神戸です。2025年に大阪万博がありますが、それに合わせて神戸にもう一度華やかさを、ということで大阪にあるコンテナを神戸に移すことに合わせて港の活用を見直そうという話がでているわけです。
さらにコンテナ施設、物流施設、商業施設などを作る計画も出ており、荷物を上げればすぐそこに商業施設があるので、その商業施設で買ってくれた個人のお客さんに対して、「これはご自宅まで送っておきますから」と、荷捌き作業などでコストダウンした分だけ送料サービスに還元しようという案もあります。
MaaS時代の船舶輸送
八子:船の上で輸送しながら作業できるとなると、動く共配センターみたいですね。しかもリモコンで自動航行も出来るようになるだろうから、船上での仕分け作業に労力を割くことも可能です。
小泉:船の中から、別の船が離脱して出てくる、といったことも今後出来そうですね。
秋葉:実はそういった話も検討されています。例えばフィンランドなどはフィヨルドがあるので、小型の自動船の研究が進んでいるのですが、そういった国に話を伺うこともしています。
とにかくMaaSでマルチモーダル化が進んだ場合に、海に囲まれた日本で船が活用されていないという状況は避けたいと思っています。
海外を含めた国際法はルールを変えるのは難しいかもしれないけれど、国内であれば国交省などがきちんと整備すれば変える余地があるはずです。
八子:海は信号もないし、陸路に比べて制約がないので自動運転も制御しやすいですよね。
秋葉:また、マルチモーダル化が進めば輸送路の選択肢も多様化します。先ほどは時間を基準にした航路についてお話ししましたが、コストを基準にしたらどういう経路になるのか、というように何を基準にするかによって選択肢が変わる可能性もあります。
八子:全くビジネスモデルに変わりますね。
秋葉:はい、変わると思います。前編でお話しした人手不足の話も同じで、人で稼いでいた部分をどう変えていくのか、という話にシフトするはずです。
小泉:本日はありがとうございました。

