バルセロナで開催された、産業向けIoTの展示会、IoT Solutions World Congress。今回も、IoTに取り組んでいる企業の多くが展示を行っていた。
米国企業を中心に展開する、インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(以下IIC)がもっとも広いスペースをとって展示していた。
今回は、テストベット・エリアと協賛エリアに分かれているが、船や水中で動くロボットなど、普段見れないような展示もたくさんあった。
その他にも、展示会でよく見かけるインテルやマイクロソフト、アクセンチュアなど、グローバル企業が多く参加していた。
(展示内容が他のイベントレポートと重複する部分が多かったので割愛する)
産業用プロトコルTSN(Time-Sensitive Network)テストベット
TSNは、TCP-IPをエンハンスしたプロトコロルだが、もともと米シスコなど大手企業が中心となって開発してきた経緯がある。利用シーンとしても、オイルやガス、トランスポーテーションと幅広い。
現在、TSNはまだテクノロジー面にフォーカスしているということで、ビジネス的な価値が見えてくるのはこれからだという。
今回のデモでは、左側のコントローラーがマシンを動かす指示を出すと、その指示がTSNを使って右側のコントローラーに伝えられ、同期して下部にある、Bosch Rexrothのマシン(黒い横棒のようなものが横に振動する)が動くというものだ。
また、上位層でよく使われるプロトコルである、OPC-UAに関してもTSNの上に乗せることができるということなので、ネットワークは組みやすいと言える。
対応しているコントローラーやネットワーク機器も多く、Cisco, Hirchmann, Bosch Rexroth Intel, Kuka, Renesas Electronicsなど様々な企業から対応製品を出そうとしているようだ。
マイクログリッドや工場の労働者向けテストベット
また、マイクログリッドというと聞き慣れない人も多いかもしれないが、要はエネルギーの話で、風力や太陽光といった自然エネルギーを使った発電をしていこうという話だ。
この、マイクログリッドの世界でもTSNを使ってのテストベットがあるというのだ。
この他にも、工場などで働く作業者のヘルメットに関するテストベットも展示されていた。このヘルメットは5つ以上のセンサーが搭載され、例えば転倒したということなどを検知することができるということだ。
富士フィルムのサプライチェーン全体に対するテストベット
さらに、サプライチェーン全体に対してデジタライゼーションを果たすというテストベットも展示されていた。
富士フィルムが行っているテストベットでは、産業機器の状態監視にとどまらず、セールスや製造後の工程にまでをデジタル化することで、細かな要望にもこたえていくという考え方だ。
展示では、富士フィルムが自社の印刷機械をデジタル化し、状態を監視、印刷の必要に応じた印刷工場の選択ができるようになるのだという。
現状では富士フィルムの印刷機械が対象となっているが、今後、富士フィルム製以外のものにも反映させていき、さらには、発注や印刷後のビジネスプロセスにも発展させていく考えだということだ。
完成すれば、日本国内の下請け構造にある印刷業界から脱却し、グローバル規模で展開できる印刷ソリューションとなるだろう。
Smart Factory Web(SFW)テストベット
SFWは、韓国のKETIとドイツのFraunhoferが立ち上げたインダストリアルインターネットのコンセプトに基づいた、スマートファクトリーのためのフレームワークだ。
ドイツと韓国、それぞれ2工場ずつをつないで、SFWを使うと、データを交換可能となるのか?オーダーに答えるのに一番早いのはどういう稼動なのか?を確認したのだという。
それぞれの工場にある産業機械の状態をクラウド上で管理し、必要なオーダーを最適な場所に振り分けるのだが、生産状態も共有して工場は共同して稼動するモデルを実現したということだ。
富士通の山梨工場でのカイゼンテストベット
富士通の山梨にある半導体工場では、変種変量生産が行われている。そこでは、これまでラインの稼動状態の監視はデジタルではされてこなかったが、今回IoTを使った稼動状況の監視を始めたのだという。
その結果、単に稼動状況がわかるというだけでなく、課題が発生した際にカイゼンを行うのだが、カイゼンの結果をすぐに見れるためカイゼン意欲が増すということが分かったということだ。
PTCの産業機械の保守に利用するAR
PTCのブースでは、産業機械の保守メンテナンス時にマイクロソフトhololenzなどのMRのスマートグラスをつけて、機械の部品を見たり、保守作業を遠隔でサポートするという展示がされていた。
状況は、PTCのIoTクラウドサービス、ThingWorxを使って可視化されていて、その状況に応じた対応を遠隔で指示するというものだった。
機会につけられたAR用のマーカーを認識して、ThingWorxで取得している、必要な情報を表示するのだ。
(今回はわかりやすいように、タブレットに表示されたものを撮影した)
特に、スマートファクトリーで使われるIoT/AIについては、工場の中も充実しだし、複数の工場での生産を実現し、さらにはサプライチェーン全体を改善していく流れが見えてきた。
この大きな流れの中で、製造業の企業にとっては、これまでの業界構造の中にいてよいのか、新しい流れに対して自社のビジネスをどう位置付けていくのかという点が、今後大きな課題となっていくだろう。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。