サイトアイコン IoTNEWS

5Gにおけるネットワークスライシングの魅力 -MWC上海2018レポート2

5Gスライシング MWC上海2018

5Gの3つの特徴と最適化するネットワークスライシング

2018年6月に5Gの初期仕様が全て策定され、各国で5Gローンチの準備が着々と進んでいる。5Gはこれまでの世代進化と異なり、スマホなどのハンドセットのイノベーションよりもIoT市場からの期待の方が大きい。その要因は、5Gで実現される通信の特徴にある。

5Gの特徴は大きく3つに分類される。1つ目は高速大容量通信(eMBB)であり、最大10~20Gbpsの高速通信の実現だ。現状、光回線でも100-200Mbpsの契約が大半なのだが、その10倍の速度を目指しているということになる。2つ目は、超大量端末接続(mMTC)で、大量に増えることが予想されているIoTデバイスが安定した通信を可能とする進化だ。現状でも都心部では、スマホだけでも混雑して繋がりにくくなることがあるように、既に通信のキャパシティが限界に近いエリアも多い。そこに新たなIoTデバイスが急増すると、安定した通信の提供できなくなるため、収容力を大幅に拡大する必要があるということだ。

この超大量端末接続(mMTC)には、この中には低消費電力の項目も含まれているので、通信頻度やデータ通信容量が少ないデバイスの増加を考慮していることも推察される。3つ目が超高信頼・低遅延通信(URLLC)で少ないデータ量であれば、遅延も欠損も無く送信できるというものだ。この特徴は、遅延による事故が致命的となる遠隔制御や自動運転車などで必須とされている。

ドコモR&Dの広報誌 テクニカル・ジャーナル No.25を参考に筆者作成

IoT市場は、用途も領域も多様なので、通信に求めるニーズも多様化している。

そのため、5Gの3つの特徴から、必要な要素をピックアップし、用途別に最適化した通信を提供して欲しいというニーズが高まっている。

このニーズに対応する、「ネットワークスライシング」という技術が、5Gの大きな魅力として注目されている。

ネットワークスライシングは、それぞれの用途や市場のニーズに合わせて通信スペックを最適化して提供する、通信サービスを多様な条件で切り売りできる機能だ。例えば、5Gの3つの特徴である、高速大容量、超高信頼・低遅延、超大量端末接続を用途に応じて、通信スペック別に分けて提供することができ、それぞれの料金も変えることで、使い勝手もコストの面でもベネフィットが得られるというようなイメージをしてもらえると良いだろう。

これまではスマホ向けの通信で、ほぼ全てのニーズに対応していたのだが、料金プランがスマホ利用を前提としているためリーズナブルではないことや、スマホユーザーの多いところや利用者が多い時間帯に、安定した通信の提供ができないことなど、様々な課題があったが、5Gによって提供される3つの特徴とネットワークスライシングで、IoTの市場拡大に必要な“通信サービス”インフラが整うということだ。

ネットワークスライシングの具体的なパッケージ提案

MWC SHANGHAI 2018の会場に入ってすぐのところに陣取っていたチャイナ・ユニコムのブースにとても興味深い展示があった。HUAWEI、Tensentとともに取り組んでいるネットワークスライシングのデモで、市場のニーズはもちろんのこと通信会社の新たな成長が感じられるものだった。

実際に展示されていた中で一部を紹介すると、GoProを搭載したドローンに対して、ドローン制御用にuRLLC(超高信頼・低遅延)を、GoPro用にeMBB(高速大容量通信)を、それぞれ全く異なる料金プランでパッケージ化して提供するというものだ。

「ドローンの制御には、制御の遅延が無く、高信頼のネットワークを採用」し、「映像の配信には動画の品質を担保できる高速回線を採用」するということを意図した、用途に対して最適化した通信サービスを選択することができる複数の通信パッケージが展示されていた。

 さらにもう一つとても魅力的だと感じたサービスとしてエリアのスライシングである。

ネットワークをスペックでスライシングし、用途や利用規模、時間帯で通信サービスを切り売りするだけでなく、エリアまで指定できるというのだ。

つまり、特定の日時に中継したいイベントがある場合、イベントを実施するエリアに絞り、配信用の高速回線を中継の時間帯だけ購入することができるというのだ。

これまで、この手のことを実現しようとすると、何か月もの作業時間がかかっていたが、システムで管理することで瞬時に行うことができる。

バーチャルな時間帯指定専用線のような考え方になるのだが、有線の専用線を知っている立場からすると、こういったサービスの提供が具体的に検討されていることに大きな衝撃を受けた。専用線は仕組み上、数時間だけ利用するようなことが難しい。また、CDN等でも帯域保障サービスはあるものの、現時点ではここまでフレキシブルなものは提供されていないだろう。

ネットワークスライシングはEnd-to-Endで活用すべき

HUAWEIのブースにもネットワークスライシングならではのデモがあった。

昨今注目される遠隔医療だ。MWC2018のチャイナモバイルブースに遠隔超音波診療のデモが紹介されていたが、そこから一歩先に進み、MWC SHANGHAI 2018のHUAWEIブースでは“ダビンチ(da Vinci Surgical System)のような手術支援ロボットをリモートコントロールする遠隔外科手術のデモが行われていた。

現場でのデモでは通信サービスは5Gではなかったが、当然気になるのが、この仕組みを商用化するために必要なネットワークスペックである。なぜなら、無線のネットワークスライシングだけでは、低遅延が担保されない可能性があるためだ。

これは、確かに5GのuRLLC(超高信頼・低遅延)では少量のデータであれば、欠損せず1ms以内に送信することができる。

しかし、物理的な距離が離れていた場合、無線だけでなく伝送路やインターネット網をデータが経由することになるため、無線区間は遅延が無かったとしても、無線以外の区間で遅延が発生する可能性があるのだ。

遠隔医療のような、人の命に係わるシステムにおいて、ネットワークスライシングはさらに注目が集まっているようで、サービスが提供される際には、無線区間だけでなくEnd-to-Endで超高信頼・低遅延を保証することを検討中ということだった。例えば、インターネット網を経由せず、通信会社内のネットワークで完結する時間帯指定の超高信頼・低遅延通信サービスを予約型で販売するようなこともあるということだ。

このような状況を垣間見ると、通信会社のビジネスモデルは大きく変化していく可能性が高いのではないだろうか。デバイスがスマホでデータ量による従量課金の仕組みではなく、デバイスもデータ容量も関係なく、その時間に特定のサービスを使うために必要な通信を高額でも利用せざる得ない状況が出てくることは容易に想像ができる。

通信の価格は誰が決めるのか

垂直統合でサービスを提供していたガラケー時代からスマホに変わり、日本においても通信キャリア(MNO)の立ち位置はインフラ寄りになってきている。しかし、End-to-Endでマネジメントしなくては通信の価値が発揮されない状況になるとした場合、通信キャリアはどの領域まで踏み込んでサービスを提供するのだろうか。一方でMVNOは一般化し、フルMVNOやMVNEも珍しくなくなってきている。通信キャリア以外が通信を活用した各用途に最適化した「通信をベースとしたサービス」を提供することも可能だ。

提供できる通信スペックも多様となり、規模も用途も、エリアも契約期間も多様となっていくことが推察される中、どのような条件が一般的なのか、どんなスペックに対する料金が適正価格なのかがわからない状況に向かっているのではないだろうか。このような状況はすぐに解決できないことが予測されるため、イニシアチブを獲得するためには、いち早くサービス利用者が満足できるサービスを提供し、そのサービスを定着させることがポイントになるだろう。その際、通信サービスの対価が未確定なのであれば、サービスの提供価格やビジネスモデルから逆算で考えていくことで、適正な通信料金というものが見えてくるはずだ。

既に日本でもNB-IoTの通信サービスが提供され月額10円からというプランが発表されている。

通信量が少なければ通信料金は基本料も含めて安価にできるということは立証済みで、5Gになると現状のNB-IoT向けプランより安価なものが登場することも十分考えられる。価格が安価になるということだけでなく、新たな市場を開拓するための活用しやすい通信サービスとそれに紐づく料金プランも次々と登場するだろう。

例えば、時間帯やエリアを限定することで価格交渉も可能になるのではないだろうか。エリアに応じて料金が変化することになると、数年後にはYouTuberが人口密度の低いエリアに移住し、安価な通信サービスを活用して高品質な動画を配信するようなことが起こるかもしれない。エリアと時間で料金が変わるような仕組みが提供できるのであれば、十分考えられる現象だ。もちろんフレキシブルな料金プランを、手軽に活用できるようにするためにはネットワークと料金システムを繋ぎ、タイムリーな連携をしていくことが求められるためそうそう簡単なことではない。

今回のチャイナ・ユニコムの展示のように、ネットワークベンダーとエンドサービス事業者とともに通信キャリアがネットワークスライシングの提供サービス要件を考えていく取り組みはとても魅力的で、具体的な未来が見えてくるものだった。スタンドアローンで5Gを推進する中国では、決済サービスや物流ソリューションなど生活環境における様々な先進的なサービスが提供されていることもあり、個々の企業の動向だけでなく、企業間の連携からも目が離せない。

モバイルバージョンを終了