現場でのデモでは通信サービスは5Gではなかったが、当然気になるのが、この仕組みを商用化するために必要なネットワークスペックである。なぜなら、無線のネットワークスライシングだけでは、低遅延が担保されない可能性があるためだ。
これは、確かに5GのuRLLC(超高信頼・低遅延)では少量のデータであれば、欠損せず1ms以内に送信することができる。
しかし、物理的な距離が離れていた場合、無線だけでなく伝送路やインターネット網をデータが経由することになるため、無線区間は遅延が無かったとしても、無線以外の区間で遅延が発生する可能性があるのだ。
遠隔医療のような、人の命に係わるシステムにおいて、ネットワークスライシングはさらに注目が集まっているようで、サービスが提供される際には、無線区間だけでなくEnd-to-Endで超高信頼・低遅延を保証することを検討中ということだった。例えば、インターネット網を経由せず、通信会社内のネットワークで完結する時間帯指定の超高信頼・低遅延通信サービスを予約型で販売するようなこともあるということだ。
このような状況を垣間見ると、通信会社のビジネスモデルは大きく変化していく可能性が高いのではないだろうか。デバイスがスマホでデータ量による従量課金の仕組みではなく、デバイスもデータ容量も関係なく、その時間に特定のサービスを使うために必要な通信を高額でも利用せざる得ない状況が出てくることは容易に想像ができる。
通信の価格は誰が決めるのか
垂直統合でサービスを提供していたガラケー時代からスマホに変わり、日本においても通信キャリア(MNO)の立ち位置はインフラ寄りになってきている。しかし、End-to-Endでマネジメントしなくては通信の価値が発揮されない状況になるとした場合、通信キャリアはどの領域まで踏み込んでサービスを提供するのだろうか。一方でMVNOは一般化し、フルMVNOやMVNEも珍しくなくなってきている。通信キャリア以外が通信を活用した各用途に最適化した「通信をベースとしたサービス」を提供することも可能だ。
提供できる通信スペックも多様となり、規模も用途も、エリアも契約期間も多様となっていくことが推察される中、どのような条件が一般的なのか、どんなスペックに対する料金が適正価格なのかがわからない状況に向かっているのではないだろうか。このような状況はすぐに解決できないことが予測されるため、イニシアチブを獲得するためには、いち早くサービス利用者が満足できるサービスを提供し、そのサービスを定着させることがポイントになるだろう。その際、通信サービスの対価が未確定なのであれば、サービスの提供価格やビジネスモデルから逆算で考えていくことで、適正な通信料金というものが見えてくるはずだ。
既に日本でもNB-IoTの通信サービスが提供され月額10円からというプランが発表されている。
通信量が少なければ通信料金は基本料も含めて安価にできるということは立証済みで、5Gになると現状のNB-IoT向けプランより安価なものが登場することも十分考えられる。価格が安価になるということだけでなく、新たな市場を開拓するための活用しやすい通信サービスとそれに紐づく料金プランも次々と登場するだろう。
例えば、時間帯やエリアを限定することで価格交渉も可能になるのではないだろうか。エリアに応じて料金が変化することになると、数年後にはYouTuberが人口密度の低いエリアに移住し、安価な通信サービスを活用して高品質な動画を配信するようなことが起こるかもしれない。エリアと時間で料金が変わるような仕組みが提供できるのであれば、十分考えられる現象だ。もちろんフレキシブルな料金プランを、手軽に活用できるようにするためにはネットワークと料金システムを繋ぎ、タイムリーな連携をしていくことが求められるためそうそう簡単なことではない。
今回のチャイナ・ユニコムの展示のように、ネットワークベンダーとエンドサービス事業者とともに通信キャリアがネットワークスライシングの提供サービス要件を考えていく取り組みはとても魅力的で、具体的な未来が見えてくるものだった。スタンドアローンで5Gを推進する中国では、決済サービスや物流ソリューションなど生活環境における様々な先進的なサービスが提供されていることもあり、個々の企業の動向だけでなく、企業間の連携からも目が離せない。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。