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足に伝わる「感触」でこどもの迷子を防ぐ、LIONがつくる新発想のウェアラブルライフガジェット「NOSSY」 ―ライオンイノベーションラボ インタビュー【第4回】

本稿は、一般消費者向けIoT/AI製品の事業企画を支援する「IoTNEWS生活環境創造室」(室長:吉田健太郎)が、イノベーションに挑むライオン株式会社の取り組みを紹介する連載の第4回です(全4回)。

クリニカ、キレイキレイ、トップ、バファリン―。私たちの生活に欠かせない日用品を、1891年の創業以来120年以上にわたって開発し、提供してきたライオン。同社は2018年1月、研究開発本部に「イノベーションラボ」を新設。製品の構想段階から社外と連携する「オープンイノベーション」を推し進め、デバイスやサービス、アプリなど、新しいタイプの製品開発に取り組んでいる。

目にするのはある意味、「ライオンらしくない製品」ばかりだ。しかしそこには、口腔衛生やヘルスケア、皮膚・毛髪に関する知見、そして生活者との豊富なタッチポイントといったライオンの強みが、センサーや通信機器、AIなどの新しいテクノロジーとかけあわされている。

発足から1年が経とうとしている今、どのような成果が生まれているのか。「IoTNEWS 生活環境創造室」では、イノベーションラボで革新に挑む4名の研究者を取材した。第4回の本稿では、足に伝わる「感触」でこどもの迷子を防ぐフットウェア「NOSSY」の開発を担当する、藤原優一副主任研究員に話を伺った(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)。

※第1回-3回の記事はこちら
第1回: 美しい笑顔は口の中から、LIONらしさが生んだ新しい美容機器「VISOURIRE」
第2回: 口腔ケア×AIで実現、口臭リスクを判定するスマートフォンアプリ「RePERO」
第3回: お腹まわりのサイズが自動でわかる、LIONの新発想ウェアラブル「ながら腹囲チェッカー」

こどもと親を「感触」でつなげる、ちょっと変わったIoT製品

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 藤原さんが開発している「NOSSY」とはどのような製品でしょうか?

ライオン 藤原優一副主任研究員(以下、藤原): 小さいお子さんの靴に振動が伝わるデバイス(振動子)をつけて、足元に「感触」をもたらす製品です。

小泉: 「感触」ですか?

藤原: はい。雪の上を歩いたり、水たまりを踏んだりしたときの感触から、ゾウが足踏みをしているような仮想の感触まで、さまざまな種類があります。そして最大の特徴は、お父さんやお母さんが近くにいる時だけその感触が起こるようなしくみになっていることです。「NOSSY」の目的は、そうした感触を利用することで、お子さんの迷子を防いであげることにあります。

ライオンは今年の10月、札幌で毎年開催されている国際イベント「NoMaps」に出展。この動画はその際に公開した「NOSSY」のコンセプトムービーだ。

小泉: 「NOSSY」がどのようなしくみになっているのか教えてください。

藤原: 子供の靴に装着するデバイス(振動子)が、お子さまの足の動きに合わせて振動を伝えます。また、その振動は、お父さん・お母さんとの距離に応じてなくなったり、現れたりします。

小泉: 「足の動き」はどのようにとらえているのですか?

藤原: 今回、札幌で開催された「NoMaps」で出展したプロトタイプ版「NOSSY」では、スマートフォンに搭載されている「加速度センサー」を利用しています。また、お父さん・お母さんとの距離の計測においては、スマートフォンの「Bluetoothビーコン」を利用しています。

小泉: 足に振動を伝えるデバイス(振動子)は後付けですか?

藤原: はい。当初は靴に内蔵することも検討したのですが、お子さまの靴のサイズも色々ですので、柔軟に取り付けられる後付タイプを前提に今は考えています。

足に伝わる「感触」でこどもの迷子を防ぐ、LIONがつくる新発想のウェアラブルライフガジェット「NOSSY」 ―ライオンイノベーションラボ インタビュー【第3回】
「NoMaps」出展の様子。こどもがはいている靴の側面についている白いデバイスが、プロトタイプ版の「NOSSY」。ひざのあたりに装着したスマートフォンが足の動きをとらえることで、ちょうど足を踏み下ろした時に「どしん」などの感触が伝わるようになっている。将来的には、スマートフォンのセンサー機能も靴につけるデバイスに集約する予定だという。

小泉: つまり、お子さんが両親の近くで歩いていると、「どしんどしん」などの振動が足に伝わってくるわけですね。振動とは別に、音も鳴るのですか?

藤原: はい。「NoMaps」に出展した時は、別途スピーカーを用意して、そこから聴こえるようにしました。またその際には、床に雪の地面や動物の足跡を模したシートを用意し、実際に踏みながら振動と音を感じてもらうという演出にしました。

小泉: 今は振動子とスマートフォンを有線ケーブルでつないでいますね。実用性を考えると、お子さんがスマートフォンを持ち歩くというのはあまり現実的ではないように思えます。

藤原: そうなんです。なので、今スマートフォンから借りている「加速度センサー」と「ビーコン」の機能は、将来的には足下のデバイスに集約する予定です。

小泉: なるほど。そして、この感触はお父さん・お母さんと一緒にいる時にだけ感じられると。

藤原: はい。今の設定では、5メートルくらい離れると、振動を感じなくなります。「NoMaps」の際には、ご両親にも振動が伝わるウェアラブルデバイスをつけてもらいました。お子さんが近くにいるとぶるぶる振動するのですが、離れていくとその振動が弱くなるしくみです。

「NoMaps」では、こどもだけではなく、両親にも振動が伝わるウェアラブルデバイスが用意された。こどもが近くにいるとぶるぶる振動するが、離れすぎるとその振動は消えるしくみだ。

次ページ:きっかけは、家族とのアイデアソン

きっかけは、家族とのアイデアソン

小泉: 「NoMaps」に出展してみて、反響はどうでしたか?

藤原: 4歳~10歳くらいのお子さんに体験してもらったのですが、私たちが予想していた以上に、喜んでくれましたね。子供たちの笑顔がたくさん見られて、つくってよかったなと実感しました。

また、親御さんの中で、お子さんが「NOSSY」を体験している姿を見ながら、以前に迷子になった時のことを思い出して感極まってしまう方もいらっしゃいました。お子さんの迷子を防止する取り組みというのは、本当に大事なことなのだなとあらためて感じました。

小泉: そもそも、なぜ「NOSSY」をつくろうと思われたのでしょうか。

藤原: 理由は二つあります。ライオンは日用品を扱うメーカーではありますが、その商品がお客様の手に届くまでには、必ずお店での「体験」があります。その体験に至るプロセス、つまりお店の中の空間においても、ライオン自身として何か楽しい環境をつくれないものだろうかと考えました。これが一つ目の理由です。

もう一つの理由ですが、今年の4月に「078kobe」(音楽・映画・IT・食・ファッション・こどもをテーマにした参加型フェスティバル)にライオンが出展し、「家族のお出かけシーンの困りごとを解消する」というテーマで、来場したご家族の方々とライオン社員が一緒になってアイデアソンを行いました。

その時に、ご家族にとってお子さんの迷子が大きな困りごとであることがわかったのです。その後も社内で議論を続け、製品化に向けたプロトタイピングを開始することになりました。

小泉: そうだったんですね。とはいえ、製品化に向けた検討となると社内のさまざまな方の理解を得ないと難しいと思いますが、それはイノベーションラボだからできることですか?

藤原: はい、オープンイノベーションを進めている場だからできるのだと思います。「NOSSY」はわかりやすい例です。アイディアはお客様から生まれましたし、デバイス技術については慶應義塾大学さん(同大大学院メディアデザイン研究科:KMD)、そして体験のプロデュースについてはDrillさんなどと連携して開発を進めています。

白衣ではなく、イノベーションラボの青いオリジナルジャケットを着、「NOSSY」について語る藤原優一副主任研究員。博士号(工学)を取得し、燃料電池材料の基礎研究にまい進してきた藤原副主任研究員は今、デバイス技術を使った「体験型」の製品開発に挑戦している。

小泉: 藤原さんは博士号もお持ちですね。これまでと随分と異なる取り組みですよね?

藤原: はい。なので正直、とても大変です(笑)。どちらかというと、機械には疎い人間でしたから、デバイスの配線系がうまくつながらないだけで、何が起きているのかよくわかりません。専門の方であればすぐに気づけることですが…。地道に勉強しながら進めています。

小泉: しかも、お子さんに体験してもらうわけですから、試行錯誤が必要な取り組みだと思います。

藤原: そうなんです。「感触」を実感してもらうまでにもかなり苦労がありました。ヒトの感覚というのは複合的なものですから、足元の振動だけでは伝わらない場合もあります。そこで、何の要素が足りないのかを考え、試行錯誤し、足元に雪を模したシートや音の演出などを加えていきました。

小泉: そうだったんですね。

藤原: 「感覚」というのは面白いです。「NoMaps」は北海道のイベントですから、こどもたちは雪を踏んだ感触を知っています。でも、「ゾウの歩き方」はわからないので、「?」がたくさん浮かぶのです。こうした未知の感覚によって生まれる体験についても、色々と模索していきたいなと思っています。

小泉: 商品化はいつ頃を想定していますか?

藤原: できるだけ早く商品化したいですね。とはいえ、中身を完全につくりあげてから商品化というよりは、お客さんが迷子になりやすいショッピングモールや大きな公園で実証実験を早期に進めながら、商品化に向かっていきたいと考えています。

小泉: 貴重なお話、どうもありがとうございました。

【関連リンク】
ライオン(LION)

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