製造業とタクシー業界で交差する、DXの課題と変革への手がかり ―Conference X in 東京2021レポート1
尾崎 太一
各産業・業界においてDXに先進的に取り組む企業や団体が登壇し、DXの課題や実践施策などを議論する「Conference X in 東京」が2021年12月10日、オフライン/オンライン両方で開催された(株式会社INDUSTRIAL-X主催)。
本記事では「セッション1:DXアプローチ・チェンジ 〜今、取り組むべきDX実践施策と進め方〜」の内容をお届けする(登壇者は上の写真の左から以下の通り)。
登壇者
株式会社コアコンセプト・テクノロジー取締役CTO兼マーケティング本部長 田口紀成氏
株式会社電脳交通 代表取締役CEO 近藤洋祐氏
株式会社ツバメックス開発部 課長 荒井善之氏
株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役 八子知礼氏(モデレータ)
現状のDXのトレンドをどう見ているか?
本セッションは、INDUSTRIAL-X八子知礼氏の司会のもと、いくつかのトークテーマに沿って議論が展開された。八子氏が最初に投げかけたのは、「現状のDXのトレンドをどう見ているか?」というテーマだ。
まずはツバメックスの荒井善之氏が回答した。ツバメックスは新潟県新潟市に本拠をもち、金型の製造と販売を中核とするものづくり企業だ(2019年からはサンスターグループに参入)。荒井氏は同社に入社後、金型製作における3DCAC/CAMの作成に従事し、その後はIT推進チームでツバメックス独自の金型製造基盤「TADDシステム(Tsubamex Auto Die Design system)」の構築などを手がけてきた。
その荒井氏は「現状のDXのトレンド」について、DXの本質は「チェンジ」(変革)にあると語った。
「私は金型業界に約30年いる。ふりかえれば、オフィスオートメーション(OA)、ERP、PLMなどさまざまな言葉が出てきた。しかし多くの場合、それらの単語の意味を理解しないまま時が過ぎた。私が思うに、それらは部分最適のイメージが強かった。それに対してDXという言葉は、チェンジ(変革)を前面に出しているという印象があり、それは意味があると思う。これまでITは部分最適のツールで、世界とつながらない、全体のシステムとつながらないという課題があった。それに対してDXがチェンジという意識を芽生えさせてくれたという意味では、いい言葉だと思う」(荒井氏)。
電脳交通は、タクシー会社向け配車システム「電脳交通」などを手がける徳島発のベンチャー企業。代表取締役CEOの近藤洋祐氏は、祖父が経営していた廃業寸前の吉野川タクシーを承継し、経営のV字回復に成功。2015年に電脳交通を設立し、現場目線でタクシー業界のDXを内側から推進している。
その近藤氏は、タクシー業界では「今DXが進んでいる」と手応えを語った。
「タクシー業界は従来からアナログだ。お客様の注文を電話で受け、その内容を手書きでメモし、アナログ無線で読み上げる。こうした一連の作業はミスが起こりやすく、工数も多い。しかし、2015年頃からタクシー業界もようやくデジタル化が進んできた。高齢化が進むタクシー業界では、業務の入口から出口まで全体のプロセスを最適化していくことが急務。そのため、色々な技術と向き合い始めた。今、大きなムーブメント(つまりDX)が起こっている」(近藤氏)。
コアコンセプト・テクノロジーは、企業のDX支援やIT人材調達の支援などを手がける企業。田口紀成氏
は2015年に取締役CTOに就任し、製造業向けIoTソリューションの検討・開発に従事するとともに、
現在はマーケティング本部長も務める。従来は製造業のエンジニアとして、3D CAD/CAMシステムの開発や金属加工のIoT化研究に従事してきた。
その田口氏は、昨今のDXのトレンドとして、「全体最適」をめざそうとする企業が増えていると語った。
「私たちはさまざまな企業から(DXの)相談を受ける。その印象では、従来は部分最適の相談が多かったが、今では横串で全体最適を進めようとする企業が増えている。たとえば、製品軸からサービス軸へ提供の形を変えるなどだ。そうすると、見ている範囲も製造や設計といった個別の部門にとどまらなくなる。ただし、そうなってくると、今度は人材が足りないという課題に直面する。現在ではそうした人材の相談も増えている状況だ」(田口氏)。
ツバメックス独自の金型製造基盤「TADDシステム(Tsubamex Auto Die Design system)」
つづいて、「日本企業のDXは遅れているか。それとも進んでいるのか」という八子氏の質問に対して、ツバメックスの荒井氏は、「進んでいる企業もあれば、遅れている企業もあるだろう」と回答。そこで荒井氏は、同社で構築した独自の金型製造プラットフォーム「TADD」システムを紹介。同社はDXといった潮流とは関係なく、30年前から虎視眈々とこのシステムの開発を進めてきたという。
上の画像のあるとおり、ツバメックスの「TADDシステム」は、営業や設計から最後の調整まで、金型製造プロセスの全体最適を行う情報基盤だ。営業や購買などの個別のシステムが相互に連携している。「ものづくり業界ではほとんどの場合、設計と購買の情報システム(BOM)はつながっていない。しかしTADDでは、設計が終わったら購買の情報は自動的につくることができる」と荒井氏は説明する。
また、図面は紙ではなく主にiPadなどを通してビューワを用いる(上の画像の右上)。図面の紙も場合によって出力してはいるが、基本的には必要ないという。
これに対して電脳交通の近藤氏は、「資料(上の画像)を見ていて、感銘を受けた。お客様から注文を受け、タクシーが到着するという配車のプロセスと(本質的な構造は)似ている」と語った。
「タクシー業界では、この配車のプロセスをどう効率化していくかが課題だ。たとえば1日に1000件の着信があったとしても、ピーク時には対応できないということがある。そこで私たち(電脳交通)は、配車の各工程を分解して、効率化に必要なプログラムをつくっている。実際に、今までと同じ着信数でも取りこぼしがないようになり、売上が20%上がったという事例がある。
従来は「この注文はあのドライバーにあてよう」といった人の判断に頼っていた。それを見直して、自動化していくことが必要だ。しかし、大切なことはそれを現場の人に丁寧に伝えていくということだ。「こんなしくみがあるから変えてください」というのは暴力的だ。丁寧に説明しながら、少しずつ変えていかねければならない。私はタクシー業界で実際に働いていたからそれがわかる」(近藤氏)。
電脳交通が手がける、タクシー事業者向けクラウド型配車システム「電脳交通」と自治体・公共団体向け「地域交通ソリューション」
また、製造業のDX支援を数多く手がけるコアコンセプト・テクノロジーの田口氏は、「(近藤氏がいうのと同じように)製造プロセスの最適化とタクシーの配車の最適化が似ている部分がある。具体的にいえば、それは注文を受けてから物を作るまでの工程設計だ。ここが非常に頭(知恵や経験)を使う。だから人がやらないといけないが、逆にボトルネックになる。システム化さえできれば、大きく稼働が上がるポイントだ」と語った。