IIJと三菱HCキャピタルが協業し、IoTとファイナンスの機能が一体となった製造業向けIoTソリューションを提供する。IIJがもつネットワークやクラウドなどの機能に、三菱HCキャピタルのファイナンス・ソリューションを組み合わせることで、顧客のIoT導入を資金面からも支援する。協業の取り組みの第一弾として、設備の電力可視化や省エネに必要な要素をサブスクリプションで提供する「省エネIoTパッケージ」を2025年4月10日にリリースした。
「IoT×ファイナンス」という新たなソリューションはいかにして生まれたのか? 両社のキーパーソン3名に話を聞いた。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)
写真左から、三菱HCキャピタル株式会社 山名大氏(営業統括本部 営業開発部 環境ソリューション課 課長代理)、三菱HCキャピタル 関戸悠氏(セクター営業本部 日立グループ営業部 営業第二課 課長代理)、株式会社インターネットイニシアティブ 山田昌平氏(IoTビジネス事業部 営業部長 兼 営業推進課長)
製造業でカーボンニュートラルの取り組みが拡大している
IoTNEWS小泉耕二(以下、小泉): まずは今回の協業の概要について教えてください。
IIJ山田昌平氏(以下、山田氏): IIJのネットワークやクラウド中心としたIoTソリューションと三菱HCキャピタル様のファイナンス・ソリューションを組み合わせ、お客さまのDXや新規サービス展開に必要な要素をワンストップで提供することが目的です。
ポイントの一つは、サービスをサブスクリプション(月額料金)で提供することです。IoTに必要なセンサーやゲートウェイ、クラウドなどに加えて、必要な設備や機器は三菱HCキャピタル様のファイナンスリースを通じて提供します。これらの要素をまとめてサブスクで提供しますので、お客様は初期投資をおさえて、必要な費用を平準化してご利用いただけます。
山田氏: 協業の取り組みの第一弾として、4月10日から「省エネIoTパッケージ」の提供を開始しました(上の画像)。既存設備の電力使用量の可視化や省エネに必要なIoTソリューションをサブスクで提供します。ネットワークやクラウド、機器の提供だけでなく、三菱HCキャピタル様のサービスを通じてCO2排出量の算出や削減目標の策定、さらには算出したCO2排出量にもとづいたカーボンオフセットの支援なども可能です。
小泉: 協業の最初の取り組みに、省エネのサービスを選ばれた理由は何でしょうか?
山田氏: 日本の製造業でカーボンニュートラルの取り組みが拡大していることが背景にあります。今回のリリースにあたり、製造業のお客様を対象に、カーボンニュートラルの取り組み状況に関するアンケート調査を実施しました。その結果、従業員数1000名以上の大企業のうち、7割以上がすでに取り組みを実施していることがわかりました(調査結果①を参照)。今後は、中堅・中小企業に対するCO2排出量の報告や削減の要請も加速するとみています。
山田氏: また、カーボンニュートラルに取り組んでいる企業のうち約8割が「エネルギー使用量やGHG(温室効果ガス)排出量をすべてデジタルで可視化・算出している」と回答しました(調査結果②を参照)。このことから、データの可視化がカーボンニュートラル実現のカギを握っていることがわかります。
一方で、取り組みの障壁として最も多く挙げられたのが「予算の確保」や「初期投資への不安」でした(調査結果③を参照)。そのため、資金面の支援が非常に重要であることも、あらためて認識しました。
こうした調査結果に加えて、私たちは三菱HCキャピタル様とともに、実際にお客様のもとを訪問し、現場でのヒアリングも重ねてきました。その中で、IoTとファイナンスを組み合わせたサービスがあれば省エネ化を進められそうだというお客様からの声も多くいただきました。こうした背景を受けて、今回のサービス提供に踏み切りました。
カーボンニュートラル実現の鍵は「データ」にある
小泉: これまでのIoT導入では、「まずはPoC(概念実証)でお試しから」というケースが多かったと思います。ただ、その段階を終えて本格的に運用へ進もうとすると、資金面という現実的な課題が出てきますよね。
山田氏: その通りです。IIJでは2019年から製造業向けに「スマートファクトリー」の実現を支援するIoTソリューション(IIJ産業IoTセキュアリモートマネジメント)を提供しています。これまではPoCとしての採用が中心でしたが、近年では本格導入したいというお客様も着実に増えてきています。
一方で、「予算が取れない」「初期投資が難しい」といった理由で、導入に踏み切れずにいるお客様も多くいらっしゃいました。そこで今回、ファイナンス・ソリューションを手がける三菱HCキャピタル様と協業することで、資金面の課題も含めて支援できる体制を整えることができました。
小泉: 三菱HCキャピタル様はどのような背景があったのでしょうか?
三菱HCキャピタル 関戸悠(以下、関戸氏): 弊社では工場設備のリースファイナンスのほかに、中堅・中小企業のお客さまを中心に、CO2排出量の算出から削減目標の設定までを支援する「CO2可視化支援サービス」を提供しています。このサービスの理想形は、「設備を省エネ型に入れ替える」「再エネを導入する」など排出削減につながる具体的な打ち手をお客様に提案できることです。
しかし、実際にはお客様が保有しているデータの量や種類が限られていることが多く、提案の幅がせばまってしまうという課題がありました。そこで、IoTソリューションを提供するIIJ様と協業することで、CO2排出量の算出以前の段階――つまり設備のデータを取得する段階からお客様をサポートできる体制を築こうと考えました。
小泉: カーボンニュートラルの実現においてデジタルデータが重要であるということは、先ほどのアンケート調査の結果(調査結果②)にもありましたね。
三菱HCキャピタル 山名大氏(以下、山名氏): 日本企業は1973年の第1次オイルショックの頃から省エネやCO2削減に継続して取り組んできました。省エネ法では、事業者に対して「年間の(生産量あたりの)エネルギー消費量を毎年1%以上削減すること」が求められており、その目標に向けて現場ではさまざまな努力が続けられています。
しかし近年では、この目標に対して有効な打ち手が尽きつつあり、現場ではかなり苦労されている印象があります。削減目標は総務部門や生産企画部門、サステナビリティ推進部門など、現場とは別の担当者によって策定されるのが一般的です。しかし、製造現場の実情が「データで見える化」されていなければ、トップダウンで目標や計画を掲げても、具体的な改善にはつながりにくいと考えています。
山田氏: 私も山名さんと同じ考えです。CO2排出量を算出できたとしても、その結果を生産現場にフィードバックして改善活動を進めない限りは、削減は難しいでしょう。CO2排出量には現場のさまざまな要因が影響してくるため、削減に向けては現場全体から広くデータを取得することが必要です。だからこそ、まずはデータを収集し、可視化できる状態を整えることが出発点になると考えています。
小泉: すでに省エネを実現している企業では、具体的にどのようにデータを活用しているのですか?
山田氏: 詳しくはお話しできませんが、あるお客様では、データを非常に細かく分析して改善活動に活かされています。生産ラインの稼働状況の見直しから始めて、そこから省エネにつながる改善へと展開していったという形です。ポイントは、「改善によって何がどう変わったのか」をデータで確認し、その結果をもとにさらに次の改善へとつなげていく──というサイクルを回していることです。そのお客様は「データを細かく見るほど、改善のアイデアは増えてくる」とおっしゃっています。
小泉: なるほど。でも、すべての企業が同じような取り組みをすぐに実践するのは難しいかもしれませんね。
山田氏: そうですね。たとえば、PLC(制御機器)の設定や生産ラインの段取りを外部のエンジニアリング会社に委託しているような企業もあります。そうした企業では、自社で直接改善活動を進めるのは難しいのが実情です。ただ、「せめて生産ラインの状況だけは自社で把握したい」という声はいただくことがあります。このようなケースでは、省エネの話から現場改善に踏み出そうとしても、具体的な方法がわからないという課題があります。
こういう場合には、たとえば私たちの方からエンジニアリング会社と連携して、データを活用した改善支援を共同で行っていくことが有効だと考えています。今後は、こうした各領域の高い専門性をもった企業とも連携し、共通のプラットフォーム上でお客様が改善活動に取り組める環境も整えていく予定です。
データ活用とファイナンスの両輪で省エネを推進する
小泉: 先ほどの調査結果によると、カーボンニュートラルの実現に向けた障壁として、最も多く挙げられていたのがコスト面でした(調査結果③を参照)。やはり、ファイナンスの重要性が高まりますね。
関戸氏: 大手企業の多くではすでに、省エネに関する方法論が確立されつつあります。そして今、その流れが中堅・中小企業にも広がり始めています。ただし、大手企業が導入しているようなプラットフォームを中堅・中小企業がそのまま導入するのは初期投資の負担が大きく、現実的ではありません。
そこで、たとえば工場設備のCO2排出量やエネルギー使用量を「EMS(エネルギーマネジメントシステム)」で見える化し、省エネ効果があると証明できれば、補助金を活用して老朽設備を新しい省エネ設備へ更新することが可能です。さらに、改善活動を行っても削減目標に届かなかった場合には、「Jクレジット」(国が認証する排出削減証書)を購入してオフセットするといった対応も取ることができます。
小泉: なるほど。一口にファイナンスといっても、さまざまな提案のかたちがあるんですね。
関戸氏: たとえばIoTの導入においても、専門の人材を採用して社内で育成していくのがよいのか、それとも「省エネIoTパッケージ」のようなサービスを導入するのがよいのかなどは、お客様によって判断は異なります。大切なのは、最も良い判断ができるよう、できるだけ多くの効果的な選択肢を提供することだと考えています。先ほど山田さんもおっしゃったように、今後はエンジニアリング会社などの専門パートナーとの連携も深めることで、提案の幅を広げていきたいと考えています。
山名氏: 選択肢を広げるためには、やはり「データ」が鍵になります。製造業のお客様の中には、「設備は減価償却を終えてからが勝負」という考え方をお持ちの方も少なくありません。つまり、設備にかかった投資分を会計上のコストとして回収し終えてからが、利益を生み出す本番だという見方です。
弊社として、リース提供した設備をお客様に長く使っていただけるのはありがたいことなのですが、その設備が今の生産環境やエネルギー効率の面で本当に最適かどうかは、また別の話です。私たちも、「果たしてこれが本当にお客様にとってベストな選択なのか」と悩むことがあります。ベストな選択を行うには、現場のデータが不可欠です。経営層にご提案する際にも、「データさえあれば…」と感じる場面は多くあります。
小泉: 顧客のデータが蓄積されていくと、将来的には中堅・中小企業にとっての「省エネの業界標準」のようなものもつくれるかもしれませんね。
関戸氏: そうですね。私たちとしても、「勝ち筋の物差し」のような基準をつくることが理想ですし、そこを目指していきたいと考えています。「省エネIoTパッケージ」を実際に導入いただき、データの可視化と現場の改善活動が進んでいけば、「何が効果的なのか」「どうすれば成果につながるのか」といった「勝ち筋」が見えてくるはずです。そうなれば、お客様により具体的で再現性のある提案ができるようになっていくと考えています。
小泉: 今回のサービスで重要なポイントの一つは、サブスクリプション型で提供されることですね。
山田氏: はい。弊社ではこれまで、ネットワークやクラウドといった個別のパーツ単位での依頼が多く、工場全体の改善にまで踏み込んだ提案がしにくいという課題がありました。三菱HCキャピタル様も、同じような課題を感じておられました。そこで、もっと上流からお客様の課題解決に関わっていけるような仕組みをつくろうと考え、たどり着いたのがサブスクリプションモデルでした。このモデルであれば、お客様にとって必要な機能やサービスをワンストップで提供できるようになります。
弊社として、この中に三菱HCキャピタル様のファイナンス・サービスを組み込めるのは、非常にありがたいことだと考えています。たとえば、先ほど関戸さんからも話があったように、IoTを活用して現場改善を行ってもCO2削減の目標値に届かなかった場合、そのギャップ分をJクレジットなどでオフセットするといった提案が可能になります。弊社だけでは、データの可視化までは対応できても、その結果や資金面までカバーするのはなかなか難しいことがありました。三菱HCキャピタル様と組むことで、お客様への提案の幅が大きく広がったと実感しています。
小泉: 将来的には、顧客の新規サービスの立ち上げや外販の支援も行っていくのですか?
関戸氏: はい。特に、お客様がこれまでの「売り切り型」のビジネスモデルから、「リカーリング型(継続課金型)」のモデルに移行しようとする際には、包括的な支援が可能です。たとえば、製品に加えて必要となるシステムやネットワーク、各種機器の提供はもちろんのこと、エンドユーザーへのサービス利用料の請求や回収業務を、お客様に代わって私たちが担うことができます。これにより、お客様は与信調査や料金の回収といった運用上の負担を気にすることなく、本来のサービス提供に集中することができます(上の画像)。
パートナー企業との連携で、お客様の課題解決により深く関わっていく
小泉: 今後の展望について教えてください。
関戸氏: これまでのリースファイナンスでは、お客様が使用したい機器などがあらかじめ決まった状態で、調達の相談をいただくという流れが一般的でした。つまり、そもそも「何を調達するべきか」という経営判断のプロセスに入ることは難しかったのです。今後は、IIJ様との協業をきっかけに、お客様のビジネスプロセスそのものに、より早い段階から積極的に関わっていける体制をつくっていきたいと考えています。
山名氏: 従来、私たちが接点を持つのは経理部門が多く、どうしても「資金調達」だけに論点が限られてしまい、経営課題と直接結びつかないケースも多くありました。製造業の現場から得られる実践的なノウハウを蓄積できればと考えています。
山田氏: まずは省エネを切り口に、IoTでデータを取得することの価値をエンドユーザーに実感してもらうことが第一歩です。そこからスマートファクトリーの実現、さらには「次世代の工場管理」へと広げていければと考えています。その過程で、必要となる設備やロボットなどがあれば、三菱HCキャピタル様と連携して提供していきます。また、ロボットメーカーやエンジニアリング会社など、共に取り組んでいただけるパートナー企業も広く募集しています。ご興味のある方はぜひお声かけください。
小泉: 貴重なお話をありがとうございました。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。