バス事業のデータドリブン経営と生産性改善事例

バス事業は、地域住民の重要な足として、また観光客の移動手段として、私たちの生活に欠かせないインフラです。

しかし近年、少子高齢化による利用者の減少、運転手不足の深刻化、そして燃料費の高騰など、多くの課題に直面しており、安定的な事業継続が困難になりつつあります。

このような状況下で、持続可能なバス事業を確立し、地域社会への貢献を続けていくためにはどうすればいいのでしょうか。

本記事では、解決策へのヒントとなるよう、デジタル技術を導入して業務効率化やコスト削減、そして新たな価値創出に成功したバス事業者の具体的な事例を7つご紹介します。

データドリブンによる運行最適化

1つ目は、データから得られる新たな視点を活用し、運行を最適化することで収益改善やコスト削減に成功したイーグルバスの事例です。

イーグルバスは、埼玉県川越市に本社を構えるバス会社で、大手バス会社が撤退した埼玉県西部地域の赤字路線を引き継ぎました。

しかしこれまでの事業計画は勘と経験で行っており、改善をしたいと思っても、実態が見えてこないために改善のしようがなかったそうです。

そこでまずは、全ての路線バスにGPSと赤外線センサを設置し、バスの移動と乗客数を把握しました。

これにより、各停留所と全体の乗降客数や、季節や曜日・時間帯による乗客の増減、バスの遅延といった現状を見える化しました。

この現状のデータをもとに仮説を立て、運行ダイヤや停留所の位置、路線の設計などに役立てているそうです。

例えば、バスの移動データにより頻繁に遅延が発生している特定の路線があることがわかり、その路線の運行ルート上に何かしらの原因があると仮説を立て、周辺状況を調べました。

その結果、その路線のバス停近くに新たに商業施設がオープンしており、その利用者が増えたことによる遅延であることがわかりました。

そこで、バスの本数を増やした結果、乗降客数を25%アップすることに成功したそうです。

さらに、この成果を観光客向けのバスにも応用。観光客向けのバスは、季節や時間帯で利用率が変動するため、乗車密度データを活用して観光客の移動パターンを把握しました。

そして、この移動パターンを加味した運行ルートに変更することで、バスの増車をせずにニーズに応えることができ、コスト削減につながりました。

社員を巻き込んだアプリ開発による業務改善

2つ目は、デジタルプラットフォームを活用して業務の効率化やコスト削減に成功した愛媛バスの事例です。

愛媛バスは、バス事業や旅行事業を展開している企業です。

これまで、運行管理、車両管理、乗務員管理といった基幹業務において、紙媒体やExcelを用いたアナログな運用が中心に行なっていました。これにより、情報共有の遅延や二重入力の手間が発生し、業務効率の低下が課題となっていました。

また、各営業マンに依存した業務の属人化などにより、記録すら残っていないこともあり、アポイントの失念や問い合わせに対する回答ができないといった状況から、顧客や業者からのクレームも多発していたそうです。

そこで、ノーコード・ローコードで業務のシステム化や業務アプリを開発することができるプラットフォームを導入しました。

しかし、トップダウンで考えられた新たなプラットフォームの導入計画には、社員が自分ごとができていないためにうまくいかなかったそうです。

そこで、まず自分以外の社員の仕事内容をお互いに書き出し、どのような業務を行なっているのか、どのような課題を抱えているのかを社員同士で認識してもらいました。

これにより、情報共有の大切さやルールの必要性が認識され、何名かの社員が参画する形で業務改善に取り組みました。

その結果、案件の入り口から出口まで全てを管理することができるアプリを開発。このアプリを通じて社員同士が情報を共有することで、クレームを削減することに成功しました。

さらに、これまで利用していた他のシステムの一部を新たなプラットフォームにまとめることで、システムの更新費用を500万円削減することができたそうです。

自社の困りごと解決を横展開し新たな収益源を創出

3つ目は、複数ある整備工場の情報を一元管理するシステムを導入し、業務効率化とコスト削減に加え、新たな収益源を生み出した西鉄エム・テックの事例です。

西鉄エム・テックは、主力のバス整備事業において、西日本鉄道グループの車両整備を担う企業です。

もともと、車両運行データや整備実績データを、各工場がそれぞれExcelベースで管理しており、データの集計や確認に時間がかかるという課題がありました。

そこで、外部企業の協力を得て、車両管理、整備計画、故障管理、燃料集計などを統合する「バス整備管理システム」を開発し、導入しました。

このシステムにより、バーコード入力で点検スケジュール管理が自動化され、現場の負担と入力ミスが軽減。また、全整備工場の情報が一元管理されることで、不具合箇所の改善や類似故障への迅速な対処ができるようになったほか、部品交換時期の計画が容易になりました。

加えて、燃料集計業務は丸一日かかっていたものが約半日に短縮されるなど、業務効率化とコスト削減に成功しています。

さらに西鉄エム・テックは、この「バス整備管理システム」をサービス化し、他社への提供を開始しました。

自社利用の際は、自社ネットワーク内のオンプレミス環境で活用していましたが、セキュリティ上の制約があるため、クラウドサービスとして提供しています。

これにより、これまでにない新たな価値と収益源を生み出したと言えるでしょう。

現場業務のデジタル化で生産性と品質を向上

4つ目は、紙媒体での業務をデジタル化することで、生産性や品質の向上を実現したJR東海バスの事例です。

JR東海バスは、高速バス事業や貸切バスのほか、旅行サービスを提供している企業です。

これまでは、業務の多くに紙の帳票が活用されており、業務効率に関する課題が発生していました。

例えば、乗務員の携行品記録や施設の巡回記録、コールセンターの教育マニュアルやチェック表などが紙媒体で行われており、印刷やExcelへの転記など、アナログであるが故の管理者の手間が発生していました。

そこで、現場の業務フローをノーコードでデジタル化することができるプラットフォームを導入しました。

このプラットフォームを活用することで、これまで紙媒体で行われていた幅広い業務の記録・チェック業務をデジタル化しました。

その結果、紙の帳票の印刷や回収、Excelへの転記や採点などにかかる手間を半分ほどに削減することができました。

同時に、チェック業務が標準化され、安全・安心の品質向上にもつながっているそうです。

バス停に新たな可能性を見出す

5つ目は、スマートバス停を導入することで、業務効率化や利便性の向上、情報提供の最適化などを実現した西鉄グループの事例です。

西鉄グループは、福岡県内に約1万基あるバス停の管理を行なっています。そのため、ダイヤ改正やイベントがある時などは、時刻表変更を深夜から早朝にかけて人手で行っていることが課題でした。

そこで、デジタルサイネージやIoTなどを活用して、様々な情報をリアルタイムで表示するスマートバス停を導入しました。

スマートバス停の導入により、時刻表の張り替え作業を削減したほか、イベントや乗客数に応じて機動的なダイヤ改正が可能となり、機会損失を防ぐことができるようになりました。

実際、西鉄バス北九州は、スマートバス停を活用することで、コロナ禍の頻繁な航空ダイヤ改正に対応したバスダイヤ改正をすることができたそうです。

乗客に対しては、リアルタイムな運行情報の表示や乗り継ぎ情報の提供に加え、外国語表示によるインバウンド対応などで利便性を向上させました。

スマートバス停のボトルネックは、その導入費用ですが、投資した費用を回収するべく景観条例を変更し、これまで制限されていた広告掲出をスマートバス停で行うことができるようになりました。

その他にも、スマートバス停の有効利用が検討され、利用者の利便性を高めたり、地域課題の解決に貢献したりする様々な活用アイデアが生まれています。

例えば、スマートバス停とBeacon(ビーコン)技術を組み合わせることで、バス停を訪れた利用者に最適なタイミングと内容の情報を配信するサービスや、アプリで予約・決済し、ロッカーで無人受け渡しが可能なスマートクリーニングサービスとスマートバス停を連携させるといった取り組みです。

さらに、スキマバイトアプリとスマートバス停を連携させることで、バス停が「この時間なら働ける」人と「この時間だけ働いてほしい」企業・店舗をつなぐ情報発信拠点となり、地域の人手不足解消に貢献する構想を進めているそうです。

このように、スマートバス停は、情報表示の枠を超え、多様なサービスとの連携を通じて、新たな顧客体験や地域貢献の可能性を広げています。

バスガイド業務の効率化と新たな価値の提供

6つ目は、自動ガイドシステムを導入することで差別化に成功した平和交通の事例です。

平和交通は、富山県で貸切バス事業などを展開している企業ですが、バスガイドの高齢化と人材不足に直面し、特に繁忙期には1泊2日で6〜7万円にもなる人件費の高騰に悩んでいました。

さらに、貸切バス業界は新規参入による価格競争が激化しており、ガイド人件費の負担はますます重くなっていたそうです。

そこで平和交通は、バスガイドの人件費を削減しつつ競合との差別化を図るため、GPSを利用した自動ガイドシステムの開発に取り組みました。

同社は取引のあったベンチャー企業と共同でシステムの構想を練り、地元のITベンダーに開発を依頼。そして、タブレットで操作でき、バスの現在地にあわせて観光名所を自動でガイドしてくれるシステムを開発しました。

このシステムは、単に映像と音声でタイムリーな案内をするだけでなく、グルメ紹介などのトークにより、従来のバスガイドのような情報提供を行うことができるそうです。

これにより、バスガイドの人件費を削減することに成功。また、バスガイドが同行しないツアーとして他社との差別化も図ることができ、年間で約200本のツアーを受注する人気のサービスとなりました。

LINEを活用し業務効率化やユーザーとの関係構築を実現

7つ目は、LINEを活用することで、顧客満足度向上と業務効率化を実現した、観光バス・タクシー会社である琴平バスの事例です。

琴平バスは、地域密着型の貸し切りバス事業に加え、高速路線バス事業も手掛けている企業です。

同社は、オンラインツアーやオンラインでのチケット販売など、積極的なオンライン施策を行なっており、その一環として、ユーザーとのコミュニケーションを目的にLINE公式アカウントを開設しました。

しかし、友だち集め後の運用基盤やメリットの訴求が不足しており、友だち数が伸び悩んでいました。

そこで、琴平バスは運用を一度仕切り直し、新たに同社の高速路線バスのLINE公式アカウントを新設。同時に「ユーザーの予約忘れや乗車直前の問い合わせ減少」を目的にLINE通知メッセージを導入し、同社の高速バスを予約したユーザーに対して乗車日のリマインド配信ができる仕組みを構築しました。

これにより、乗車日の前日夕方に、予約番号、便名、乗車人数、乗車場所、下車場所などの基本情報をLINE通知メッセージで配信しています。

このLINE通知メッセージの導入により、コールセンターへの「乗車場所の確認」といった問い合わせが減少し、現場のオペレーションが効率化されました。

また、これまでは、予約のリマインドメッセージをメールで配信しており、ほかのメールに埋もれて見落とされていたり、メールをプリントアウトした紙を紛失してしまったりなど、乗車時の本人確認に時間がかかっていました。

LINE通知メッセージの導入後は、ユーザーがメッセージが表示された画面を提示することで、スムーズに乗車案内ができ、現場の負担軽減に繋がっているのだといいます。

他にも、琴平バスではLINE公式アカウントから月に2回ほど、新プランやキャンペーン情報を配信しており、メッセージの開封率は平均70%前後と同社のメルマガの倍以上、クリック率はメルマガの約5倍の7~8%を記録し、コンバージョン率も良好とのことです。

このように、LINEの活用をユーザーメリットが大きい目的に軌道修正したことで、企業側のメリットも享受できたほか、結果的に当初の目的であったユーザーとのコミュニケーションにもつながっています。

まとめ

本記事では、バス事業にデジタル技術を活用することで、コスト削減や業務効率化に加え、新たな価値創出や持続可能な事業運営に寄与することを、具体的な7つの事例を通してご紹介しました。

これらの事例は一例ですが、事業発展のヒントとしてご活用いただけたら幸いです。

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