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【後編】政治家 小林史明氏が語るテクノロジー実装社会、IoT・AIで「ヒト起点の政策」をつくる

【後編】政治家 小林史明氏が語るテクノロジー実装社会、IoT・AIで「ヒト起点の政策」をつくる

国会議員として「テクノロジーの社会実装」に奔走する小林史明氏(35歳)。本稿では、小林氏に行ったインタビューの後編をお届けする。

前編はこちら

テクノロジー実装の前に、まずインフラの「標準化」を

IoTNEWS代表 小泉耕二(以下、小泉): テクノロジーの社会実装には、ITシステムの標準化がまず必要であるということを伺ってきました。他に、国として標準化を進めている領域はありますか。

自民党衆議院議員 小林史明氏(以下、小林): 無線ネットワークです。消防、警察、海上保安庁などの各省庁はそれぞれ独自の無線機器を使っており、世界の先進国ではその一元化を目指す「PSLTE(Public Safety LTE)」の取り組みを進めています。日本語では、「公共安全LTE」と呼んでいます。

つまり、従来の無線機を、私たちが持っているスマートフォンのようなLTEの電波が受けられる端末にすべて置き換えようという取り組みです。そうすれば、画像転送もできますし、トランシーバーのようにA地点とB地点の直接通信もできます。

端末と電波を共通化し、大きい基地局で電波をカバーすることで、災害時でも組織を超えて、連絡ができます。いままさに総務省で取りまとめており、これから順次、各省と話をしていきます。

小泉: 笑い話ですが、『踊る大捜査線』の映画版で、「レインボーブリッジ封鎖できません」というフレーズが流行りました(『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』)。

なぜ封鎖できないのかというと、あの一帯は、管轄が複数の国・自治体の機関に分かれており、封鎖するにはそれぞれ別に許可を得なければならないからです。

自民党衆議院議員(3期) 小林史明(ふみあき)氏:1983年、広島県福山市に生まれる。2007年、株式会社NTTドコモ入社。2012年、衆院選に公募で出馬し初当選。党青年局長代理、行政改革推進本部長補佐、「人生100年時代」の制度設計特命委員会事務局次長などを歴任する。現在は総務大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官を務め、電波・放送・通信関連の規制改革を中心に、「テクノロジーの社会実装」に取り組む。

小林: それは、アメリカでも9.11(アメリカ同時多発テロ事件)の時に問題になりました。政府・州・市にはそれぞれ管轄の違う警察組織がありますが、お互いに全く連絡が取れないということが起きたのです。

それから数年かかって、今年ようやく整備が始まったようです。日本では、昨年の夏くらいから議論を始めて、今夏には結論を出し、これから整備を始めていくという状況です。

小泉: なぜ、そういうことが起きるのでしょう。情報が漏れないように、共通回線を使ってはいけないということですか。

小林: そうです。防衛省などは特に気にします。ただ、セキュリティの技術レベルは十分上がってきていますから、あとはコスト面をクリアできれば、実現できるのではないかと思います。

小林: (テクノロジーの実装に向けて)まだまだやっておかなければならないことがたくさんありそうですね。

小泉: そうなのです。問題は、財源がないために実現できていない政策があることです。少子化対策がそうです。もしかしたら、イノベーションへの投資もそうかもしれません。

そのためには、やはり固定費を抑えていき、その分できた財源を投資に回していく。そうすることで毎年数千億のお金が生まれてくれような状況をつくりたいのです。

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IoT時代には、テレビとスマートフォンも垣根を超える

小泉: 5GやLPWAなどの新しいネットワーク技術が注目されています。それについては、何か取り組みはされていますか。

小林: 5Gについては、全国で実証実験のサポートをしています。私が特に面白いと思っている事例は、地方にある建設機械を都心部で遠隔操作し、地方で誤差なく動かすというものです。これは素晴らしいソリューションだと思います。

このような事例を全国的に展開していくには、電波を割り当てる方式や利用料などの制度設計が重要になってきます。そこは、私たちの役割です。

小泉: 海外では、5Gの具体的なユースケースを打ち出している企業もあります。私としては少し焦りを感じているのですが、日本の準備は万端なのでしょうか。

小林: 総務省を中心に、日本全体でなるべく早く導入できるよう、時間軸を前倒す施策を始めています。一方で、5Gをどう活用するのかが重要なので、日本政府としてはいいモデルをできるだけたくさん、早くつくっておく必要があると考えています。

日本ほど通信環境の整った国は他にありません。ですから、日本は5Gの事業を進めるうえでは、とても適した場所だと思います。政府としては、その点をしっかりと打ち出し、もっと民間の投資を呼び込んでいくことが必要だろうと考えています。

左:自民党衆議院議員 小林史明氏、右:株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

小泉: ネットワークといえば、NHKのネット同時配信も、小林さんが中心になって進められたそうですね。

小林: はい、総務省の担当部門と一緒にやっています。NHKのテレビ放送を、スマートフォンなどの端末でも同時に見られるというサービスです。いま、政府からNHK側に改革の条件を求めています。

実現は、2019年なのか、2020年なのか、その時期はNHK次第ですが、テレビ放送がスマートフォンで見られる時代がまもなくやってきます。

この取り組みの重要なポイントは、もはやテレビもIoTデバイスの一つになる時代にてきているということです。テクノロジーが進化した時代においては、見る端末は何であってもいいのです。

次ページ:課題があるからこそ、「この国の将来は明るい」

課題があるからこそ、「この国の将来は明るい」

小泉: お話を伺っていると、テクノロジーに関する知見が、省庁の方にも必要になる時代がきていると感じます。

小林: 総務省で業務をするようになって思ったことですが、実は、役所にはテクノロジーに詳しい人は多いのです。とくに総務省はそうです。

大事なことは、彼らが仕事をやりやすい環境をつくっていくことだと思っています。そのためには、意思決定のスピードを今よりもずっと速くしていく必要があり、これにはやはり政治の努力が必要です。

一方で、最新のテクノロジーを学べる時間がないという問題もあります。そこで、総務省では「働き方改革」のチームを立ち上げて、新しいことを学んだり、他の省庁とプロジェクトを進めたりする、「余白の時間」をつくる取り組みを始めます。

政治家になってみて本当に思うことですが、私は、この国の将来は明るいなと思っています。

小泉: それはなぜですか。

小林: こんなにテクノロジーが使われていなくて、解決すべき課題がたくさんあって、役所には優秀な人材がたくさんいるのに、その能力は十分に発揮されていない。

それをすべて開放していくことができるならば、この国の将来は明るいなと思っているのです。つまり、「のびしろ」があるということです。そこをやり切れるかどうかは、まさに私たち、政治家の力量にかかっています。

自民党衆議院議員 小林史明氏

小泉: 「のびしろ」という観点では、IoTの場合、どんなに技術があっても、それを実証するフィールドがないという問題があります。

その理由は、IoTとITの違いにあります。ITは、いわば突如出てきたマーケットです。一方、IoTはもともとある産業がIT化されることによってできるマーケットです。

産業は、リアルな現場の世界ですから、人が怪我をしてしまったり、最悪の場合には亡くなってしまったりすることもあります。そうした現場でIoTを実証するというのは、とても難しいことです。

IoTで世の中が大きく変わると言われていながら、うまくいかないことが多いのは、大きく変化することであるがゆえにテストができないという問題があるからなのです。

ですから、そうした実証の場があれば、テクノロジーはもっと活かせると思います。

小林: そうですよね。総務省としては、さきほどの5Gの事例のように、実証実験の場は提供しています。ただ、何かこちらでコンテンツを用意するというよりは、「こういう社会課題があるので、解決できる人たちに参加してほしい」という打ち出しをして、複数の企業などでチャレンジをするという場づくりをサポートしています。

そういう場づくりの機会を、今後はもっと増やしていきたいと思っています。

次ページ:テクノロジー実装社会は、ヒトが起点となる「フェアな社会」

テクノロジー実装社会は、ヒトが起点となる「フェアな社会」

小泉: 最後に、未来について伺います。10年後、20年後の日本を、どのようにイメージされていますか。

小林: フェアな国にしたいと思っています。努力している人、実力のある人が正当に評価される。不必要な支援はしない代わり、本当に困っている人をちゃんと助けられる社会。

今はベンチャーだからダメ、新規はダメ、前例がないからダメ…というダメシリーズが色々なところで見られます。

それ以上の理由が説明できない壁。それは、日々の生活や仕事の中で、イノベーションや情報の流通、人の交流など意識を前向きになることを阻害します。フェアな国を実現するために、この壁を取り除いていくことが政治家の仕事だと思っています。

そこで、デジタル技術などのテクノロジーを駆使していけば、個人が特定でき、一人一人のステータスにあった行政サービスを提供できると考えています。

自分から求めにゆくのではなく、一人一人に合ったものがプッシュ型で提供される。あとは、自分が選択さえすれば、サービスを享受できるフェアな社会です。

小泉: まさに、テクノロジーの基盤が活きる社会ですね。

小林: はい。これまでの日本の政策は、どちらかというと、「モノ起点」だったと思います。技術を持った組織を育て、人を育てれば、いいモノができて、それが人を幸せにするとという考え方です。

ただ、これからはそうではなく、デジタルが実装されるがゆえに、「ヒト起点」の政策が可能になると思います。マイナンバーがあり、ビッグデータがあると、ある課題を何人の人が共有しているかということがわかるのです。

100人が課題を持っているなら、その課題を解決するためのテクノロジーを考え、そのテクノロジーをつくるための座組をつくる。そうした「ヒト起点」の政策を担っていきたいです。

本日は、ありがとうございました。

自民党衆議院議員(3期) 小林史明(ふみあき)氏:1983年、広島県福山市に生まれる。2007年、株式会社NTTドコモ入社。2012年、衆院選に公募で出馬し初当選。党青年局長代理、行政改革推進本部長補佐、「人生100年時代」の制度設計特命委員会事務局次長などを歴任する。現在は総務大臣政務官 兼 内閣府大臣政務官を務め、電波・放送・通信関連の規制改革を中心に、「テクノロジーの社会実装」に取り組む。

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