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2019年のIoTは「エッジインテリジェンス」がカギになる ―八子知礼×小泉耕二【第13回】

IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では、第13回をお届けする。

2019年1回目となる八子と小泉の放談企画。昨年は「(業界別)プラットフォーム元年」というテーマを軸に、業界別の課題と近未来の予測について全方位から語ってきた。今年は分野ごとにゲストを呼んで議論するなど、テーマの「深掘り」を進めていく。本稿ではまず、2019年のIoT/AI分野のトレンドについて八子と小泉が話し合った。キーワードは「エッジインテリジェンス」だ。

エッジインテリジェンスで「無人化」が加速する

小泉: あけましておめでとうございます。この企画も2年目(13回目)に突入しました。前回は2018年を振り返り、どのような課題があるのかを共有しました。今回は、「2019年はどのような年になるか」というテーマで、議論を進めていきたいと思います。

八子: いつも新年を迎えると、その年がどのような年になるのか、何かしらのコンセプトを提唱してきました。2016年は「IoT元年」、2017年は「エッジ元年」、2018年は「(業界別)プラットフォーム元年」と言いました。

今年はおそらく、「エッジインテリジェンス元年」になるのではないかと思います。デバイスにAIが実装され、自ら制御し、動かす。そうしたスマートなエッジが、直接的に人間の生活やビジネスをサポートする環境に近づいていくと思います。

小泉: エッジデバイスがかしこくなるという意味ですか?

八子: デバイスというより、その中でふるまうソフトウェアであり、アルゴリズムですね。「インテリジェントエッジ」というとそれはデバイスそのものを指しますが、あえて「エッジインテリジェンス」というハードウェアとしてではない定義をしたいと思います。

小泉: 最近では、クラウドでつくったAIモジュールをエッジ上に簡単にデプロイするような最先端のしくみもでてきましたからね。エッジインテリジェンスが進むと、私たちにとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

八子: これまでだと、どんなにたくさんのデータが集まり、時系列で管理できたとしても、最終的に意思決定するのはヒトであるケースがほとんどでした。それでは、どこまでいってもヒトが楽になりません。

小泉: 確かに、たとえば生産設備の稼働状態の可視化においても、最後はヒトが原因を分析し、機械の設定を変えるなどの対応が必要ですね。

八子: そうです。なので、まだ「カイゼン」の延長にあると言えます。これからは、「カイゼン」そのものを自動化する、機械が勝手に「カイゼン」を行ってくれる、そうした方向にレバーを倒さないといけません。

「無人化」や「人口減少」、「熟練技術者の減少」などがテーマに上がってくる一方で、現状ではまだまだ人に依存しているところから脱却できていません。

小泉: 「無人化」という言葉は色々なところで聞くようになりましたね。自動車の無人運転しかり、無人スーパーしかりです。でも、まだまだ実証実験の段階から抜け出ていないイメージが確かにあります。「エッジインテリジェンス」により、そうしたことも実現できてくるのでしょうか。

八子: そうですね。クルマやお店、工場の設備機械、あらゆる場面においてインテリジェントなデバイスが自動的にふるまうような方向へむかうでしょう。

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無人化でヒトの仕事はどうなる? Uberとコマツの事例から考える

小泉: 2年ほど前に、八子さんがセミナーでお話しされていたUberの話を思い出しました。Uberの配車サービスにおいては、どのクルマがどの場所のヒトを乗せるのかということは、すべてシステムが決めています。そこにヒトの意思決定は介在していませんね。

八子: そうです。クラウドのアルゴリズムによって、ヒトが動かされている状態です。

小泉: どちらかというと、デジタルによってヒトが動かされているというイメージに近いですよね。

八子: ええ。Uberの場合には、今後自動運転が実現すると、ドライバー自体も必要なくなります。

小泉: そうですよね。「エッジインテリジェンス」が進むと、よりいっそう、そこにヒトは介在しないということになります。これはしばしば批判の対象にもなる議論です。

ただ、私は無人化が進んだからといって、ヒトの生活がつまらないものになるわけではないと思っています。Uberのシステムが配車を勝手に決めているからと言って、現に私たちは腹が立ったりしているわけではありません。むしろ便利だと思って活用しています。

八子: そうですね。あとは、私たちが本当にやりたいコトにフォーカスできるようになると思います。自分の存在価値がなくなるわけではなく、やらなくていい作業から解放されるということだと思います。

(仮)2019年のカギは「エッジインテリジェンス」による全体最適化 ―八子知礼×小泉耕二【第13回】
株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

小泉: 大きな方向性をヒトが打ち出さない限り、新しい何かのサービスは始まりません。システムや機械は所詮、最適化しているだけですから。Uberの次のサービスをUberのシステムが勝手に創り出すことはできません。

八子: コマツが開発した自動運転の建機がわかりやすい事例です。聞くところによると、その建機を使えば、入社したばかりで建機を触った経験がまったくないドライバーでも、熟練者が何年もかけて習得できるような「法面(のりめん)」(※)の技術を3日間で可能にするといいます。

そうすると、建設現場の施工の仕方が変わります。そして、究極的には「法面」をいかにうまくつくるかというではなく、施工全体を管理したり、建機がどのように動いているかを把握したり、より難易度の高い仕事に注力することができます。

そうした、ヒトの働き方をより価値のある方向に導いていくところが、コマツの場合には徹底しています。それはやはり「現場が困っている」「現場の熟練者が少なくなっている」という現実をしっかり受け止め、その結果、無人化せざるを得ないという判断が首尾一貫しているからですよね。

※切土や盛土により作られる人工的な斜面のこと

小泉: 私が聞いた話では、河川で掘削した土砂を、盛土するため建設現場に運ぶのですが、その間の道は山の一本道であるケースが多いと言います。なので、その道に土砂を積んだダンプトラックが何台も縦列してしまうと、一般のクルマが走れなくなり、迷惑になってしまうと。

そのような場合には台数を減らして運用するらしいのですが、適当なオペレーションだと、河川でダンプがずっと待機していたりして、効率がどうしても悪くなります。これを、コマツではシステムで全体最適して、「今、土を取りに行きなさい」「この道を走りなさい」「ここで待っていなさい」といった指示を自動で出せるしくみをつくっています。

八子: 現場でダンプや建機に乗っておられる方は、自分たちが最適な形で走っているであろうと思っている。しかし、全体俯瞰してみれば、必ずしもそうはなっていない。それを全体俯瞰しているクラウド、およびそのクラウドからの指示によってエッジ側、つまり自分たちが運転しているクルマや使用しているデバイスがシステムによって全体最適化されるという環境の中で、人間が快適にふるまうことができる。そうしたしくみが必要です。

小泉: 物流の「バース」(※)もそうですね。適切なオペレーションができないと、バースの前にトラックがずっと待機するという状況になってしまいます。

※物流倉庫などでトラックを停めて積卸しを行うところ

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システムとヒトの協働がテーマとなる時代へ

八子: エッジをインテリジェントにするには、たくさんのデータが必要です。その点はこれまでと同じですが、今後はそのデータからつくったアルゴリズムを、汎用的なモデルとして現場に実装していくことが重要です。毎回、対象のデバイスや設備が変わるたびに使用するモデルが変わるようでは、現場での展開が進みにくくなりますから。

ある程度アルゴリズムとして確立されたものが、インテリジェンスとして動いていく。物流ならば、全体のプロセスから学習した結果を用いて、コンテナを最適化し、ガントリークレーンを最適化し、ヤードクレーンを最適化し、AGVの走行経路を最適化するわけです。

ですから今後は、そうしたエッジインテリジェンスな環境において、では「ヒトは何をするのか」にフォーカスがあたる時代が、数年後にくるのではないかと思いますね。

小泉: 「単純労働から解放される」ということだけではなく、その分、私たちに何ができるのかをもう少し考えていかなければなりませんね。

私たち自身が進化していくというマインドを持たないと、いつまでも古い設備や社会のしくみから脱却できません。1900年代には「馬車から自動車へ」というようなイノベーションはあったものの、ヒトがチェックして、指示して、動かすといったベースのしくみは、実はそこまで変わっていません。そもそも、今のしくみのままでいいのか? もっと考えていかなければなりませんね。

株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

八子: 今後は、やはりどこか1社だけが覇者になるということはなく、インテリジェンスが普及するほど、相互のインテリジェンスがスムースに連携できるかが重要になってきます。そうすると、協創が必要です。1つの会社では完結しません。

小泉: 2018年を見ていると、そうした取り組みは活発になってきていますね。

八子: そうですね。これまで異なるプロトコルで閉じていたようなソリューションにおいても、連携が進んできました。昨年は「(業界別)プラットフォーム元年」と呼んでいましたが、自分たちのプラットフォームで閉じるのではなく、データを外部に開放して新しいアプリケーションをつくるというような取り組みが進んでいます。

小泉: 数年前から八子さんが言われてきたことは着実に進みつつあるような気がします。そして、2019年はついにエッジがかしこくなると。IoTというと「データを吸い上げる」ことだけを指しがちですが、実際にはその逆の方向、「アクチュエート」(現実世界に働きかけること)しないといけません。これは、私も著書などを通して訴えてきたことです。

進展のスピードの問題はあっても、データを取ること自体は当然できるでしょう。問題は、いかにそのデータを使って現実世界にアクチュエートするかです。それが、エッジインテリジェンスによって進んでいくような気がします。

八子: そうですね。2018年の「プラットフォーム元年」など、これまでの予想はどれも外していないはずですから、今回もきっと間違いないでしょう。

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