本稿は、一般消費者向けIoT/AI製品の事業企画を支援する「IoTNEWS生活環境創造室」(室長:吉田健太郎)が、イノベーションに挑むライオン株式会社の取り組みを紹介する連載の第1回です(全4回)。
クリニカ、キレイキレイ、トップ、バファリン―。私たちの生活に欠かせない日用品を、1891年の創業以来120年以上にわたって開発し、提供してきたライオン。同社は2018年1月、研究開発本部に「イノベーションラボ」を新設。製品の構想段階から社外と連携する「オープンイノベーション」を推し進め、デバイスやサービス、アプリなど、新しいタイプの製品開発に取り組んでいる。
目にするのはある意味、「ライオンらしくない製品」ばかりだ。しかしそこには、口腔衛生やヘルスケア、皮膚・毛髪に関する知見、そして生活者との豊富なタッチポイントといったライオンの強みが、センサーや通信機器、AIなどの新しいテクノロジーとかけあわされている。
発足から1年が経とうとしている今、どのような成果が生まれているのか。「IoTNEWS 生活環境創造室」では、イノベーションラボで革新に挑む4名の研究者を取材した。第1回の本稿では、ライオンが今年の9月、クラウドファンディングサイト「Makuake」で公開した美容機器「VISOURIRE」の開発を担当する、川崎亜沙子研究員に話を伺った(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)。
女性が最も気にするのは、ほうれい線と肌のたるみ
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 早速ですが、これは何という商品ですか?
ライオン 川崎亜沙子研究員(以下、川崎): これは「VISOURIRE(ヴィスリール)」といいます。
小泉: ヴィスリール…、何語ですか?
川崎: 「VI(ヴィ)」は「美」、「SOURIRE(スリール)」はフランス語で「笑顔」という意味です。「女性を美しい笑顔へと導く」という製品のコンセプトを表す造語です。
小泉: なるほど、「美しい笑顔」ですか。つくったきっかけは何ですか?
川崎: 美容において、女性が最も気にしているテーマは「肌のたるみとほうれい線」であることが調査でわかっています(2018年ライオン調べ)。これに対し、弊社の強みが活かせないか考えていたところ、弊社の口腔科学と皮膚科学の研究知見から、顔のコリやほうれい線の原因は皮膚の深いところにあり、口の中からアプローチした方が距離的に近いため効果的ではないかという仮説を立てたことが、開発の出発点です。
小泉: なるほど。ライオンならではのオーラルケアと皮膚科学の知見が背景にあったわけですね。でも、それを「美容」というまったく異なるアプローチで使ったのが「VISOURIRE」だと。どうやって使うのですか?
川崎: シリコンヘッドを口の中に入れ、頬の裏側に押し当てながら上下に動かします。頬だけでなく、唇の内側などまんべんなく使っていただくことができます。表情筋へのアプローチを手軽に実現します。
小泉: なるほど。「口の中から使う」というのが特徴だと思いますが、こういう製品は今までなかったのですか?
川崎: 製品はありませんが、「オーラルリフレクソロジー」という口腔内エステが知られています。歯科など、限られた場所で受けることができる施術法です。
小泉: 製品の着想から実現まで、大変だったのではないですか?
川崎: そうですね、まったく新しい技術ですし、ブランドもないので大変でした。でもその分、自分たちが考えたブランドの価値観をもとに、製品の完成までやり遂げられたのはとてもいい経験でした。
小泉: コンセプトは「女性を美しい笑顔へと導く」ですよね。それを、製品に落とし込むところまでやれたと。
川崎: はい。製品そのものもそうですし、クラウドファンディングのページ作りからプロモーションまで、すべて一気通貫で進めています。
顧客の声とチャレンジする社内風土が開発を後押ししてくれた
小泉: 川崎さんの専門分野は化学ですか? 「VISOURIRE」自体はデバイスですし、全く違う分野なので苦労もあったのではないかと想像します。
川崎: そうですね。私の専門は化学ですが、「VISOURIRE」の開発にあたって必要な他分野の知識は、社内で各技術を専門にしている研究員からアドバイスをもらって勉強しながら進めました。
小泉: 「VISOURIRE」はクラウドファンディングサイト「Makuake」で公開されていますね。反響はどうですか?
川崎: 色々な方からフィードバックをもらう機会ができたことがとてもよかったです。幅広い年齢の方からご意見をいただけましたし、女性向けの製品ではありますが、男性の方も興味があることもわかって。
小泉: だと思いますよ、私も欲しいですから(笑)。具体的には、どんな声がありましたか?
川崎: 「妻のプレゼントとして購入しました」、「初めて見たので試してみたい」、「まさにほしいと思っていた製品」といった応援コメントをいただいています。
小泉: 「これは製品化できるな」と思った瞬間はありましたか?
川崎: 私たちがターゲットとして想定していた方々に使ってもらい、実際に喜んでもらえた時は「いける」と思いました。
小泉: とはいえ、着想をカタチにしていくのは簡単ではないと思います。「儲かるのか?」「製造コストはどうなのか?」と社内での壁もあったのではないですか?
川崎: そうですね。ただ、このイノベーションラボもそうですし、ライオン全体が今、新しいことに取り組んでいこうという風土がすごくあります。なので、社内の人はすごく協力してくれました。もちろん社外の人も含め、色々な人の協力があって、ここまできています。
小泉: 今後はどのように進めていきますか?
川崎: まずは、お客様に体感していただく機会を増やしながら、「VISOURIRE」というブランドの価値を高めることに注力していきます。
小泉: ライオンさんのさまざまなブランド製品の中に、「VISOURIRE」の名前が並ぶ日がくるといいですね。貴重なお話、ありがとうございました。
【関連リンク】
・ライオンの新しい美容機器「VISOURIRE」(Makuakeサイト)
【豆知識】ほうれい線と肌のたるみが起こる原因
「ほうれい線やたるみ」の原因には「コラーゲンの減少による表皮の弾力の低下」「むくみ」「筋肉のこり(血行不良)」などがある。若いうちには、図にあるような層状になった皮膚の中で細胞分裂が盛んに行われることで、肌の柔軟性と弾力性が保たれる。しかし、年齢を重ねるごとにその働きが衰え始め、柔軟性が失われていくという。

