IoT NEWS

CES2019で見えた、「描かれた未来」がまだこない理由 ―八子知礼×小泉耕二【第14回】

IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では、第14回をお届けする。

2019年2回目となる八子と小泉の放談企画。テーマは1月7日~11日にラスベガスで開催された世界最大の見本市CES2019についてだ。毎年、現地で取材を行っている小泉は、今回のCESに「停滞感」を覚えたという。それはなぜなのか。CES2019 では何が起きていたのか。スマートホームの領域を切り口に、議論を行った。

そもそも、「スマートホーム」はなぜ必要か

小泉: この放談企画も今回で14回目です。先日、私はラスベガスで開催されていたCES2019を取材しました(レポート記事はこちら)。CESと言えば家電見本市ですが、最近では家電に閉じず、クルマやB2Bのサービスなど、さまざまな展示が見られます。そのため、CESは世界の「デジタル化」の潮流を知るためにも最適な展示会となっています。

今回は、そこで私が感じたことについて、八子さんから色々ご意見をいただきたいと思います。

八子: わかりました。

小泉: まず、CESにおいては、スマートシティやスマートホーム、モビリティ、そしてウェアラブルや各種ガジェット製品など、大小さまざまなレイヤーの展示があります。

私は、その中でも特にスマートホームの展示を楽しみにしていたのですが、今回は「停滞しているな」という印象を受けました。

これまでの流れを振り返りますと、まず、家の中にあるそれぞれのデバイスがネットワークにつながるようになりました。次に、それら単体のデバイスを統合する「ハブ化」が進み、さらにはそのハブが「Amazon Echo」のようなAIスピーカーに置き換わることによって、ヒトの言葉で自在に家電を動かす「テーマ化」が進みました。

そして、ついにこの先は「インテリジェント化」が進むだろうと予想していました。たとえば、ヒトが家電を動かすのではなく、家電がヒトの思いをくみとって、勝手に色々なことをやってくれるという世界です。ところが、今年のCESでは案外そういう展示は見られず、ほぼ昨年と同じだったのです。

八子: 私は今回、CESには行っていませんが、現地に行かれた何人かの方からお話を聞いたところ、みなさん同じようなことをおっしゃっていましたね。「目新しいものがなくてがっかりした」と。

小泉: やはり、そうですか…。

八子: スマートホームにおいては、おそらくですが、デバイスをインテリジェントにコントロールしようとするものの、ハード側がまだデータ収集の機能にとどまっているのではないかと思います。

これまでのIoTデバイスは、現場や環境のデータを収集し、クラウド側で学習するモデルをつくるインターフェースとしての役割が主でした。また、音声で操作をするといっても、「制御する」というよりは、インターネット上にあるさまざまなサービスと連携をしたり、家電の簡単なオン/オフを切り替えたり、というような延長線から抜けられていません。

この話は、前回申し上げた「2019年はエッジインテリジェンス元年になる」という議論と関係してきます。ただ、それに加えて、今回のCESでのスマートホームの実態をお聞きすると、ソフトウェアがインテリジェントになり、それをエッジ側にデプロイしようと思っても、「ハードウェアがまだそれを受け付けられる状態じゃない」のかもしれません。

小泉: 八子さんは、そもそも家電の「インテリジェントさ」って何だと思います? 家電にとどまらず、私たちに何をしてくれたら、それをインテリジェントだと思いますか?

八子: 先回り(予測)と自動化ですね。

小泉: たとえば?

八子: そうですね、電子レンジで調理をしていると、横でお皿がポンと上がってきて、料理が自動で盛り付けられるというような…。

小泉: なるほど。こんなのはどうでしょう。洗濯物を外に干したまま外出してしまって、急に雨が降り出してどうしようという時、ありますよね。そんな時、「あと10分後に雨が振りそうだ」と予測して、自動でしまうというところまでやってくれたらよくないですか。

八子: でも、「〇時に雨が降る」ときちんと予測できるなら、そもそも洗濯物は外に干さないですよね。

小泉: そうか…。

CES2019で見えた、「描かれた未来」がまだこない理由 ―八子知礼×小泉耕二【第14回】
株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

八子: この話はどこまでいっても、AIスピーカーのようにスマートフォンでの機能をボイスで代替して、手が離せない時でも操作できるといった延長戦を越えないですよね。

小泉: そうですよね…。

八子: 家の中の空調をコントロールする、光量をコントロールする、ブラインドをコントロールする。で、他に何があったんでしたっけ?という話です。「意外と多様性がない」、「あまり困っていない」、「メリットが感じられない」、だから進まないということが結局はあると思います。

次ページ:ソフトとハード、ライフサイクルが違うから起こる停滞感

ソフトとハード、ライフサイクルが違うから起こる停滞感

小泉: おそらく、もっとドラスティックにやらないといけないんですよね。「ランドロイド」のように、洗濯・乾燥のおわった衣類を入れたら、自動で折りたたまれて出てくるというような、ダイナミックなところまでいかないとだめなのかもしれません。

八子: 「ランドロイド」は画期的ですね。なるほど、だからそうすると、「大きめのハードウェア」がまずは必要になってきますね。また、その場合にはそれぞれがつながっておらず、ハードウェア単体で機能してもかまわないのかもしれません。

小泉: 確かに、自分の生活においても、機械単体だけでどうにかなるようなことがほとんどで、ITは実はあまり要らないですね。

八子: もしくは、ITの人たちが簡単に処理してしまうんだけど、結局ハードウェアの制御まで行きつかないのかなと。

小泉: IoTとはそもそも、ハードウェアとソフトウェアが混然一体となるような世界観だと思います。それについて、今回のCESの「停滞感」から思ったことは、ソフトウェアとハードウェアのライフサイクルの違いです。

ハードウェアの場合、設計してから販売するまでのライフサイクルは年単位です。ところが、ソフトウェアの場合、今日始めて明日できるということも可能な世界です。モノをつくるライフサイクルが大きく違うのです。

多くの場合、ソフトウェアの人たちが、「未来はこんな世界になる」というイメージを先に提示するわけですが、ハードウェアの人たちがそれについてこないと、いつまで経っても描かれた世界から先には進みません。このことが、「停滞感」に結び付いているのかなと思います。

株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

八子: そうすると、その開発手法やアプローチのままでは、未来永劫そのギャップは埋まらないですね。なおかつ、「どのマーケットを攻めに行くのか」によってアプローチが違うのではないでしょうか。

たとえば、自動運転においても、既存のクルマにレトロフィットなモジュールを後付けで提供する場合と、ハードウェアをまるごと最新のものに変えてしまうというアプローチがあります。この二通りに分かれると思います。

家も同じです。AIで家全体をフルに制御しようとすると、すべての機器をまるごとIoT/AIチューンされたものにするか、既存のハードウェアをうまくソフトウェアでラッピングしてしまうかの二通りです。

どちらに進むべきなのか、各社が逡巡してしまっているのか、レトロフィットな領域をやりつつも、新しいモノをつくる技術が止まってしまっているのか、いずれかが考えられますね。

小泉: 自動運転を見ていると顕著です。個々に見ていくと、これまでは大きなコンピュータをクルマに積んでいたものが、今ではコンパクトなボードになっているというように、進化はしてきています。ただ、レベル4の完全自動運転はまだ難しいというのが現状です。

八子: 総じて、クルマの展示はどうでしたか?

小泉: スマートホームと同じで、停滞していると感じました。

八子: そうですか…。

小泉: 一方で、トヨタのプレスカンファレンスでの発表は象徴的でした。ヒトが運転する前提で、危険を察知した場合に、機械が自律的によけるという安全をつきとめたしくみです(Toyota Guardian)。これは、「完全自動運転」と「手動運転」の溝をうめる技術です。こうした技術が積み重なっていくことで、最終的にはレベル4が実現するのだと思います。

八子: なるほど。各社、現実と理想の間を埋める技術に注力しているのか最中なのか、それとも水面下で着々と各社との協業が始まっていて、CESではなく他のデトロイトモーターショーなどで打ち出そうと考えているのか。どうなのでしょうね。

小泉: その点を、今後はさらに掘り下げていきたいと思います。本日はありがとうございました。

モバイルバージョンを終了