ソフトとハード、ライフサイクルが違うから起こる停滞感
小泉: おそらく、もっとドラスティックにやらないといけないんですよね。「ランドロイド」のように、洗濯・乾燥のおわった衣類を入れたら、自動で折りたたまれて出てくるというような、ダイナミックなところまでいかないとだめなのかもしれません。
八子: 「ランドロイド」は画期的ですね。なるほど、だからそうすると、「大きめのハードウェア」がまずは必要になってきますね。また、その場合にはそれぞれがつながっておらず、ハードウェア単体で機能してもかまわないのかもしれません。
小泉: 確かに、自分の生活においても、機械単体だけでどうにかなるようなことがほとんどで、ITは実はあまり要らないですね。
八子: もしくは、ITの人たちが簡単に処理してしまうんだけど、結局ハードウェアの制御まで行きつかないのかなと。
小泉: IoTとはそもそも、ハードウェアとソフトウェアが混然一体となるような世界観だと思います。それについて、今回のCESの「停滞感」から思ったことは、ソフトウェアとハードウェアのライフサイクルの違いです。
ハードウェアの場合、設計してから販売するまでのライフサイクルは年単位です。ところが、ソフトウェアの場合、今日始めて明日できるということも可能な世界です。モノをつくるライフサイクルが大きく違うのです。
多くの場合、ソフトウェアの人たちが、「未来はこんな世界になる」というイメージを先に提示するわけですが、ハードウェアの人たちがそれについてこないと、いつまで経っても描かれた世界から先には進みません。このことが、「停滞感」に結び付いているのかなと思います。

八子: そうすると、その開発手法やアプローチのままでは、未来永劫そのギャップは埋まらないですね。なおかつ、「どのマーケットを攻めに行くのか」によってアプローチが違うのではないでしょうか。
たとえば、自動運転においても、既存のクルマにレトロフィットなモジュールを後付けで提供する場合と、ハードウェアをまるごと最新のものに変えてしまうというアプローチがあります。この二通りに分かれると思います。
家も同じです。AIで家全体をフルに制御しようとすると、すべての機器をまるごとIoT/AIチューンされたものにするか、既存のハードウェアをうまくソフトウェアでラッピングしてしまうかの二通りです。
どちらに進むべきなのか、各社が逡巡してしまっているのか、レトロフィットな領域をやりつつも、新しいモノをつくる技術が止まってしまっているのか、いずれかが考えられますね。
小泉: 自動運転を見ていると顕著です。個々に見ていくと、これまでは大きなコンピュータをクルマに積んでいたものが、今ではコンパクトなボードになっているというように、進化はしてきています。ただ、レベル4の完全自動運転はまだ難しいというのが現状です。
八子: 総じて、クルマの展示はどうでしたか?
小泉: スマートホームと同じで、停滞していると感じました。
八子: そうですか…。
小泉: 一方で、トヨタのプレスカンファレンスでの発表は象徴的でした。ヒトが運転する前提で、危険を察知した場合に、機械が自律的によけるという安全をつきとめたしくみです(Toyota Guardian)。これは、「完全自動運転」と「手動運転」の溝をうめる技術です。こうした技術が積み重なっていくことで、最終的にはレベル4が実現するのだと思います。
八子: なるほど。各社、現実と理想の間を埋める技術に注力しているのか最中なのか、それとも水面下で着々と各社との協業が始まっていて、CESではなく他のデトロイトモーターショーなどで打ち出そうと考えているのか。どうなのでしょうね。
小泉: その点を、今後はさらに掘り下げていきたいと思います。本日はありがとうございました。
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。