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進まないプラットフォームの活用、乗り越えるカギは「境目(さかいめ)」のデータ ―八子知礼×小泉耕二【第22回】

進まないプラットフォームの活用、乗り越えるカギは「境目(さかいめ)」のデータ ―八子知礼×小泉耕二【第22回】

IoTNEWS代表の小泉耕二と株式会社ウフルCIO/株式会社アールジーン社外取締役の八子知礼が、IoT・AIに関わるさまざまなテーマについて月1回、公開ディスカッションを行う連載企画。本稿では第22回目をお届けする。

IoTNEWS小泉耕二と八子知礼の放談企画22回目。今回は「プラットフォーム」をふりかえる。2018年の年初に「プラットフォーム元年」を提唱し(※)、自らコンサルタントとして様々な「(産業別)プラットフォーム」の支援を手がけてきた八子は、今、プラットフォームを有効に活用できている企業の差が「明白になってきている」と現状を分析する。一体何が問題となっているのだろうか。うまく活用できている企業は何が違うのだろうか――。八子と小泉が議論した。

[資料DL可] どうなる?2018年のIoT/AI -八子と小泉が語る、2018年のIoTとAI、CESレポートセミナー・レポート

アプリケーションがあまり増えていない

小泉: 今回は「プラットフォーム」とそこに蓄積されたデータの活用がどうなっているのかについて、議論していきたいと思います。2017年頃から「プラットフォーム」という言葉が出はじめて、それぞれの産業ごとにプラットフォームが立ち上がってきました。

八子: 私も2018年は「プラットフォーム元年」になると年初にお話していました。

小泉: そうですよね。いわゆる「プラットフォーム」とは、様々な機器やヒトからデータを吸い上げて、それを色々な人が使えるような「共通基盤」という位置づけでした。とはいえ、データを吸い上げて終わりということではなく、重要なことは「データをどう活かすか」だと八子さんもずっとお話されていましたね。

ところが、実際に出てきたものの多くを見ると、確かにIoTデータを吸い上げることができ、データベースがあり、分析できたり、AIを使うことができたりします。そうしたシステムの話はよくわかります。ただ、そこにどのような業務ロジックがあったら、どのようなビジネス的価値を生み出せるかというところまで訴求しているケースは少ないように感じています。そのあたりはどうお考えですか?

八子: いわゆる産業別(業界別)のプラットフォームにおいては、事業会社のみなさんがIoTデータをためて、どんどん活用していきましょう、というムーブメントがあったわけですが、実際には現場の方たちがITのことがわからない、どのようなアプリケーションを作ったらよいのかわからないということで、新しいアプリケーションがどんどん出てくるという状況にはなっていないのが現状ですね。

小泉: 企業の立場に立つと、まず業務上の課題があって、それを解決するためにデジタル化が必要で、そうした要件からアプリケーションを1個ずつ作っていけばいいはずです。ただ、一つ一つそんなことをしていると無駄が多いので、プラットフォームでまとめた方がいいんじゃないか、とくにエコシステムとよく言われるように、1社だけではなく色々な会社が使えるようにした方がいいんじゃないか、ということが背景にあったと思います。そうした狙いが、実際は実現されていないのでしょうか?

八子: うまくいっているところ(企業や団体)と、いないところがあります。例えば、業務課題が比較的明確でITで解決しやすい場合はいいのです。しかし、生産機器や人の稼働状況をとろうとするような場合には、色々と制約があって、なかなかデータを集められない。仮にデータを集められたとしても、アプリケーションをどうやって作っていいのかわからない。さらには、それをすべて自社で作ってしまうのか、他社に依存するのか、他社に依存するならどういう事業者やIT企業に参画してもらったほうがいいのか、わからない。そのような理由で苦労している企業が多いように思います。

小泉: 事業会社だけではなく、ITベンダーも悩んでいる状況ですか?

八子: そうですね。ベンダーも現場の課題は見えているのですが、その深いところでは事業者の方がすでに取り組んでいるケースもありますし、さらにデータが必要だと判断される場合にも、そのデータがまだ十分に蓄積されていないために、IoTのしくみをまだ一から自分たちで構築しなおさなければならないというケースもあります。

すなわち、プラットフォームはデビューしたものの、まだデータが集まっていない。データのたまったプラットフォームとしてのデビューはまだなされていないということです。

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IoTが「1周」したことで、ようやく必要なものが見えるようになった

小泉: そうか……。今まで「とりあえず」でためてきたデータがすべてのアプリケーションで使えるわけではありません。ためた結果必要なものがわかり、そこで初めて不足しているデータに気づくわけですね。

八子: そうです。ですから、一回ぐるっとまわって、「IoTにもっと真面目に取り組まないといけないな」という結論に戻ってきているのです。ガートナーが8月30日に発表した「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2019年」で、IoTはようやく「過度な期待」のピークを抜けたわけですが、ここにきて、データを蓄積できていないという現状が露呈するとともに、どういうデータが必要で、どのようなアプリケーションで使われるか、それはどのような現場の課題を解決するのか、というところが焦点になってきたのです

小泉: 解決したかったことが不明確なまま、何となくデータを取っているだけじゃだめだと。

八子: もちろん当時からそれは課題とされていたのですが、どちらかというと、まずはプラットフォームの考え方があり、その先にアプリケーションの構築やデータの流通といった話が来てしまったのです。これは、私たちにも責任の一端はあると考えています。

そうした全体のロードマップから、「将来はこうなりますよ、だから今IoTに取り組みましょう」という話をこの数年ずっとしてきたわけですが、データが十分にたまっていないのに、一足飛びにプラットフォームにとびついてしまった感も否めません。

株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフルCIO(チーフ・イノベーション・オフィサー) IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼

小泉: 確かに、「とりあえずプラットフォームをつくってしまおう」という流れはありましたね。Googleのような企業があまりにも巨大なプラットフォームを作ってしまったものだから、焦ってしまった部分もあったと思います。

八子: Googleが扱うような「インターネットデータ」対「産業データ」という構図は、2017年頃から議論されていましたね。ただ、ひとくちに「データ」とはいっても、オープンにするものとそうでないものの区分――いわゆる「協調領域」と「競争領域」――が重要ですが、企業にとってはその区分がなかなかわからないのです。自社の事業モデルの中で何が最も重要なプロセスで、競争優位になるのかをそれぞれの会社が識別しきれていない――価格情報が競争優位なのか、それともオペレーションの部分なのか。そこを明白にしていかないといけません。

小泉: 企業がそれぞれのビジネスモデルを考える場合に、自社のモデルだけじゃ考えつくされていて行き詰まり感があったのは事実ですよね。ただ、いきなりエコシステムなどと言って、別の会社と組んで儲ける、といった話がすぐに進むわけではありません。その拠り所としてIoTなどのテクノロジーがあったわけですが、無理やりそこに寄ってしまった感は否めません。

では、企業はここでいったん踏みとどまって、あらためて自分たちの事業を見直すことが重要ですね。昨今だと「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉もできていて、デジタル化は単純にテクノロジーの利用ではなく、ビジネスモデルの変える話だとわかっている人も増えていると思いますから。そこの議論を再度進めていくことが大切でしょう。

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あらためて、「プラットフォームはITのしくみではない」

八子: 結局、プラットフォームをITのしくみだととらえてしまって、それを作りこむ方にフォーカスが行き過ぎているのです。我々もよく言っていることですが、プラットフォームというのは、ビジネスとITが融合しているもののことです。お客様には「ITのしくみをつくる話はしていません」といつも申し上げるのですが、それがなかなか理解されない。

大事なことは、IoTデータを使って仮想世界でシミュレーションを行い、現実世界で活用するという「デジタルツイン」の考え方です。これを使ってビジネスを変えていく流れがDXです。そのときに、たまったデータを自社だけで維持しきれない、アプリケーションを作りきれないので、外部に開放して知恵をもらいましょう――当然ながらその人たちにも儲けてもらうし、自らもそのプラットフォームの利用料をもらうことが前提で――というビジネスモデルの立て付けが大事なのです。

このことを、理解できている企業とそうでない企業がきわめて明白になってきています。シミュレーション環境を使ってビジネスのスピードを上げ、なおかつ新たなサービスをどんどん投入し始めているミスミさん(株式会社ミスミグループ本社:機械加工製品の販売などを行う)のような企業と、データはあるがシミュレーション環境ができていないために、アプリケーションが拡充していかない企業、この2つのパターンが明白になってきています。

株式会社アールジーン代表取締役/IoTNEWS代表 小泉耕二

小泉: プラットフォームを活用したデータの流通あるいは販売の話はどうでしょうか。

八子: データを販売している企業はあります。販売というより、APIを公開してサーバーにアクセスしてもらうという方法や、オープンデータとミックスして分析できる環境を提供する、というパターンですね。ウイングアーク1stさんが提供している第三者データ提供サービス、「3rd Party Data Gallery」(3PDG)などがいい例ですね。

小泉: データを頑張って集めたら自分たちのビジネスにも使えて、さらに販売して収益にもなるというバラ色の話が数年前からあったものですからね、注目は今でも大きいと思います。どうしたら売れるようなデータに仕上げることができるのか、何か「コツ」のようなものはありますか?

八子: バリューチェーン全体を見たときに、多くの人が「そこのデータさえあれば!」と思うようなボトルネックを探すことですね。それがだいたいの場合は組織と組織の境目だったり、手段と手段の境目だったりするわけです。そこに着目したデータを収集できているかどうか、なおかつそれがすぐに分析できるように整形されているかどうかが重要です。

活用できるようにクレンジングされているデータであれば、どの企業も「そうそう、それが欲しかったんだよ」という話になると思います。

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「境目」にこそ、ビジネスモデルを変革するチャンスがある

小泉: では、まずは自分たちのビジネスモデルを紙に書いてみることが大事かもしれませんね。サプライヤーやお客様なども全部書き出してみて、それらとの「つなぎ目」に着目し、そこに対して自分たちなら集められるデータの価値に気づいて、値付けをしていく。そうすれば、データの活用や流通が可能になってくるかもしれません。

八子: さらに言えば、データはビジネスのシミュレーションに効果を発揮するわけですから、そうすると未来の予測にフォーカスがいきます。来年の今の予測をする場合や、1週間後の出荷状況の予測をする場合に、どのようなデータが必要なのか。誰がそれを持っているのか。そこに対してアプローチして行くことが重要です。

机上のプラットフォームがまんなかに「どん」とあって、今どんなデータがありますか、という議論をするだけでは、過去のデータにしか目がいかないことになってしまいます。

小泉: 私の知っている農業の事例では、「来月の〇〇日に出荷できる野菜の量」が初めからわかっているといいます。なぜなら、それは土中の温度を測定することで、わかるからです。ある温度をこえると、「今が出荷のタイミングだ」と経験的にわかるのです。

ですから、そのデータを使えば、「いつ何トンの野菜が出荷できます」というように、スーパーなどに対して営業をかけやすくなります。野菜は天候などに影響されますから、安定供給は大手のスーパーにとって最も重要です。つまり、大手スーパーからサプライヤーに求める条件は、「安定供給」なのです。その企業はそこに着目したんですね。

野菜を作っている人、売る人、それぞれの境目で重要なことは、「正確な出荷量がわかること」なのです。この事例はデジタルの話ではないのですが、「境目」というのはこうしたことですかね?

八子: そうですね、生産者とマーケットの間には大きな境目がありますから。私がアドバイザーを務めている高知県のプロジェクト「IoP(Internet of Plants)」でも、施設園芸システムにIoTやAIを活用して、作物がいつどれだけ出荷できるかを正確に把握できるしくみの構築を目指しています。農作物はたくさん売っても値崩れしてしまいますから、バランスが難しい。畜産もそうです。だからこそ、そうした貴重なデータであれば、有償でも欲しいですよね。

小泉: うまく「境目」を見つけて、儲かるビジネスモデルを考え、そこで必要なデータを取っていく――この流れが大切ですね。もちろん、初めからは難しいので、PoCが必要な場合もあるでしょう。そこで、技術の検証ではなくビジネスの「概念実証(Proof of Concept)」をきちんと行うことで、みなさんの企業にとってどのようなデータが必要であるかがわかってくると思います。本日はありがとうございました。

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