2019年7月2日に品川で開催された「SORACOM Discovery 2019」内にて「スマートファクトリーから動画認識MLまで、製造現場IoTのホントのところ」と題された講演が開かれた。
講演では主に製造業に向けてIoTソリューションを提供するKYOSOと、実際にKYOSOのソリューションを現場に導入したトーア紡コーポレーションが登壇し、IoT導入における製造現場の変化についてのセッションがあった。
製造現場のソリューションを提供するKYOSO
講演では、まずKYOSOエバンジェリストの辻一郎氏から、KYOSOのスマートファクトリーに関する取り組みについて説明があった。
スマートファクトリーにおける「どこから手をつけて良いか分からない」に対応
KYOSOが製造業に向けて提供するのは、現場に取り付けるセンサーから工場の状態を可視化するモニターまでをパッケージ化した「IoTスターターパック」である。
KYOSO・辻氏によれば、「スマートファクトリーという言葉をよく聞くけれど、実際何から手を付ければいいのか分からない」という声をよく聞くという。
そこで様々な製造現場のシチュエーションに応じて選択できる、デバイス・クラウド・モニターがセットになったパッケージを提供する、と辻氏は語る。
また、講演ではパトランプの稼働状況をデジタル化する「IoT.kyoto SigTIA」などのオリジナル製品の紹介もあった。(写真は展示会場のKYOSOブースにあった実物)
現場を巻き込むことが肝心
KYOSO・辻氏は、自社のソリューションを説明した後に、製造業がIoT化を進めていく上での重要なポイントをいくつか列挙した。
その中でも特に辻氏が強調したのが、生産技術を扱う現場の人々を巻き込む、ということ。
企業が情報システム部門だけを動かしてIoT化を進めようとしても、上手くいかない例が多いという。なぜなら情報システム部門側の論理だけ進めようとするため、社内での横展開が出来ず、現場の共感を得ることができないからだ、とKYOSO・辻氏は述べた。
では現場を上手く巻き込んでIoT化を進めた企業はあるのか、ということで辻氏が紹介したのがトーア紡の例である。
次ページは、「トーア紡のスマートファクトリー化事例」
トーア紡のスマートファクトリー化事例
トーア紡の事例については、トーア紡IT推進部部長の中井邦義氏がゲストスピーカーとして加わり紹介した。
トーア紡はウールを中心とした繊維業を営む企業であり、中井氏は会社の中では情報システム部門を管理する立場にある。
中井氏が辻氏とのセッションで紹介したのは3つの事例である。
電力デマンドの可視化で現場の管理意識向上
1つは化学繊維を製造する四日市工場において、電力デマンド(30分間を1つの単位として計量される使用電力)を可視化することである。
これはPLC(シーケンサ)から工場内の電力デマンドを取得し、先ほど辻氏が紹介したKYOSOが提供するモニターによって可視化するというもの。
この導入の前に、中井氏はまず工場に何度も足を運び、現場の人たちの親睦を深めることからスタートしたという。
「今まで情報システム部門側で働いており、現場のことをほとんど知らなかったという思いがありました。まずは工場に通い、どこでどんなデータが取れるのかを現場の人たちからヒアリングすることで距離を縮めました。」と中井氏は語る。
現場の人々の意識が大きく変わったのは、KYOSOのソリューションを取り付けた瞬間だという。
中井氏は「現場の人たちもKYOSOがソリューションを取り付ける場面を見ていたのですが、こんなに簡単に取り付けが完了し、便利になるのか、と皆驚いていました。また、モニターによって、あらゆる場所で電力状態を見ることができるので、現場にいる全員で電力を管理しコストを削減していこう、という意識に変わりました。」と述べた。
温度の遠隔管理で現場の働き方改革
2つ目は化学薬品精製における温度計を遠隔でモニタリングできるようにしたこと。
トーア紡では化学薬品を精製する機械に温度計を付けていたが、このデータをクラウドに上げて遠隔でモニタリングできるようにしたという。
中井氏は「今までは休日でも工場に出てきて、逐次チェックしなければならなかったが、クラウドに上げることで遠く離れていても管理することができるので、現場の人の働き方改革につながった。」と語った。
それに対してKYOSO・辻氏は「離れてたところでも管理できるようにするという、ただそれだけで働いている人の意識を変えることができるという例ですね」と中井氏の発言に加えた。
無駄なアラームに気付く
3つ目はKYOSO・辻氏も紹介していたパトランプの稼働状況をデジタル化する「IoT.kyoto SigTIA」の取り付け。
ここでは「IoT.kyoto SigTIA」に蓄積されたデータを分析することで、実は工場内で必要のないアラームが発生していたことが分かったという。
中井氏は「データをチェックし、現場で結果を共有したことで、無駄なアラームが発生しないようにするためにはどうしたら良いか、という意識が生まれました」と語った。
上記のような事例を紹介した後に、「実際に現場に働きかけ、データを可視化することによって、今まで現場が気にしていなかったような事にまで意識が及ぶようになった。」とスマートファクトリー化を進めた際の気づきについて述べた。
次ページは、「製造業におけるAI導入」
製造業におけるAI導入
トーア紡の事例紹介に続いて、KYOSO・辻氏は自社のAI取り組み例を紹介しながら、製造業におけるAI導入に対する意見を述べた。
人物+商品認識アプリの開発
講演内で辻氏が紹介したのは、開発中の動画認証アプリである。
これはディスプレイに表示されている人影と商品の影に、自分の体を合わせるだけでAIが人物と商品を認識するというものだ。
AIが影に重なった顔とペットボトルの画像を認証し、画像が合致すればディスプレイ上に商品名と人物名が合っているかどうかの確認ダイアローグがでてくる。
KYOSO・辻氏によれば、このアプリの特徴はエッジとクラウドのハイブリットにあるとのこと。つまり物体(商品)認識はエッジコンピュータ側で行い、人物認識に関してはクラウドコンピューティング側で処理を行うという。
製造業におけるAIの使いどころ
ただし、こうしたAIの活用を万能のように思ってはいけない、とKYOSO・辻氏は述べる。
例えば先ほど紹介したAIアプリにしても、顔と商品を認識させるために何百枚もの画像を学習させる手間があるように、なんでもかんでもAIを導入するだけでは、得られる効果とコストが合わないという。
その上で、製造業での利用においても、導入できるところとできないところを見極める必要があることを辻氏は述べた。
辻氏が例として挙げたのが、トーア紡の紡績機械が並ぶ光景。機械が作動していない場合はイエローのマークが表示されているのだが、例えば機械の様子をカメラでモニタリングし、マーク表示の可否から稼働状況をAIに解析させることはできるだろう、という。
このように製造業でもAIの使いどころを上手く検討すべきである、と辻氏はAI導入について意見をまとめた。

