ウィングアーク1stは、様々なデータをBIダッシュボードで可視化することができる「MotionBoard」というオンプレミスとクラウドサービスを提供している。
そのMotionBoardのオンプレミスサービスをベースに、在庫管理の適正化を測るソリューションの開発を行い、パナソニック株式会社 コネクティッドショリューションズ社 メディアエンターテイメント事業部 門真工場における、プロジェクター製造の部品在庫の適正化に採用されたということだ。
在庫状況の適切な可視化に成功し、業務が進展しているというのだが、ここに至るのに、ウイングアーク1stとメディアエンターテイメント事業部門真工場の生産管理部門の間では、幾度とないやり取りがあったという。
そこで、どのようにしてこの在庫適正化システムを実現したのか、ウイングアーク1st 製造企画営業部 佐野 弘氏にお話を伺った。
(聞き手、IoTNEWS代表 小泉耕二)
在庫適正化ソリューションの目標は「儲かる工場」
IoTNEWS小泉(以下、小泉): まずどのように在庫適正化ソリューションの開発をスタートさせたのかお聞かせください。
ウイングアーク1st 佐野 弘(以下、佐野): 私は普段BIコンサルタントとして働いています。最終的な目的は収益性の高い工場になっていただくという思いで活動しています。
そのための1つの手法として、在庫管理システムのデータを活用した、在庫の適正化を提案しています。
小泉: 製造業の部材在庫の適正化プロジェクトということですが、いうほど簡単ではないと思います。当初、大変だったことはなんですか。
佐野: 当初はお客様も本当に在庫の適正化が行えるのかと半信半疑で、直接「これを使えば在庫が本当に減るのか。」と聞かれたこともありました。
その時は正直どういった結果になるのかわかりませんでしたので、「分かりません。だからこそ試していただけませんか。」と、先ずは共に挑戦してみてほしい、と投げかけていました。
小泉: 試してみて結果はどうだったのでしょう。
佐野: このソリューションは、テンプレート化されているものなので、データをご準備いただければお客様の実データで簡単に試すことができます。
最初に紹介した時点では、デモ用のデータでご覧いただいていたので、お客様もピンとこないという印象でした。そこでお客様自身の実データでご覧いただくことで、「この部品は何でこんなに滞留しているんだ?」という風に、リアルな状態をご覧いただくことができました。
実際に使いながら、「では品番をクリックしたら、詳細情報が見られるようにしましょう。」というように、お客様自身が気づいていないニーズを引き出しました。
小泉: そこは、ウィングアーク1stの MotionBoardをベースにしているので、設定をすればすぐに反映されるというワケですね。
佐野: そうですね。反映結果をすぐに目で見て確認できるところがメリットだと思います。
そのためには、デモ用データではなく、お客様の実データで行うことが効果的です。
小泉: 顧客の声を聞きながら精度を上げていったとのことですが、具体的にはどのような改善をされたのですか。
佐野: 当初のグラフでは、過去の状況を表していました。使用しているデータが前日までの入出庫データだからです。しかしながら例えばある部品が滞留していたとしても、本当にそれを削減すべきかは、今後使う予定があるか、つまり「未来の情報」が必要です。
それを見るためのグラフが、別のお客様の事例でありました。その情報も合わせて一つの画面で見られるようにしてほしい、という要望がありました。
そこで、クリックすると過去の状態だけでなく、それが今後使われる予定があるのか、という情報を見られるようにしました。
プロジェクターの生産計画から部材の所要量を計算したデータが基幹系システムにありましたので、それを活用しました。
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実現には、現場、情シス、データの専門家が必要
小泉: 未来というのは受注が入っている未来なのでしょうか。それとも受注が入っていない状態からの見込み生産での生産計画なのでしょうか。
佐野: 機種ごとの生産計画があり、MRP(Material Requirements Planning System:資材所要計画)によって、どの部品がいつどれだけ必要か「所要量」が計算されています。
小泉: SAPの中にもともと入っていた生産計画と、部品の在庫状況が入っているウィングアーク1stの在庫システムを紐付ければ、今後生産予定の製品と、それに関係するBOM(部品)が全部わかるということですね。
しかしSAPとつなぐという技術はかなり難しいものだと思うのですがどのように構築したのですか。
佐野: SAPのデータ構造などに詳しい情報企画部門のスタッフの方と協力しながら構築したということが大きいと思います。
私は在庫適正化の要件を満たすために必要なデータは何かということを伝え、そのデータをどこから持ってくるかという部分はこの情報機関部門の方に任せていました。
小泉: 協力も必要なことですね。構造や実現しようとしていることを理解し、適切な情報を適切に加工や連携を施しながら構築していかなければならないわけですから。
佐野: そうですね。我々と現場とシステム部門の方という三者で取り組んでいくということは他の案件でも重要になってきます。
うまくいかなかった例としては、システム部門の方起点でデータを活用したソリューションを構築していったのですが、実際に現場に提案したところ「必要ない」と判断され、導入に至らなかったということがありました。
ですから現場、システム、我々という三者が連携して構築していくことが大事だなと感じています。
小泉: 開発をしていく中で、現場や御社、上部システム部門で期待値の差が生まれることはないのですか。
佐野: BIのプロジェクトの特徴は、最初からやりたいことややるべきことが明確でないことが多い点です。
基幹系であればやるべきことは決まっているので、それを実現するために要件定義をしていけばいいのですが、BIは必ずしも業務に必要とは限らないシステムなので、「何を形づくればいいのか」を考えるところから始まります。
ですから担当の方と上長の方と、情報システム企画の方と話し合いながら進めていきます。
情報システムの方も単なる情報システム部分だけでなく、業務の中身をきちんと理解した方なので、現場に対して本当にこれでいいのかとお客様の中でディスカッションされます。
一見完成されたように見えても、実際の現場のオペレーションを踏まえるとうまく機能しないのではないか、という部分が見えてきます。「こういった情報も必要なんじゃないか」と、別の担当の方から意見が出ることもあります。
小泉: 情報システムの方だと俯瞰してみているからこそ見えてくる気づきがありそうですね。
佐野: ですからどなたか一人が正解を持っているということではなく、それぞれ意見を出し合いながら、少しずつ形作っていきました。
小泉: MotionBoardはもともとそのような柔軟性を視野に入れた製品なのでしょうか。
アジャイル的プロジェクト管理が成否を分ける
佐野: 使い方次第だとは思います。中にはウォーターフォール型のしっかりと要件を決め、設計をし、開発をしてという大規模なやり方で進めていく方もいらっしゃいます。
ただ可視化をしてすぐに直せるという点では、アジャイル的にやるのに向いているとは思います。
小泉: なるほど。現場の方も実際に見てみて次のアイディアが浮かんでくるというお話がありましたが、イメージが湧きますね。
ところで、お客様と一緒に開発をしていく中で、要望はあったが実現できなかったこともあるのでしょうか。
佐野: コネクティッドショリューションズ社の例でいくと、プロジェクトが約2ヶ月だったので、アジャイル的に進行していました。
週に一回打ち合わせをし、その結果を翌週までに反映させます。その結果を再度見てもらうと、また気づきが生まれる。というように、どんどん展開していき広がっていく話を、どのように収束させ落とし込んでいくかがコンサルの仕事です。
そういった中で期間と費用の都合もあるので、見送った機能というのももちろんあります。
小泉: それは話題が広がってしまい、本筋とはズレているから、見送ったということでしょうか。
佐野: 広がった結果、明確な部分については取り組みましょうとなりますが、少し曖昧なものは、無理して構築していっても後から気が変わる可能性が高い傾向にあると考えています。
そういった曖昧な要望に対しては、実際に使っていき、そこから改善していけばいいのではないかと思っています。
小泉: 具体的にはどういったことでしょうか。
佐野: 例えば在庫の品目が一万数千ある中で、それをただずらっと並べても見方がわからないですよね。ですから何を持って絞り込んでいくかということが一番重要になってきます。
その中でMOQと呼ばれる最小発注数量というものが、大きい数字だと実際に必要な数量よりも多くの部品を発注する必要があるため、在庫を増やす要因となるということがあります。
コネクティッドソリューションズ社にかかわらず言えることなのですが、見るべきポイントを分析して、こちらから提示して欲しいという要望があります。
例えば出荷が上昇傾向にあるようなものは、在庫確保しなければならないといったことや、出荷データを分析し、怪しい品目をAIや統計解析的に分析することで「システムが教えてくれる」といったことは、まだ実現できていませんが、今後やっていきたいことの1つです。
今は部品ごとですが、「製品で使われている部品」という単位で絞り込む機能というものを構築したいと思っています。
理由としては、重要な機種で使われている部品は注意して見るべきでしょうし、逆にこれから生産中止を予定しているものであれば、そこで使われている専用部品は抑えていかなければならない。
このように事前に手を打つために製品単位で見られるようにしたいと考えています。
自動発注の定義が「定期的に」や「ある一定数量になったら」といった単純なものではなく、製品の今後の動向によって発注されるような仕組み作りをしていきたいと思っています。
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儲かる工場には、原価に着目した収益管理も必要
小泉: 今後御社としての展望を教えてください。
佐野: 在庫という観点で言うと、ある電機メーカーさんにこのソリューションを紹介したら、「まさにこれだ」と言っていただきました。特に組み立て製造業様にフィットすると感じています。
「全く同じ課題です」と言われることが多くなってきているので、横への広がりという展開ができると思います。
また、冒頭でもお話ししましたが、弊社としては在庫に特化していくというよりは、収益性向上が最終目的です。
その1つの手段が在庫管理なのですが、もう1つのテーマが製造原価です。変動費と固定費で分けてというアプローチです。
在庫管理ソリューションを提案しても、全く響かないお客様もいます。たとえば受注生産方式ですと、基本的には事前に在庫を確保しません。
一方、受注生産方式の企業では、案件ごとの収益が分析できていないケースがよく見られます。
そこで、標準原価と実際の原価の差異を受注案件ごとに可視化し、最後になってから赤字だった、ということを防ぐためのアプローチでご提案をしています。実はこのような案件が在庫の案件より増えています。
原価は特に変動費に着目した収益管理で、在庫適正化に続く第二のソリューションです。
小泉: 具体的にはどのような内容なのでしょうか。
佐野: このソリューションでも、まずは受注のデータ、明細といった生データをいただきました。
そこで明細を見てみると、受注品目ごとの販売金額と、製造原価予算がたてられています。原価の中には固定費と変動費があり、変動費の中の材料費がいくらで、外注費がいくらくらいかという予算がたてられています。
一方でその受注した品目、例えば機械製品などは、製造には一定のリードタイムがかかりますので、材料や作業費が日々投入されることになります。
そこで初めて、実際の原価がその時点でわかります。ですから、もともと目標に立てていた原価と実際の原価で差異が出てくるわけです。
はじめに目標をある程度立て、そこに対してどう進捗しているかということを見ていき、今後使う予定の部品の費用なども計算していくと、納入のタイミングで、目標設定額を超えるかどうかというタイミングはどこかで見えてきます。
そこである一定の額を超えた時にアラートを上げるというものです。
このソリューションのポイントは、予算超過が見込まれる案件を予算内に収める為のものではありません。作りかけている製品の材料や労務費をを減らすわけにもいきませんので。
ただし、次の類似した案件に活かすことはできます。受注生産といっても繰返し受注生産形態や、類似した製品の場合、使用される部品や材料の、標準原価の見直しを行い、見積もりを精緻化していくことができます。
このソリューションも、紹介させていただくと全く同じ課題感を持っていたというお客様がいて、ニーズがあることを感じています。
今後のDXに向けて
小泉: 今まではSAPのデータは現場で持っている様々なデータとつなげるのが難しいというところで止まっていたと思います。
しかしここにきてIoTが盛んになったことで、製造業の現場の方たちもデジタル化を行い「つなぐこと」でのメリットを理解して、導入してもいいというマインドになってきているという意味ではやりどきなのかもしれませんね。
佐野: 以前はIT側とFA側が断絶されているケースが多かったですね。
小泉: そうですね。FAをわかっていながらIT技術がある人材というのは希少だと思います。だからこそ御社のような会社がIT系のシステムとOT系のシステムの間を取り持つことで、DXがより現実味を帯びてくると感じます。
佐野: 数年前まではデータを集めるという領域でしたが、いよいよデータを活用する時代に突入してきたなと感じます。
小泉: 今回の在庫管理システムでも集めたデータではなく、前からあったデータをうまく活用しているということで、まだまだできることの余地があると感じます。
原価の状況がきちんと見えて、見積もりの精度を上げ、さらに本来持たなくていい在庫も減縮されてくれば、BSもPLも改善されますので経営にかなりのインパクトがありますね。
今後も進捗があれば是非お話を伺いたいです。
本日はありがとうございました。

