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デジタライゼーションの未来、IoTとAIで”再定義”される製造業とモビリティ —IoTConference2018レポート1

コンサルティング事業を展開し、IoTNEWSの運営母体である株式会社アールジーンは、6月15日、年次イベント「IoTConference2018」を開催。各業界をリードする6名のゲストスピーカーの講演やパネルディスカッションをとおし、IoTやAIなどのデジタル技術で“再定義”される産業と社会の未来について共有した。本稿より、その模様を3回に分けてダイジェストでお届けしていく。

昨今、IoTやAIを中心としたデジタル技術により、世界は大きく変わろうとしている。それはゆるやかな変化ではなく、従来の価値観やビジネスモデルがまるごと“再定義”されるようなインパクトをもつと考えられている。このような現象は、欧米を中心に「デジタライゼーション(Digitalization)」と呼ばれている。

IoTConference2018では、そうして「デジタライズ」されていくさまざまな産業や社会における最新動向から、革新のカギとなるIoTプラットフォームやAI技術、3Dプリンティング技術といった個々の要素技術にいたるまで幅広くテーマを設定。それぞれの業界をリードする6名のゲストスピーカーを迎えた。

各産業の中でも、デジタライゼーションの影響を大きく受けると予測されているのが、「製造業」とヒトの「移動」(モビリティ)の分野。そこで、「製造業」ではインダストリー4.0の発信地ドイツに本拠を置くシーメンスの日本法人でデジタルファクトリー事業本部長をつとめる島田太郎氏、「モビリティ」の分野では昨年4月にデンソーのMaaS開発部長兼デジタルイノベーション室長に就任した成迫剛志氏が登壇。

また、コンサルタントとして多くの企業・自治体のIoT・AIのビジネス実装に携わるウフル専務執行役員・IoTイノベーションセンター所長の八子知礼氏、AI技術群「NEC the WISE」を基盤とし、さまざまな産業のデジタルトランスフォーメーションを支援するNECのIMC本部 本部長をつとめる中尾敏康氏。

そして、2016年にマイクロソフトからLINEに移り、プラットフォームエバンジェリストとしてB2Cビジネスのデジタライゼーションを進める砂金信一郎氏、製造業向け3Dプリンタで約55%の世界シェアを持つストラタシス(Stratasys)の日本法人で代表取締役社長をつとめる片山浩晶氏を迎えた。

今回で3回目の開催となるIoTConference。各分野の最新動向がわかるだけではなく、業界の垣根をこえ、全方位からなる各セッションを通じて、デジタライゼーションの本質や日本企業がとるべき戦略、またそこに至るために私たちは何をしなければならないのか、そのヒントが見えてきた。

【ゲストスピーカー】(登壇順)
・株式会社ウフル 専務執行役員IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント 八子知礼 氏
・シーメンス株式会社 デジタルファクトリー事業本部長 プロセス&ドライブ事業本部長 島田太郎 氏
・LINE株式会社 Developer Relations Team マネージャー プラットフォームエバンジェリスト 砂金信一郎 氏
・日本電気株式会社(NEC) IMC本部 本部長 中尾敏康 氏
・株式会社ストラタシス・ジャパン 代表取締役社長 片山浩晶 氏
・株式会社デンソー MaaS開発部長兼デジタルイノベーション室長 成迫剛志 氏

デジタライゼーションにより、”10年後に企業の40%が姿を消す”可能性がある

デジタライゼーションの未来、IoTとAIで”再定義”される製造業とモビリティ —IoTConference2018レポート1
株式会社ウフル 専務執行役員IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタント/株式会社アールジーン外部取締役 八子知礼 氏

IoTConference2018、最初の講演者は株式会社ウフルの八子知礼氏だ。八子氏は冒頭、昨今IoTやAI時代といった文脈で語られる潮流の”本質”をとらえるには、「デジタライゼーション」という言葉の意味を理解しておく必要があると説明した。

「デジタル化」という言葉はこれまでも当たり前のようにあった。しかしその中身を振り返ると、インターネットの活用、紙から電子データへの置き換え、取引や支払いの手段のデジタルへの移行など、「アナログ」から「デジタル」への置き換えに過ぎない。

これは、欧米では「デジタイゼーション(Digitization)」と呼ばれるムーブメントだった。

一方、昨今世界で起きている「デジタライゼーション(Digitalization)」とは、バリューチェーン全体をデジタル空間上に”再現”してしまうことを指す。

デジタル空間で現実世界の状況をリアルタイムに把握し、未来を予測して最適化をはかることで、従来のビジネスプロセスを大きく変革することが可能になる。それを実現する技術や環境が、今まさに整いつつあるのだ。

この全く異なった二つの現象のとらえ方を誤り、「デジタル化に取り組んでいる」としながら個々のプロセスの部分最適に邁進していると、旧来のビジネスモデルを”破壊”し、新しいビジネスモデルをつくる企業が現れた時に、既存の企業は生き残っていけないと八子氏は指摘する。

以上の背景をベースに、八子氏は「日本のデジタルデータの活用が十分に進んでいない現状」や「デジタライゼーションが起こる社会の特徴」を解説。特に、これからは「業界の垣根がなくなっていく」ことに留意する必要があるという。

「あらゆるモノがデータ化されていくと、データやプラットフォームを通じて業界がつながる。そのような世界では、『製造業』や『IT企業』といった区分は関係ない。事業会社は自らデータ活用を進めていかないと、IT企業に既存ビジネスを奪われる可能性もある」(八子氏)

八子氏は、デジタル時代は業界の境目がなくなる「Connected Industries」へ向かうと説明(出典:ウフル株式会社)

しかし、バリューチェーン全体をデジタライズしていくとは具体的にどういうことなのか、デジタル空間で製品の開発や設計を行うことでどれほどのインパクトがあるのか。八子氏は製造業や土木建築の分野を例にとり、解説した。

また、企業がそのような仕組みを実装していくには、ビジネスの「プラットフォーム化」と「エコシステム化」が重要だと八子氏は説明。また、それらがなぜ必要なのかについても、ビジネスモデルの観点から解説した。

さらに八子氏は、「2018年は産業別プラットフォーム元年」だとして、各業界では今どのようなプラットフォームが立ち上がっているのか、自身がまとめた”一覧表”をもとに解説。会場にいる参加者がその写真を撮るため、スマートフォンのシャッター音が鳴りやまないという一幕もあった。

最後に八子氏は、「全ての企業、政府がデジタル化する時に来ている。さもなくば10年後までに今の企業の40%が姿を消すだろう」という、シスコの元CEOであるジョン・チェンバース氏の言葉を引用。参加者にデジタライゼーションの重要性を再度呼びかけた。

また八子氏は、「最近では、人間の処理能力を超えようとしているデジタル技術も出てきている。そのような場合、本当にそのまま進んでよいのだろうか。私たちは今一度、アナログの重要性と人間の能力の限界も意識しなければならない。すべてがデジタルに向かう中で、大切なのはヒトであるということを忘れてはいけない」とも語り、講演を締めくくった。

IoTの本質は、”汎用技術の組み合わせ”でできること

シーメンス株式会社 デジタルファクトリー事業本部長 プロセス&ドライブ事業本部長 島田太郎 氏

続いて、シーメンスの島田太郎氏が登壇。島田氏には、インダストリー4.0の中心にいるシーメンスがどのような戦略で事業を進めているのか、また島田氏自身が約10年間、航空機の設計に携わっていた経験も絡めながら、企業がIoTやAIを効果的に活用していくために大切なことなど、幅広い視点で語っていただいた。

まず島田氏は、日本企業の課題として「生産性が低い」ことを指摘。シーメンスの調査(各国の時間あたり購買力平価GDPを計算)によると、「先進国の中で、一円を儲けるのに最も時間をかけているのが日本」(島田氏)だという。

そのためには、従来よりも「市場へより早く・顧客の好みに合わせた製品を・コストミニマムで提供する」ことが重要であり、これはインダストリー4.0の背景でもあると島田氏は説明した。

中でも重要なのは、「コストミニマム」であり、「コストを最低限に抑えるためには、汎用的なモジュールの組み合わせをうまく使うことが大事だ」と島田氏は述べた。

その背景として、島田氏は、オーストリア出身の経済学者ジョセフ・シュンペーター氏(1883-1950)の「イノベーションの源泉の一つは、既存の知と別の既存の知との、新しい組み合わせである」という言葉を引用した。

イノベーションには、「知の探索」と「知の深化」の2種類があると言われている。日本は従来「知の深化」を得意としてきたが、それは時間がかかるというデメリットがある。

そのため、昨今のように市場の変化が速い時代には、対応を変えていかなければならない。つまり、「日本企業はすべて自社でやろうとするのではなく、既存の知の組み合わせでイノベーションをはかっていく必要がある」と島田氏は指摘した。

とはいえ、企業はどうすればよいだろうか。そこで、シーメンスはそれぞれの企業が汎用技術の組み合わせでイノベーションを実現するための”基盤”を提供するとして、その戦略を「デジタルエンタープライズ」と銘打ち、プラットフォーム事業を進めている。

具体的には、製品の設計・開発に関わるPLM(Product Life cycle Management)のシステムと生産現場に関わるMOM(Manufacturing Operations Management)の統合を可能にするプラットフォームを提供している。

「今までと何が違うのかと思われるかもしれない。しかし、それぞれ文化の異なるPLMとMOMの統合は、これまでの固定概念を壊さないとできないことだ。このようにインダストリー4.0では、ヒトの従来のイマジネーションを壊していくことが重要となる」(島田氏)

シーメンスのIoT基盤「MindSphere」における、パートナー企業とのエコシステム(出典:シーメンス株式会社)

シーメンスはまた、IoT向けのデジタル基盤「MindSphere」を「産業のOS(オペレーション・システム)」と銘打ち、展開している。

島田氏は、「IoTとはつまり、汎用技術が専用技術に置き換わることだ。工場のモニタリングであれば20年以上前からやってきた。しかし、それは専用技術でありコストはずっと高かかった」と説明。安価な標準モジュールの組み合わせで実現できることにIoTの意義があるという。

シーメンスは、企業がそうした標準モジュールを簡単に安く使える基盤であるとして、「MindSphere」のコンセプトを「産業のOS」としているのだ。

「OSとは吸収層、つまり”モノの違い”を吸収するものだと考えている。たとえばPCであれば、マウスを接続しようとすると別途ドライバーが必要だったが、今はそんな必要はなく、プラグアンドプレイだ。産業用もそうでなければならない」(島田氏)

島田氏は、「MindSphere」を導入したさまざまな企業のユースケースを紹介。その一つである、北陸にある製造企業では加工機やロボットの状態監視から入退室、電力、温湿度の管理にいたる、メーカーの異なるさまざまなの機器・システムをすべて「MindSphere」の基盤上で実行しているという。

最後に島田氏は、IoTのポイントは「標準品を組み合わせ、ユーザーがそれを自在に活用し、”勝手に体験を生みだす”こと」にあり、その基盤を提供するのがシーメンスであると語った。

シーメンス株式会社 デジタルファクトリー事業本部長 プロセス&ドライブ事業本部長 島田太郎 氏

IoTConference2018の続きの様子は、レポート2で紹介します。

【関連リンク】
ウフル(Uhuru)
シーメンス(Siemens)

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