IoTをゼロベースで考えるの第十七回目。モノの販売がサブスクリプション型(分割払いとか、保守サービス型)に移行していくという話は、IoTについて語られる文脈では頻出する考え方だ。
モノには多様なセンサーがつくので、センサーによって取得できる保守情報で故障を未然に防止したり、どんどん新しい機能をアップグレードしていくことで長期利用を実現したいというものだ。
いつも出てくる例としてはGEの例で、ジェットエンジンをサブスクリプション型で提供することで、いつもエンジンを最新の状況に保ち、故障も未然に防ぐ、というものだ。
しかし、これはB2Bの世界のことであって、B2Cの世界では容易にできない。
なぜかというと、このモデルは、顧客とメーカーが「いつでも、継続的に決済できる」関係でなければならないからだ。
かつて、iモードが主流だった頃、「ケータイ払い」なるものがあって、様々なサービスをNTTドコモが決済代行してくれるというものだ。これは、多くの人がiモードサービスでドコモにケータイ電話以外の課金も問題なしとしていたからである。
一方、多くの家電メーカーや自動車メーカーは果たしてこのような関係を顧客と構築できているだろうか?
実際、課金する仕組みはあるものの大半のメーカーはこういった「ペイメントエンゲージメント」がない。
メーカーで唯一、アップル社はこの「ペイメントエンゲージメント」を顧客と結べていると言える。アップルへの支払いは、指紋認証一つで可能となっている。
つまり、今後IoTで主流になると言われているサブスクリプションモデルをB2Cの世界に取り込もうとすると、ここが問題になってくる可能性があるのだ。
IoTのエコシステム全体を考えても、センサー側はたくさん作られている。クラウド側も様々なサービスがある。人工知能も無料で高機能なものが手に入る。ここまではすでにイメージがある人は多いはずだ。
しかし、実際に作った商品を売るとなるとどうだろう?ITによってマーケットは世界中に広がって、商品販売の方法も手段も多様化した。日本で受け入れられない商品も、遠く別の国ではとても必要になるかもしれない。これから様々なIoT企業が生まれるなかで、こういったことを考慮した販売や保守の体制をどのように引いていくのかは、とても重要な課題となる。
しかし、エコシステムとしてこのサブスクリプションを前提とした、「ペイメントエンゲージメント」がない以上、簡単にIoT製品をサブスクリプション型でリリースすることはできない。
一方、電子マネーが騒がれていて、この仕組みに多くの人が乗った場合、こういった問題も一気に解決できる可能性があるといえるが、クレジットカードの利用率がまだまだ高くない国においてはそう簡単に流通するとも思えない。
つまり、アップルほどの影響力のあるサービス事業者となるか、すでにペイメントエンゲージメントのある企業と組むか、B2Cにおいてサブスクリプション型のビジネスモデルを確立するには工夫が必要となるのだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。