ロボットが生活にも、産業にも入り込んできていて、どんどん身近なものとなってきている。そこで、特集「ロボット最前線」では、ugo COOの羽田卓生氏とIoTNEWS代表の小泉耕二が対談した。
特集「ロボット最前線」は全六回で、今回は第二回目、「2足歩行の実現性」がテーマだ。
羽田卓生氏は、ソフトバンクに入社後、携帯電話の雑誌編集、通信部門でのコンテンツ開発や端末開発を経て、ロボット事業を展開するアスラテックの立ち上げに参画。同社でロボット関連事業に携わり、AI(人工知能)関連やロボットの会社に在籍した後、現在はugoでCOOとして事業開発を担当する。
ugoは、主に、双腕(両腕)を使って様々な作業ができるロボットを開発しており、建物の点検業務や警備業務で利用されている。同社は工場でパーツを運んだり、工程の進捗を確認するロボットの提供も行っている。
IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 2つ目のテーマは、「2足歩行の実現性」についてです。2足歩行ロボットは社会にどれくらい浸透しているのでしょうか?
羽田卓生氏(以下、羽田): 2足歩行ロボットは、量産されて、実際に社会や現場で活用しているという事例は、まだありません。量産している企業もありますが、実際に現場や社会に導入されているわけではないので、まだ研究用途といえます。最近になって、ようやく、アメリカのBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)や中国の企業が、4脚のロボットを発表しています。
こうした4脚ロボットが今後は進んでいくことで、どこかのタイミングで4脚から2脚に進化するときが来ると考えています。そこで、私が注目しているのは、「まず4脚がどこまで進化するのか」と「4脚でどこまで商用化できるのか」という点です。4脚の延長線上に、2脚があるのではないかと考えているからです。
小泉: まるでダーウィンの進化論のようですね。
羽田: 現在、商用利用されているロボットの多くは、タイヤがついているクローラー型です。それが足になったことは、大いなる進化です。そこで、4脚ロボットの現状について、2つの事例を紹介したいと思います。
現代自動車の4脚ロボット「Tiger」
羽田: 最初は、Boston Dynamicsを買収したHyundai(ヒョンデ)が開発している「Tiger(タイガー)」というロボットです。「Tiger」は、普段はタイヤが付いている車型のロボットです。そして、タイヤでは走行できない場合に4脚になって移動します。
「Tiger」は、コンセプトイメージだけではなく、試作品も開発が始まっています。「Tiger」の価値は、自動車メーカが開発している点です。車は道具としてよくできています。ガソリンや電気といった燃料は使っていますが、以前と比べると少ないエネルギーで遠くまで走ることのできる道具です。
自動車メーカは、エネルギー効率を考えながら、耐久性や安全性を究極まで追い求めています。そうした自動車メーカが、新しい駆動部品として4脚を作っているという事実に可能性を感じます。
さらに、ロボットの研究開発を行っているBoston Dynamicsを買収しているという点も、リアリティーがあります。PoC(概念実証)的に、取りあえず作っているというよりは、社会的に意義のある多脚ロボットの商用化を具体的にイメージできるアプローチだと思います。
小泉: 「Tiger」は、Boston Dynamicsを買収している自動車メーカが作っているということで、現実的な未来が見えてきているということなのですね。
Agility Roboticsの二足歩行ロボット「Digit」
羽田: 2つ目は、アメリカのAgility Robotics(アジリティ・ロボティクス)が開発している「Digit(ディジット)」です。2足歩行のひとつの形として、実際にロボットを開発し、実証実験も開始しています。
これは、Boston Dynamicsの4脚ロボット「Spot(スポット)」のように関節が逆になっていて、点で立つ4脚ロボットを2脚にするという発想です。
2足歩行のメリットは、人間と同じように場所を取らないという点です。階段の上り下りや狭い通路にも入ることができるので、人が働いている環境になじみやすいという利点もあります。
さらに、倒れた際の安全性でも、2脚の方がより安全です。タイヤ型のロボットは倒れる際、面で横に倒れますが、2脚であれば足から崩れるように倒れます。加えて、きょう体は腕が付いついているにもかかわらず投影面積が狭いので、作業するテーブルに近寄りやすいなど、様々なメリットが挙げられます。
小泉: タイヤがあるとこうした小回りのきく動きはできません。車体が近づいてロボットアームを伸ばす仕組みにしたとしても、今度はバランスを取れなくなるなど、別の問題が出てくると思いました。
羽田: そうですね。このように、2足歩行についても、研究して実用に向けて取り組んでいる人たちがいます。現状はまだ実証実験を行っている段階ですが、4脚ロボットも5年ほど前は実証実験を行っていました。
4脚よりも前のクローラー型ロボットも、昔は実用化できるかどうか懐疑的だった段階から、今は社会実装が進んでいます。クローラー型ロボットが研究され始めてから社会実装された時間と、4脚が構想されてから商用化が見え始めた今のタイミングで考えると、いいスピード感で進んでいると感じています。
「空中送電」がバッテリー問題の解決策に
羽田: ただ、当然ながら課題もまだまだあるので、様々なブレイクスルーが必要です。例えば、安全な駆動部品を作ることや、より軽いバッテリーを作る必要性などが出てくると思います。そうした要素の技術開発が進むと、それらを組み合わせることで、商用化が近づいていくのではないでしょうか。
小泉: 最終的には量産するということを視野に入れた開発の必要もありますよね。
羽田: 例えば2足歩行ロボットを開発している企業は、先ほどのメリットを享受するため、軽いロボットを作りたいわけです。しかし、バッテリーは非常に重いため、面積の狭いきょう体に載せられるバッテリーとなれば、駆動時間が非常に短くなることが予想されます。ドローンのように10分程度しか、動けないものになるかもしれません。
そうした中、離れた場所から無線で電気を送ることができる「空中送電」に向けた法改正が日本でも行われ、実現に向けて企業が開発を進めています。空中送電が可能になれば、施設で動くロボットに対して常に給電(電気の供給)を行うことができようになるため、バッテリーの問題はなくなります。
小泉: 空中送電は、ビームのように無線で給電できるということですよね。そのビーム自体はどのように供給するのですか?
羽田: 現状の法律では、上からの供給となっているので、例えば、工場や倉庫などの施設の天井に給電するための仕組みを構築し、施設で動くロボットへ送電していきます。給電の仕組みが変われば、今まで実用化が難しかった道具も、活用できる可能性が広がります。
これまでも、パソコンやスマートフォン、IoT機器といった新たな道具が生まれることで、ネットワーク環境の整備や電源供給に関連する進化が加速しました。そうしたバランスの中に収まってくると、本格的な普及が見えてくるのではないでしょうか。
小泉: 「電源をどうするか」といった具体的な話が話題に上ってくると、実用化が近いという感覚があります。
ドローンが一般的に普及した際も、ホビー用ドローンを買ったユーザーが、5分から10分程度しかバッテリーが持たないということで、クレームをネットに書き込んでいるのをよく見かけました。こうした不満が出ているということは、すでに広がり始めている証拠でもありますよね。
羽田: そうです。課題が明確だと解決策が出てくるのも早いのです。
小泉: 2足歩行や4足歩行のロボットについても、未来が見えてきたと言えるわけですね。(第3回に続く)
この対談の動画はこちら
以下動画の目次 2)二足歩行の実現性(15:36〜)より
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