近年、EC市場の拡大や多様化する消費者ニーズ、そして深刻化する人手不足といった課題に直面している物流業界は、かつてないほどの変革期を迎えています。
燃料費の高騰や環境規制の強化も相まって、いかに効率的かつ持続可能な物流体制を構築するかが、各企業の喫緊の課題となっています。
このような背景の中で、単に最新システムを導入するだけでなく、「業務プロセスそのものを見直し、最適化する」というアプローチが不可欠です。
そこで本記事では、物流業における業務プロセス改善の具体的な進め方や実際に改善に成功した事例などをご紹介します。
物流業における業務プロセスの特徴と複雑性
まずは、物流業における業務プロセスの特徴を捉えていきましょう。
物流業の業務プロセスは、その性質上、非常に多岐にわたり、複雑に絡み合っています。物流特有の複雑性が、業務改善を困難にしている側面があります。
なぜなら、「モノが動く」ことが前提となっているため、そのプロセスは多種多様な工程から成り立っているからです。
主な工程は以下の通りです。
- 入荷(Receiving): 荷物の受け入れ、荷降ろし、検品、入庫処理
- 保管(Storage): ロケーション管理、棚卸し、在庫管理
- ピッキング(Picking): 注文に基づいた商品の取り出し
- 梱包(Packing): 配送に向けた商品の包装、緩衝材の封入
- 出荷(Shipping): 出荷検品、積み込み、送り状発行
- 輸送(Transportation): 拠点間移動、長距離輸送
- 配送(Delivery): 最終顧客への配達、軒先渡し
- 返品処理(Returns): 返品された商品の受け入れ、検品、再入庫または廃棄
これらの工程は単独で存在するのではなく、倉庫管理システム(WMS)、輸配送管理システム(TMS)、在庫管理システムなど、異なるシステムや部門間で密接に連携しながら進行します。
各工程における細かな手順や判断基準、そしてそれらを結ぶ情報の流れを正確に把握することが、業務プロセス改善の第一歩となります。
また、物流は、サプライチェーンの全てに関わってくる機能です。そのため、自社内だけでなく、サプライチェーンを構成する「生産者」「メーカ」「卸売業者」「小売業者」「最終消費者」といった様々なステークホルダーとの間で、密接な連携と情報のやり取りが必要となります。
例えば、メーカーからの入荷情報、消費者からの注文情報、運送会社との配送状況の共有など、「モノ」の流れだけでなく、「情報」の流れ、さらには請求や支払いといった「金」の流れも複雑に絡み合います。
これらの連携がスムーズに行われない場合、全体のリードタイムの延長や、情報共有の遅延による顧客サービス品質の低下を招く可能性があります。
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さらには、長年の経験と慣習に基づいた業務フローが根強く残っていることも、物流業の大きな特徴です。
特に、熟練作業員のスキルやノウハウに依存する「属人化」が進んでいる現場では、担当者の異動や退職によって業務品質が低下したり、効率的な方法が共有されにくいといった問題が発生しがちです。
属人化解消について詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
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他にも、手書きの伝票処理や、FAX・電話によるアナログな情報伝達、データの手動入力による二重管理などは、ヒューマンエラーの温床となるだけでなく、時間と労力を要する非効率性の原因となります。
これらの非効率性は、日々の業務に埋もれてしまい、表面化しにくいことも少なくありません。
これらの複雑な要素が絡み合う物流プロセスだからこそ、現状を「見える化」し、客観的に分析することが求められています。
現状の見える化を行うBPMN
現状の見える化を行う際、誰がどのような作業やタスクを行い、情報やモノがどのように流れていくかといったことを可視化する「業務フロー図」を活用する方法があります。
前回の記事では、「BPMN(Business Process Model and Notation)」という国際標準の表記法を活用して、製造業において業務フロー図を活用した現状の見える化と課題特定について紹介しました。
業務フロー図やBPMNについて詳しく知りたい方は、前回の記事を参考にしてください。
前回の記事はこちら:業務プロセスとは?具体的な定義や可視化方法、デジタルを活用した改善事例などを紹介
BPMNとは、企業の業務プロセスを可視化・分析・改善することで、業務効率化を目指す管理手法であるBPM(ビジネスプロセス管理)を実現するために、業務プロセスを視覚的にモデル化するための標準的な表記法です。
これは、業務の開始から終了するまでに関わる関係者や手順、モノや情報の流れなどのプロセスを、誰が見ても同じ解釈で把握するためのものです。
共通の図形や表記ルールが明確に定められているため、複数人で業務プロセスを作成・更新する場合や、改善を行う関係者全員で共通認識を形成したい場合に特に有効です。
さらに、BPMNで作成された業務プロセスモデルは、BPMS(ビジネスプロセス管理システム)などのシステムに直接取り込むことが可能です。
これにより、モデル化した業務プロセスをシステム上で自動実行したり、リアルタイムで進捗管理したりすることができます。
このように、BPMNは単なる「可視化」というメリットにとどまらず、作成したモデルを直接業務システムに連携させ、「業務の自動化」や「実行の最適化」へと繋げられる点が大きな特徴です。
物流業におけるBPMNを活用した具体的な改善案の例
では、物流業においてBPMNをどのように活用すればよいのか、具体的にイメージできるよう、物流センターにおける最初の工程である入荷・検品の業務プロセス改善を考えてみます。
紙の納品伝票を活用していると想定して現状を書き出し、ボトルネックを書き出していきます。
現状では、荷物の発送を行う荷主側で、得意先ごとに異なる仕様の伝票を膨大な時間をかけて印刷・準備する必要がありました。
そして、物流センターに荷物が到着して荷降ろしをしたら、目視検品と手書き伝票への記入、さらにはその情報をシステムへ手入力するといった、3段階の作業が発生します。
これらの作業はヒューマンエラーのリスクを伴い、大幅な時間ロスを生じさせる可能性があります。
加えて、検品で承認を得られなかった不適合品を荷主に返却する際、電話やFAXでのやりとりのため、行き違いや連絡が取れるまでの待ち時間といった時間ロスが発生していました。
このように、業務プロセスをBPMNを用いて可視化することで、紙の伝票の流れや手作業による情報の停滞、複数部門にまたがる非効率な連携など、普段は意識されにくいボトルネックや無駄を、視覚的に把握することができます。
企業や部門をまたがる複雑な業務であっても、BPMNを用いることで、業務担当者、管理者、システム開発者といった異なる立場の関係者全員が同じ図を見て、共通の認識を持つことができるため、「どこに問題があるか」を客観的に共有でき、議論を円滑に進めることができるでしょう。
例えば、改善策として「納品伝票のデジタル化」「システム連携」「検品のシステム化」を行うとします。
「納品伝票のデジタル化」では、紙の納品伝票を廃止し、納品情報を電子データ化します。
これにより、荷主側での伝票印刷・仕分け作業を不要にするほか、物流センターでの伝票受領、目視検品・手書き伝票記入、システム手入力を不要にすることができます。
「システム連携」では、荷主のシステムから物流センターのシステムへ、電子化された納品データをリアルタイムで自動連携させます。
これにより、情報伝達のタイムラグやヒューマンエラーの削減が期待できます。
「検品のシステム化」においては、バーコードやRFIDスキャンによる検品へと移行します。
入荷担当者は、これまで目視と手書きで行っていた検品が、ハンディターミナルなどのスキャン機器を用いて商品を読み取ることで、すぐにシステムへのデータ登録が完了し、検品作業の正確性とスピードが向上します。
不適合品返却の連絡も、システムを通して行うことで、待ち時間を削減することができるでしょう。
このように、改善後のプロセスを図示することで、「何がどのように変わるのか」が具体的に示されます。
例えば、今回のケースでは、紙の伝票が完全に消え、手作業のアクティビティがシステムを活用したタスクに置き換わる様子を見ることができます。
これにより、「この改善で何が変わるのか」「どのようなメリットがあるのか」を関係者が理解しやすくなり、改善策への合意形成を後押しすることが期待できます。
さらに、単なる文章や口頭での説明に比べ、誤解が生じにくくなることもメリットの一つでしょう。
加えて、BPMNを活用した業務改善は、PDCAを継続的に行うことができます。
一度の改善で完璧な業務プロセスを構築するのは難しい上に、環境の変化に応じて再度見直す必要もあるでしょう。
こうした際にも、BPMNを活用していれば、常に改善をし続けることができます。
まとめ
本記事では、物流業が直面する多様な課題に対し、業務プロセス改善がいかに重要であるか、BPMNがどのように活用できるかを解説してきました。
物流業の業務プロセスは、入荷から配送に至るまで多岐にわたり、様々な部門や外部組織、システムが複雑に連携しています。
BPMNを共通言語として組織全体で業務プロセスに向き合い、改善サイクルを回すことで、業務の効率的や顧客満足度の向上、持続的な成長に繋げていくことが期待できます。
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