CO2を価値あるガス資源に変換する「CO2資源化技術」には、再生可能エネルギーの電力を利用して、CO2を分解し化学品などに再生する「Power to Chemicals(P2C)」や、CO2とH2から天然ガスの主成分であるメタンを合成する「メタネーション」技術などがある。
これらは、CO2を電気化学反応により分解したり、別のガスと反応させたりすることでCO2を資源化するが、高効率に資源化するには、反応中のガスの成分や濃度をリアルタイムでモニタリングしながら、ガスの反応条件を最適な状態に制御することが重要である。
また、信頼性の高いカーボンフットプリントの実現に向けては、各温室効果ガスの濃度を測定し、正確に見える化することが必要だ。
こうした中、株式会社東芝は、二酸化炭素(CO2)や水素(H2)、一酸化炭素(CO)などのガスを3種類以上含む混合ガスであっても、実環境でそれぞれのガス濃度を同時に高速で測定できる小型センシング技術を開発した。
これにより、従来、ガス濃度測定に用いられてきたガスクロマトグラフィーと比較して、1/200以下のサイズで150倍以上高速にガス濃度を測定することが可能となった。
今回の技術は、感度の異なる複数の熱伝導型ガスセンサを採用し、各センサの検出値をアルゴリズム処理して各ガス濃度の測定値として出力することで、どのガスによって熱が奪われたのか判定している。
これにより、被毒性の高いガスへの耐性と、3種類以上含む混合ガスの各濃度を測定することを両立。なお、熱伝導型ガスセンサの数を増やすことで、測定するガスの種類を増やすことが可能だ。
小型化する技術としては、電気回路と電気や熱などのエネルギーで動作する駆動部品であるセンサ・アクチュエータなどの微小な機械部品を微細加工技術によって、1つの基板上に集積するMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)技術を採用している。
東芝独自に開発したMEMS技術を用いて、感度の異なる超小型センサを1つの基板上に一括形成し、各センサが検出した値をアルゴリズム処理することにより、高速化・小型化および複数ガスの同時濃度測定を実現した。
この技術により、ガスが3種類以上含まれる混合ガスであっても、ガスそれぞれの濃度を小型な熱伝導型ガスセンサー測定することに成功。また、ガスの付着に起因するガスセンサの被毒がないため、ガスセンサの高寿命化が期待できる。
さらに、MEMS技術により熱伝導型ガスセンサーを一括形成し、個片化した各ガスセンサーとガス導入用ノズルおよび専用の回路を実装した試作したプロトタイプ機を用いて、実環境におけるCO2、H2、COを含む混合ガスでの小型センシング技術の有効性を実証した。
プロトタイプ機は、従来のガスクロマトグラフィーの平均サイズ(約22,740cm3)と比較して、1/200以下のモジュールサイズ(約106cm3)を実現。
実環境として、CO2を電気分解するセルへプロトタイプ機を取り付け、加湿状態のCO2、H2、COの3種類の混合ガスから、それぞれのガス濃度を同時に測定する実験を行った。
その結果、この技術は、測定時間が1.7秒と、従来のガスクロマトグラフィーの測定時間(5分)と比較して、150倍以上の速さで3種類のガス濃度それぞれを測定できることが実証された。
この技術により、混合ガス中のCO2やH2、COなどのガス濃度をリアルタイムにモニタリングすることが可能となり、CO2を価値あるガス資源に変換する「CO2資源化技術」における変換効率の向上に貢献する。
また、現在はCO2換算値として算出している温室効果ガスの排出量を、温室効果ガスごとに直接測定することができるため、信頼性の高い「カーボンフットプリント」のデータ取得へとつげることができるのだという。
東芝は、今回得られた知見をベースに、センサの構造やアルゴリズムの最適化を行い、さらなる実証実験などを通じて、2026年を目途に今回の技術を実用化させるとしている。
また、この技術を単体ガスのセンシングに応用して、水素漏洩の検知や屋内空気質のモニタリング、呼気水素による腸内環境のモニタリングなどにも応用させていくのだという。
なお、今回発表された技術の詳細は、2023年6月25日から29日まで京都で開催される国際会議「TRANSDUCERS 2023」にて、6月28日に発表される予定だ。
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