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「2019年はエッジインテリジェンス元年になる」 ―IoTNEWS主催セミナー 八子知礼講演

「2019年はエッジインテリジェンス元年になる」 ―IoTNEWS主催セミナー 八子知礼氏講演

IoTNEWSを運営する株式会社アールジーンは1月25日、東京都内で「本音で語る2019年、IoT/AIはこうなる!」セミナーを開催。本稿では、株式会社アールジーン社外取締役/株式会社ウフル チーフ・イノベーション・オフィサー IoTイノベーションセンター所長兼エグゼクティブコンサルタントの八子知礼による講演「こうなる!2019年のIoT/AI」の内容を紹介する。

そのあと行われたIoTNEWS生活環境創造室長 兼 株式会社電通 ビジネス共創ユニット シニア・プランニング・ディレクターの吉田健太郎による講演「スマート化からAI化へ」のレポートはこちら

IoTビジネスの順調な推移とCES2019の停滞感

八子はまず、「昨今のIoTに関わるビジネスはグローバルで順調に推移している」と説明。「国別で見ると日本を含むアジアパシフィックの地域は北米やEMEA(ヨーロッパ、中東及びアフリカ)に比べてIoTの浸透度は低いが、年々高まってきている傾向は同じ」と述べた。

次に、IoTの概念についてあらためて振り返り、「IoTとは現実世界にあるモノだけではないさまざまな『モノゴト』をインターネットにつなげ、デジタルデータによって見える化することで、自動的に様々な『モノゴト』が処理されるようになる世界観」だと説明。また、その際には「デジタル空間で最適化した情報を現実世界にフィードバックすることが重要だが、そうするとデータ量が膨大になり、人間の力だけでは分析が間に合わないため、AIを使う必然性が生じる」(八子)という。

実際に、「AIのビジネス市場は着実に拡大している」と説明。資料によると(出典:Tractica“Artificial Intelligence Market Forecasts” 2018)、2025年には2018年の12.3倍になると予測されている。

このように、順調な推移を見せるIoTとAIの市場だが、一方で最新のテクノロジーが集結するCES2019年(1月7~11日、ラスベガス)においては、八子は停滞感を覚えたという。「目新しいモノが見当たらず、昨年と同じという印象を持っている」(八子)

八子氏が考える、CES2019の「停滞感」の理由

その原因について八子は、「最近では、現実世界のさまざまなデータがセンサーによって収集できるようになってきた。そして、それらをリアルタイムに可視化したり、分析したりすることもできている。また、その際にはAIを活用できているものもある。マーケットの伸びがそれらの実態を示しているし、自分が携わるプロジェクトからも実感している。しかし問題は、それらの結果を現実世界にフィードバックできているかということだ。今はまだここが実現できておらず、CESでの停滞感につながっている」と説明する。

そのため、「CES2019のスマートホームや家電の領域で見られた多くの展示はリモコンの域を出ていない」と八子は述べた。

IoTやAIによって生み出される価値が、まだ個々の家電やデバイス、サービスにフィードバックできる段階にいたっていないという現状に対し、どうすればデジタル世界から現実世界へのフィードバックが可能になるのだろうか。カギは「エッジインテリジェンス」にあるという。

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エッジコンピューティング元年(2017年)を振り返る

八子は以前、2017年は「エッジコンピューティング元年」だと提唱した。「エッジコンピューティング」とは、ネットワークの手前側(エッジ)にあるコンピューティングリソースでローカルに処理をするという考えだ。

八子によると、IoTという概念が提唱された頃にはすべてのデータをクラウドに上げた方が簡単に実装できるという考え方により、クラウドの集中処理にトレンドが移行した。しかし、「IoTが進むとデータ量が膨大になり、リアルタイム処理のニーズが高まる。そうするとすべてのデータをクラウド側で集中処理することはできないため、エッジ側のローカルなコンピューティング環境を併用する重要性が高まってくる」(八子)。

こうしたIoT時代のアーキテクチャの大変革が今、起きているという。

IoT時代のアーキテクチャの変化を示した概念図

IoT時代の「エッジコンピューティング」に求められるのは、「エッジ側のデバイスでも情報処理をすること」(八子)だという。「エッジが何らかのインテリジェンスを持ち、データを圧縮したり暗号化したりする機能がないといけない。そうでなければ、高まるリアルタイム処理のニーズに対応できない」と八子は説明する。

では、「エッジコンピューティング」は今、どれくらい実装されているのだろうか。資料によると(出典:Business Insider July 2016)、エッジコンピューティングで実装されたIoTデバイス数は2015年の5.7億台から2018年には24.8億台に増えた。これはすべてのIoTデバイスのうち約10%の割合となる。そして、2020年には18.9%(56億台)まで増加すると予測されるという。

そして八子は、自身がプロジェクトに関わった「船舶のテレマティクス」の事例をもとに、「エッジコンピューティング」について説明した。このしくみでは、船のステアリングやエンジンの稼働状態のデータは、各設備に搭載されたマイコン(ECU)によって収集される。さらに、そこから上位のマイコン(DCM)にデータを蓄積し、データ量を圧縮・暗号化したうえで、モバイル回線の負荷をかけずにクラウドに送る。

エッジを用いずクラウドだけで運用すると、投資運用コストのうち通信コストは86%。しかし、エッジ分散型のしくみを使った場合には通信コストは36%まで縮小できるという。

一方で、エッジを使った場合には通信モジュール費用が高くなるため、コストは端末の台数や通信費用のバランスによって変わってくる。そのため、「単純にエッジコンピューティングを使えばいいというわけではなく、最適なアーキテクチャを選定していくことが重要だ」と八子は指摘する。

業界別プラットフォームの実現像

以上が、八子が提唱した「エッジコンピューティング元年」の背景だ。一方、昨年は「業界別プラットフォーム元年」を提唱。「業界別プラットフォームとは、自社の強みとなる設備や機械の現場データを蓄積し、それを外部パートナーとのエコシステムに開放して新たなサービスやアプリ創出機会を提供するものだ」と説明する。

実際に、昨年は建設現場向けのプラットフォーム「LANDLOG」などが登場した。八子がCIOをつとめるウフルでも合計約10社の業界別プラットフォーム構築を支援している。

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2019年は「エッジインテリジェンス元年」

そして、2019年は「エッジインテリジェンス元年」だという。なぜだろうか。「エッジコンピューティング元年」とは何が違うのだろうか。その背景について八子氏は、「エコシステムが拡大していくと、プラットフォームに蓄積されるデータ量が膨大になる。また、それにともない現場でのリアルタイム処理や自動化のニーズもさらに高まる。そうすると、プラットフォーム側での処理負荷を分散しなければならず、エッジ側での高度な(インテリジェントな)処理が必要になってくる」と述べた。

八子氏が考える、「エッジインテリジェンス」が必要とされる理由

では、「エッジインテリジェンス」という言葉にはどのような意味が込められているのだろうか。八子は次のように説明する。

「今、みなさんが座っている椅子は『インテリジェンス』を持っていない。椅子は学習しないからだ。学習できれば、そのデバイスは『インテリジェンス』をもつと言える。この場合、ハードウェアだけを指していない。その中に入っている『知性』に注目している。また、クラウドで学習したものをローカルにデプロイするモデルを指すものでもない。エッジが自ら学習するのだ」

また、「パソコンやスマートフォンよりも低位のレイヤーであり、センサーや机、靴など本来は『インテリジェンス』を持たなかったはずのモノが、テクノロジーによって『インテリジェンス』を持つようになる。これが『エッジインテリジェンス』のトレンドだ」と述べる。

そんな2019年は、次のようなことが起こるだろうと八子は予測する。

「クラウド側での多地点・大量デバイスの学習は継続するが、エッジ側での分散処理(学習済みモデルの展開)が加速する。それに加えて、『エッジインテリジェンス』によりエッジデバイス上でのダイナミックな学習が進み、エッジそのものがインテリジェンスを保有し、リアルタイム制御や最適化を行うようになる。クラウド側がかしこくて、エッジ側はかしこくないという関係性からは変わっていく」(八子)

また、八子は既にエッジインテリジェンスの兆しを見せる3つの事例を紹介した。

一つは、建設機械メーカーのコマツが開発した「EdgeBOX」だ。NVIDIA Jetsonを搭載し、クラウドとは独立して「EdgeBOX」上でドローンの撮影写真の画像処理を行い、24時間かかっていた点群データ化処理を20分に短縮したという。

次に、LEAP MINDがオープンソフトウェアとして提供を始めた、低消費電力FPGAで動作するためのニューラルネットワークアーキテクチャ「Blueoil」だ。これにより、開発者は高価なGPUや消費電力を必要としないエッジデバイス上で学習を行うことが可能になる。

クラウドを介さずリアルタイムに自律学習できる、AISingの「AiiRチップ」

3つめは、株式会社AIsing(エイシング)が1月23日に発表したクラウドを介さずリアルタイムに自律学習できるAIチップ「AiiR」だ。Deep Learningとは異なる独自アルゴリズムにより、デバイス上での自律学習を可能にする。一部の大手メーカーでは、既にこのチップの自社製品への実装を始めているという。

こうした「エッジインテリジェンス」の流れが加速することで、「来年のCESでは大きな進展を見せるのではないか」と八子は予測した。

次ページ:5Gは「空間拡張」を可能にする

5Gは「空間拡張」を可能にする

最後に八子は、CES2019でも話題になった5Gについて言及した。

5Gが到来した社会ではビジネスモデルが大きく変化することが予想されている。具体的には「Multi Layered Mesh Grid」の世界がくるだろうと八子は述べる。

「5Gが普及すると、通信の遅延や接続デバイスの個数を意識しなくてよい世界になる。そうすると、クラウドとローカルの境目がなくなり、ローカルで高速処理しなければならなかったものクラウドで対応できるようになる。その結果、クラウドを使う場合は接続デバイスの個数ではなくデータ流量に応じて課金するビジネスモデルが主流になる。一方、ローカルではエッジのもつ『インテリジェンス』の価値が高まるため、アルゴリズム課金が主流になるだろう」(八子)

八子氏が予想する、「Multi Layered Mesh Grid」の世界

一方、5Gのメリットというと「大容量」「低遅延」「大量接続」のキーワードをよく見る。しかし八子は、これは約20年前、3Gの時代から言われていたことで、5Gの場合には4Gから何が変化するのかに注目する必要があると指摘する。

「4Gから5Gへの変化の本質は、『空間拡張』ができるようになることだ。3Gの時代には大量のテキストデータや画像、音楽を転送できた。4Gはそこから『時系列拡張』を実現した。つまり、時系列に物事が進む動画データなどの転送を可能にしたのだ。それに対し、5Gは空間の拡張を可能にする。2次元の世界におさまった動画データではなく、今ここに存在している3次元のリアル空間を別の場所に同時再生できる世界がくる」と八子は語った。

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