先日ソラコム社が実施した、SORACOM Discovery 2016の基調講演で、株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏より、SORACOMのグローバル対応が発表された。
現時点で120以上の国と地域で利用可能となっているというのだ。
参考:グローバル対応エリア
SORACOMプラットフォームのグローバル対応
このSIMは単に1枚のSIMでいろんな国での通信を可能とするというだけでなく、これまでSORACOMが提供してきた様々なサービスもすべて継承されている。さらには、セッション情報から接続エリアもわかるのだ。例えば、同じSIMを使ってコネクテッドカーのサービスを提供している場合、ヨーロッパなどの地続きの場所で移動した際、どこの国のどの基地局と通信をしていたかということがわかるのだ。
また、このSIMは、各国のキャリアとの間ではMVNO契約をする場合やローミングを利用している場合などがあるということだ。
SIMだけがグローバル対応していても、SIMを刺すデバイスも各国での認可をクリアしている必要がある。現在、ソラコム社が提供するパートナープログラムの中では、安川情報システムのGatewayや、Freetelのスマートフォンなどが広範囲でサポートしている製品となっているということだ。今後、日本企業がグローバル化したデバイスの販売を進めるにあたっては、こういったデバイスのグローバリゼーションも欠かせない。
会場では、ぷらっとホーム社の小型通信ゲートウエイ、OpenBlocksを使ってロンドンでも通信できている、というデモンストレーションが紹介された。
このサービスは、日本企業向けに、30枚のグローバルSIM、6ヶ月分の基本料、300USD相当の通信量を込みにして、49,800円でサービスを始めるということだ。
単なるグローバル対応SIMではない、IoTのことを考え抜かれたSORACOMのグローバルプラットフォーム
また、株式会社ソラコム 最高技術責任者 安川健太氏によると、グローバリゼーションについては、「ランデブーポイント」という考え方があるということだ。
ランデブーポイントとは、モノがクラウドにデータを上げる際の起点となる場所のことで、例えば日本にあるモノのデータをインターネットに上げる際は、「東京ランデブーポイント」が使われるということだ。さらに、「ランデブーポイント」は、東京だけでなく、ドイツのフランクフルトにも新設する。今後世界中に複数の「ランデブーポイント」が展開される予定ということだ。
では、ドイツにあるモノのデータをフランクフルトのランデブーポイントが受け取ったとする。一方で、サービスは東京が中心で、サーバも東京にあるとしよう。そうした場合、当然だがフランクフルトから、東京のサーバまでデータをセキュアに送る必要がある。そういった場合、フランクフルトとは、今回発表があった、「SORACOM Door」を使って接続するのだ。
※専用線接続などの方式もあると思われるが、インターネット経由の方が安価であるため新サービスの紹介をからめて書く
SORACOM Doorは、インターネットVPN接続でランデブーポイントとサーバをつなぐことができる。これまでのSORACOMの外部サーバとの接続サービスは、クラウド間の専用線接続サービスを利用するか、AWS内に配置されている必要があった。
しかし、今回のSORACOM Doorが実現されたことで、インターネット網を利用した世界中のランデブーポイントとの接続もセキュアにすることが可能となるのだ。
※SORACOMのランデブーポイントは現地点ではAWSの東京リージョンとフランクフルトリージョンを利用している。
さらに、世界中に配置されたデバイスをコントロールしたいと思った場合は、こちらも今回発表があった「SORACOM Gate」を使うことで解決する。SORACOM Gateは、アプリケーションがあるサーバとモノとの間を、あたかもLANでつながっているかのようにすることができるのだ。
つまり、 SORACOM DoorとSORACOM Gateを活用することで、自社のサービスをグローバル対応する際、SORACOMのSIMを使えば、インターネット網を活用した柔軟でセキュアな通信を活用してモノからのデータをアプリケーションがあるサーバは受け取れ、また、アプリケーションがあるサーバからモノをコントロールすることも可能となるということだ。
例えば、これまでは世界に散らばる自社のプロダクトの状態をセンシングし、クラウドにデータをあげることで可視化、予兆管理するということはよく言われてきた。今後は、可視化にとどまらず、必要に応じてクラウドからモノを修正するために、プログラムをアップデートしたり、モノをコントロールしたりするといったことが可能となる。
しかも、SORACOM Airを前提にすることで従来のサービスも利用できることから、安価にかつ、SIMの管理もクラウド側で一元管理することができる。
グローバル対応にかける各社の期待と事例
DELLジャパン 黒田氏
DELLの黒田氏は、「IoTにおいて重要なポイントは、世界中にちらばっているデータを、どうやって集めるのか?が重要だ」と述べた。
120カ国でサービスを進めるSORACOM、180カ国でビジネス推進中のDELLだが、今後新しくSIMがはいったPCを発売することが考えられているが、その際はソラコムとの協力を目指していくと述べた。
三井物産株式会社 常務執行役員 ICT事業本部長 北森 信明 氏
三井物産の北森氏は、「IoTは物売り型からサービス型ビジネスモデルへの移行が実現できる」と述べた。
例えば、鉱山の鉱石運搬について、これまでの場合、トラックを購入して運用と整備を自社が行ってきた。IoT化した後は、整備と運行管理の最適化を行う総合サービスとしての価値提供ができるのだ。そもそも、鉱山事業において大事なことは、「鉱石を安く掘って、安く売ること」であるはず。IoT化によってこういった本質的な価値を顧客に対して訴求することができるというのだ。
三井物産では、「IoT = “IT”を高度活用し x “OT(Operation Technology)”を効率化することで企業の収益力を改善すること」だとも述べた。
今後のIoT事業について、IoTデータの収集、蓄積、分析、活用するというプロセスがあるが、データの集取部分でSORACOMを、データの蓄積インフラとしてはOSIsoftをパートナーとして、資本業務提携したということだ。三井物産グループの具体的なサービスでIoTを活用し、実績を積み上げたのち、広くお客様に提供する、最終的にはバリューチェーン全体を最適化することでビジネスモデルの変革や業界の構造変革をもたらしたいと述べた。
オプテックス株式会社 取締役 兼)執行役員 事業戦略統括本部長 上村 透 氏
オプテックス社は、世界で初めて赤外線で自動ドアをあける機器を作った企業だ。半数が防犯、自動ドア、FAなどのセンサーをグローバルに提供している。オプテックス社では、IoTのことを、「IoS(Internet of Sensing Solution)」と呼んでいて、センサーをネットワークに繋ぐことで新たな付加価値・ソリューションを提供するということだ。
IoTを考える時、設置した設備機器の予防保全をやったり、消耗品を発注したりするパターンと、防犯モニタリングといったサービスそのものを提供するようなパターンがあると考えていると述べた。
また、サービスも日本で管理するパターンや現地のオペレーションをするパターンがあるという。そこで、オプテックス社のグローバル展開としては、サービスそのものかつ、サービスを現地カスタマイズするというパターンで考えているとした。
事例として監視カメラ天国であるイギリスでのセキュリティ監視サービスが紹介された。
24時間x365日、多くのカメラを管理するのは困難なので、センサーとカメラを組み合わせて必要な時だけ見るというサービスを実現しているという事例だ。
例えば駐車場の敷地内に侵入した車上荒らしの犯人をセンサーで捉え、センサーが反応したらアラートをならしかつ、リアルタイムの映像をカメラが捉えるというのだ。その結果をモニタリングセンターで確認し、警察に通報する、というような流れだ。
しかし、こういったサービスを行う上で、ネットワークがない場所がある。工事現場や、使っていない別荘、工場などがその例だ。
これまでであれば、それぞれの拠点で別途通信契約を行う必要があったが、ソラコム社のサービスを使うことで、安価に簡単にネットワークが導入できることとなったということだ。
2社の役割分担としては、「オプテックス社はセンサーの精度を高めて誤報を減らす」「ソラコム社は設置・システムの負担を軽減し、グローバル展開を容易にする」ということだ。
また、現実問題としてセンシングデバイスはCPUのパワーが小さいので、暗号化処理などが難しい。そこで、SORACOM Beamを活用すると暗号化プロトコルも非力なデバイスでも使えるところがよいということだ。また、このことで、単なるセンサー売りだけでなく、センサーからデータ通信までを提供することができるというところがよいとした。
※SORACOM Beamについては、【前編】SORACOMが発表した新サービスは、なにがすごいのか?を参考にしてほしい。
株式会社小森コーポレーション 取締役兼執行役員 経営企画室長 梶田英治氏
小森コーポレーションは、日本やEUROの紙幣は全て小森の印刷機で印刷している。売り上げの6割が海外で稼働中ということだ。
実は、印刷機械は33%しか生産していない。この事実が生産性をあげるクラウドサービスを展開することになった理由だ。
現在の印刷企業は多品種小ロットを要求されるが、工程管理や色再現、といったところに課題があり生産性が低い状況にある。
そこで、KP-Connectというサービスを開始したということだ。データの収集から蓄積、データの見える化やノウハウの共有化に伴う改善などができるという。
現状、熟練作業者によって品質のばらつきがある状態なので、今後はクラウドを活用して最適化していきたいと考えている。
KP-Connectは各印刷企業が提供する機器と共同して全体の生産性を上げていくということを行おうとしている。
しかし、印刷工場がインターネットに接続されていなかったり、セキュリティ面の懸念がある。既存の顧客環境に影響を与えないような対応が必要だ。
そういうなかで、SORACOMを活用することでIoTを確立し、SORACOM Doorを活用することでグローバルにも展開することが可能となった。
欧州を皮切りに、小森の主要工場である米国・中国・アジアなど各国主要国で同様のシステムを提供する予定だ。また、新サービスの発表を受けて、SORACOM Gateを活用してクラウド側から機器側を操作したいとも思ったということだ。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。