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AIによる不良品判別に取り組み、エビフリッターの品質向上を目指す ―極洋・NECソリューションイノベータ インタビュー

AIによる不良品判別に取り組み、エビフリッターの品質向上を目指す ―極洋・NECソリューションイノベータ インタビュー

AIによる不良品判別に取り組み、エビフリッターの品質向上を目指す ―極洋・NECソリューションイノベータ インタビュー

極洋は、水産物の調達・加工・販売を行う総合食品会社である。同社はNECソリューションイノベータが提供するAI技術を利用した、不良品の判別に取り組んだ。

極洋は、なぜAIの画像認識による不良品の判別に取り組んだのか。現在、水産加工食品製造業はどのような経営課題を抱えているのか。

極洋 塩釜研究所 技術管理課長 川端康之亮氏(トップ画像)、NECソリューションイノベータ 東北支社 佐藤精基氏・水谷仁紀氏の3名にお話を伺った。

不良品を減らし、商品価値の向上を目指す

極洋が、水産加工食品の不良品の判別にAI技術を活用しよう、と考えた理由は何でしょうか。

極洋 川端(以下、川端):水産加工食品の品質管理において、不良品の対応に余計な手間がかかっていた、という課題がありました。

例えば不良品が発覚し、その拡散性が懸念される場合、工場の冷凍庫から全ての製品を取り出し、作業員全員で選別することがありました。つまり、時間と人手をかけて対応していたのです。不良品が取り除かれないまま、お客様のもとに製品が届き、クレームを受けた後で対処した事もあります。

私の所属する塩釜研究所技術管理課は、製品の製造方法や管理方法を研究する部署です。私は普段、宮城県塩釜市にある研究所に勤務していますが、時々全国の工場を回っています。その中で不良品の対応について「洪水に例えるのならば、堤防を慌てて補修する。そのような仕事ばかりを行っている」と、ふと気づきました。

しかし、不良品を判別する精度を上げ、生産ラインの途中で取り除くことが出来れば、余計な対応をせずに済みます。そして経営上のリスクとコストを減らす事が出来ます。これが目的の1つです。

もう1つの目的は、商品価値の向上です。不良品を減らすことが出来れば、品質保証力のアップにつながります。品質保証力がアップすれば競合との差別化につながり、さらには商品価値の向上を実現できます。

リスクとコストの低減。商品価値の向上。この2点を実現するために、AIによる画像認識を使った不良品の判別に取り組みました。

NECソリューションイノベータ 東北支社 佐藤精基氏

NECソリューションイノベータ 佐藤(以下、佐藤):AI技術を活用した実証実験で手ごたえのある結果が出るとご判断いただいた後に、当社が2018年10月に食品製造業向けに提供を開始した「NEC AI画像活用見える化サービス/生産管理・検査支援」を極洋様に活用いただいています。

今回、極洋が「NEC AI・画像活用見える化サービス/生産管理・検査支援」を活用して判別している製品は1種類のみでしょうか。

川端:はい。現時点では、エビフリッターと呼ばれる揚げ物の製造のみに利用しています。

ソリューションを導入する前は、人の目で製品の検査を行っていた、と聞きました。人の目で不良品を見分けることが出来るようになるまで、どのくらい時間がかかるのでしょうか。

川端:検査の作業を覚えるまでには、1~2年かかる場合もあります。

日々の作業をこなせるか否かは、作業員の教育年数だけによりません。人間ですので、どうしても判断にムラが発生します。

エビフリッターがラインを流れるスピードはかなり速い。実際にラインの様子を見れば「このスピードならば、判断への影響は出るだろう」と思うはずです。万が一、不良品が大量に発生した場合は、不良品を見逃しがちになります。

1日どのくらいの量の製品をチェックするのでしょうか。

川端:重さにして1日7~8トンくらいでしょうか。おそらく1分間に1700尾くらい流れていると思います。

エビフリッターは揚げている最中に衣同士がくっ付く、あるいはエビが丸まってしまう状態が生じます。そのような状態になったエビフリッターは不良品と判定し、取り除かなければいけません。1日の作業量のうち、仮に2%不良品が生じるだけでも、相当な量となります。

揚げた後のエビフリッターを検査する様子。ライン上に流れてくるエビフリッターの数は膨大で、かつ一点一点のエビフリッターの大きさは小さい。目視で不良品を判別するには一定年数の経験が必要だという 画像提供:NECソリューションイノベータ

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東北大学IISとの連携

今回の取り組みには、東北大学情報知能システム研究センター(以下、東北大学IIS)が関わっていると伺いました。
どのような経緯で、東北大学IISが関わることになったのでしょうか。

川端:先ほど述べたような品質管理に関する問題意識が生じた時に、最初は食品製造の機械を製作する方々に相談し、解決策を考えました。しかし、これは上手くいきませんでした。その時に「食品製造業界の内部だけで解決しようと思っても駄目だ」と感じたのです。

そこで思い切って工業系の世界に足を踏み入れようと思い、ある工業系大学の講演会に出演し、水産加工食品業が抱える品質管理の問題を話しました。すると、講演会に参加していた工業機械メーカーの部長さんから「東北大学にIISというグループがあります。そこに相談してみてはどうですか」というアドバイスをいただいたのです。

さらに東北大学で同じような内容の講演を行ったところ、IISの方から「そういった課題を抱えているのならば、画像認識の技術を持つNECソリューションイノベータと取り組みませんか」というお話をいただきました。

極洋の悩みを受けて、東北大学IISがNECソリューションイノベータにバトンをつないだ。そういう経緯があった、ということでしょうか。

佐藤:はい。東北大学IISは地域の産学連携を推進する機関です。地域に関わりのある企業に技術をコーディネートする活動をしていますが、大学の技術だけではなく、民間企業の技術も紹介する役割を担っています。そこで東北大学IISの方から我々NECソリューションイノベータをご紹介いただきました。それが極洋様との最初の接点です。

今回のソリューション提供において、東北大学IISはどのような役割を担ったのでしょうか。

佐藤:主な役割は2つあります。1つは企業同士をつなぐ、コーディネーターの役割です。そして、もう1つの役割は、東北大学IISが持つ知見を使って、企業の取り組みをバックアップすることです。

今回の取り組みでは、AIや画像解析の知見が必要です。画像解析に関して知見のある青木孝文教授(東北大学IIS副センター長)の指導をいただきながら取り組みを進めました。

東北大学IISの取り組みには、地域に根差す企業を支援する、という目的があるのでしょうか。

佐藤:はい。東北地方は水産業が盛んな地域ですが、極洋様と同様の課題を持っている企業が多く存在します。

そういったお客様にソリューションを提供することで、地元に縁がある企業を盛り上げ、地域経済を活性化していきたい。そのような思いを持って、東北大学IIS、極洋様との共創を進めました。

医療業界・果物業界との比較で見えた水産加工食品業の問題点

先ほど川端さんは「食品業界内では課題が解決できず、業界外へ意見を求めた」という事をおっしゃっていました。食品製造機械を作る方々との取り組みが上手くいかなかった事以外にも、業界外部へアクションを起こそうと考えた理由はありますか。

川端:きっかけは医療業界や果物業界の技術を見た時です。

医療現場ではMRIなどで人体を輪切り状態で見る、あるいは体脂肪率を計測する、といった、生身の人体を詳細に解析することができます。果物の業界にも、例えば果物の糖分を赤外線で測定する技術があります。

一方、水産加工食品業界はどうでしょうか。例えばセリ場におけるマグロの価格は、尾を切った断面を見て、脂の乗りなどを見極めます。私はその光景を見た時に「このような感覚に頼った決め方で良いのだろうか」と思いました。マグロに限らず他の魚でも、何トンという漁獲量の中から1尾だけを測って価格を決める、といった方法を取っている事があります。

医療や果物の世界では人体や製品のステータスを正確に調べ、それを患者や消費者に伝えている。それに対して、水産加工食品業界は感覚で価格を決める。このままで水産加工食品業界は良いのだろうか、という疑問が湧きました。

技術が進んだ業界の人達の力を借りることが出来れば、水産加工食品業界が抱えている問題を解決できるかもしれない。そう考えました。

例えばセリ場に置いてあるマグロは体長と体重しか書いていません。しかし、先ほど説明したような技術を使えば、「脂肪分○○%」といった情報も提供することが出来て、それに応じた適正な価格を付ける事が出来るでしょう。

極洋にも「この商品は表示されている情報よりも、実際は脂分が少ないのではないか」といったクレームがお客様から寄せられることがあります。すると「脂肪分の分析をお願いします」というクレーム対応の依頼が技術管理課に回ってきます。そういうクレーム対応の仕事に携っている最中にも、「この業界はこのままで良いのだろうか」という疑問を抱く事がありました。

食品製造分野において品質管理の自動化を進める上で、ネックとなる部分はどこでしょうか。

佐藤:扱う製品の個体差が大きいこと。これがネックだと思います。

例えば自動車部品などの工業製品は規格が決まっており、パターンに当てはめれば不良品を判別することが出来ます。

しかし、極洋様が扱うエビフリッターのような水産加工品は、原材料となるエビのサイズや形が1尾1尾違う。工業製品のように、全てが寸分違わぬ形になることはあり得ません。

この個体差をどう処理し、品質管理の自動化を進めるのか。その問題を解決するためにディープラーニングを活用し、曖昧なものを評価して不良品を選別できるようにします。

AIによってエビフリッターの良品(一級品)・不良品(二級品)を判別している際の画像。青が一級品、赤および緑が二級品。目視するだけでは、一級品と二級品を判別することは難しい

極洋以外でも「NEC AI・画像活用見える化サービス/生産管理・検査支援」を活用している食品製造会社はあると思います。それらの企業も、極洋と同じような悩みを抱えているのでしょうか。

佐藤:はい。曖昧なもの、例えば製品の焼き色をどう評価するのか、という事にディープラーニングを活用しようとする企業が多いです。

川端:食品製造業の中でも特に水産加工食品業は、品質管理の判断が難しいです。天然の原料を使っているため、個体差が大きいからです。

「食品製造業は自動化が遅れている」という事をおっしゃる方がいます。しかし、実際は食品製造業が遅れているわけではない。私はそう思っています。扱っている製品の形がバラバラであるため、それを処理するための技術を構築する事が難しい。それが実状でしょう。

食品は扱う製品の特性によって、どうしても人の手に委ねなければいけない面があると思います。どこまでを機械化・自動化し、どこまでを人の手で行うのか。その線引きを行うことは、かなり難しいのではないでしょうか。

佐藤:はい。確かにそういった課題が食品製造業にはあります。最終的にお客様が口に入れるものですから、自動化だけを考えるのではなく、衛生面から考慮する必要があります。

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個体差のある水産加工食品を扱う難しさ

AIに作業者の技術を学習させた、とのことですが、具体的にどのような手順を踏んで行ったのでしょうか。

佐藤:エビフリッターが生産ラインを流れる動画を撮影し、それを静止画にして工場の作業担当者にエビフリッターを「一級品(=正常品)」「二級品(=不良品)」に選別してもらいました。

油で揚げた後のエビフリッターが流れるラインにカメラを設置し、エビフリッターの形状を解析。二級品=不良品と判定した場合は人の手で除外する。 画像提供:NECソリューションイノベータ

少し難しかったのは、作業者それぞれに判定基準の個人差があったことです。チェックする作業者によって、不良品か否かの線引きが分かれたのです。例えば、エビの曲がり角度(反り具合、丸まり)をどこまで許容するかなど、作業者によって判断が異なり、基準が一つではない。この問題については、一人の熟練作業者の判定基準に統一し、それをAIに学習させることでクリアしました。

一級品と二級品の差をどう分けるのか、つまり食品の品質基準をどう定めていくのか、という事は非常に難しい問題である、と感じました。

NECソリューションイノベータ 東北支社 水谷仁紀氏

NECソリューションイノベータ 水谷(以下、水谷):これが先ほど話題に出た「製品の個体差がネック」の具体例です。

エビフリッターは、基準を明確に数値化できる工業製品とは違います。そもそも検査する側の主観に品質の判断が委ねられているため、統一した品質基準を作るだけでも大変です。

そして明確な基準がないまま、1分間に1700尾、ラインに流れているエビフリッターを1つ1つ細かいレベルでチェックする事は、非常に困難な作業です。だからこそ、作業者が判断基準を習得するまでに1年~2年の期間が必要だったのです。

するとソリューションを導入する前は、品質基準がもっとバラバラの状態だった、ということでしょうか。

川端:はい。水産加工食品の品質基準は、工業部品のように全て数字で表せるわけではありません。例えば、「エビの曲がり角度は〇〇度が良い」といった基準を設けて、管理することが出来ません。

水谷:「この見た目であれば、食べることが出来る」と思う様な製品でも、不良品であると判別している場合があります。

佐藤:「一目でエビの形だと認識できるものが良品です」と言っても、その線引きを定めることは相当に難しい事だと思います。

そのような状態では作業マニュアルを作成する事も出来なかったのではないでしょうか。

川端:はい。したがって、作業者の指導には写真を使っていました。代表的な一級品・二級品の写真を撮って、作業者の前に写真を置いて「これは一級品」「これは二級品」と教えていました。

AIが二級品のエビを検出した後は、人の手でラインから二級品を取り除いているのでしょうか。

川端:はい。判定した結果をロボットに送って、自動的に取り除く案が出ていました。しかし、現在のところ、ロボットによる自動化には取り組んでいません。

極洋は海外にも生産拠点を持っています。そちらでも既に「NEC AI・画像活用見える化サービス/生産管理・検査支援」を導入しているのでしょうか。あるいは今後導入する予定なのでしょうか。現地で作業員を雇う場合、技術指導がたいへん楽になると思うのですが。

川端:先々、海外拠点にも導入が必要になるでしょう。しかし、その為にはまず日本国内でお手本を作ることが大切だと考えています。1つお手本を作って、それを海外に横展開する。そのように考えています。

「NEC AI・画像活用見える化サービス/生産管理・検査支援」に関して、「ここはもう少し改善したい」と思った部分はありますか。

川端:1つ挙げるとするならば、解析にかかるスピードでしょうか。

ただし、NECソリューションイノベータ様のお話を伺っているうちに「スピードを上げるということは、実はたいへん難しい事なのだ」と最近、気が付きました。

水谷:生産ラインを速いスピードで流れるエビを認識する、というのはかなり難しかったのです。止まっているものであれば判定は速いのですが、動いているものを判定する事は難しく、少々時間がかかってしまいます。

川端:AI解析のソリューションを構築する過程に、極洋のメンバーも関わりました。そこで画像解析がいかに大変な取り組みであるのか、次第に理解できるようになりました。

佐藤:我々NECソリューションイノベータがソリューションの構築を全て請け負うのではなく、極洋様のメンバーにも参加していただく形を取りました。苦楽を共にすることで、双方の業界への理解を深めることが出来ました。

商品価値の向上という目的から逸れない

ソリューション導入後、品質管理の面で「ここが変わった」と感じた部分はありましたか。

川端:目に見えて分かる効果が表れるのは、まだまだ先の話だと思います。

なぜならAIによる画像解析は、最終目的に達するまでの一手段に過ぎないからです。極洋にとっての最終目的は二級品、つまり不良品の発生を減らし、商品価値の向上を達成する事です。

二級品を減らすために、様々な改善策を行ったとしても、人の作業に依存する限り、その結果をきちんとした数値で評価することは難しい。まず不良品か否かを、客観的に評価する基準が必要です。この基準作りが、商品価値の向上を目指すための第1ステップです。

「NEC AI・画像活用見える化サービス/生産管理・検査支援」を活用する事で、一級品と二級品を分けるための客観的な基準作りが出来ました。第1ステップにようやく到達したのです。

次のステップは、二級品の発生を予知し、事前に減らす取り組みです。この第2ステップに現在、取り掛っているところです。

AI画像認識の導入は、あくまで土台の部分、ということでしょうか。

川端:はい。AIによる不良品の判別は、現在取り組んでいる二級品低減策の前段階に過ぎません。

先ほども話しましたが、「AIで不良品を判別した後に、ロボットに作業させて省人化しよう」という意見が社内から出ました。しかし、省人化することが我々の最終目的ではありません。省人化することにエネルギーを投じるよりも、二級品を減らすことに注力するべきだ。私はそう思いました。

第2ステップである二級品低減策においても、AIに活躍してもらう予定です。二級品の比率が上がってきた状態をまずAIが認識する。その次に「なぜ二級品が増えてきたのか」という原因の部分を探ってもらう。そういう方向にAIは活用すべきだと考えています。

AIを入れる事や自動化する事が目的ではない。商品価値を向上する、という本来の目的を見失ってはいけない。そのような意味に、私は川端さんのお話を受け止めました。

佐藤:今回のソリューションを極洋様に使っていただく中で驚いた事があります。それは「NEC AI・画像活用見える化サービス/生産管理・検査支援」を製造装置の性能比較に利用したことです。

極洋様は工場にある2本の生産ラインのうち、片方のラインの製造装置を改善しました。そして、現行の製造装置を使ったラインと、改善した装置を使ったラインで、作業工程にどのくらい差が出るのか、という事を、画像解析を使って比較したのです。

不良品の判定以外でそのような活用を行うとは、我々NECソリューションイノベータ側は想定していませんでした。今回の取り組みでは「そういった活用の方法もあるのか」と、逆にこちら側が勉強させていただいた気持ちです。

水谷:現在、要素技術ありきで様々なソリューションが世の中に乱立しています。そして、一度そういった流れに乗ってしまうと、本来考えていた目標を見失って「もっと恰好いいソリューションやロボットを導入しよう」という方向に走ってしまいがちです。しかし、極洋様の場合はそこが全くぶれず、あくまで商品価値の向上を念頭に置いて生産現場の改善に取り組まれています。

本日はありがとうございました。

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