化学、材料科学、製造業、医薬品開発などの分野では、新材料の開発や安全性や性能の確認などを目的に実験や試作を行う前に、強度や熱伝導率といった材料の特性を把握するため、材料や化合物の物理的・化学的性質(以下、物性)を事前に予測することで、試行錯誤の負担を軽減することができる。
日本ゼオン株式会社(以下、ゼオン)では、2021年から実験データを構造化して蓄積し、物性を予測するAI開発を進めてきた。しかし、自社データだけでは学習データ量が足りず、予測精度の向上に課題があった。
また、顧客企業が利用できる物性予測が可能なAIシステムを開発したが、推論時のクエリとなる配合条件と物性予測結果は顧客企業にとって秘匿情報となるため、顧客がゼオンのAI予測システムを利用することは困難であった。
そこで、ゼオンとSBテクノロジー株式会社(以下、SBT)は、秘密計算技術を活用した企業間での秘匿データ連携を目指し、実証実験を開始すると発表した。
この実証実験は、ゼオングループ内の異なる2社の企業間のデータ連携とAIモデル活用により可視化する実証を行った結果、データ連携によるAIモデルの予測性能の向上が確認できたことを受け、このAIモデルへの秘密計算技術の適用を検証するものだ。
秘匿化された物性予測AIシステムは、ゴムの物性予測AI処理を秘匿化するTEE(信頼できる実行環境)と、Webシステムを利用顧客別に分離する環境の2つで構成されている。
実証実験では、物性予測AIを秘匿化して学習データを提供者以外にアクセスさせず、AIの学習にのみ用いる。そして、推論のクエリと結果は、推論利用者がWebを介してのみ確認できる環境の実現を目指す。
今後ゼオンとSBTは、秘密計算技術について格検証を進め、秘密計算技術のひとつであるTEEを介したデータ連携、AI解析システムを実際に構築し、今回の成果を再現することでその実現性を検証するとしている。
また、ゼオングループ内で秘匿化された物性予測AIシステムを業務利用する計画だ。まずはゴム業界における秘匿化されたデータプラットフォームを構築・提供し、多岐にわたるゴム関連企業の研究開発データを集結させ、ゴム材料以外への水平展開も検討。将来的には各材料に拡大するのだという。
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