Excel×AIで生産性を向上させる方法、課題別のツール比較や活用事例も紹介

日々の業務の中でExcelを活用する人は多いと思いますが、大量のデータを手作業で入力したり、複雑な分析のために何時間も数式を組んだり、使い慣れないグラフ作成などに時間を取られてしまうこともあるのではないでしょうか。

こうした中、近年、Excelの作業を自動化し、分析を加速させるためのAIツールが登場しています。

しかし、一口に「AIツール」といっても、それぞれのツールによって得意なことは異なります。

そこで本記事では、Excelで活用できるAIツールを「従来のExcel作業を効率化するAIツール」と「データ全体の分析や整理を助けるAI」の2つに分類し、それぞれの代表的なAIツールとその役割、最適な活用法を解説します。

従来のExcel作業を効率化するAIツール

従来のExcel作業とは、「複数のリストから重複するデータを一つずつ削除する」「全角・半角の混在や表記ゆれを手作業で統一する」「VLOOKUPやSUMIF関数を複数組み合わせて特定の条件を満たすデータを集計する」「複雑な計算式を一から作成する」といった作業が挙げられます。

ここでは、こうした定型的な作業を効率化するAIツールを2つ紹介します。

ChatGPT for Excel

1つ目は「ChatGPT for Excel」です。

「ChatGPT for Excel」は、Excelにアドインすることで、OpenAIの言語モデルをExcelの関数として利用することができるAIツールです。

具体的には、「ChatGPT for Excel」が備えているAI関数を活用することで、「要約」や「翻訳」といった指示をExcelのセル内で直接実行できるようになります。

例えば、顧客リストの住所データから市町村名だけを抽出したい場合、AI.FILLという関数を使うことで実行することができます。

具体的には、「〇〇市〇〇町1-2-3」を「〇〇市」に変換するといった、いくつかのサンプルデータを手動で入力します。

そして、AI.FILL関数にまだ市町村名が抽出されていない住所データを入力すると、AIが手動で入力されたパターンを学習し、自動で市区町村名を抽出してくれます。

また、AI.EXTRACTという関数でも、必要な情報を自動で抽出することができます。

AI.FILL関数がパターンを学習して実行してくれるのに対し、AI.EXTRACT関数はどのセルから何を抜き出すかを指示することで、必要な情報だけを自動で抜き出してリスト化するというものです。

セルの内容を翻訳したい場合には、AI.TRANSLATEという関数を活用することで、セルのテキストを一括翻訳することが可能です。

その他にも、Excelのセル内でAIに直接質問して答えを得ることができる「AI.ASK:」や、自然言語で指示することで表を生成してくれる「AI.TABLE:」、バラバラな形式のデータを指定したフォーマットに一括で整形する「AI.FORMAT:」などのAI関数を活用することができます。

GPTExcel

2つ目は「GPTExcel」です。

「GPTExcel」は、ExcelやGoogleスプレッドシートで使う数式や関数を自動で生成したり、その仕組みを説明したりしてくれるAIツールです。

例えば、「このデータから売上上位5件の平均値を計算する数式を教えて」といった自然言語での指示に対して、数式を自動で作成してくれます。

また、生成された数式や、ユーザーが入力した数式がどのような処理をしているのかを、分かりやすい言葉で解説します。

さらに、数式だけでなく、VBAマクロやGoogle Apps Scriptなどの自動化スクリプトも生成することが可能です。

他にも、画像内の表を編集可能なスプレッドシートに変換する機能も搭載されています。これにより、手書きのメモやスキャンした書類のデータを手作業で入力する手間を省き、すぐに分析に取りかかることができます。

なお、「GPTExcel」はWebブラウザ上で動作し、ファイルを読み込ませて利用する形式ですが、生成された数式やスクリプトをExcelに貼り付けることで、Excel内の作業を効率化できるAIツールです。

データセット全体の効率化

一方、「複数のExcelファイルに分かれたデータを一つにまとめる」「膨大な売上データの中から、手作業では見つけられない傾向や外れ値を発見する」といったデータセット全体の効率化を支援するAIツールも2つ紹介します。

Microsoft 365 Copilot

1つ目は「Microsoft 365 Copilot」です。

「Microsoft 365 Copilot」は、Excelを始めとするMicrosoft 365アプリケーションに統合されたAIツールです。

法人の場合、Microsoft 365 E3またはE5のライセンスに加えて、Copilot for Microsoft 365の追加ライセンスを契約することで、Excelのサイドバーにチャットウィンドウが表示されます。

このウィンドウに自然言語で指示を入力することで、AIを活用したデジタルアシスタント「Copilot」と対話しながら作業を進めることができます。

例えば、「売上上位10%の顧客は?」や「地域別の傾向を教えて」などと自然言語で質問すると、「Copilot」がデータを分析して回答を提示してくれます。

また、グラフやピボットテーブルを生成したい場合も、対話形式で「製品別の売上推移を折れ線グラフで作成して」と指示することで、「Copilot」が適切なグラフを自動で生成します。

さらに、「Copilot」に既存の数式を貼り付けることで、その数式がどのような処理をしているのかを日本語で分かりやすく説明してくれます。

例えば、エラーが出ている数式を「Copilot」に貼り付け、「この数式がエラーになるのはなぜか?」と質問すると、「Copilot」は数式の構文や参照しているセルをチェックし、具体的な原因と解決策を提案してくれます。

Power BI

2つ目は「Power BI」です。

「Power BI」は、データ分析と可視化に特化した独立したアプリケーションで、AI機能が搭載されています。Excelのデータをさらに深く、広範囲に分析することができるのが特徴です。

Excelを始めとするMicrosoft 365アプリケーションと連携することができ、Excelと連携すると、自然言語での質問に対しAIが自動でグラフや回答を生成してくれます。

例えば、日付データや売上が発生した地域を示すデータ、各日付・各地域での売上額を示すデータをもとに、「2024年の地域別売上トレンドを見せて」と入力することで、AIが最適なグラフを作成してくれるといったものです。

また、Excelの行数制限を超えるような大規模なデータも処理することができ、AIモデルを活用してデータの傾向を可視化したり、将来の値を予測したりします。

さらに、リアルタイムでのデータ更新や、複数のデータソースを統合する機能も備えています。

このように「Power BI」は、「Microsoft 365 Copilot」よりもさらに大規模な分析、特に複数のデータソースを統合してインサイトを得たい場合に適したツールだと言えます。

関連ツール

AIツールではないですが、ExcelにおけるAIツールを活用する上で役立つ関連ツールも紹介します。

Power Query

「Power Query」は、Excelと「Power BI」に標準搭載されている、データの「前処理」に特化したツールです。

AIツールではありませんが、データをクリーンな状態に整える上で不可欠な存在です。

例えば、部門や担当者ごと独自のデータを管理していたり、各システムから出力されるデータが分かれていたりする場合、複数のCSVファイルやExcelシートにデータが散らばった状態です。

そこで「Power Query」を活用するれば、マウス操作で一つのシートにまとめることができます。

また、空白セルの自動補完、重複データの削除、フォーマットの統一など、分析の前に必要な作業を自動化します。

さらに、会社のデータベースやウェブサイトなど、様々なデータソースからデータを直接取り込み、最新の状態に自動更新してくれます。

そして、こうしたデータ整形作業を一度設定すれば、同様の作業を自動で行ってくれます。

この機能があるからこそ、その後のAIによる分析がスムーズに行うことができます。

Power Pivot

2つ目は「Power Pivot」です。

「Power Pivot」は、Excelの標準機能として提供されているデータモデリングツールです。膨大な量のデータを、Excelの行数制限を気にすることなく扱うことができます。

これにより、複数のExcelシートや外部データソースに散らばったデータを、一つのデータモデルに統合し、それぞれのデータを関連付けることができます。

複数のデータを関連付けたデータモデル上で、高度な分析を高速で行うことが可能です。複雑な集計や分析も、数百万行にわたるデータでもスムーズに実行できます。

「Power Pivot」は、データ分析を始める前の「データの準備」段階で特に役立ち、その後の分析をよりスムーズにします。

例えば、異なるシートにある顧客データと購買データを関連付けて、顧客ごとの購買履歴を分析する、といったことが簡単にできるようになります。

課題別のツール比較まとめ

これまで、Excelの作業を効率化するAIツールをいくつか紹介しました。

それぞれが異なる役割とアプローチを持っていることがお分かりいただけたかと思います。

では、あなたの抱えている課題には、どのツールが最適なのでしょうか?

目的別にツールを使い分けることで、その効果を最大限に引き出すことができます。

以下の比較表で、それぞれのツールの特徴を改めて確認してみましょう。

ChatGPT for Excel GPTExcel Microsoft 365 Copilot Power BI
主な用途 セル単位のテキスト処理 数式・スクリプト生成、データ分析 対話型でのデータ分析 大規模データの分析・可視化
アプローチ Excelアドイン Webサービス Excelに統合されたチャット形式 専門アプリケーション
得意なタスク テキストの分類、翻訳、要約、情報抽出、データ整形 複雑な数式・VBA生成、画像から表への変換、データ分析 データの要約、傾向分析、グラフ・ピボットテーブルの自動生成 大量データの処理、リアルタイムダッシュボード作成、社内共有
使い始めるには アドインのインストール、APIキーの設定 Webサイトアクセス Microsoft 365 E3/E5ライセンス(追加費用あり) アプリケーションのインストール
最適なユーザー 顧客アンケートやメールなど、テキストデータを扱う機会が多い人 複雑な数式やVBA作成に苦手意識がある人、画像やデータを分析したい人 Excelの操作効率を上げたい人、対話的にデータを分析したい人 Excelのデータ量が多すぎる、より高度なレポートを共有したい人

このように、Excelに活用することができるツールにも、それぞれ異なる強みがあります。

事務作業の効率を上げたいなら、「ChatGPT for Excel」や「GPTExcel」を活用することで、テキスト処理や複雑な数式作成を自動化することができます。

データを活用して高度な分析を行うなら、「Microsoft 365 Copilot」や「Power BI」が強力なアシスタントになってくれるでしょう。

ExcelのAI活用事例

ここまで、様々なAIツールの機能を見てきましたが、実際の業務でどのように役立つのか、具体的なシナリオをいくつかご紹介します。

顧客アンケートの分析

例えば、顧客満足度アンケートを集計し、自由記述欄に数千件のコメントが寄せられたとします。

これを手作業で分類したり、要約したりするには膨大な時間がかかります。

そこで、「ChatGPT for Excel」を活用し、AI.EXTRACT関数で、コメントから「商品名」や「サービス名」といった特定のキーワードを自動で抜き出します。

これにより、どの商品やサービスに対するコメントが多いのかを一目で把握できるようになります。

また、海外からのコメントが混在している場合、AI.TRANSLATE関数を使ってコメントを一括で日本語に翻訳します。

もし、コメントの表記ゆにれがある場合、AI.FORMAT関数で「です・ます調に統一する」など、読みやすく整形することができます。

これらの関数を組み合わせることで、膨大な顧客コメントを効率的に整えることができます。

在庫管理と発注業務の効率化

例えば、管理している複数の倉庫や店舗の在庫データの形式がバラバラで、手動での集計や分析に多くの時間を費やしていたとします。

この場合、「Power Query」を活用することで、各拠点から送られてくる在庫データを自動で読み込み、一つのテーブルに統合することができます。また、列名の統一や欠損値の補完も自動化することができます。

次に、このクリーンなデータを使って、「Copilot」に分析を依頼します。

チャットボックスに「在庫が不足している商品は何ですか?」や「過去6ヶ月の在庫変動を折れ線グラフで表示してください」と入力すれば、「Copilot」が分析とグラフ作成を行ってくれます。

新規事業のターゲティング分析

例えば、新しいサービスを立ち上げるために、過去の顧客データからターゲット層を特定するとします。

そこで、「Power Pivot」を活用し、複数のExcelシートの顧客データや購買履歴データなどを関連付け、一つのデータモデルを構築します。

これにより、大規模なデータセットでもスムーズに分析できるようになります。

そして、構築したモデルを「Power BI」に取り込み、「Power BI」の可視化機能を活用することで、顧客の年齢層や居住地域ごとの購買傾向をダッシュボードとして表現します。

これにより、どの層にマーケティングを集中すべきか、具体的なターゲット像を把握することができます。

ExcelのAI活用における注意点

このように、AIツールは業務を効率化することができる便利なツールですが、その一方でいくつかの注意点を理解しておくことが重要です。

データのプライバシーとセキュリティ

多くのAIツールは、処理のためにデータを外部のサーバーに送信するため、信頼できる提供元のAIツールを選ぶことが重要です。

多くの企業が提供するサービスでは、データの利用規約やセキュリティポリシーが明記されていますので、必ず確認しましょう。

また、誰ががどのような情報をAIツールで活用するのかなど、企業のルールを策定することも検討しましょう。

AIの回答は鵜呑みにしない

AIは非常に高度な処理を行いますが、必ずしも完璧ではありません。生成されたデータや分析結果には、間違いが含まれている可能性があります。

AIが要約したデータや生成した数式は、必ず最終的に人間の目で確認するようにしましょう。

特に、企業の意思決定に影響を与えるような重要なデータについては、AIの回答を鵜呑みにせず、自分で内容を検証する習慣を身につけることが不可欠です。

AIに依存しすぎない

AIツールはあくまであなたの作業を「サポート」するものです。AIに依存しすぎると、かえって問題が生じることがあります。

例えば、AIが数式を自動生成してくれるからといって、Excelの基本的な関数やデータ処理の知識を全く知らなくても良いということではありません。

基本的なスキルがあるからこそ、AIが生成した結果を適切に評価したり、修正したりすることができます。

また、AIに漠然とした指示を出すのではなく、「このデータから何を知りたいのか」という明確な目的を持ってAIと対話することが、より良い結果を引き出す鍵となります。

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