2025年は、10年後に振り返った時、テクノロジーと産業の関係において、「転換点」とされる1年になったといえます。
年初にはまだ、「生成AIで業務効率化」といったオフィスワーク中心の議論が多かった。しかし、年の瀬を迎えた今、その議論は現場(フィールド)へと移っています。
AIエージェントが工場のラインを見守り、物流の配送ルートを書き換え、店舗の棚割りを提案する・・・。そんな話題が増えてきているのをみて、「AIが物理世界を動かし始めた」という実感を持っている読者も多いはずです。
IoTという技術は、これまでAIとは別の文脈で語られることも多かったのですが、2025年を経て、単なるネットワークやセンサーといった技術を指す意味ではなくなりました。
IoTは今、AIという「頭脳」を得て、産業全体を自律的に制御する「産業のOS(オペレーティングシステム)」へと、その姿を劇的に変えようとしているのです。
本稿では、2025年の振り返りとして、IoTが歩んできた苦難と成功の歴史を紐解きながら、データドリブン経営の先にある「自律する現場」の未来について論じたいと思います。
IoTの10年史:試行錯誤から「データドリブン」の確立まで
2015年にIoTNEWSがスタートしてから、早10年の月日が経ちました。
「産業のOS」という未来を語る前に、私たちが歩んできた道のりを少しだけ振り返っておきます。なぜなら、過去10年の積み重ねこそが、次の進化の重要な土台となっているからです。
「PoC疲れ」という産みの苦しみ
時計の針を少し戻します。
IoTという言葉がバズワードとして消費されていた2010年代後半。多くの企業が「とにかくつなげば何かが起きる」という期待のもと、センサーの設置に走りました。
しかし、そこにあったのは「データを取ってはみたものの、どう活用していいか分からない」という戸惑いでした。
多くのプロジェクトが、実証実験(PoC)の域を出ることなく終了し、「PoC疲れ」や「IoT幻滅期」という言葉さえ囁かれていました。
あの時、現場で汗をかいた担当者の苦悩は、筆舌に尽くしがたいものだったはずです。
「可視化」という最初の成功体験
しかし、IoTはそこで終わりませんでした。
苦難の中で見出した最初の確実な価値、それが「可視化」なのです。
工場の稼働状況がリアルタイムで分かる、電力のピークが見える、遠隔地の設備の異常値が分かる。
「見えないものが見える」という体験は、現場に安心感を与え、経営層には判断材料を提供しました。
また、「案外稼働していない工場の設備がある」「産業機械ごとの電力ピークをずらせば電力が安くつく方法がある」など、見えたものから、新しい気づきも多かったのではないでしょうか。
IoTはここで初めて、市民権を得たと言ってもよいでしょう。
だが、この段階では、「画面を見て、判断し、現場に電話をかける」のは、あくまで人間でした。
データは、人間をサポートする道具に過ぎなかったのです。
DXとデータドリブンの定着
そして2020年代に入り、DXの波が到来する。
「勘と経験」への依存からの脱却が叫ばれ、企業経営において「データドリブン」が必須の教養となりました。
ここで、IoTデータの価値は爆発的に高まりました。なぜなら、現場のリアルな状態を嘘偽りなく記録したIoTデータこそが、経営の「一次情報」となったからです。
「現場のデータこそが資産」、この認識が、製造業だけでなく、物流、小売、インフラ産業に至るまで広く定着しました。
これこそが、2024年までのIoTが達成した成果なのです。
2025年の特異点:生成AIがもたらした「推論」の力
そして迎えた2025年。IoTは「第二の進化」とも呼ぶべきフェーズに突入しました。
そのトリガーとなったのは、間違いなく生成AIが実用レベルになったことです。
これまで蓄積してきた「IoTデータ」と、急速に進化する「AI」。この2つが出会ったとき、何が起きたのでしょうか。
それは、「推論する力」の獲得です。
従来のAIや分析ツールは、データを「分類」「予測」することはできても、その背景にある「意味」までは推し測ることはできませんでした。
しかし、LLM(大規模言語モデル)や、特定領域に特化したSLM(小規模言語モデル)は違います。
例えば、
- センサーが示す「温度上昇」という数値データ
- 過去のトラブル時に書かれた「日報」や「報告書」というテキストデータ
- マニュアルに記載された「仕様」というドキュメントデータ
これらを統合することで、「今の温度上昇は、過去の事例Cに酷似している。マニュアルによれば部品交換が必要だが、在庫データを見ると欠品中だ。直ちに発注プロセスを回すべきである」といった、高度な推論が可能になったのです。
この瞬間、企業内に眠っていた膨大なデータが、AIという触媒によって、単なる「記録」から、アクションを導き出す「燃料」へと変わったのです。
これが2025年、先進的な企業で起き始めた「AIによる実務の自動化」の正体なのです。
IoTの第二の進化:「産業のOS」としての自律化
データの収集(IoT)と、意味の解釈・推論(AI)が結合した今、IoTの定義は書き換わりつつあります。
これからのIoTとAIの組み合わせは、物理世界を動かすための「産業のOS」となるのです。
WindowsやmacOSなど、コンピュータのOSを想像してみてください。
OSの役割は、メモリやCPUといった計算リソースを管理し、アプリケーションが円滑に動くように制御することです。
同じように、「産業のOS」となったIoT×AIは、「物理リソース」を管理・制御する役割を担います。
工場のライン、物流倉庫のロボット、店舗の棚、ビルのエネルギー、そしてそこで働く人々のシフト。
これら物理的なリソースの状態をリアルタイムに把握(IoT)し、最適な配分を計算・推論(AI)し、自律的に動かす(制御)のです。
「自律する現場」の姿
2026年以降、私たちが目にするのは、以下のような「自律する現場」の姿です。
止まらない工場:
予知保全のアラートが鳴る前に、AIエージェントが生産計画と部品の摩耗率を照らし合わせる。
「来週の水曜日にラインを10分止めれば、故障リスクを回避できる」と判断し、保全担当者のスケジュールを仮押さえし、交換部品をサプライヤーに自動発注する。 人間は最終承認ボタンを押すだけ。
生き物のような物流:
気象データやSNSのトレンドから、AIが翌日のエリア別需要をピンポイントで予測する。
夜間のうちに、倉庫内のロボットたちが「明日売れる商品」を出荷口近くに配置換えするだけでなく、配送トラックへの荷物の積載計画も完了させる。
渋滞やドライバーの労働時間を考慮し、AIが配送ルートを秒単位で書き換え続けることで、荷物はまるで意思を持っているかのように最短ルートで顧客のもとへ届く。
意思を持つ店舗(小売):
AIカメラが来店客の視線や手に取った商品を分析し、棚の「一等地」をリアルタイムで定義し直す。
賞味期限が迫った商品があれば、AIが電子棚札の価格を自動で引き下げ、同時に店舗アプリを通じて近くにいる顧客へ「タイムセール通知」を飛ばす。
人が発注書を書かなくとも、店舗自体が「売れる商品」を理解し、バックヤードやメーカーへ、自動的に補充を指示する。
・・・
この例は、まだ一般的に実現できているとは言い難いものです。
しかし、決して夢物語ではないし、今後自律する現場が実現されると、人間は「モニターを監視して指示を出すオペレーター」の仕事から解放されます。
その仕事の代わりに、AIエージェントが提案するシナリオを評価し、より大局的な戦略を決める「監督」としての役割を担うことになるのです。
つまり、「見える化」で満足していた時代は終わり、これからは「自律化」の時代が始まるのです。
2026年、あなたの会社は「OS」をインストールできるか?
PoCの苦しみを経て、可視化で自信をつけ、DXでデータの価値を知った私たちには、いま「AI」という最強のパートナーがいます。
IoTを「産業のOS」へとアップデートすることは、もはや夢物語ではなく、労働人口が減少する日本において、企業が生き残るための生存戦略です。
しかし、いざ自社でこれを実現しようとすると、高い壁にぶつかることも事実です。
「どこから手をつければいいのか分からない(戦略の壁)」
「AIを使いこなせる人材がいない(教育の壁)」
「現場のデータで本当に動くのか試したい(実装の壁)」
これらは、DXについて議論をした時にも、常に付きまとった問題です。すでに解はあります。
そして、この変革を、絵に描いた餅にしてはならないのです。
そこで、IoTNEWSは、2026年を「企業のAI、実装元年」にするべく、新たなサービスを始動します。
それが、法人向けAI導入支援サービス「AIBoost」です。
AIBoostでは、IoTとAIの最前線を取材し続けてきた知見を活かし、以下の3つのメニューで企業の変革に伴走します。
AIBoostの初期サービスメニュー
AI導入戦略相談: 曖昧なAI導入の課題を整理し、自律化へのロードマップを描きます。
実践的AI教育: 基本的なAI教育の内容だけでなく、御社の状況を理解した上で、実践的なAI活用スキルを社内に根付かせます。
エージェント開発: 戦略だけでなく、実際に御社のデータで動くプロトタイプを作成・検証します。
「見える化」のその先へ。
2026年、あなたの会社の現場を「自律する現場」へと進化させたいと願うなら、ぜひ私たちの新しい挑戦を見てほしいです。
「産業のOS」をインストールする準備は、もうできているでしょうか?

