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IDCがAIエージェント実運用に向けた予測を発表、「プロジェクトの65%が失敗する」背景にあるデータとKPIの課題とは

IDCがAIエージェント実運用に向けた予測を発表、「プロジェクトの65%が失敗する」背景にあるデータとKPIの課題とは

日本国内において企業のAI投資意欲は依然として高く、生成AIの導入が進む一方で、自律的に業務を遂行する「AIエージェント(Agentic AI)」の実運用はこれから本格化しようとしている。

こうした中、IDC Japan株式会社は、ウェビナー「変化の潮流を見極める:Agentic AI実運用元年の企業戦略」を開催し、同社グループバイスプレジデントの眞鍋敬氏が国内市場の現状と将来展望を解説した。

その中で、2026年からエージェントの実運用が順次開始されるという予測と共に、従来の指標で評価を行う多くのプロジェクトが失敗するリスクがあることが示された。

AIエージェントの本番運用は2026年から本格化

IDCの調査によると、国内企業の57.1%が今後3年間でAIへの投資を年間2桁パーセント増やすと回答しており、産業分野や企業規模を問わず投資意欲は非常に高い。

国内のAI投資動向

2025年12月時点のデータでは、国内企業の50%以上が、全社的または一部の業務において生成AIを本番環境で利用している。

一方で、利用していない残りの企業については、セキュリティの懸念やシステムの複雑さといった課題が、導入のブレーキになっている可能性が指摘されている。

また、自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」に関しては、本番導入率は約12%にとどまっているが、AIエージェントの概念実証(PoC)を実施中、あるいは単一業務で使用中の企業は約40%に達している。

国内企業の生成AIとAIエージェントの利用状況

このことからIDCは、2026年にかけてAIエージェントが順次本番運用へ移行していくと予測している。

これは、単なる「人間のアシスタント」としてのAIから、業務プロセスの一部を自律的に担う「自立型エージェント」への大きな転換点を意味する。

このシフトに伴い、人間とAIの関わり方も変化するのだという。

これまでは人間がチェックポイントとして介在する「ヒューマン・イン・ザ・ループ」が主流であったが、今後はAIが業務全体を回し、人間はそのループの外側から監督・責任を負う「ヒューマン・オン・ザ・ループ」という形へ、2026年を境に移行が始まると見られている。

「AI現在地」と、自律化に向けた人間とマシンの役割の変化

バックオフィスから「顧客接点」へシフトするAI活用

成長領域として今後注目されるのは、顧客体験(CX)分野である。

これまでAIの活用といえば、翻訳や議事録作成、社内ヘルプデスクといった「バックオフィス」の業務効率化が中心であった。

しかし、IDCの予測では、2024年から2029年におけるAIシステム全体の年間平均成長率の中でも、フロントオフィスでの活用が25%から30%くらいの割合になっていくと予測している。

さらに、CX関連のユースケースを抽出して年間平均成長率予測をした結果、38.4%と市場全体を上回る成長が見込まれている。

AIシステム全体の年間平均成長率と、CX関連のユースケースの比較。CX関連は38.4%と市場全体を上回る成長が見込まれている。

つまり、2029年には市場規模が5.7兆円に達すると予測される中、カスタマーサービスやフィールドサービスといった対外的なユースケースが大きな割合を占めるようになるというのだ。

これまでであれば、「正確性」や「ニュアンスの欠如」というリスクから、顧客対応へのAI適用を躊躇する企業も多く見られた。

しかし、RAG(検索拡張生成)などの技術進化により精度が向上したことで、カスタマーサービスなど顧客に直接対応する「フロントオフィス」への適用が進むとみられている。

さらに一歩進んだ予測として、2027年までに企業の60%が、電話、テキスト、メールといった複数のチャネルを跨ぎ、サプライヤの垣根も越えた「マルチエージェント体験」を管理するようになるとしている。

これにより、顧客はどの窓口から接触しても、前後の文脈を理解したシームレスなサービスを受けられるようになる。

このレベルのCXを実現するためには、「2026年中にシステムおよび組織の準備を終えておく必要がある」と眞鍋氏は指摘している。

加えて、カスタマーサービスの目標自体も変化していくのだと眞鍋氏は言う。

従来の主な目標は、「コスト削減」「マルチチャネル化」「平均対応時間の短縮」であったのに対し、これからの目標は、AIエージェントの自律化による「新しいビジネス・売上への誘導」になるのだという。

もはやカスタマーサービスは、単に「問い合わせをさばく場所」ではなく、AIエージェントを駆使して顧客満足度を高め、直接的に利益を生み出す「利益創出部門(プロフィットセンター)」へと進化を遂げるということだ。

「プロジェクトの65%が失敗する」という警鐘

AIエージェントへの期待が高まる一方で、眞鍋氏は「2028年までに自社構築型AIエージェントプロジェクトの65%がROI目標を達成できずに失敗する」という厳しい予測を提示した。

この「65%」という数字の背景には、現在のPOC(概念実証)における芳しくない成功率がある。

調査では、POCが「成功した」と断言できる企業がある一方で、「成功と失敗が半々」という回答が約6割に達している。

この要因の一つは、AI時代の成果を評価する「ものさし」が、従来型のままであることが挙げられる。

現在、多くの企業がAI導入の成果を「オペレーションの効率性」や「技術的パフォーマンス」で測定している。

AI投資プロジェクトの成功率(左)と、AI導入効果の測定方法(右)

しかし、自律的に動くAIエージェントの場合、これまでの「平均通話時間の短縮」といった効率重視のKPIだけでは、その真の価値を測りきれない。

AIエージェントの真価は、新たな売上の創出や、エージェントが生成した成果物の量といった「ビジネス価値」にあるため、従来のROI指標では「失敗」と判定されてしまうリスクが高い。

適正な評価指標がないまま、従来基準で「ROIが出ていない」と判断され、プロジェクトが頓挫してしまうケースが後を絶たないと予測されているのだ。

また、AIに適した高品質なデータを準備できない「データレディネス」の欠如も深刻だ。

IDCの予測では、2027年までに高品質でAIに適したデータを準備できない企業は、生産性が15%低下すると警鐘を鳴らしている。

例えば、AIを導入すること自体に満足してしまい、その後の運用でAIの回答精度を高めるために必要な「データの整備」を疎かにしてしまう。

あるいは、AIの学習に必要なデータが社内でサイロ化していることに気づかないままスケーリングしようとして、結果的に性能が頭打ちになる。

このような「データのレディネス不足」が、実運用における大きな壁となり、非構造化データを含めたデータ整備が不十分なまま導入を進めると、運用の足かせとなる可能性があるのだ。

他にも、AIを使いこなすための人材不足や、コスト管理、ガバナンスの欠如も深刻な阻害要因として挙げられている。

AIの成果に対する課題

「AIを導入して終わり」ではなく、それを誰がどのように監督し、どのような基準で成果を認めるのか。この戦略的な視点がないままプロジェクトを進めることが、65%という高い失敗率を招く一因となる可能性があるのだ。

AIエージェント実運用に向けた「3つの変革」:戦略に組み込むべき要素

最後に、2026年の転換点を乗り越え、65%の失敗事例に陥らないための戦略を、眞鍋氏が語った内容から3つのポイントに整理した。

これらは、システム構築そのものよりも、その周辺にあるデータ、評価指標、そして人間の役割の再定義が重要であることを示している。

①データ変革:AIに適した「燃料」の整備

AIやエージェントの性能を左右するのは、学習および参照元となるデータだ。

そこで、企業データの約8割を占める非構造化データをいかに取り込み、AIが認識しやすい構造に整理するかが鍵となる。

また、データを一箇所に集める、あるいはデータファブリックのような技術で論理的に統合し、AIがデータを見つけやすくする環境作りが不可欠となる。

②評価変革:AI時代の「新KPI」を定義する

従来の効率化指標(平均処理時間など)だけでは、AIエージェントがもたらすビジネス価値を正しく測定できない。

そこで、エージェントによる一次解決率や、人間へのエスカレーション率などを新たな指標に加えることが重要となる。

また、顧客を新しいサービスへ誘導したことによる「販売上昇率」や「新規売上」など、プロフィットセンターとしての貢献度を可視化する必要がある。

③人材・組織変革:人間の役割を「監督者」へ

AIエージェントとの協働により、従業員のジョブディスクリプションは根本から書き換わるため、オペレータはエージェントの教育・監視役に、スーパーバイザーはビジネスプランナーへと役割がシフトする。

そして、2027年頃には、エージェント全体の挙動を観測し、責任を負う「CAO(チーフ・エージェント・オフィサー)」のような専門役職が登場すると予測されている。

さらに、人間の役割は作業の一部を担う「Human in the loop」から、自律的に動くエージェントを監督し責任を持つ「Human on the loop」の思想でAIを統制し、最終的な責任を取るための「覚悟」とスキル習得が求められる。

例えばコンタクトセンタでは、オペレータは顧客対応だけでなく、エージェントの教育や監視を行うようになり、管理職にはエージェントの行動結果に対する責任分担が求められるようになるということだ。

AI/Agent時代における役割(ロール)とKPIの変化

企業が来るべき「AIエージェント時代」を勝ち抜くためには、サイロ化されたデータの統合と品質管理、そしてビジネス価値に基づいた新たなKPIの定義が急務となる。

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