前回、AIデータセンターの競争軸が、GPU単体の性能だけでなく、電力や冷却といった物理インフラへ広がっていることを見た。高性能なGPUを大量に並べても、冷やせなければ動かせない。AI時代のボトルネックは、計算性能だけではなくなっている。
では、冷やせば終わりなのかというと、そうではない。もうひとつ重要な制約がある。それが「接続」である。
AIデータセンターでは、大量のGPU、CPU、メモリ、ストレージ、スイッチを高速につなぎ、全体をひとつの巨大な計算機として動かす必要がある。ここで使われる光インターコネクトや特殊コネクタは、一見するとただのケーブルに見えるかもしれない。しかし実際には、AIインフラ全体の性能と投資効率を左右する重要部品である。
COMPUTEX 2026でも、AIインフラの中心はGPUだけではなかった。NVIDIAのシリコンフォトニクスやCPO、BroadcomやMarvellが関わる高速ネットワーク、光トランシーバーやファイバー、特殊コネクタなど、AI同士をつなぐ技術の存在感が増していた。
AIで儲けるとは、AIモデルを作ることだけではない。AIが巨大化したことで新しく生まれる「詰まり」を見つけ、その詰まりを解消する部品、材料、設計、運用に入ることでもある。
AIのボトルネックは「接続」
生成AIやAIエージェントの進化によって、データセンターに求められる計算量は急激に増えている。大規模言語モデルの学習、推論、マルチモーダルAI、ロボティクス、シミュレーションなどを動かすには、1つのGPUだけでは足りない。
そのため、AIデータセンターでは、数千、数万規模のGPUを高速につなぎ、ひとつの巨大な計算基盤として動かす必要がある。問題は、GPUを増やせば単純に性能が上がるわけではないことだ。
GPU同士のデータの受け渡しが遅ければ、高価なGPUが待ち状態になる。ネットワークが詰まれば、システム全体の性能は落ちる。通信の消費電力が増えれば、冷却負荷も増える。ケーブルやコネクタの実装が複雑になれば、設置や保守のコストも上がる。
つまり、AIインフラの性能は、GPU単体の性能だけでは決まらない。どれだけ多くのGPUを、低遅延で、省電力に、安定して、保守しやすくつなげるか。そこが競争力を左右する。
これは、前回見た冷却の話と同じ構造である。GPUが高性能化したことで熱が問題になった。同じように、GPUが大量に並ぶことで、今度は通信と接続が問題になっている。
光インターコネクトとは何か
ここで、AIデータセンターの通信で出てくる言葉を簡単に整理しておきたい。
「インターコネクト」とは、機器同士をつなぐ接続技術のことである。AIデータセンターでは、GPU同士、サーバー同士、ラック同士、スイッチ同士をつなぐ通信経路を指す。
従来、この接続には銅線を使った電気信号が多く使われてきた。しかし、通信速度が上がり、距離が伸び、データ量が増えるほど、銅線による接続は消費電力、発熱、信号劣化の面で不利になる。
そこで重要になるのが、光を使ってデータを運ぶ「光インターコネクト」である。電気信号を光信号に変換し、光ファイバーで高速にデータを運ぶ。これにより、より長い距離を、より高い帯域で、より効率よくつなぐことができる。
さらに、最近よく聞くようになったのが「シリコンフォトニクス」である。これは、シリコン半導体の製造技術を使って、光の信号を扱う技術だ。日本では「光電融合」という言葉で語られることも多い。要するに、電気で計算し、光でつなぐという発想である。
もうひとつ重要な言葉が「CPO」である。CPOはCo-Packaged Opticsの略で、光の部品をスイッチチップの近くにまとめる技術である。従来は、スイッチ装置の外側に光トランシーバーを差し込み、そこから光ファイバーで接続する方式が一般的だった。しかし、通信速度が上がるほど、スイッチチップから光トランシーバーまでの短い電気配線すら、消費電力や信号劣化の原因になる。
そこで、光の部品をチップの近くに持ってくる。これがCPOの基本的な考え方である。見た目はネットワーク装置の進化に見えるが、実際にはAIデータセンターの電力効率、通信性能、実装密度を左右する重要な技術である。
NVIDIAのGPUの進化と光インターコネクト
ここまで解説してきた光インターコネクトは、AIデータセンターの接続課題を解決するための重要技術である。ただし、その適用範囲はGPUの世代によって異なる。すでにネットワークスイッチ側では、CPOを使った光接続の実用化が進みつつある一方で、GPUのすぐ近くまで光I/Oを取り込む技術は、これから本格化する領域と見るべきだ。
実際のNVIDIAのGPU世代と光インターコネクトの進化を見ると、下の図のように、Blackwell世代では、ラック内のGPU接続は主に電気配線を前提としている。一方、データセンター内のネットワーク側や外部通信側では、光トランシーバーなどの光変換器を使い、電気信号を光に変えて通信する構成が中心になる。
Rubin世代になると、GPU間通信はNVLink 6によってさらに強化される。同時に、Spectrum-XやQuantum-Xのようなネットワークスイッチ側では、CPOを使った光接続の活用が本格化していく。つまり、光インターコネクトはGPUそのものに直接入るというより、まずはネットワークスイッチ側からAIデータセンターのスケールアウトを支える技術として広がっていく。
さらに、2028年に予定されているFeynman世代では、NVLink 8やGPU近傍の光I/OにCPOが取り込まれていく可能性が示されている。これにより、長い銅配線を減らし、より高い帯域、低い消費電力、高い接続密度を実現する方向へ進むと見られる。
つまり、この記事で解説している光インターコネクト技術は、単なる将来構想ではない。ネットワークスイッチ側ではすでに実用化が始まり、今後はGPUにより近い領域へと段階的に入り込んでいく技術である。
なぜ「ただのケーブル」に利益が生まれるのか
普通の感覚では、ケーブルやコネクタは主役ではない。パソコンやスマートフォンの世界では、ケーブルは周辺アクセサリーのように見える。壊れたら交換すればいいもの、という印象すらある。
しかし、AIデータセンターでは話がまったく違う。
AIラックには、非常に高価なGPU、メモリ、ネットワーク機器が詰め込まれている。そこをつなぐ通信経路がつまってしまうと、GPUは本来の性能を発揮できない。通信が不安定であれば、システム全体の信頼性が落ちる。消費電力が大きければ、電源と冷却のコストが増える。配線が複雑になれば、施工や保守の手間も増える。
だから、AIデータセンターにおけるケーブルやコネクタは、単なる接続部品ではない。GPUの稼働率を高め、データセンターの投資回収を支える部品である。
たとえばNVIDIAは、Spectrum-X PhotonicsやQuantum-X Photonicsといった、シリコンフォトニクスを活用したネットワーク技術を打ち出している。狙いは、AIファクトリーをより大規模に、より低消費電力に、より安定して接続することだ。
また、STMicroelectronicsは、AIデータセンター向けのシリコンフォトニクス需要を背景に、フランスのCrolles工場の拡張を検討していると報じられている。これは、光インターコネクトが研究テーマではなく、量産投資の対象になりつつあることを示している。
ここで見るべきなのは、特定の企業名ではない。AIインフラが大規模化するほど、「つなぐ技術」に投資が集まり、部品や材料、製造、実装、検査に新しい市場が生まれるという構造である。
AIデータセンターの接続ビジネスは、どこで広がるのか
光インターコネクトのビジネスは、ケーブルを売って終わりではない。実際には、複数のレイヤーで市場が広がっていく。
まず、光ファイバーや光コネクタである。AIデータセンターでは、膨大な数の接続点が必要になる。通信速度が上がれば、コネクタの精度、耐久性、挿抜性、施工性が重要になる。高速であればあるほど、少しのズレや汚れ、反射、損失が通信品質に影響する。
次に、光トランシーバーや光エンジンである。電気信号と光信号を変換する部品であり、AIデータセンターの高速通信を支える中核になる。Coherent、Lumentum、Marvell、Broadcomなどが注目されるのは、この領域がAIインフラの拡大と直接結びついているからである。
さらに、シリコンフォトニクスの製造とパッケージングがある。光を扱う部品を半導体の製造技術で作り、それをスイッチチップや基板、パッケージと組み合わせるには、高度な製造・実装技術が必要になる。
また、見落とされがちなのが検査と保守である。高速な光通信では、信号品質、挿入損失、反射、温度変化、経年劣化を管理する必要がある。設置したら終わりではなく、運用中に状態を監視し、劣化や障害の兆候をつかむ必要がある。
つまり、AIデータセンターの接続ビジネスは、光ファイバー、コネクタ、光部品、半導体、パッケージング、測定器、施工、保守、運用監視まで広がっていく。
接続の課題は、速度だけではない
光インターコネクトというと、多くの人は「通信速度が速い」という点に注目する。もちろん速度は重要である。しかし、AIデータセンターで問われる課題は、それだけではない。
第一に、消費電力である。GPUだけでなく、ネットワーク機器も大量の電力を使う。通信のために消費する電力が増えれば、データセンター全体の電力コストと冷却負荷が増える。CPOやシリコンフォトニクスが注目される背景には、通信の電力効率を改善したいという強いニーズがある。
第二に、実装密度である。AIラックでは、GPU、NIC、スイッチ、電源、冷却部品が高密度に配置される。そこに大量のケーブルを通すと、物理的なスペース、配線管理、保守性が問題になる。通信部品は、単に速ければよいのではなく、限られた空間に収まり、保守しやすくなければならない。
第三に、熱である。高速通信部品も熱を出す。スイッチ、光トランシーバー、DSP、リタイマーなどは発熱源になる。つまり接続の問題は、冷却の問題ともつながっている。
第四に、信頼性である。AIデータセンターでは、1つの接続不良がシステム全体の性能や稼働率に影響する。コネクタの品質、ケーブルの取り回し、温度変化への耐性、振動、経年劣化まで考慮する必要がある。
最後に、運用である。高速ネットワークは、導入して終わりではない。どのリンクが混雑しているのか。どこでエラーが増えているのか。どの接続が劣化しているのか。これを監視し、保守に結びつける仕組みが必要になる。
接続技術は、どう差別化されるのか
光インターコネクトの価値は、単に通信速度が速いことだけではない。AIデータセンターでは、帯域、消費電力、発熱、実装密度、信頼性、保守性を同時に満たす必要がある。ここに技術的な難しさがある。
銅線による電気接続は、安価で扱いやすい一方、通信速度が上がり、距離が伸びるほど、信号劣化、消費電力、発熱、ケーブルの太さが問題になる。大量のGPUをつなぐAIクラスタでは、この制約が無視できなくなる。
光インターコネクトは、この課題を解決する有力な手段だ。しかし、光にすればすべて解決するわけではない。GPUやスイッチチップは電気で動くため、どこかで電気信号と光信号を変換しなければならない。この変換部分の消費電力、発熱、信号品質、実装密度が、技術的な勝負どころになる。
さらに、CPOのように光部品をスイッチチップの近くに置く方式では、電気配線を短くできる一方で、パッケージング、熱管理、光ファイバーの位置合わせ、歩留まり、保守性が難しくなる。従来のように壊れた光トランシーバーを抜いて交換するだけでは済まないため、長期信頼性や運用中の診断も重要になる。
つまり、接続技術で差別化されるのは、単に「高速なケーブル」を作れるかどうかではない。高密度なAIラックの中で、低消費電力で、熱に強く、信号品質を保ち、量産でき、現場で保守できる接続システムを作れるかどうかである。
NTTの光電融合技術は、AIデータセンターに使われるのか
日本で光インターコネクトや光電融合の話をすると、必ず出てくるのがNTTのIOWN構想である。では、NTTの光電融合技術は、AIデータセンターの接続技術として使われるのだろうか。
結論から言えば、方向性としては非常に近い。ただし、「NTTの技術がそのままNVIDIAのAIラックに入る」と単純に考えるのは間違っている。
NTTの光電融合技術は、電気信号で処理していた接続を、段階的に光へ置き換えていく技術体系である。まずはデータセンター間やラック間、ボード間の接続から始まり、将来的にはボード内、パッケージ内、チップ内へと光を近づけていく構想だ。
これは、AIデータセンターが直面している接続課題と方向性が一致している。AIラックでは、大量のGPUやスイッチを低消費電力・低遅延でつなぐ必要があり、電気信号だけでは消費電力、発熱、信号劣化の制約が大きくなる。そこで、シリコンフォトニクスやCPOのように、光をより計算チップの近くまで持ってくる技術が注目されている。
ただし、実際にAIデータセンター内部で採用されるには、技術の優位性だけでは不十分である。NVIDIAやBroadcomなどのスイッチASIC、TSMCなどの先端パッケージング、光部品メーカー、クラウド事業者の設計に入り込み、量産性、信頼性、保守性、標準化を満たす必要がある。
つまり、NTTの光電融合技術が、AIデータセンター時代に重要な技術のひとつであることは間違いない。一方で、短期的には、GPU直近の接続をすべて置き換えるというより、データセンター間、ラック間、ボード間、スイッチ周辺などから段階的に適用が広がると見るべきだ。
重要なのは、NTTかNVIDIAかという単純な企業比較ではない。AIインフラが大規模化するほど、電気だけでつなぐ時代から、光と電気を組み合わせてつなぐ時代へ移るという構造変化である。
日本企業が見るべき5つの勝ち筋
1. 高精度な光コネクタ・ケーブルアセンブリ
AIデータセンターでは、膨大な数の接続点が生まれる。光ファイバーや特殊コネクタは、単なる消耗品ではなく、通信品質と保守性を左右する部品になる。
日本企業が得意としてきた精密加工、材料、品質管理、量産安定性は、この領域と相性がよい。高速化が進むほど、低損失、耐久性、施工しやすさ、長期信頼性に価値が出る。
2. シリコンフォトニクス向け材料・製造・パッケージング
シリコンフォトニクスは、半導体製造と光学部品の知見が交差する領域である。光導波路、レーザー、変調器、受光素子、パッケージング、熱設計など、複数の技術が必要になる。
すべての企業が光エンジンそのものを作る必要はない。材料、加工、接合、封止、熱対策、検査工程など、周辺工程に入る余地がある。ここは、半導体製造装置、材料、精密部品、検査装置を持つ企業にとって検討すべき領域である。
3. 高速通信部品の熱対策・実装設計
通信部品は、速度が上がるほど熱の問題を抱える。光トランシーバー、DSP、リタイマー、スイッチ周辺部品は、AIラックの中で発熱源になる。
そのため、放熱部品、熱伝導材料、ヒートシンク、液冷との組み合わせ、筐体設計、基板設計に新しい需要が生まれる。冷却記事で見た熱対策の市場は、GPUだけでなく通信部品にも広がっていく。
4. 測定・検査・品質保証
高速光通信では、通信できるかどうかだけでなく、どれだけ安定して通信できるかが重要になる。挿入損失、反射、波長、温度特性、信号品質、経年劣化を測定し、保証する必要がある。
ここには、測定器、検査装置、自動検査ライン、品質保証サービスの需要がある。AIデータセンターが大規模化するほど、導入前検査、現地検査、運用中の診断が重要になる。
5. ネットワーク運用監視と配線管理
最後に重要なのが、運用である。光インターコネクトは、導入すれば終わりではない。どのリンクが混雑しているか、どのポートでエラーが増えているか、どのケーブルやコネクタに劣化の兆候があるかを継続的に見る必要がある。
これはIoTとソフトウェアの領域である。物理インフラの状態をデータ化し、ネットワークの健全性を可視化し、障害が起きる前に保守する。AIデータセンターの通信インフラも、予兆保全と運用最適化の対象になる。
AI時代の利益は、「主役」ではなく「接続点」にも広がっている
COMPUTEX 2026で見えてきたのは、AIインフラの競争が、GPU単体の性能競争から、システム全体の設計競争へ移っているということだ。
前回見た冷却は、AIインフラを止めずに動かすための物理的な制約だった。今回見た接続は、AIインフラをひとつの巨大な計算機として動かすためのシステム的な制約である。
水冷コネクタや冷却液に価値が生まれるのと同じように、光インターコネクト、シリコンフォトニクス、CPO、光ファイバー、特殊コネクタ、測定、保守、運用監視にも価値が生まれている。
関連技術を持つ企業は、AIデータセンターを「接続市場」として見直すべきだ
AIで儲けるとは、AIモデルを作ることだけではない。AIが普及することで、どこに新しい制約が生まれ、どの部品・材料・設備・運用に需要が発生するかを読むことだ。
自社の技術やサービスは、AIそのものではなく、AIを動かす接続点のどこに入れるのか。
この問いを持てる企業だけが、AIブームを「使う側」ではなく、「儲ける側」に回ることができるのだ。

