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LINEとNECの戦略にみる、AIの実装のために必要な2つのコト —IoTConference2018レポート2

コンサルティング事業を展開し、IoTNEWSの運営母体である株式会社アールジーンは、6月15日、年次イベント「IoTConference2018」を開催。各業界をリードする6名のゲストスピーカーの講演やパネルディスカッションをとおし、IoTやAIなどのデジタル技術で“再定義”される産業と社会の未来について共有した。

本稿では、LINE株式会社 Developer Relations Team マネージャー プラットフォームエバンジェリストの砂金信一郎氏、ならびに日本電気株式会社(NEC)IMC本部 本部長 中尾敏康氏の講演の模様をダイジェストでお届けしていく。

なお、IoTConference2018の概要や、株式会社ウフル専務執行役員・IoTイノベーションセンター所長の八子知礼氏、シーメンス株式会社 デジタルファクトリー事業本部長の島田太郎氏の講演の様子についてはこちら


ユーザーの”生の声”が、AIを成長させる

企業がいま、AIの実装のために必要な2つのコト —IoTConference2018レポート2
LINE株式会社 Developer Relations Team マネージャー プラットフォームエバンジェリスト 砂金信一郎 氏

B2Cビジネスを手がけるLINEでプラットフォームエバンジェリストをつとめる砂金氏。2年前まではマイクロソフトのエバンジェリストをつとめ、IoTプラットフォーム「Microsoft Azure」の普及活動やスタートアップ支援に携わっていた。

転職のきっかけは、マイクロソフトが開発した女子高生AI「りんな」を通じて、人工知能(AI)の可能性を実感したことだったという。

AIにおいては、そのAIエンジンの性能が高いか、低いかが一つの重要な観点だ。しかし、その性能、つまりアルゴリズムやインフラは海外企業が強く、日本が対抗するのは難しい状況にある。

そこで砂金氏は、「大切なことはユーザーに体験価値を提供することであり、それはAIエンジンの優劣だけで決まるわけではない。それであれば、AIに”食べさせる”データの方がより重要になってくるのではないか」と気づき、ユーザーの”声”(=データ)が豊富に集まってくるコミュニケーション基盤を展開するLINEを、次のステージに選んだという。

「AI開発において大切なのはデータとエンドユーザーリーチだ。そして企業は、AIの学習目的にデータを使ってもよいという関係性をユーザーと構築できるかが重要だ」と砂金氏は講演で語った。

LINEといえば、コミュニケーション手段としてあまりに有名だ。実際には、国内のMAU(月あたりのアクティブユーザー数)は7,500万人以上で、日本の人口の59%以上をカバーしているという(LINEの調査、2018年3月末時点のデータ)。

ただ、SNSというカテゴリーであれば、FacebookやTwitterなどもある。ユーザーはどのSNSも重複して使っていることが通常だと予想されるが、砂金氏が公開した資料(調査機関:マクロミル社・インターネット調査)によると、普段スマートフォンでLINEだけを利用している人は、SNSユーザーの中で40.3%もいるのだという。

LINEは今、メッセンジャープラットフォームを基盤として、広告・Fintech・AIの3つの事業を手がけている。Fintechにおいては、決済アプリ「LINE Pay」と今年の1月に設立したLINE Financialが行う事業に分かれる。

LINE Payにおいては、同じくコミュニケーションプラットフォームと決済アプリを展開するWechatが中国の社会インフラとして浸透していることにならい、LINEの日本国内での普及を促進するため、2018年度内に100万加盟店の確保を目指すという。

LINEが開発したAIアシスタント「Clova」の概要(出典:LINE株式会社)

またLINEは、スマホ以外にもさまざまなデバイスとLINEのプラットフォームを組み合わせることによって、家の中や街、クルマなどさまざまな場面でLINEのインターフェースが使える環境を目指している。その代表的な製品が、AIアシスタント「Clova」だ。

Amazon EchoやGoogle Homeなどのスマートスピーカーの登場が世間を一時期賑わせたが、日本国内においてはそこまで浸透している状況とは言えない。その理由は、「ユーザーがスマートスピーカーを使い続けることにメリットを感じる”キラーアプリケーション”がまだ存在しない」ことだと砂金氏は指摘する。

そこでLINEは、ターゲットの一つとしてクルマを考えているという。クルマを運転するドライバーは、スマートフォンを使うことはできない。そこで、Clovaを通じてハンズフリーでコンテンツを操作できるしくみがあれば、ユーザーのメリットは大きい。

LINEは、「Clova WAVE」や「Clova Friends」などの自社のスピーカー製品だけでなく、Clovaのスキル開発、デバイス開発向けのプラットフォームをそれぞれサードパーティ企業向けに展開している。

前者は、企業がClovaを使って新しいアプリケーションを作成できる基盤で、パートナー契約を結んだ企業への提供となる。後者は、企業がClovaを搭載したハードウェアをつくるためのインターフェースで、近いうちにオープンにしていく予定だという。

砂金氏は、企業がAIプラットフォームを活用する際のポイントとして、用途に応じた使い分けが大事だと指摘した。具体的には、「問い合わせに回答する」、「接客応対で情報を聞き出す」、「ストーリーで楽しませる」、「多様性・意外性を重んじる」といった分類ができ、それぞれの目的に合致したAIがあるとして、各企業のAIの特徴についても紹介した。

最後に砂金氏は、「繰り返しになるが、AIはデータが命。ユーザーが望んでいる声を、”生の声”を、AIに学習させる環境をつくれるかどうかが大事。そして、最後は集まってきたそのデータの量で決まってくる」と語り、講演を締めくくった。

AI+”ノウハウ”がイノベーションをもたらす

日本電気株式会社(NEC) IMC本部 本部長 中尾敏康 氏

続いて、NEC IMC本部 本部長 中尾敏康氏が登壇。「AIが加速するデジタルトランスフォーメーション」という題目で講演を行った。

入社以降、IoTやAI分野の研究開発や戦略立案に関わってきたという中尾氏。現在は、今年の4月に発足したIMC(Integrated Marketing Communication)本部の本部長をつとめている。

「NECといえば、従来はものづくりの企業というイメージがあった」と中尾氏。しかし、NECは2014年に「社会ソリューション」を提供する企業になると、方針を打ち出した。その「社会ソリューション」強化のため、顧客と密にコミュニケーションをとりながらマーケティングを進めていくのがIMC本部だという。

中尾氏は、まず注目すべき社会の状況として、「2050年に起こる地球の変化」を説明。OECD、IEA、農林水産省、国連のデータをもとにNECが公開した資料によると、「2050年には”地球2つ分”の資源が必要」になるという(たとえば、食糧需要は現在の1.7倍、エネルギー需要は1.8倍)。また、こうした状況に伴い、世界ではデジタル化やAIの進化が急速に進んでいる。

そうした背景の中、NECが進める「社会ソリューション」の中核として据える戦略が、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」だ。この言葉には、「デジタル」:AIやIoTなどの先進デジタル技術を活用し、「トランスフォーメーション」:ビジネスや社会をより良い方向に「変革」すること、といった2つの意味が込められているという。

NECが進めるDXの基盤となるのが、AI技術群「NEC the WISE」である。NECは1960年代からAIに関連する研究を進め、指紋認証や顔認証といった技術を先駆けて開発してきた。これらの個々の技術を2016年に「NEC the WISE」として統合し、ポートフォリオの拡張を続けている。

さきほどの砂金氏の講演でもあったように、AIといってもそれぞれ強みがある。NECのAI技術の主な特長は、「生態認証」だ。生体認証技術の重要性について中尾氏は、次のように語った。

「私たちのいる実世界に対し、デジタルは便利な反面、リスクを含む世界だ。そんな世界で安心してデジタルを活用するための”入口”が生体認証だ」(中尾氏)

たとえば米国ロサンゼルス郡保安局の犯罪捜査システムに、NECの顔・虹彩・指紋・掌紋からなる「マルチモーダル認証」を提供。導入後、7日後に”迷宮入り”していた事件の解決につながったという。

NECのAI技術群「NEC the WISE」のソリューション一覧(出典:NEC)

「AIの期待は高まっているが、使いこなせているお客様は少ない」(中尾氏)。「日経ビッグデータ人工知能関連調査」(2015年11月~12月)によると、経営者の88%がAIに期待しているものの、十分に対応できているのは4%だという。

企業がAIを活用し、変革を起こすためには、プラットフォームを利用するだけではなく、組織におけるプロジェクトの進め方が肝心だと中尾氏は指摘。”考えて・試して・運用する”といった「仮説検証+改善/誘発」のプロセスが重要であるとした(「アジャイル」や「リーン」といった概念も同様の意味だという)。

中尾氏は、実際にそのような方法に基づいて顧客と進めた事例を、医療や小売などの分野から紹介した。

日本は深刻な労働力不足に直面しており、そのため小売業界では業務の効率化を求められている。NECがプロジェクトを進めた小売企業においても同様であり、特に、冷蔵庫など店舗にあるさまざまな設備の突発的な故障が問題となっていた。

そこで、同社はNECと共同でAIの活用に取り組み、目指していた”止まらない店舗”を実現したのだ。

成功のカギは、同社が40年に渡って積み上げてきたシステム改善があったことだという。「それぞれの現場のノウハウや知見をAI技術と組み合わせることで初めて、変革が可能になる」と中尾氏は述べた。

最後に中尾氏は、「デジタルはパラダイムシフト」だとして、「これからデジタルトランスフォーメーションが進むと、デジタルとそうでないモノとの見分けがつかないような世界(Digital Inclusion)になっていくだろう。そのような社会で、すべての人がデジタルの恩恵を享受できるようNECは支援していく」と語り、講演を締めくくった。

日本電気株式会社(NEC) IMC本部 本部長 中尾敏康 氏

IoTConference2018の続きの様子は、レポート3で紹介します。レポート1はこちら

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