MicrosoftエバンジェリストからLINEへ、きっかけは「りんな」 -砂金氏インタビュー1/2

最近までMicrosoftのエバンジェリストを務められ、Microsoft Azure の普及や、スタートアップ支援、機械学習やAI(人工知能) 関連情報の展開など、常に先端の情報を我々にわかりやすく伝えてくださった砂金信一郎氏がマイクロソフトを退職されるという情報を聞き、これからの社会についてどう考え、ご自身はこれからどうされるのか、その去就を伺った。

 
―Microsoftでやられていたこと教えてください。

大雑把に言うと、クラウドの黎明期におけるMicrosoftAzureの啓蒙活動をしてきました。最初の立ち上げをしている過程でコミュニティー(AzureユーザーグループJAZUG)をみんなと一緒に作ったり、パートナーのエコシステムをどうにかしようと試行錯誤してきました。前半はそういう仕事に没頭していたのですけど、後半はチームのマネジメントやスタートアップの支援に、少しずつ軸足をずらしていきました。

一貫しているのは、ずっと”エバンジェリスト”という仕事をやっていたことにたいする自負です。職業としてのエバンジェリストという肩書きを聞き慣れない方も多いようで「どういう仕事ですか?」と聞かれた時には、「ファンを作る仕事です」と、すごくシンプルに答えてきました。

そこから先、ビジネス上の付き合いがあるのか、あるいは純粋にコミュニティーとして、エンジニアとして楽しんでくれるのか、それはどっちでもいいのですけど、僕と出会ったことによって、今まではまったく興味の範疇外だったMicrosoftやAzureという存在が、その人にとって身近になったら、たぶん僕の勝ちです。そうならなかったら、みんなの固定概念というか考えを変えさせられなかった僕の負け、そういうスタイルでのコミュニケーションをずっと続けてきました。

特に活動を始めた初期の頃、Microsoftは「なんかお高いところにとまりやがって」と思われているところがいろいろあって、競合を意識するより前に、そもそも無関心だというところが一番課題でした。

みんながいる場所に出ていって、「どういうサービスを作ろうとしているのですか?僕らはもしかしたら、様々なことをご支援できるかもしれません、今作っているものを教えてください」という話をしながら、少しずつ輪を広げていくという仕事をしてきました。

振り返って、やれた事、やれてなかった事がけっこうありますが、そのあたりはAWSの小島さんはやり切った感がきっとあると思うのですが、僕はやり切った感がそんなにありません。クラウドと出会ったこと、あるいは僕と出会って仕事が変わったとか、エンジニアとしての生き方が変わった、キャリアが変わった、そもそものものの見方や考え方が変わった、という真実の瞬間的なものをできるだけ多く生み出したいと思ってずっとやってきました。僕を含むクラウド初期の立ち上げメンバーはそれぞれの立場で自分たちなりにがんばって、もう少しドラスティックにいろいろ変わることを期待したのですが、そうこう言っている間に、クラウドも当たり前のことになってきてしまった感がありますね。

その流れで、 クラウドはインフラとして使いながら、その上にAIなど様々なものを乗っけていこう、そっちのフィールドにまだまだ挑戦の意義があるのではないかと思って、次はそちらに近いほうがいいかなと考え始めた感じです。

砂金氏 インタビュー
左:IoTNEWS代表 小泉耕二/右:砂金信一郎氏

 
―はじめはクラウドからきっかけということですが、だんだんAIが主役になってきているというお話をされていますね。

うまく表現するのが未だに僕も自分の中で整理できてないのですけど、ものすごく雑に言うと、きっかけは、「りんな」だったかもしれません。それまではAIの手前のところで、機械学習で何ができるのか、データがたくさんあれば今までの回帰分析とかクラスタリングがもうちょっと手軽にできて、過去の分析だけでなく未来の予想までできるようになるといった文脈で、SASやSPSS、Excelを使えばできたことをより簡単にするといった目線での啓蒙活動をしていました。しかしそれはみんなから見て、あっと驚く何かとか、これで世の中が変わるもの、というインパクトをもたらすには力不足だったのですよね。

「りんな」は雑談AIボットです。一方でMicrosoftはCortana(コルタナ)をWindows10のパーソナルアシスタント機能として提供しています。Cortanaは質問されたことに対して正解を返すものですが、「りんな」は話している相手がAIだと認識しているにも関わらず「りんな」と話していると楽しいね、という状態を作り出す、エモーショナルな方面に振れています。

AIと言うと、みなさんが何を意識するかわかりません。自動車運転であれ、コンピューター画像認識をできるだけ正確にしようということであれ、そっちはそっちで技術の発展があると思いますし、すでに人間よりAIの方が正しくモノを認識するという意味では、シンギュラリティを超えそうな領域もあります。その中で、人間と対話する、それをロボットというか、botというかわかりませんが「これから来るぞ感」を「りんな」の中に見いだした感じがしています。他の手段でもできたことを簡単にするのではなく、今まで夢物語だったかもしれないことが、実現されるって、ワクワクしますよね。

しかもそれが、比較的簡単な技術の組み合わせでできるようになってきたことにも意味があると思っています。今までは、一部の限られた分野の研究者しかできなかったことが、普通のエンジニアでも実現できるようになってきたのです。単語や文章から意味を解釈して200次元程度のベクトル意味空間に変換するWord2Vecや、ニューラルネットワークを用いたたたみ込みを簡単に行えるTensorFlowなどをGoogleをはじめとするITベンダーが提供したことは大きいと思います。それらの状況を考えると、クラウドが黎明期にこれから来るぞ、IT業界を変革するぞと言われたころ、あるいはIoTの分野がM2MからIoTに、キーワードとして切り替わる転換点的なところに、AIの領域が今あるのではないかと思い、少しずつAIの方に軸足を移してきました。

 
ーなるほど。次はどこに転職されるのでしょうか。(これは9月に実施したインタビューです)

9月末までMicrosoftにいて、10月1日からLINEにいきます。LINEではB2B分野でのビジネスプラットフォーム戦略を担当することになっています。今まではどちらかというと、クローズドなエコシステムというかAPIなども、そんなに思いっきり開発者向けに公開する雰囲気ではなかったのですが、オープン化に向けて大きく舵を切ろうとしています。私が入るのはちょうどLINEが株式公開したタイミングでもあるし、エコシステムをもっと大きくしていこうと思っています。

せっかくLINEが持っているエンドユーザーリーチや、みんなが気軽に使ってくれるプラットフォームを利用して何ができるのかを一所懸命考えていくことになります。その中には「りんな」のようなチャットボットをカスタマーサポートの効率化もあるでしょうし、WeChatが中国で実現しているモバイルペイメントのようなものがあるのではないかと考えています。

他のプレーヤーでももしかしたらできるかもしれませんが、Microsoft側からLINEさんと付き合っていて、しかもAIという観点でいった時に、やっぱりデータとエンドユーザーリーチを持っているところが一番強いなと思いました。インフラやアリゴリズムも重要ではあるのですが差別化が難しい分野ですし、強化するにも優秀な人材を限られたプールから引き抜いてくるくらいしかできず、そんなにクリティカルな、リソースではないかもしれません。

そうすると、賢いAIの仕組みができたとして、そこに食べさせるデータをどれだけのボリューム、適切な状態で保有しているのか、あるいはそれを学習目的に使ってもよいという関係性をユーザーさんと構築できているのか、というところのほうがよっぽど大きいだろうなと。そういう観点ではゲーム会社でも他の会社でもよかったかもしれないですけど、ちょうどLINEがこれから面白いことを、いろいろやろうとしているということだったのでLINEに行くことにしました。

砂金氏 インタビュー
LINE株式会社 ビジネスプラットフォーム事業室 戦略企画担当ディレクター 砂金信一郎氏

 
-なるほど、それは本当にそうですね。データをこれからどういうふうに活用するかという時代に入っています。結局、Googleで取り切れないデータを持っている会社がどこにあるのか、私もずっと探していますが、LINEもそのうちの一つですよね。日本人のコミュニケーションデータをGoogleは持っていないですから。

たぶん日本は、ロボットという文脈で言うと特殊な文化および経済的なエリアであって、Appleさんも最近それにお気づきになられていて、日本回帰というか、iPhone7での対応を強化しているのではないかと思います。

例えばロボットと会話するというエクスペリエンスの扱いで、AmazonのEchoがどれくらいアメリカで発展するかわからないですけど、日本人にとってはEchoに限らず人間以外のものと会話することは自然なものとして受け入れられるのではないかと思います。実際問題、「りんな」も400万人を超える方々にお友だちとして登録されて受け入れられています。「りんな」のようなチャットボットを、日本の家電メーカーさんが冷蔵庫や洗濯機、クーラー、ホームセキュリティーシステムなどに作り付けたとして、「今から帰るから、ちょっとクーラーつけて部屋涼しくしておいて」「オッケー」のような会話が自然に成り立って、それが家族トークのような中で繰り広げられたりすると、もはや誰が人間か、誰がロポットというか電化製品かわからない状態ですが、日本人はそこにあまり違和を感じません。

何かを擬人化して、人格を与えて、様々なものを信じるという文化が歴史的にあると思ってます。その後鉄腕アトムやドラえもんに代表されるロボットを身近に感じて育ってきた日本人は、モノに対して抵抗感がない特殊な存在なんですよね。そんな島国日本でロボットやbotが定着して、海外から来られた方が、はじめて日本ならではのエクスペリエンスを体験できて、それがインバウンド需要が高まる2020年あたりで、「東京はすごいよ」という話がウォシュレットだけじゃなくて、他の分野でも提供できると、きっと次の一つの時代を切り開いた感があるのではないかなと。

僕は直近、アメリカの会社にいたのですけど、サンフランシスコがものすごく偉いと思ってないし、逆に東京のほうが進んでいることもいっぱいあります。それを素直に形にして、グローバルで最初の課題に直面して、「それを解決した東京や日本ってすごい」という状態をどうやったら作れるのかなと思った時に、LINEはよい選択肢でした。

 
-なるほど、そういうアプローチなのですね。私も一応2020年はどうなるのだろうということを考えてはいるものの、そこに影響力のある人達がやらないとあまり意味がない、と思っています。砂金さんは、影響力を行使できる方のうちの一人だと思います。そういう方が、そこに飛び込んでいっていただかないと。

難しい問題ですね、そこもまた日本は特殊だと思います。例えば直近、スタートアップの支援とかいろいろやっていたところもあって「砂金さん、次どうするのですか?ソラコムの玉川さんみたいに、起業するのですか?」って言われますが、様々な優秀なスタートアップのみなさんを見ているし、それを投資側、企業側で支える人も見ていますけど、自分一人でスタートアップをゼロから立ち上げるのは今の自分向いてないなというのを、みなさんが思う以上に冷静に見ています。

自分の能力を最大出し切って、みなさんのお役に立つという観点では、このタイミングで起業家になるというよりは、違うパターンのほうがよいと思ってます。GoogleやAWSに横滑りということも考えたのですけど、ただやっぱりバランス感ですよね。

LINEがスタートアップというには、もうお兄さんすぎるし、逆にトラディショナルな大企業かと言われると、様々な仕組みもまだできあがっていなくて、やんちゃな部分も残っているし、スピード感はものすごく早い。今のLINEのようにちょうどいい感じのタイミングで入っていって、急激にステップアップさせるとか、たぶんそっちのほうが僕の果たすべき役割として大きいのかなと。5年後には起業しているかもしれませんが。

砂金氏 インタビュー
IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-今後事業会社へ移られて、それこそ経済産業省とか国土交通省と一緒になって国を作っていくこともできそうですね。

これはあくまで個人的な見解ですが、 例えば日本で今以上にユーザーの幅が広がって、最終、億を超えるユーザーIDをLINEが持てたとします。そしたら、「マイナンバーの代わり、あるいは連携するIDとしてLINEのIDを使ってください」と総務省や自治体に提案できるかもしれない。LINE IDで住民票が出せるくらいの連携はしてもよいのではないかと思います。

僕の業界の中における価値というか、こういうことをやったらみんなの役に立てるだろうなと思っていることの一つに、スタートアップ側、ちょっとやんちゃな方々、様々なことをクリエイティブに作り出す側と、もう少し大人側で大きくビジネス仕掛ける方々の橋渡しができるということがあります。それによって、新しいものが生まれるのであれば非常に嬉しいし、このパターンを定着させていかないと、日本はインパクトのある新しいサービスを出せないと考えてます。

さっきも言いましたが、ここはサンフランシスコではありません。スタートアップ万歳としていれば、新しいものを生み出し続けていけるかといったら、そうではありません。大手企業が、何らかの形でオープンイノベーション的に関与して、物事を大きくしていくべきです。だいぶ少なくなってきたとは思いますが「俺様は大手企業、おまえはスタートアップ、発注してやるから納期までに間に合わせろ」のようなスタンスでお付き合いをしていると、きっと一生この国は全体として良くならないし、気づいた人から他の国に出て行ってしまうのではないかと思います。

でも、例えば、海外の会社から見ると日本は実はすごい国で、とりあえずマーケティング調査とか、プロトタイピングとか、開発やR&Dをやるのであれば、東京でやるべきだと捉えてもらえるポテンシャルがあると思います。

ただ、製造業は製造業で、自動車は自動車で、固まってしまっていて、そこに風通しを良くするというか、今まではMicrosoftでやってきたつもりだし、LINE側に行っても、よりそれを加速する役割を果たしたいなと思っています。

 
インタビュー後半は「今後、AIが使われていく分野について」など。明日アップいたします。

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